59 / 68
都市税争奪対抗戦編
59話 ヴェロニカ
しおりを挟む本日はオフ。
明日から、地下遺跡の調査に入る俺達は都市税争奪対抗戦の疲れを取るため、今日1日休みとなった。古代指輪の装着と、単独行動の禁止といった指示はあるが買い物くらいで王都をのんびり散策していた。
俺達は、カーベル、アルマ、カリナ、マリーの5人で買い物をする。
風音とゼス、そしてダムの3名はギルド本部の馬繋場から一旦、馬車を出して馬車工房に行き点検と5頭引きが出来るようにするよう注文した。
「ゼスよ… どうでもいいが あやつはなんとかならんのか」
「俺だって困っているんだよ… かざねさん」
「な… なんか、ずっと見てますよ… 」
風音が、ほとほと迷惑そうな顔をしてゼスに何とかしろと言う。だが、俺に言わないでくれとゼスが答える。
ダムは、こちらを見つめる人物に少し怯えていた。
「く… くらぁー!! いい加減にしろ! ヴェロニカ!! お前は、何か恨みでもあるのか!? 」
そう! ゼスに裏切られたと床を叩きつけ泣きじゃくった、ビショップのヴェロニカが、ゼス達を宿屋から尾行してきていたのだ。すでに、隠れる事もせず少しだけ距離を取ってゼス達の様子を見ているだけであった。
「今度は何時、ダンジョンに行くの?… 」
ゼスの脅しには、微動だにせず質問をするヴェロニカ。
「ん… まだまだ先だよ その時は、必ず呼ぶから それまでトロレスにでも居ろよ そういえば、ヴェロニカは『税杯』出なかったのか? 」
ゼスが言った『その時は、必ず呼ぶから』の言葉には冷ややかな反応を示すも都市税争奪対抗戦の質問には答える。
「出ないよ… 興味無いし」
そっぽを向きながらヴェロニカは答えた。
「… 」
ゼスは、帽子を深く被り心の中で呟いた。
遺跡馬鹿なところは… 似てるんだよなあ俺と。
▽▽▽
同じ頃、俺達は武具屋にいた。
ゼスに頼まれ、携帯寝袋を買いに来ていた。武具屋とは、何も武具しか置いてない訳ではなく冒険に必要な小物からキャンプを張る大形テントまで置いているのだ。
今回は、入り口が崖の中腹と聞いていたのでロープで降りていく事が想定される。みんなのグローブと、湖の脇に地下遺跡がある事から下は寒いと考えられるので毛布だけじゃ心許ないと購入に来た次第だ。俺は、みんなの体型に合った寝袋を見繕っていく。
「よし だいたい、みんなの身長を考えて選んだから問題無いと思う」
「頼まれた買い物ってこれだけ? 」
「うん 他に持って行くものあるかな? 」
「テントは? 」
「そういえば、俺達ってテント持っていなかったよね 買おうか」
こうして携帯寝袋とグローブ、大型テントを購入し宿屋へ戻った。俺は、宿屋の受け付けで買ってきた荷物を預かって貰う事にした。
そろそろ昼になる。
「そろそろ昼だね どうする? 」
「臨時屋台でいいんじゃない? 」
俺達は、臨時屋台で昼飯を済ませる事にした。
▽▽▽
風音達も、昼は臨時屋台に向かうようだ。古代指輪で確認できる。
「のう… ゼス どうするんじゃ? 」
「かざねさん… 今回の依頼に連れて行っちゃ駄目かな? 」
「なっ 何!? 」
「一度、連れて行けば約束を果たした事にもなるし離れて貰う口実が出来る」
「まあ… 確かにそうじゃのう むっ!? 託也達も近くにおるな」
俺達は、風音達と合流した。
「頼まれたもの買ってきたよ ついでに、大型テントも」
「ふむ… 」
何やら、浮かない顔をしている風音とゼス。ダムに至っては時折、後ろを振り返り落ち着かない様子だった。
「何かあったの? 」
「あれじゃ あれ… 朝、宿を出た時から尾行されておる 尾行といっても丸見えなんじゃがな」
風音がヴェロニカの方を指差す。
「ん!? あれって兄貴の知り合いの子じゃない? 何でまた… 」
ヴェロニカは、距離を取った位置で串を食べながらこちらの様子を伺っている。
風音の、言う通り尾行は丸見えだった。
「ゼスに引っ付いて『何時ダンジョンに行くの』って聞いてくるんじゃ… 」
「連れて行ってあげたら? 」
「かまわんのか? 」
「俺は別にかまわないけど」
「私達も、かまわないですよ」
「ふむ… ゼスが言うには一度、ダンジョンに連れて行けば約束を果たした事になるし、それで諦めてもらえるだろうとは言ってはいるが… 」
「ゼス 連れて行ってやれ 依頼中の面倒は、ちゃんと見てやるんじゃぞ」
「ええっ!? 」
「当たり前じゃ お前の知り合いなんじゃからな」
「託也 トーマスを呼んで来てくれ 宿屋で待っているとな」
「おっけー ギルド本部に行ってくるよ」
「あ… あたしも一緒に」
俺と、アルマはギルド本部に向かった。
「ねえ あの子 ゼス兄さんのこと好きなのかな? 」
アルマは、ギルド本部に向かう途中、目を爛々と輝かせて聞いてきた。
「どうなんだろう 少なくとも嫌いではないのは解るんだけど」
「素敵… 健気よね 尾行までして」
尾行までして素敵って… どうなんだろう。ちょっと、共感できなかった。
ギルド本部に着くと、受付カウンターでトーマスを呼んでもらう。
どうやら、居たみたいだ。
「たくやくん どうしたんだい? 」
2階から降りてきたトーマス。俺は、風音の伝言を伝えた。
「わかった」
トーマスと一緒に宿屋へ戻ると、部屋にはヴェロニカも座っていた。
「かざねくん どうした? 」
「すまんのう 忙しいのに 1人追加じゃ」
「ん!? 」
「例の調査じゃ ヴェロニカ 自己紹介しろ」
「は… はじめまして ヴェロニカです ビショップ23歳です… 」
「あ… ああ トーマスだ ギルド本部ダンジョン・遺跡部門責任者トーマスだ よろしく どういうことだい? かざねくん」
「ヴェロニカは、ゼスの知り合いじゃ どうしても一緒にダンジョンに行きたいらしい… で、今回の調査に連れていく事にした」
「大丈夫なのかい? 」
「まあ 一通り話はしたがのう」
風音の態度と、ヴェロニカの様子から察すると他言無用とか言われて散々脅されたのだろう…
「ま… まあ かざねくんが言うなら 依頼書には追加にしておこう」
「すまん トーマスさん」
ゼスが、トーマスに頭を下げる。
「いや、ゼスくん 気にしないでいいから それじゃ、私はヴェロニカくんの追加を報告しに本部へ戻るよ 時間の変更は無かったよね? かざねくん」
「うむ 変更無しじゃ 明日、迎えに来てくれ」
「わかった それじゃ」
トーマスは、ギルド本部へと戻る。
明日の朝から、地下遺跡に向かいギルド本部で数名が入り口付近に連絡用キャンプを張る段取りとなっている。連絡用キャンプを起点に、崖を下り地下遺跡の入り口を目指す。調査期間は、3日間の予定だ。食料や寝袋も必要となる。各自が荷物を持っての移動となるだろう。
ヴェロニカが、どこまで出来るのか心配はあるが今回限りという話だ。
出来るだけのサポートはしてあげようと思う。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる