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禁断の蜜
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御簾の奥深く、張り巡らされた几帳の陰に身を横たえながら、左大臣の姫君は趣向を凝らした文を物憂げに握り潰し、寵愛している女童を呼び寄せた。
文は兵部卿の宮が何度となく伝手を頼ってもたらしてきているものだった。
それをうんざりしたように反故にする眼差しは十四歳という少女のあどけなさを微塵も感じさせない冷たいものだった。
「夏木」
「はい、大君様……夏木はこちらに」
「私と二人きりの時は名前で呼んでいいと許しているでしょう?」
「はい……清様」
夏木がこころもち頬を染めて応じると、名前で呼ばれた姫君はうっとりとした微笑みを浮かべた。
「そうよ……いい子ね。もっと近くに来て、よく顔を見せて」
「はい……」
夏木は衣擦れの音をさらさらと立てながら、そっと姫君の吐息さえ感じられるところまで進み出た。その動作はためらいがちなようでいて物慣れていた。
姫君は夏木の産毛だった桃のような頬を、白くひんやりとした指で撫で、ふと微笑みを深めた。
「お前の肌は指が吸いつくようね……ねえ、今のお前のお気に入りは何?」
問いかけながら顔を寄せて頬ずりする。夏木が微かに肩を揺らして反応するのを楽しむように。
「はい、あの……お庭に咲いている紫のお花が……吸うと蜜が甘くて……」
「花の蜜?」
「はい……大人の方々からは、もう十二歳にもなって、いつ裳着をしてもおかしくない齢なのだから、子供じみたことはやめなさいと言われたのですが……」
「お前はそのままでいいのよ……夏木」
姫君が夏木の耳に唇を寄せて甘い声で囁きかける。熱をもって湿った吐息が夏木をくすぐった。
「ねえ……その花を一枝持っておいで。ここなら誰も見咎めないわ。二人だけで花を楽しみましょう?」
「清様に花を吸わせるなど……」
「夏木、お前のお気に入りを私には教えてくれないの?」
姫君が夏木の頬を手のひらに包みながら、つと顔を離して見つめる。姫君の瞳は薄暗い几帳の奥で濡れたように輝きを放っていた。
「いえ、そのような……清様がお喜びになることでしたら、この夏木は……」
「そうね、そんなお前は可愛いわ。私の心に添ってくれる。……では、すぐに戻っておいで?」
「はい……すぐにお持ちいたします」
「ええ。……待たせないでちょうだい?」
悪戯を持ちかける笑みを姫君が見せると、夏木は少しはにかみながら顔をほころばせて頷いた。それは姫君の共犯者としての表情だった。
「では、行ってまいります」
もはや迷いもなく立ち上がり、姫君の笑みに見送られながら庭へと向かう。
夏木は急いで自分の心に応えようとしてくれるだろうと姫君は分かっている。
「楽しみだわ……夏木」
こぼれた呟きは姫君の瞳を玉虫色に見せた。
二人、向き合いながら吸う蜜の甘さは、二人だけの時間をどれほど甘くさせるだろうか。
しばし遠ざかる足音を聞きながら、姫君は禁断の蜜に思いを馳せた。
*
その頃、内裏の宿直所では、まさに男達による姫君についての噂がされていた。
大納言を父にもつ十八歳の少将と、左大臣を父にもつ同じく十八歳の宰相の中将、それと上達部により、姫君のつれなさに嘆きの声をあげるものもあった。
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