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魔性の裁判
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王太子がヴィクトリアに約束してから、諸々の事情があって先延ばしされたものの、二ヶ月が経ったときに待望の裁判が開かれた。
これには貴族も平民も関係なく、ついに腐った王子と悪女の終わりとなれば一目でも眺めたいと、裁判が行なわれる広場には詰め込めないほどの人が集まった。
王太子の都合で時間を取れたので、ヴィクトリアも自由に動ける時間を確保出来て、準備も進められて万端の体勢である。
カップの薬も効果は抜群で二人をすっかり毒して、もはや妄言としか思えないことばかりを口にしていると聞き及んでいるし、二人に接するものは辟易して嫌悪もあらわだ。
そのため冷遇は重なる一方で、それにより二人はさらにヴィクトリアへの恨みを募らせている。
「公女様を罵って、ひどい目に遭わせてきた王子様だろ?どんな上手い言い訳したって罪は隠せないよな」
「それに子爵令嬢さんもだよ、王子様の威を借りて贅沢三昧に未成年飲酒に、お貴族様も冷たい目で見てただろうねえ」
平民にも情報は行き渡らせることが出来たようだ。噂を流すことに定期的な炊き出しを活用したのも大きい。
ヴィクトリア個人でも、お茶会では悲劇の主人公に見せかけて二人に悪意を持つように印象操作して大いに励んだから、貴族でも二人の味方は皆無にしてある。
「公女様はお命まで狙われましたとか……」
「まだ未成年の少女と一国の王子が、何という恐ろしいことを企てたのでしょう。魂には悪魔が宿っているのですわ」
「いや、悪魔に乗っ取られていたとしても、本人の人格が腐っていたからこそ出来た所業だろう。第二王子と子爵令嬢の行ないは聞けば聞くほど公女様がおいたわしくなる」
「──皆のもの、静粛に」
ざわつく広場を裁判長が重々しく静まらせて、裁判の時間が始まった。
これは、ヴィクトリアが沈黙を保ちながら、二人を完膚なきまでに逆断罪する舞台である。
「まずは証人をこれへ。──あなたは確かにウィンフィレア公爵家令嬢を害そうと目論見て手薄な滞在先の修道院に入りましたね?雇い主を神に誓って正直に言いなさい」
「お、俺……私はナレステア子爵家より公女様へ刺客として雇われたました!失敗して同時に捕まった他の四人は第二王子殿下から刺客として送り込まれたと白状してます!」
「あなたは刺客と言いましたね?これは公女様のお命を狙っていたと断言出来ますか?」
「は、はい……命令では、確かに公女様を亡きものにしろと依頼されました!他の四人は、その、自決しましたが、公女様は捕らえた私めを生かして下すっていました!そのうえ、極刑にもならないよう温情を下さると!」
刺客の言葉に、観衆はヴィクトリアを心優しい乙女だと感じ入った。
温情などというものは当然偽りだ。貴族を襲って重刑にならずに済む道はない。ましてやヴィクトリアは公爵家の令嬢である。
裁判官はそれを心のうちに秘めることにして、アレキサンドリアへと問いを投げかけた。
「──次は、ナレステア子爵令嬢の手先が毒を盛った事件についてですが……狙ったのは王太子殿下ですか、公女様ですか?令嬢、答えなさい。」
「手先のものなんて知らない!私の望みはただ、第二王子が王太子になって、私こそが王太子妃になることよ!行く末は王妃として君臨することなの!王国で一番偉くて裕福で幸せな女に選ばれて、誰からも崇められて暮らしてくの!国なんて毎年たくさん税金が入るんだから、私がドレスや宝石買わせたって余裕あるでしょ!それを邪魔する人間なんて消えればいいし、王子から愛されてる私なら、そんなの潰したっていいのよ!潰されて怯えて勝手に消えてくれれば私は幸せになれた!」
毒に脳をやられたアレキサンドリアは失言も意に介さない。己の欲望にのみ忠実で、余計なことまで叫んでいる。
これには聞いているもの皆が顔を見合わせて、子爵令嬢は強欲すぎるだけでなく、何やら異常をきたしていると囁き合った。
「物騒な言葉は慎んで下さい。つまりは公女様に消えることや潰れることを望んでいたと公言したことになります。理解出来ていますか?」
「回りくどい言い方なんて腹が立つだけなのよ!あの憎たらしい女は、なんで公の場で王子から断罪されたのに潰れないの?怯えもしないの?消えるどころか好き勝手出来てるのよ!おかしいじゃない!なんで私が罪に問われる側なのよ!あの女が私にしたことが、なんで問われないのよ!」
「──もはや令嬢には言葉が通じないようです。変わって第二王子殿下にお聞きします。公女様に刺客を差し向けたことは事実ですか?」
アレキサンドリアには何を聞いても無駄だと判断した裁判官が矛先を変えたが、第二王子も斜め上を行く言葉を呟いた。
「私は王室の宝として……王妃と国王の間に生まれた唯一の王子として……誰からも認められるべき身だろう?王太子にふさわしいのは私のはずだろう?」
「……それに関しましては、国王陛下のご判断により定められたことですので、望まれる返事は出来かねます。それよりも、質問に答えて下さい」
あ、この人も駄目だおかしい。裁判官は気づいたものの、公の裁判を頓挫させるわけにもいかない。
多分まともな返答は望めないだろうなと思いながら待っていると、第二王子は予想を超えて、とんでもない発言を始めた。
「私が王太子になれれば、あの女を形だけの妃にして仕事だけをさせて、愛するサーシャを側妃に迎えて幸せに暮らせた!サーシャと子が成せれば廃妃にして追い出せた!そうしたらサーシャも日陰に置かずに正妃に出来る!私は由緒ある血筋の尊ばれるべき身なんだ!それをなんだ、寄ってたかって侮辱するとは!私は兄上のような劣った血の王子ではないんだ!」
「第二王子殿下、これは裁判です。欲求や妄想を述べる場ではありません」
形ばかりたしなめたが、もはや第二王子の暴走は止められないし、かといって黙らせるために猿ぐつわを噛ませでもしたら裁判にならない。
聴衆はアレキサンドリアに続いて第二王子もおかしいことを熱く語るのを、何が起きているんだとわけも分からず立ち尽くしてしまっている。
「王統の血筋を穢すものは公女を……あの狂った女を重んじると言う!そんな愚かものが王太子だと?ふざけるな!どうせ、あの女が騙して馬鹿を誑し込んだんだろう!気のふれたもの同士で勝手に破滅するがいい!あんなやつらを担ぐ王国など滅びの道しかないんだ!ならば王子としての責務はひとつ、やつらに引導を渡すことだ!」
──なるほど、第二王子の甘ったれた目論見は大体思っていた通りだわ。子爵令嬢は……まさかここまで身の丈に合わない欲求で、現実も直視せず突進していたとは少し驚いたけれど。
二人がおかしいことを承知しているヴィクトリアは落ち着いて聞いていた。あまりにも黙り込んでいるので、周りからは悪意の強さに当てられて言葉を失っているんだと可哀想に思われている。
もはや有罪からは逃れられない二人は、最後に声を揃えて叫んだ。
「「私は私のために!邪魔なものは排除するのみ!理想を、幸せを邪魔をするものは消して当然!」」
こうなるともう、見ているヴィクトリアにとっては愉快極まりない。二人は吐くだけ吐いた。あとは自白剤の致死性が効果を発揮させるのみである。
果たして二人は胸を掻きむしり、悶え始めた。
「公女め……あいつのせいで私は……この憎しみは私が命尽き果てても、公女を苛み蝕むものだ……うっ、くっ……」
「あんな悪女、地獄に落ちればいいのよ……誰かあいつに毒を……顔を歪めて、苦しんで息絶えるような毒を……あいつに……がはっ……」
二人は最期までヴィクトリアを恨み、呪いの言葉を口にして、口や鼻のほか、目からも血を流して醜く絶命した。
「何なんだ?罪人が二人揃って苦しみだして……同じふうに息絶えることなんてあるのか?!」
「──神罰だよ!神様はちゃんと悪いやつを見てるんだ!」
「何が起きたか理解しかねますけれど……嫌なものを見てしまったわ……人の道を踏み外したものは、相応の報いがありますのね」
「そ、そうですよ、まったくです。裁判で罵詈雑言や世迷言を口にして、公女様を逆恨みして……あのような悪意が詰まって人の形になっていたものは、神が存在をお許しになりますまい」
平民も貴族も、急展開には動揺しているものの、醜悪な心をぶちまけた二人への感情は冷ややかで。
──さて、見世物も終わったわ。何だか、終わりは呆気なかったわね。まあ、二人は落ちるところまで落ちたし手打ちにしましょう。
本来ならば、ギロチンにかけられて泣き叫ぶ姿も拝みたかったが、ここまで悪態をついたなら無惨な最期にも誰一人同情しない。
それまで静観していたヴィクトリアは、ここぞとばかりに悲しげな声を上げた。
「ああ、何てことなの……そこまで、わたくしは憎まれていたの?憎しみは人心を蝕む猛毒だわ……恐ろしい……わたくしはただ、お二人の道ならぬ恋を邪魔する気もなく……わたくしだけでも正しくあろうと生きて……それなのに……」
そこで大仰に嘆いてみせたヴィクトリアは、指輪に仕込んでいた針を、こっそりと自身の腕に刺した。針には数日間ほど気絶する即効性の薬が塗られているので、彼女は衆目の面前で派手に気を失って倒れ込んだ。
「──公女様が!大変だ、悲嘆で倒れられたぞ!」
「公女、気を確かに!──すぐさま公爵家へ運べ!それから医師を呼んで気つけ薬を公女に!」
突然に倒れ伏したヴィクトリアの姿を見せられて、広場は大騒ぎになった。王太子も即座に駆け寄り、彼女を腕に抱き寄せて対処を急がせる。
当のヴィクトリアは眠りの夢の世界で愉悦に浸っているとも知らずに。
──これで過去世の精算は済んだわ。私の今生の未来では、もう本当に私のために残された人生が待っているの。私は私を何より大切に思って生きていいのよ。
これには貴族も平民も関係なく、ついに腐った王子と悪女の終わりとなれば一目でも眺めたいと、裁判が行なわれる広場には詰め込めないほどの人が集まった。
王太子の都合で時間を取れたので、ヴィクトリアも自由に動ける時間を確保出来て、準備も進められて万端の体勢である。
カップの薬も効果は抜群で二人をすっかり毒して、もはや妄言としか思えないことばかりを口にしていると聞き及んでいるし、二人に接するものは辟易して嫌悪もあらわだ。
そのため冷遇は重なる一方で、それにより二人はさらにヴィクトリアへの恨みを募らせている。
「公女様を罵って、ひどい目に遭わせてきた王子様だろ?どんな上手い言い訳したって罪は隠せないよな」
「それに子爵令嬢さんもだよ、王子様の威を借りて贅沢三昧に未成年飲酒に、お貴族様も冷たい目で見てただろうねえ」
平民にも情報は行き渡らせることが出来たようだ。噂を流すことに定期的な炊き出しを活用したのも大きい。
ヴィクトリア個人でも、お茶会では悲劇の主人公に見せかけて二人に悪意を持つように印象操作して大いに励んだから、貴族でも二人の味方は皆無にしてある。
「公女様はお命まで狙われましたとか……」
「まだ未成年の少女と一国の王子が、何という恐ろしいことを企てたのでしょう。魂には悪魔が宿っているのですわ」
「いや、悪魔に乗っ取られていたとしても、本人の人格が腐っていたからこそ出来た所業だろう。第二王子と子爵令嬢の行ないは聞けば聞くほど公女様がおいたわしくなる」
「──皆のもの、静粛に」
ざわつく広場を裁判長が重々しく静まらせて、裁判の時間が始まった。
これは、ヴィクトリアが沈黙を保ちながら、二人を完膚なきまでに逆断罪する舞台である。
「まずは証人をこれへ。──あなたは確かにウィンフィレア公爵家令嬢を害そうと目論見て手薄な滞在先の修道院に入りましたね?雇い主を神に誓って正直に言いなさい」
「お、俺……私はナレステア子爵家より公女様へ刺客として雇われたました!失敗して同時に捕まった他の四人は第二王子殿下から刺客として送り込まれたと白状してます!」
「あなたは刺客と言いましたね?これは公女様のお命を狙っていたと断言出来ますか?」
「は、はい……命令では、確かに公女様を亡きものにしろと依頼されました!他の四人は、その、自決しましたが、公女様は捕らえた私めを生かして下すっていました!そのうえ、極刑にもならないよう温情を下さると!」
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裁判官はそれを心のうちに秘めることにして、アレキサンドリアへと問いを投げかけた。
「──次は、ナレステア子爵令嬢の手先が毒を盛った事件についてですが……狙ったのは王太子殿下ですか、公女様ですか?令嬢、答えなさい。」
「手先のものなんて知らない!私の望みはただ、第二王子が王太子になって、私こそが王太子妃になることよ!行く末は王妃として君臨することなの!王国で一番偉くて裕福で幸せな女に選ばれて、誰からも崇められて暮らしてくの!国なんて毎年たくさん税金が入るんだから、私がドレスや宝石買わせたって余裕あるでしょ!それを邪魔する人間なんて消えればいいし、王子から愛されてる私なら、そんなの潰したっていいのよ!潰されて怯えて勝手に消えてくれれば私は幸せになれた!」
毒に脳をやられたアレキサンドリアは失言も意に介さない。己の欲望にのみ忠実で、余計なことまで叫んでいる。
これには聞いているもの皆が顔を見合わせて、子爵令嬢は強欲すぎるだけでなく、何やら異常をきたしていると囁き合った。
「物騒な言葉は慎んで下さい。つまりは公女様に消えることや潰れることを望んでいたと公言したことになります。理解出来ていますか?」
「回りくどい言い方なんて腹が立つだけなのよ!あの憎たらしい女は、なんで公の場で王子から断罪されたのに潰れないの?怯えもしないの?消えるどころか好き勝手出来てるのよ!おかしいじゃない!なんで私が罪に問われる側なのよ!あの女が私にしたことが、なんで問われないのよ!」
「──もはや令嬢には言葉が通じないようです。変わって第二王子殿下にお聞きします。公女様に刺客を差し向けたことは事実ですか?」
アレキサンドリアには何を聞いても無駄だと判断した裁判官が矛先を変えたが、第二王子も斜め上を行く言葉を呟いた。
「私は王室の宝として……王妃と国王の間に生まれた唯一の王子として……誰からも認められるべき身だろう?王太子にふさわしいのは私のはずだろう?」
「……それに関しましては、国王陛下のご判断により定められたことですので、望まれる返事は出来かねます。それよりも、質問に答えて下さい」
あ、この人も駄目だおかしい。裁判官は気づいたものの、公の裁判を頓挫させるわけにもいかない。
多分まともな返答は望めないだろうなと思いながら待っていると、第二王子は予想を超えて、とんでもない発言を始めた。
「私が王太子になれれば、あの女を形だけの妃にして仕事だけをさせて、愛するサーシャを側妃に迎えて幸せに暮らせた!サーシャと子が成せれば廃妃にして追い出せた!そうしたらサーシャも日陰に置かずに正妃に出来る!私は由緒ある血筋の尊ばれるべき身なんだ!それをなんだ、寄ってたかって侮辱するとは!私は兄上のような劣った血の王子ではないんだ!」
「第二王子殿下、これは裁判です。欲求や妄想を述べる場ではありません」
形ばかりたしなめたが、もはや第二王子の暴走は止められないし、かといって黙らせるために猿ぐつわを噛ませでもしたら裁判にならない。
聴衆はアレキサンドリアに続いて第二王子もおかしいことを熱く語るのを、何が起きているんだとわけも分からず立ち尽くしてしまっている。
「王統の血筋を穢すものは公女を……あの狂った女を重んじると言う!そんな愚かものが王太子だと?ふざけるな!どうせ、あの女が騙して馬鹿を誑し込んだんだろう!気のふれたもの同士で勝手に破滅するがいい!あんなやつらを担ぐ王国など滅びの道しかないんだ!ならば王子としての責務はひとつ、やつらに引導を渡すことだ!」
──なるほど、第二王子の甘ったれた目論見は大体思っていた通りだわ。子爵令嬢は……まさかここまで身の丈に合わない欲求で、現実も直視せず突進していたとは少し驚いたけれど。
二人がおかしいことを承知しているヴィクトリアは落ち着いて聞いていた。あまりにも黙り込んでいるので、周りからは悪意の強さに当てられて言葉を失っているんだと可哀想に思われている。
もはや有罪からは逃れられない二人は、最後に声を揃えて叫んだ。
「「私は私のために!邪魔なものは排除するのみ!理想を、幸せを邪魔をするものは消して当然!」」
こうなるともう、見ているヴィクトリアにとっては愉快極まりない。二人は吐くだけ吐いた。あとは自白剤の致死性が効果を発揮させるのみである。
果たして二人は胸を掻きむしり、悶え始めた。
「公女め……あいつのせいで私は……この憎しみは私が命尽き果てても、公女を苛み蝕むものだ……うっ、くっ……」
「あんな悪女、地獄に落ちればいいのよ……誰かあいつに毒を……顔を歪めて、苦しんで息絶えるような毒を……あいつに……がはっ……」
二人は最期までヴィクトリアを恨み、呪いの言葉を口にして、口や鼻のほか、目からも血を流して醜く絶命した。
「何なんだ?罪人が二人揃って苦しみだして……同じふうに息絶えることなんてあるのか?!」
「──神罰だよ!神様はちゃんと悪いやつを見てるんだ!」
「何が起きたか理解しかねますけれど……嫌なものを見てしまったわ……人の道を踏み外したものは、相応の報いがありますのね」
「そ、そうですよ、まったくです。裁判で罵詈雑言や世迷言を口にして、公女様を逆恨みして……あのような悪意が詰まって人の形になっていたものは、神が存在をお許しになりますまい」
平民も貴族も、急展開には動揺しているものの、醜悪な心をぶちまけた二人への感情は冷ややかで。
──さて、見世物も終わったわ。何だか、終わりは呆気なかったわね。まあ、二人は落ちるところまで落ちたし手打ちにしましょう。
本来ならば、ギロチンにかけられて泣き叫ぶ姿も拝みたかったが、ここまで悪態をついたなら無惨な最期にも誰一人同情しない。
それまで静観していたヴィクトリアは、ここぞとばかりに悲しげな声を上げた。
「ああ、何てことなの……そこまで、わたくしは憎まれていたの?憎しみは人心を蝕む猛毒だわ……恐ろしい……わたくしはただ、お二人の道ならぬ恋を邪魔する気もなく……わたくしだけでも正しくあろうと生きて……それなのに……」
そこで大仰に嘆いてみせたヴィクトリアは、指輪に仕込んでいた針を、こっそりと自身の腕に刺した。針には数日間ほど気絶する即効性の薬が塗られているので、彼女は衆目の面前で派手に気を失って倒れ込んだ。
「──公女様が!大変だ、悲嘆で倒れられたぞ!」
「公女、気を確かに!──すぐさま公爵家へ運べ!それから医師を呼んで気つけ薬を公女に!」
突然に倒れ伏したヴィクトリアの姿を見せられて、広場は大騒ぎになった。王太子も即座に駆け寄り、彼女を腕に抱き寄せて対処を急がせる。
当のヴィクトリアは眠りの夢の世界で愉悦に浸っているとも知らずに。
──これで過去世の精算は済んだわ。私の今生の未来では、もう本当に私のために残された人生が待っているの。私は私を何より大切に思って生きていいのよ。
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