5 / 140
魔物討伐隊 立入制限区域レベル6にて
ファーストキス 1
しおりを挟む
ノエル・リンデジャックが入った緊急治療室には、3人の男がいた。
治療台の上には、魔術騎士の証である深紅のマントを纏い、身体中に酷い怪我を追った濃紺の髪を持つ長身の男が仰向けにされ、横たえられていた。
マントはところどころが大きく裂け、魔物の血特有の生臭い匂いがついている。
その倒れた男の傍らに、同じく深紅のマントを纏った、ゆるいウェーブの金髪にアクアマリンの瞳を持つ、恐ろしく高貴な雰囲気をまとった男が立っていた。
手には、桜色の液体が入った小瓶を持っている。
「ランド、私の声が聞こえるか?メイから聞いた。S級の魔物に遭遇したと…ランド、頼む、口を開けて、これを飲んでくれ」
「リッツェン殿下、だめです、ランドルフ隊長の体内には、特効薬を受け取るための魔力すら残っていない。そんな状況で飲んでもランドルフ隊長の命は…持って……数分かと…」
最後の言葉を吐き出すように漏らしたのは、同じく治療台の側に立っていた、煉瓦色の髪をゆるく三つ編みにし、丸いメガネをかけた男だった。魔術士の証である黒のマントをつけている。
金髪の男にとって、黒いマントをつけた魔術士の見立ては、決して受け入れることができないものだったが、濃紺色の髪の男の状態を正確に説明していた。
「こんなの初めて見る…ひどい状態だ」
ノエルは思わず声をもらした。
それもそのはずで、治療台に横たえられた男の周りには、おびただしい数の黒い点が集まり、左の肩から手にかけて、太いワイヤーのように何重にも巻き付いていた。
右の腹部のあたりにも同じようにワイヤーが巻き付いたようになっており、その他の身体は、顔を残して黒い糸のような細い線が張り巡らせれていた。
ただし、この黒い点はノエルにしか視えていない。
ノエル以外の目には、男が魔力を失い、動けなくなって死にかけているようにしか見えない。
通常、病魔のストレスを受けると、ノエルの目には、ストレスを溜め込んでいる身体の部分に黒い点が集まっているように見える。
症状が強い時には、無数の黒い点からできた細い糸状のものが数十本絡まっているように映る。過去に見た1番ひどい症状でも、黒い点がワイヤー程に太くなって固く巻き付いているところなど見たことがなかった。
「君は…?」
金髪の男は、驚いて振り返って、ノエルに尋ねた。
ノエルは返事をせず、着ていたシャツの手首についてるボタンを外し、素早く袖を捲り上げ、治療台に近づいた。視線は今にも死にかかっている男にのみ向けられている。
「誰ですかあなたは!?どうしてこんなところに勝手に入り込んでいるのです?」
眼鏡の男は、突然現れたノエルを部屋から追い出そうと詰め寄った。
「治療士のノエル・リンデジャックです。今からこの方を治療します」
一応名前を名乗って自己紹介しているのだが、ノエルの視線は、2人ではなく、治療台の上の男に注がれていた。
濃紺色の髪の男の頬にそっと手をあて、手首で脈を測る。
「治療士だって!?何を言っているのですか?治療士風情にどうにかできる状態などではない!」
「フェルナン、静かに。リンデジャック…何か考えがあるのかな?」
フェルナンと言われた眼鏡の男を静止して、金髪の男がノエルに聞いた。
ノエルは初めて金髪の男に目を向けた。薄茶色に緑が差し込んで見えるヘーゼルナッツの瞳が、アクアブルーの瞳を捕えた。
「はい。治療の許可をください」
ノエルは目の前の金髪の男が何者なのか知る由もなかったが、その風貌と殿下と敬称される姿から、この場で死にそうな男の治療を許可する権限を有してる人物と踏んでいた。
「…私は討伐第2部隊隊長のリッツェン・ロイスタインだ。この倒れている男は討伐第1部隊の隊長のランドルフ・ヴィクセン」
金髪の男リッツェンと、死にかけている男ランドルフは、ノエルが配属された討伐部隊のトップに君臨する隊長であった。リッツェンはノエルの目を見て言った。
「彼の治療を許可する」
「殿下…!?なぜこんな治療士なんかに…」
眼鏡の男フェルナンは、リッツェンがノエルに治療を許可したことが信じられないとばかりに、両手で頭を抱え込んだ。
「フェルナン、彼はリンデジャックだ。三賢と言われるアーサー・リンデジャック殿のご子息だ」
「そんなまさか…英雄であり偉大な研究者でもあるアーサー師団長の…?」
ノエルはそんな二人の会話をもう聞いてはいなかった。治療台の上のランドルフを触診して、素早く状況を把握し、すうっと息を短く吸い込んで、ランドルフの唇に自分の唇を重ねた。
「…っ!?」
リッツェンとフェルナンはノエルとランドルフの二人のキスに驚いて固まった。
治療台の上には、魔術騎士の証である深紅のマントを纏い、身体中に酷い怪我を追った濃紺の髪を持つ長身の男が仰向けにされ、横たえられていた。
マントはところどころが大きく裂け、魔物の血特有の生臭い匂いがついている。
その倒れた男の傍らに、同じく深紅のマントを纏った、ゆるいウェーブの金髪にアクアマリンの瞳を持つ、恐ろしく高貴な雰囲気をまとった男が立っていた。
手には、桜色の液体が入った小瓶を持っている。
「ランド、私の声が聞こえるか?メイから聞いた。S級の魔物に遭遇したと…ランド、頼む、口を開けて、これを飲んでくれ」
「リッツェン殿下、だめです、ランドルフ隊長の体内には、特効薬を受け取るための魔力すら残っていない。そんな状況で飲んでもランドルフ隊長の命は…持って……数分かと…」
最後の言葉を吐き出すように漏らしたのは、同じく治療台の側に立っていた、煉瓦色の髪をゆるく三つ編みにし、丸いメガネをかけた男だった。魔術士の証である黒のマントをつけている。
金髪の男にとって、黒いマントをつけた魔術士の見立ては、決して受け入れることができないものだったが、濃紺色の髪の男の状態を正確に説明していた。
「こんなの初めて見る…ひどい状態だ」
ノエルは思わず声をもらした。
それもそのはずで、治療台に横たえられた男の周りには、おびただしい数の黒い点が集まり、左の肩から手にかけて、太いワイヤーのように何重にも巻き付いていた。
右の腹部のあたりにも同じようにワイヤーが巻き付いたようになっており、その他の身体は、顔を残して黒い糸のような細い線が張り巡らせれていた。
ただし、この黒い点はノエルにしか視えていない。
ノエル以外の目には、男が魔力を失い、動けなくなって死にかけているようにしか見えない。
通常、病魔のストレスを受けると、ノエルの目には、ストレスを溜め込んでいる身体の部分に黒い点が集まっているように見える。
症状が強い時には、無数の黒い点からできた細い糸状のものが数十本絡まっているように映る。過去に見た1番ひどい症状でも、黒い点がワイヤー程に太くなって固く巻き付いているところなど見たことがなかった。
「君は…?」
金髪の男は、驚いて振り返って、ノエルに尋ねた。
ノエルは返事をせず、着ていたシャツの手首についてるボタンを外し、素早く袖を捲り上げ、治療台に近づいた。視線は今にも死にかかっている男にのみ向けられている。
「誰ですかあなたは!?どうしてこんなところに勝手に入り込んでいるのです?」
眼鏡の男は、突然現れたノエルを部屋から追い出そうと詰め寄った。
「治療士のノエル・リンデジャックです。今からこの方を治療します」
一応名前を名乗って自己紹介しているのだが、ノエルの視線は、2人ではなく、治療台の上の男に注がれていた。
濃紺色の髪の男の頬にそっと手をあて、手首で脈を測る。
「治療士だって!?何を言っているのですか?治療士風情にどうにかできる状態などではない!」
「フェルナン、静かに。リンデジャック…何か考えがあるのかな?」
フェルナンと言われた眼鏡の男を静止して、金髪の男がノエルに聞いた。
ノエルは初めて金髪の男に目を向けた。薄茶色に緑が差し込んで見えるヘーゼルナッツの瞳が、アクアブルーの瞳を捕えた。
「はい。治療の許可をください」
ノエルは目の前の金髪の男が何者なのか知る由もなかったが、その風貌と殿下と敬称される姿から、この場で死にそうな男の治療を許可する権限を有してる人物と踏んでいた。
「…私は討伐第2部隊隊長のリッツェン・ロイスタインだ。この倒れている男は討伐第1部隊の隊長のランドルフ・ヴィクセン」
金髪の男リッツェンと、死にかけている男ランドルフは、ノエルが配属された討伐部隊のトップに君臨する隊長であった。リッツェンはノエルの目を見て言った。
「彼の治療を許可する」
「殿下…!?なぜこんな治療士なんかに…」
眼鏡の男フェルナンは、リッツェンがノエルに治療を許可したことが信じられないとばかりに、両手で頭を抱え込んだ。
「フェルナン、彼はリンデジャックだ。三賢と言われるアーサー・リンデジャック殿のご子息だ」
「そんなまさか…英雄であり偉大な研究者でもあるアーサー師団長の…?」
ノエルはそんな二人の会話をもう聞いてはいなかった。治療台の上のランドルフを触診して、素早く状況を把握し、すうっと息を短く吸い込んで、ランドルフの唇に自分の唇を重ねた。
「…っ!?」
リッツェンとフェルナンはノエルとランドルフの二人のキスに驚いて固まった。
152
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる