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魔物討伐隊 立入制限区域レベル6にて
会議は踊るされど進まず 1 ※イスタ視点
しおりを挟む「――今週の随行はイスタか。よろしく頼む」
朝食を食べたイスタは、始業時間に合わせて、魔物討伐第1部隊隊長ランドルフ・ヴィクセンの執務室に顔を出した。
イスタが所属する討伐第1部隊では、3部隊の中で1番の隊員数を抱えていることを理由として、隊長など役付きには「随行」と呼ばれる担当が充てられていた。
随行は1日中隊長について回って、会議の議事録をとったり、日々の任務の調整など事務的なことを行う。若手隊員が2週間持ち回りでその役に就いており、今回のランドルフの随行はイスタの当番となっていた。
「おはようございます。よろしくお願いします。初めての随行でご迷惑をかけるかもしれませんが、精一杯努めます!」
「いいよ、そんな固くなるなよ。ほとんどのことは1人でやれるつもりだけど、手が回ってなさそうなところに適当にフォローしてくれると助かる」
(本当かっこいいよなぁ…)
ランドルフの魔力と戦闘力は王国随一と言っても過言ではない。その上、仕事もできるし、部下思いで懐が深い完璧な上司であった。
今朝見たノエルの初体験の男の存在について、気にしていた自分の器の小ささを、イスタは恥じた。
(あの後、食堂でノエルさんに、手を振ってもらった。人が多くて声をかけらなかったけど、認識してもらえただけでも嬉しい…1日頑張れそう)
朝の出来事をそう受け止めながら、イスタは仕事モードに頭を切り替える。
「今日はこれから、第2武器収容庫の新しい鍵の構造について、王立魔術研究所から派遣された魔術師が説明するミーティングがあります。そのあと続いて統合部隊会議と、午後には定期訓練の号令がありますね」
イスタは、ランドルフのスケジュールを読み上げた。
ランドルフは「わかった。ありがとう」と言いながら、朝一番の会議に参加するために会議室へ移動する。もちろん、イスタもランドルフについて行く。
(ん…まてよ…?王立魔術研究所の魔術師ってまさか…)
ランドルフとイスタが会議室に着いた時、会議室の前にノエルとニックが立っていた。
「ここが会議室みたい。僕も治療士の研修があるからもう行くね。発表頑張ってね」
「…頑張るから、今日の夜もノエルちゃんの部屋で一緒に寝てもイイ?」
「明日、研究所に戻るんだっけ?うん、いいよ。今日も部屋に来て。僕もニックの研究内容とか詳しく聞きたいし」
「ありがとう。頑張ってくるね。」
別れ際の恋人のようなやりとりをした後、ニックは会議室の中に入っていった。
ノエルは、ランドルフとイスタには気がつかず、時間が無いのか慌てた様子で、反対側の方向に向ってパタパタと駆けて行ってしまった。
「あの魔術師っ…ノエルさんの…」
イスタは思わず声を漏らす。
同じくやりとりを全て聞いていたランドルフはイスタの呟きを聞き逃さなかった。
「イスタ…知ってるんだな?あの男はノエルのなんだ?お前が知っている情報を一つ残らず報告してもらう」
ランドルフは、笑顔を貼り付けてイスタに問う。
(だから、ランドルフ隊長のその笑顔は怖いんだってっ…)
イスタは、ランドルフに圧をかけられて、冷や汗をかきながら、答える。
「あの魔術師は、ニック・ハーヴィといってノエルさんと同郷で、そして、どうやらその…」
イスタが言い淀んでいると、背後から2人の声がした。
「何だ、早く言え」
「メイは気が短いからね。知ってること早く吐いちゃったほうがいいよ」
討伐第3部隊隊長メイ・ホルンストロームと、討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインだった。
イスタは、討伐統合部隊の3トップ幹部に囲まれ、さらに大量の冷や汗をかく。
「はいっ、言います!!あの魔術師はノエルさんの初体験の相手らしくて、それで、昨日は同じ部屋で寝泊まりをしたそうですっ」
――ピシッ
イスタは、その場が凍りつく音を耳にした。
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