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魔物討伐隊 立入制限区域レベル6にて
地の精霊 2
しおりを挟むノエルは勢い良く振り向き、メイとイスタのいる方に視線を向ける。
メイが、エオマニスの足元で右膝を抱えうずくまっていた。エオマニスの背中の固い鱗には、聖剣が突き刺さっている。
どうやら、メイがエオマニスの背中に聖剣で一突きしたあと、暴れたエオマニスの身体から振り落とされ、地面に叩きつけられたようだ。
エオマニスは、背中に痛みを感じ地団駄を踏んで身体を揺らし始める。
「俺に気を取られるな!首元の鱗の隙間を狙って突け!!」
イスタは、メイの指示通り首元を狙って攻撃を繰り返すが、狙いたい箇所が狭すぎて、うまく刺すことができない。何度も攻撃や魔術を繰り返すことで、イスタの体力と魔力はだいぶ削られてしまっていた。
メイは、足を負傷して動けないのか、エオマニスの足元で、魔術を唱え、エオマニスの右の後ろ足を石化させる。エオマニスの動きを少しでも封じ込める作戦のようだ。
しかし、エオマニスの動き方によっては、踏み潰されてしまう位置に座り込んでいるため、非常に危険だった。
「――ノーム様、少しだけ待っててください」
ノエルは静かにそうノームに伝えると、聖樹の元を離れ、メイの側に駆け寄りメイの足に治療魔術をかけた。
「――ノエル!?」
「ノエルさん!?」
メイとイスタがノエルの行動に驚き同時に声をあげた時、エオマニスの長い尻尾がノエルとメイに向かって勢い良く飛んでくる。
もう少しで尻尾に叩きつけられるというところで、メイはノエルを横抱きにして尻尾を避けた。
ノエルが咄嗟に施した治療魔術では、完全にメイの足を治すことはできなかった為、エオマニスの尻尾の攻撃全てを躱すことができず、メイの背中に尻尾の先が突き刺さった。
「――っ!!」
メイはノエルを抱いたまま崩れ落ちる。
「メイ隊長っ!!」
ノエルは崩れ落ちるメイを抱きとめ、そのまま地面に座りこんだ。すぐに、近くでザシュッと音がして、エオマニスの尻尾の先がイスタの聖剣によって切り落とされた。
そして、イスタは続けてエオマニスの首元目掛けて聖剣を一突きにする。急所には上手く当たったが、エオマニスの身体から聖剣を抜くことができず、イスタは一旦聖剣から手を離し、エオマニスから距離を置いた。側には背中に傷を受けたメイと、ノエルがいる。
――グォォォッ!!!
エオマニスは、身体を大きく反らせて雄叫びを上げた。周囲の樹が波動で大きく揺れる。そして、ノエル達3人を目掛けて突進してこようとした時だった。
――ザンッッ!!!
「――ランドルフ隊長!リッツェン隊長!」
深紅のマントを纏った、討伐第1部隊隊長ランドルフ・ヴィクセンと、討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインが、それぞれエオマニスの首元に聖剣を突いて中から斬り刻んだ。
エオマニスの首元が大きく裂け、黒い血が噴き出す。そして、エオマニスの巨体はゆっくりと横向きに倒れた。
「…やっときたか」
メイは、ノエルの腕の中で呟く。メイの背中についた傷から血が滲んでいた。
「悪い、遅くなった。メイ、怪我をしてるな?傷は背中だけか?」
「イスタとノエルもよく頑張ったね。2人は怪我はしてない?」
ランドルフとリッツェンがノエル達がいる場所へ近づいてくる。イスタは、2人の攻撃によりエオマニスが倒れて安堵したのか、かぐんと膝をついて座り込んだ。
「魔力は使い果たしましたが、怪我はしてないです。俺よりメイ隊長が…」
イスタは座り込んだまま、心配そうにメイに視線を向けた。ノエルはメイを抱きとめながら、背中に治療魔術をかけている。
「ノエル、メイの傷はどんな具合?」
リッツェンは、メイとノエルの側に駆け寄った。
「ノエル…顔色がよく無いぞ。しかも、魔力も大分減ってないか?」
ランドルフも近くに来て、ノエルの顔を覗き込んだ。リッツェンも心配そうにノエルの様子を伺う。
ノエルは倒れたメイを抱きかかえたまま、首を横に振って言った。
「僕は助けられてばかりで…何もできてないです」
メイはノエルに身体を寄りかからせながら、ノエルの頭に手を置いた。
「突然近くに来たときは驚いたが、助かった。俺は大丈夫だ。それよりも、聖樹をなんとかしねーと…」
ノエルは振り向いて聖樹を見た。ノエルの目には、聖樹の周りに病魔ストレスを表す黒い点がどんどん集まってくるのが視える。さらに多くの黒い蔦が張り巡らさたような状態になっていた。
どんなに魔術を送ったところで、消えないのではないかと思うくらい重度の病魔ストレスを抱えている。
ノエル以外の者も、聖樹の白い光が薄くなっている為、精霊の加護が消えかかっていることに気がついていた。
そして、半ば絶望しているノエルの目の前に白くて丸い光が現れたかと思うと、ゆらゆらと揺れ、そして次第に遠くに離れていった。まるでさよならを言うように。
「――行っちゃダメ、待って!!」
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