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突入
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「こんなに効果があるとは......」
プブリウスはその光景に困惑していた。
屈強な男たちが目を覆い、地面にうずくまっているいるのだから、奇妙な事この上無い。
瞼を透かしても分かるような、夥しい光量は感知したのだが、それとこれを結びつける根拠が無かったのである。
「目を焼かれたのか? なぜ俺たちは無事なんだ?」
「俺たちの魔法だからだよ」
ルキウスはこの威力に慄きつつも、大方の現状を把握できていたらしい。
自らが放った矢が閃光を生み出し、それが彼らの目を焼いたことも認識していた。
「前方! 敵歩兵集団、兵力不明!」
俺はプブリウスに指示を仰ぐため、声を張り上げる。
存在に気づいていない奴などいるはずも無いのだが、改めて、彼が指揮を執ることを皆に知らせたかったのだ。
「敵は混乱の渦中にあり! 密集して突破する!」
後ろから聞こえたのはこの命令だ。
俺たちは走りながら間を詰め、隊員同士の距離は大体一歩分となった。
「さて、何列いる事か」
風のお陰で乾いてしまった唇を舐る。
こっちに来てからの癖だ。こちらでは、冬に乾風が吹きつけるので無意識にやってしまうのだ。
故郷に戻れはこの煩わしさから解放されるのか? 思いもしれない特典だな。
それには、まず、目の前の課題をどうにかしないと。
「総員! 投げ槍用意!」
背中には短い、腰程度の丈の槍が差してある。
突入前にこれを投げ、戦列を乱れさせてから突入、というのが定石だ。
俺はその槍を取り出すと、すぐさま持ち替える。
握る目安は......このボロ布が巻いてあるところ。勿論最初からボロかったわけじゃない。
「抜刀の合図と共に投擲せよ! 決して早まるな!」
クィントゥスの口調が強まる。妙に熱がこもっており、冷静さを失っていないか心配だ。
彼も、作戦の成否は突破からの数分で決まることを知っていたのだろう。
ただ、それにしても力が籠められすぎている。
戦いという物は、いつも予想していない所から動く。
彼が事に柔軟性を持って対応できるかどうかだな。多分、やってくれるだろう。
敵は未だ統制が利いていない。ひょっとしたらこっちの接近にも気づいていないんじゃ?
足音も彼らのうめき声にかき消されているのか、気づく素振りが無い。
近づくにつれて、敵情がはっきりしてくる。
体そのものは俺らとほとんど変わらない。しかし、服装がやはり異なっていて、彼らの多くは全裸、或いは半裸だ。
装備は統一されておらず、武器の柄の長さはマチマチ、武装も同じ集団内で区別されている様子は無い。
長剣使いも、短剣使いも、或いは鎌を装備した者も、皆団子状態である。
烏合の衆。彼らを表すのに、これ以上ふさわしい言葉は存在し得ないだろう。
「抜刀せよ!」
合図で一団は一斉に投擲する。穂先は白く、鈍く輝き、数多の槍が降り注ぐその光景は、まるで月光が降り注いでいる様だった。
俺も槍を投げるが、その着地先は知らない。味方でなければいい。
腰の鞘から得物を抜くのに必死だったからだ。
「突撃ィ!」
クィントゥスは号令の直後、間髪入れずに叫ぶ。
彼の隊が先鋒である俺の隊に迫り何事かと後ろを見れば、彼が先頭に立ち、一歩一歩躍進している。
一生懸命になるのはいいが...... 度が過ぎてないか?
しかし、その行為は周囲を困惑させるどころか、むしろ士気を向上させている様だった。
マルクスの雄叫びが聞こえる。ルキウスは何かつぶやいている様だった。プブリウスはなぜか、泣いていた。
ガイウスは後方にいるので顔が見えない。
戦列に向かった一団は、まるで背後から迫る一矢の様に、目標に深い傷を負わせようとしている。
致命傷でなくとも、確実に力を失わせるために。
もう、あと数歩で刃が届く。
―――いや、おかしい。
なぜ、こんな奴らに、わが軍はこんなにも苦戦しているんだ?
そう言えば、旗の意匠が統一されていない。何の共通性も無いように見える。
もともと、こいつらは一つの軍だったのか? 或いは......
考えが纏まらぬうちに、剣は振り下ろされた。振り下ろしてしまった。つまらない考えを切り捨てるように。
無価値な物として、廃棄してしまいたいのかもしれないな。
刀身は確実な重みを持って、落下する。未だにうずくまっている、名も知れぬ敵兵をめがけて。
阻むものは無い。刃と首の間には何も存在しない。
木の裂けるような音だった。骨が砕けたのだろう。しかし、剣は留まることを知らず、目的を完遂する。
結果、俺は夥しい量の返り血を浴びてしまった。足元にはそれが転がっている。
今更何を説いたって、問ったって、返事は来ないだろう。
彼は、最後に何を見たのだろうか。何を感じたのか。
痛かったのか、不満なのかも、その口からは聞けない。
俺は何も知らない。知ることがあるとすれば、それは同じ道を辿るしかないだろう。
勿論、御免だ。
辺りでは、大体同じような光景が見られた。何分、向こうは武器を手にしている者もほとんどいないのだ。
返り討ちに会うはずもなく、隊員は訓練通りに事を進める。
「一列突破!」
プブリウスたちの方から声がした。流石は若者、爆発力で言えばこの隊屈指だな。
「あと何列だ?」
聞き返したのはクィントゥス。自身の隊を分割し、味方の手薄になったところにそれを送っていた。
彼は未だに全体の数を把握できていない。
「行けるとこまで!」
要は、分からないくらいに多く、という事だ。
敵は雲霞の如く展開しているが、その多くが件の様な有様である。
無防備な敵を切り伏せるのに苦労はしないが、問題はその数の多さである。
足の負傷などで交代した兵もいるし、何より剣が刃こぼれしてきている。
プブリウスの班をはじめとして、疲労も見え始めていた。
本格的な反撃があれば脆く崩れてしまうだろう。
その前に突破するか、一息ついて隊を整えるかしないと......
空を仰げば、全くの暗黒が広がっている。少なくとも、足元の絵図よりはマシだ。
一瞬、流星が見えた。この曇天で。
プブリウスはその光景に困惑していた。
屈強な男たちが目を覆い、地面にうずくまっているいるのだから、奇妙な事この上無い。
瞼を透かしても分かるような、夥しい光量は感知したのだが、それとこれを結びつける根拠が無かったのである。
「目を焼かれたのか? なぜ俺たちは無事なんだ?」
「俺たちの魔法だからだよ」
ルキウスはこの威力に慄きつつも、大方の現状を把握できていたらしい。
自らが放った矢が閃光を生み出し、それが彼らの目を焼いたことも認識していた。
「前方! 敵歩兵集団、兵力不明!」
俺はプブリウスに指示を仰ぐため、声を張り上げる。
存在に気づいていない奴などいるはずも無いのだが、改めて、彼が指揮を執ることを皆に知らせたかったのだ。
「敵は混乱の渦中にあり! 密集して突破する!」
後ろから聞こえたのはこの命令だ。
俺たちは走りながら間を詰め、隊員同士の距離は大体一歩分となった。
「さて、何列いる事か」
風のお陰で乾いてしまった唇を舐る。
こっちに来てからの癖だ。こちらでは、冬に乾風が吹きつけるので無意識にやってしまうのだ。
故郷に戻れはこの煩わしさから解放されるのか? 思いもしれない特典だな。
それには、まず、目の前の課題をどうにかしないと。
「総員! 投げ槍用意!」
背中には短い、腰程度の丈の槍が差してある。
突入前にこれを投げ、戦列を乱れさせてから突入、というのが定石だ。
俺はその槍を取り出すと、すぐさま持ち替える。
握る目安は......このボロ布が巻いてあるところ。勿論最初からボロかったわけじゃない。
「抜刀の合図と共に投擲せよ! 決して早まるな!」
クィントゥスの口調が強まる。妙に熱がこもっており、冷静さを失っていないか心配だ。
彼も、作戦の成否は突破からの数分で決まることを知っていたのだろう。
ただ、それにしても力が籠められすぎている。
戦いという物は、いつも予想していない所から動く。
彼が事に柔軟性を持って対応できるかどうかだな。多分、やってくれるだろう。
敵は未だ統制が利いていない。ひょっとしたらこっちの接近にも気づいていないんじゃ?
足音も彼らのうめき声にかき消されているのか、気づく素振りが無い。
近づくにつれて、敵情がはっきりしてくる。
体そのものは俺らとほとんど変わらない。しかし、服装がやはり異なっていて、彼らの多くは全裸、或いは半裸だ。
装備は統一されておらず、武器の柄の長さはマチマチ、武装も同じ集団内で区別されている様子は無い。
長剣使いも、短剣使いも、或いは鎌を装備した者も、皆団子状態である。
烏合の衆。彼らを表すのに、これ以上ふさわしい言葉は存在し得ないだろう。
「抜刀せよ!」
合図で一団は一斉に投擲する。穂先は白く、鈍く輝き、数多の槍が降り注ぐその光景は、まるで月光が降り注いでいる様だった。
俺も槍を投げるが、その着地先は知らない。味方でなければいい。
腰の鞘から得物を抜くのに必死だったからだ。
「突撃ィ!」
クィントゥスは号令の直後、間髪入れずに叫ぶ。
彼の隊が先鋒である俺の隊に迫り何事かと後ろを見れば、彼が先頭に立ち、一歩一歩躍進している。
一生懸命になるのはいいが...... 度が過ぎてないか?
しかし、その行為は周囲を困惑させるどころか、むしろ士気を向上させている様だった。
マルクスの雄叫びが聞こえる。ルキウスは何かつぶやいている様だった。プブリウスはなぜか、泣いていた。
ガイウスは後方にいるので顔が見えない。
戦列に向かった一団は、まるで背後から迫る一矢の様に、目標に深い傷を負わせようとしている。
致命傷でなくとも、確実に力を失わせるために。
もう、あと数歩で刃が届く。
―――いや、おかしい。
なぜ、こんな奴らに、わが軍はこんなにも苦戦しているんだ?
そう言えば、旗の意匠が統一されていない。何の共通性も無いように見える。
もともと、こいつらは一つの軍だったのか? 或いは......
考えが纏まらぬうちに、剣は振り下ろされた。振り下ろしてしまった。つまらない考えを切り捨てるように。
無価値な物として、廃棄してしまいたいのかもしれないな。
刀身は確実な重みを持って、落下する。未だにうずくまっている、名も知れぬ敵兵をめがけて。
阻むものは無い。刃と首の間には何も存在しない。
木の裂けるような音だった。骨が砕けたのだろう。しかし、剣は留まることを知らず、目的を完遂する。
結果、俺は夥しい量の返り血を浴びてしまった。足元にはそれが転がっている。
今更何を説いたって、問ったって、返事は来ないだろう。
彼は、最後に何を見たのだろうか。何を感じたのか。
痛かったのか、不満なのかも、その口からは聞けない。
俺は何も知らない。知ることがあるとすれば、それは同じ道を辿るしかないだろう。
勿論、御免だ。
辺りでは、大体同じような光景が見られた。何分、向こうは武器を手にしている者もほとんどいないのだ。
返り討ちに会うはずもなく、隊員は訓練通りに事を進める。
「一列突破!」
プブリウスたちの方から声がした。流石は若者、爆発力で言えばこの隊屈指だな。
「あと何列だ?」
聞き返したのはクィントゥス。自身の隊を分割し、味方の手薄になったところにそれを送っていた。
彼は未だに全体の数を把握できていない。
「行けるとこまで!」
要は、分からないくらいに多く、という事だ。
敵は雲霞の如く展開しているが、その多くが件の様な有様である。
無防備な敵を切り伏せるのに苦労はしないが、問題はその数の多さである。
足の負傷などで交代した兵もいるし、何より剣が刃こぼれしてきている。
プブリウスの班をはじめとして、疲労も見え始めていた。
本格的な反撃があれば脆く崩れてしまうだろう。
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