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思い遣り
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「おーあるじゃん。金持ち、セレブ。」
「言っとくけど百円玉それしかないから。」
「そうなん?俺もないわ。」
サイトは自販機から取り出したばかりのコーラの蓋を勢いよく開けると口をつける寸前で固まった。
「……マユ、ほら。」
そう言いながらサイトは蓋の開いたペットボトルをこちらに向けて差し出してくる。私が先に飲むようにとサイトなりに気を遣ってくれているようだ。
「私?いいよ、別に。」
「いいから、早く。ぐずぐずしてると炭酸抜ける。」
サイトから押し付けられたコーラを仕方ないので一口だけ飲む。口を離したと同時に私の手からコーラを奪ったのは直哉だった。いきなりの事に驚いて唖然としていると、横目でサイトの方を見ながらぐいっと炭酸を飲む直哉の姿があまりにも爽やかで──まるでCMでも見ているみたいだと思った。
「ナオ大人げない……。お前超絶心狭いよな、マジで。」
「俺の金で買わせといて文句言うなよ。ほら。」
幸人は直哉と肩を並べて歩きながらコーラを受け取ると一気に半分ほど飲んだ。
「ていうか喉が乾いてる時にサイのコーラってチョイス……謎。」
「コーラは喉だけじゃなくて心まで癒やしてくれるの。知らんけど。」
「癒やしてほしいのはサイじゃなくてむしろ俺の方だし。」
「所持金二桁?ウケるわ、何に使ったの?」
高校を卒業すると三人はそれぞれ別々の道を歩き出す予定だった。直哉は頭がいいから医大に進学を希望しているし、幸人は私立の経済学部が第一希望だと聞いている。それに私は専門学校に通う予定だ。
三人で毎日のように通ったこの駅までの道のりもくだらない会話や言い争いも、あともう少ししたら思い出に変わる。
ずっとずっと、このままでいられればいいのに。
「マユ?どした?」
「まだ飲む?ちょっとだけ残ってるけど?」
「遠慮しときます。」
「んで?急に黙り込んじゃってどうしたの?」
「……何でもない。ただ二人を見てたらなんか感傷的になっちゃって。私どうしちゃったんだろ?」
「感傷的?」
「後何回こうやって三人で帰れるんだろうとか考えちゃって……。ごめん、なんか私今日変だよね。」
幸人と直哉は顔を見合わせると、困ったように二人で笑いあった。
幸人がしょうがないなぁと言いながら私の隣まで来ると頭をポンポンと叩いた。
「変じゃないよ。先が見えなくて不安なのはこの時期皆一緒だって、たぶん。」
「進路が決まるまではしょうがないよな、どうしても気分に浮き沈みあるし。」
「何なら俺と軽く付き合っとく?不安なんか一気に吹っ飛ばしてやるよ?」
「サイと付き合うとかむしろ不安しかない。」
「え~?ショック、マユに振られた。」
「サイ、いい加減にしろよお前。」
「本気にすんなって、ナオ。」
サイトは空になったペットボトルで直哉の背中を叩くと、私に向かってニカッと笑ってみせた。
「マユ、お前モテ期来たな。どうするよ?今日だけで二人に告白されてんの。」
「は?」
サイトの言葉に思わず隣にいた直哉に目を向けると、直哉も丁度こっちを向いた所だった。
「……そういう冗談、今は全然笑えないから。」
「ほら、サイのせいでマユが怒った。」
「何でヨ?俺は真実を述べただけなのに。」
「じゃ述べるな。」
再び歩き出した直哉の肩が軽く私にぶつかった。距離感がつかめないのは直哉も同じなのかもしれないとこの時になってようやく気が付いた。もしかしたら直哉も私との事を理由に今まで続いてきたこの三人の心地よい関係を壊したくなかっただけかもしれない。
「あ、ごめん、よろけた。」
「いいよ。」
サイトは直哉と私のぎこちないやり取りを無言で見つめていたが、小さくため息をついた後で前を向くと先頭をきって歩き出した。
「ナオ今日このまま家?」
「あぁ、お前来る?」
「いや、俺は今日やめとく。」
「そっか。じゃ、また明日。」
駅の前まで来ると直哉だけが改札をくぐってホームへと消えて行く。人混みの向こうに消えて行く直哉を見送りながら、サイトが隣で独り言のように呟いた。
「アイツ、最近塾辞めたの知ってる?」
「そうなの?……知らなかった。」
「いろいろ親ともめてるらしい。ほら、ナオは兄ちゃんいるだろ?だから留年も私立もダメだって言われてるんだって。なのに塾まで辞めちゃって。平気なのかな。」
「どうなんだろう。でもまぁナオは頭いいし、頑張り屋さんだから。」
サイトはポケットからスマホを出して何かを確認すると、顔を上げないままで続けた。
「マユ、お前もうちょっとナオのこと気にかけてやってよ。」
「何よ今更……。」
サイトはスマホをポケットに突っ込むと改札口に背を向けながらペットボトルで自分の肩をトントンと叩いた。
電車で通学しているのは直哉だけで、サイトは駅まで自転車で来ているし、私は駅前のバス乗り場を利用していた。バス停まで来ると空いているベンチに腰を下ろしながらサイトが隣に座るよう身振りで示した。次のバスが来るまで後数分一緒にいてくれるみたいだ。
「分かってるだろ?ナオだってお前の事嫌いになったから別れたんじゃないってことくらい。」
「それは……。」
「まだマユのこと好きなんだよ、直哉は。」
BGMのような駅前のざわめきが一気に遠のいたような気がした。その中でサイトのいつになく優しい声だけが私の耳に残った。
「言っとくけど百円玉それしかないから。」
「そうなん?俺もないわ。」
サイトは自販機から取り出したばかりのコーラの蓋を勢いよく開けると口をつける寸前で固まった。
「……マユ、ほら。」
そう言いながらサイトは蓋の開いたペットボトルをこちらに向けて差し出してくる。私が先に飲むようにとサイトなりに気を遣ってくれているようだ。
「私?いいよ、別に。」
「いいから、早く。ぐずぐずしてると炭酸抜ける。」
サイトから押し付けられたコーラを仕方ないので一口だけ飲む。口を離したと同時に私の手からコーラを奪ったのは直哉だった。いきなりの事に驚いて唖然としていると、横目でサイトの方を見ながらぐいっと炭酸を飲む直哉の姿があまりにも爽やかで──まるでCMでも見ているみたいだと思った。
「ナオ大人げない……。お前超絶心狭いよな、マジで。」
「俺の金で買わせといて文句言うなよ。ほら。」
幸人は直哉と肩を並べて歩きながらコーラを受け取ると一気に半分ほど飲んだ。
「ていうか喉が乾いてる時にサイのコーラってチョイス……謎。」
「コーラは喉だけじゃなくて心まで癒やしてくれるの。知らんけど。」
「癒やしてほしいのはサイじゃなくてむしろ俺の方だし。」
「所持金二桁?ウケるわ、何に使ったの?」
高校を卒業すると三人はそれぞれ別々の道を歩き出す予定だった。直哉は頭がいいから医大に進学を希望しているし、幸人は私立の経済学部が第一希望だと聞いている。それに私は専門学校に通う予定だ。
三人で毎日のように通ったこの駅までの道のりもくだらない会話や言い争いも、あともう少ししたら思い出に変わる。
ずっとずっと、このままでいられればいいのに。
「マユ?どした?」
「まだ飲む?ちょっとだけ残ってるけど?」
「遠慮しときます。」
「んで?急に黙り込んじゃってどうしたの?」
「……何でもない。ただ二人を見てたらなんか感傷的になっちゃって。私どうしちゃったんだろ?」
「感傷的?」
「後何回こうやって三人で帰れるんだろうとか考えちゃって……。ごめん、なんか私今日変だよね。」
幸人と直哉は顔を見合わせると、困ったように二人で笑いあった。
幸人がしょうがないなぁと言いながら私の隣まで来ると頭をポンポンと叩いた。
「変じゃないよ。先が見えなくて不安なのはこの時期皆一緒だって、たぶん。」
「進路が決まるまではしょうがないよな、どうしても気分に浮き沈みあるし。」
「何なら俺と軽く付き合っとく?不安なんか一気に吹っ飛ばしてやるよ?」
「サイと付き合うとかむしろ不安しかない。」
「え~?ショック、マユに振られた。」
「サイ、いい加減にしろよお前。」
「本気にすんなって、ナオ。」
サイトは空になったペットボトルで直哉の背中を叩くと、私に向かってニカッと笑ってみせた。
「マユ、お前モテ期来たな。どうするよ?今日だけで二人に告白されてんの。」
「は?」
サイトの言葉に思わず隣にいた直哉に目を向けると、直哉も丁度こっちを向いた所だった。
「……そういう冗談、今は全然笑えないから。」
「ほら、サイのせいでマユが怒った。」
「何でヨ?俺は真実を述べただけなのに。」
「じゃ述べるな。」
再び歩き出した直哉の肩が軽く私にぶつかった。距離感がつかめないのは直哉も同じなのかもしれないとこの時になってようやく気が付いた。もしかしたら直哉も私との事を理由に今まで続いてきたこの三人の心地よい関係を壊したくなかっただけかもしれない。
「あ、ごめん、よろけた。」
「いいよ。」
サイトは直哉と私のぎこちないやり取りを無言で見つめていたが、小さくため息をついた後で前を向くと先頭をきって歩き出した。
「ナオ今日このまま家?」
「あぁ、お前来る?」
「いや、俺は今日やめとく。」
「そっか。じゃ、また明日。」
駅の前まで来ると直哉だけが改札をくぐってホームへと消えて行く。人混みの向こうに消えて行く直哉を見送りながら、サイトが隣で独り言のように呟いた。
「アイツ、最近塾辞めたの知ってる?」
「そうなの?……知らなかった。」
「いろいろ親ともめてるらしい。ほら、ナオは兄ちゃんいるだろ?だから留年も私立もダメだって言われてるんだって。なのに塾まで辞めちゃって。平気なのかな。」
「どうなんだろう。でもまぁナオは頭いいし、頑張り屋さんだから。」
サイトはポケットからスマホを出して何かを確認すると、顔を上げないままで続けた。
「マユ、お前もうちょっとナオのこと気にかけてやってよ。」
「何よ今更……。」
サイトはスマホをポケットに突っ込むと改札口に背を向けながらペットボトルで自分の肩をトントンと叩いた。
電車で通学しているのは直哉だけで、サイトは駅まで自転車で来ているし、私は駅前のバス乗り場を利用していた。バス停まで来ると空いているベンチに腰を下ろしながらサイトが隣に座るよう身振りで示した。次のバスが来るまで後数分一緒にいてくれるみたいだ。
「分かってるだろ?ナオだってお前の事嫌いになったから別れたんじゃないってことくらい。」
「それは……。」
「まだマユのこと好きなんだよ、直哉は。」
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