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親友
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目の前の停留所にバスが停止するとエンジンが止まった。調子外れなブザー音が響くと同時に自動ドアが開かれ乗客が乗り込むのを待っている。
「乗る?」
「ううん、もう一本後にする。」
サイトは大きく広げた脚に肘をつくと、わざとダルそうなフリをしてはるか遠くを眺めた。
直哉の中学の時からの親友、サイトはイイやつだ。
色が白くてまつ毛が長くぱっちり二重の直哉に対して、幸人は日に焼けて背の高い体育会系男子。口を開けば調子の良いことばかりを言うせいでチャラいと思われがちだけれど、心を許した友達にはどこまでも優しく、意外にも気配りのできる人だ。
「ナオはサイに何か言ってた?」
「……何かって?」
「何で別れたのか、とか。」
「いや、何も。そもそも、事後報告だったし。」
「そういうとこあるよね、ナオ。一人で抱え込んじゃってる感じ。」
「マユだってそうじゃん。何でそういう話になった時に直接聞かなかったんだよ?」
「……聞ける訳ないじゃん。」
幸人はこっちを向くと、私が続きを話すのを待つように黙り込んだ。
「聞ける訳ないよ。だってナオ……泣いてた。」
幸人は手で口元を押さえながらマジかと呟いた。
幸人が驚くのも仕方ないと思った。あれが直哉が私に見せた最初の涙だった。大きな目から大粒の涙がポロッと一筋落ちると直哉は唇を噛み締め、そのまま何度も繰り返し私に向かって謝った。
「ごめんって何回も何回も繰り返すだけで、それ以上は何も。」
「……何だそれ。でも翌日には二人共全然普通だったじゃん?」
「間に土日挟んでたからでしょ?じゃなきゃ私学校休んでたと思うよ。」
「土日?あぁ。そう言えばナオ、俺ん所来てたかもな。」
「じゃ、その時に事後報告されたの?」
「多分、そうだったと思う。あ、思い出した。あん時ナオの顔マジで死んでたから何かあったのすぐ分かったんだった。」
「……」
「……」
あれからもう一ヶ月が経とうとしている。直哉は私と別れたからといって別の女の子と付き合い始めた訳でもなかったし、私は恋人から親友に格下げされたものの、相変わらず直哉や幸人とよく話をしたし行動を共にすることも多かった。
目の前で列をなしてバスへと吸い込まれて行く人たちを見ながら、制服を着た男女の姿があるとつい目で追ってしまう。あの子達は好き同士だから付き合っている。たったそれだけのことなのに、私と直哉にはどうしてそれができなかったんだろう。
「どうしちゃったんだろうね、ナオ。」
「……ま、いずれにせよアイツの方から話す気になってくんねぇと俺らには分かんねーな。」
「はっきり理由を教えてくれないと私も納得できないし。サイは?もしナオから聞いたらどうするの?」
自分が幸人におかしな事を聞いているのは分かっていた。ただ、私が直哉と別れるということはつまり幸人とも友達でいられなくなるということだと心のどこかで思っていた。
「どうって、俺は別に何も。ただナオから聞いて納得するかどうかはまた別の話だけど。」
「……私思ったんだけどさ。ナオもしかして私達3人の関係が悪くならないように、気を使ってくれてるんじゃないかな?」
「その気の使い方間違ってね?」
幸人はベンチに深々ともたれると腕組みをして考え込んだ。幸人の膝が私の脚にコツンとぶつかった。
「……別れたのに一緒にいるの正直辛い?」
「どうかな。」
くっついたままの幸人の膝から温かい何かが私の方に流れ込んでくるように感じた。
「好きな人の隣りにいるのに触れることもできないのは……思ったよりクル、かな。」
「泣けるね、乙女。でもそれはちょっと分かる気する。」
「分かってたまるか。」
「ひっでぇ。」
幸人は苦笑しながらベンチから立ち上がると大きく伸びをした。その拍子にシャツの下から鍛えられた筋肉質のお腹が一瞬覗く。
「もー!お腹見えたし、最低。やめてよ。」
「チラリズム。元気でた?」
「馬鹿じゃないの!」
幸人から分けてもらった温もりと優しさとで私は少しだけ元気になれた気がして立ち上がった。
背の高い幸人の隣に立つと大きな手がまた私の頭の上に置かれる。
「俺で良ければいつでもお触りしてちょうだい。」
「……ナオのいないとこでそんな調子のいい事言わないの。」
「いないから言えるんだろーよ。」
「……」
「マユ顔赤い。普通に誤解すんなって。」
「もー!」
私は頭に載った幸人の手を振り払うと、目の前にタイミングよく現れたバスに飛び乗った。
空席に座る前に窓の外に目を向けると、幸人はそこに立ったまま笑顔でこちらを見ていた。
「やだ、あの人カッコヨ。」
「どう見たって彼女の見送りでしょ。」
後から乗ってきた他校の制服を着た女子が私の方をチラチラ見ながら話しているのが聞こえた。
幸人にも顔が赤いと言われた事が気になり、結局そのまま窓の外の幸人を見ないようにしながら発車時刻が来るのを待った。
ドアが閉まる音で顔を上げると、まだ幸人はそこにいた。
「馬鹿サイト……。」
バスを一人で見送る幸人はなぜだか妙に寂しそうで、もう二度と会えないんじゃないかと勘違いしそうだった。
「乗る?」
「ううん、もう一本後にする。」
サイトは大きく広げた脚に肘をつくと、わざとダルそうなフリをしてはるか遠くを眺めた。
直哉の中学の時からの親友、サイトはイイやつだ。
色が白くてまつ毛が長くぱっちり二重の直哉に対して、幸人は日に焼けて背の高い体育会系男子。口を開けば調子の良いことばかりを言うせいでチャラいと思われがちだけれど、心を許した友達にはどこまでも優しく、意外にも気配りのできる人だ。
「ナオはサイに何か言ってた?」
「……何かって?」
「何で別れたのか、とか。」
「いや、何も。そもそも、事後報告だったし。」
「そういうとこあるよね、ナオ。一人で抱え込んじゃってる感じ。」
「マユだってそうじゃん。何でそういう話になった時に直接聞かなかったんだよ?」
「……聞ける訳ないじゃん。」
幸人はこっちを向くと、私が続きを話すのを待つように黙り込んだ。
「聞ける訳ないよ。だってナオ……泣いてた。」
幸人は手で口元を押さえながらマジかと呟いた。
幸人が驚くのも仕方ないと思った。あれが直哉が私に見せた最初の涙だった。大きな目から大粒の涙がポロッと一筋落ちると直哉は唇を噛み締め、そのまま何度も繰り返し私に向かって謝った。
「ごめんって何回も何回も繰り返すだけで、それ以上は何も。」
「……何だそれ。でも翌日には二人共全然普通だったじゃん?」
「間に土日挟んでたからでしょ?じゃなきゃ私学校休んでたと思うよ。」
「土日?あぁ。そう言えばナオ、俺ん所来てたかもな。」
「じゃ、その時に事後報告されたの?」
「多分、そうだったと思う。あ、思い出した。あん時ナオの顔マジで死んでたから何かあったのすぐ分かったんだった。」
「……」
「……」
あれからもう一ヶ月が経とうとしている。直哉は私と別れたからといって別の女の子と付き合い始めた訳でもなかったし、私は恋人から親友に格下げされたものの、相変わらず直哉や幸人とよく話をしたし行動を共にすることも多かった。
目の前で列をなしてバスへと吸い込まれて行く人たちを見ながら、制服を着た男女の姿があるとつい目で追ってしまう。あの子達は好き同士だから付き合っている。たったそれだけのことなのに、私と直哉にはどうしてそれができなかったんだろう。
「どうしちゃったんだろうね、ナオ。」
「……ま、いずれにせよアイツの方から話す気になってくんねぇと俺らには分かんねーな。」
「はっきり理由を教えてくれないと私も納得できないし。サイは?もしナオから聞いたらどうするの?」
自分が幸人におかしな事を聞いているのは分かっていた。ただ、私が直哉と別れるということはつまり幸人とも友達でいられなくなるということだと心のどこかで思っていた。
「どうって、俺は別に何も。ただナオから聞いて納得するかどうかはまた別の話だけど。」
「……私思ったんだけどさ。ナオもしかして私達3人の関係が悪くならないように、気を使ってくれてるんじゃないかな?」
「その気の使い方間違ってね?」
幸人はベンチに深々ともたれると腕組みをして考え込んだ。幸人の膝が私の脚にコツンとぶつかった。
「……別れたのに一緒にいるの正直辛い?」
「どうかな。」
くっついたままの幸人の膝から温かい何かが私の方に流れ込んでくるように感じた。
「好きな人の隣りにいるのに触れることもできないのは……思ったよりクル、かな。」
「泣けるね、乙女。でもそれはちょっと分かる気する。」
「分かってたまるか。」
「ひっでぇ。」
幸人は苦笑しながらベンチから立ち上がると大きく伸びをした。その拍子にシャツの下から鍛えられた筋肉質のお腹が一瞬覗く。
「もー!お腹見えたし、最低。やめてよ。」
「チラリズム。元気でた?」
「馬鹿じゃないの!」
幸人から分けてもらった温もりと優しさとで私は少しだけ元気になれた気がして立ち上がった。
背の高い幸人の隣に立つと大きな手がまた私の頭の上に置かれる。
「俺で良ければいつでもお触りしてちょうだい。」
「……ナオのいないとこでそんな調子のいい事言わないの。」
「いないから言えるんだろーよ。」
「……」
「マユ顔赤い。普通に誤解すんなって。」
「もー!」
私は頭に載った幸人の手を振り払うと、目の前にタイミングよく現れたバスに飛び乗った。
空席に座る前に窓の外に目を向けると、幸人はそこに立ったまま笑顔でこちらを見ていた。
「やだ、あの人カッコヨ。」
「どう見たって彼女の見送りでしょ。」
後から乗ってきた他校の制服を着た女子が私の方をチラチラ見ながら話しているのが聞こえた。
幸人にも顔が赤いと言われた事が気になり、結局そのまま窓の外の幸人を見ないようにしながら発車時刻が来るのを待った。
ドアが閉まる音で顔を上げると、まだ幸人はそこにいた。
「馬鹿サイト……。」
バスを一人で見送る幸人はなぜだか妙に寂しそうで、もう二度と会えないんじゃないかと勘違いしそうだった。
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