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顔を見て話がしたい
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「じゃ俺はコインランドリーに戻ります。」
「え?」
「彼に電話するなら一人の方がいいでしょう?」
「でも……いいんですか?」
浩史さんの部屋は一人暮らしとは思えないほどきれいに片付いていて、家具も何もかもがお洒落だった。キッチンも単身者用にしては比較的大きめのサイズで、さっきエレベーターで気付いた香水の香りが微かにした。
「ついでに買い出しにも行かないと、冷蔵庫空っぽなんで。」
「私……泥棒かもしれませんよ?」
「この部屋にそんなに金目の物はないと思うけど、確かにパソコンはなくなったら困るかな。じゃこうしませんか?番号教えるんで、終わったら連絡を下さい。」
「……」
「……そんなに一緒にいて欲しい?」
「違います!教えます、番号。」
――なんか、社会人ってだけで全部がスマートで大人に見えちゃう。ただ遊び慣れてるだけなのかもしれないのに。
どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか分からなくてとにかく動揺していた。胸がドキドキと高鳴って、久し振りすぎるその感情がくすぐったくて嬉しかった。
スマホを覗き込むように近寄って来た浩史さんと肩が少し触れただけで顔が赤くなるのが分かる。
部屋に来るかと言われたらすぐに変な想像をしてしまった自分が恥ずかしくなりながらも、今はとりあえず静かな場所で悠馬に連絡ができることに感謝した。
顔を見なかったらうまく自分の思っている事を伝えられるという自信もなかったけれど。
『……分かってたよ、最近沙耶がうわの空な感じなの。でも俺も忙しくてゆっくり話したくても余裕なくてさ。ゴメン。沙耶に寂しいなんて言わせないくらい俺もっと頑張るから、何ならそっちから会社通ってもいいんだよ。』
「悠馬はもう十分頑張ってるよ。悪いのは全部私なの。謝るのも全部私。」
『謝るって……沙耶、お前もしかして他に好きな奴でもできたの?』
「え?」
『なんかさ……そんな気がして。』
「……ゴメン。でもまだ好きとかそんなんじゃない。」
『俺と距離置きたいとか言ってるけど、それってもう実質別れたいって話じゃん?次の相手は?どんなヤツなの?』
「……まだ……よく知らない。」
『なんだよ……それ。もう間に合わないの?俺。』
悠馬は私の事をよく理解してくれていた。自分でも上手く説明できないからとその優しさに甘えて敢えて言わなかったことまで、きっと全部丸ごと分かってくれていた。
――はっきり今決めなきゃいけないんだとしたら……もう、私の中で気持ちは固まってる。
「うん。……もう、終わりにしてほしい。」
『……』
「ゴメン、悠馬。」
『泣きたいのはこっちの方だよ、馬鹿。』
「ゴメン。」
『泣くなよ。俺はまだ沙耶のこと好きだよ?愛してる。』
「……ゴメン」
『結婚まで考えてたよ、ホントに。』
「うん。なんとなく分かってた。だから、余計いろんな事グルグル考えちゃって……。」
『そっか……。分かった。沙耶がそこまで言うなら。』
泣きすぎてボロボロだった。悠馬の言う通り泣きたいのはきっと悠馬の方なのに。
悪いのは全部自分だとか口先だけで謝るのは簡単なことだ、本当に最悪な女――。
どれくらいの間そうして泣いていたか分からない。気が付いた時には正午を過ぎていた。
いつまでも浩史さんの部屋でこうして泣いている訳にはいかなかった。社会人にとっては貴重な休みを他人のくだらない用事でつぶされてしまうのは誰にとっても迷惑な話でしかない。
バッグの中からティッシュを取り出すととりあえず涙と鼻水を拭きながら浩史さんにメールを打った。
" 沙耶です。終わりました。 "
しばらく待ってみたものの、浩史さんからの返信はなかった。
買い物に行くと言っていた気がするから、もしかしたらどこか離れた所に出掛けているのかもしれなかった。
手持ちのポケットティッシュを全て使い果たしてしまった頃、いきなりインターホンが鳴りドアのロックが解除される電子音が聞こえた。
泣き腫れた顔を見られるのが嫌で咄嗟に俯くとレジ袋のガサガサという音が近付いて来るのが分かった。
「戻りまし……た。うわ、すごいティッシュの山。」
「ゴメンなさい、ちゃんと片付けますから。」
「……いいよ、そんな事。まだティッシュ必要な感じ?あるよ?」
「大丈夫です。」
浩史さんはキッチンの方に一旦荷物を置きに行くとすぐに戻ってきた。
「沢山泣いたら喉乾くでしょ?これ、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
ペットボトルの水を手渡しながら私の顔を覗き込んだ浩史さんは少しだけ眉をひそめた。
「一つ確認しておきたいんですが。」
「……はい、何でしょう?」
「そんなに泣いてるって事は彼との話合いは……?」
「別れることになりました。」
「えっ?もう結論でたの?」
「……ごめんなさい、落ち着いたらすぐに帰りますから。」
「いや、落ち着いたらって……その顔ではちょっと……。」
浩史さんは参ったなーと小さい声でつぶやきながら私の隣にしゃがみ込んだ。
「それよりも、そろそろお腹すきません?」
「……」
「何がいいのか分からないから適当に買ってきたんですけど、一緒にどうですか?」
「あ、ごめんなさい。私こんなに長くいるつもりじゃ──」
「ちょっとコーヒー淹れるんで、好きなの食べててください。」
話を遮るように立ち上がると、浩史さんはキッチンに行ってお湯を沸かし始めた。
「コーヒー、もしかして自分で淹れるんですか?」
「好き?俺は朝から夜まで水分の殆どはコーヒーから摂取してるくらい、カフェイン中毒。」
「そうだったんですか?私もそうなんですよ。夏場は濃い目に淹れて氷たっぷりでがぶ飲みしたりしてます。」
「ブラック?」
「はい。」
「いいね……よかった。」
背を向けたままキッチンに立っている浩史さんが、コーヒーの粉をスプーンで計りながら嬉しそうに笑ったのが分かった。
「え?」
「彼に電話するなら一人の方がいいでしょう?」
「でも……いいんですか?」
浩史さんの部屋は一人暮らしとは思えないほどきれいに片付いていて、家具も何もかもがお洒落だった。キッチンも単身者用にしては比較的大きめのサイズで、さっきエレベーターで気付いた香水の香りが微かにした。
「ついでに買い出しにも行かないと、冷蔵庫空っぽなんで。」
「私……泥棒かもしれませんよ?」
「この部屋にそんなに金目の物はないと思うけど、確かにパソコンはなくなったら困るかな。じゃこうしませんか?番号教えるんで、終わったら連絡を下さい。」
「……」
「……そんなに一緒にいて欲しい?」
「違います!教えます、番号。」
――なんか、社会人ってだけで全部がスマートで大人に見えちゃう。ただ遊び慣れてるだけなのかもしれないのに。
どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか分からなくてとにかく動揺していた。胸がドキドキと高鳴って、久し振りすぎるその感情がくすぐったくて嬉しかった。
スマホを覗き込むように近寄って来た浩史さんと肩が少し触れただけで顔が赤くなるのが分かる。
部屋に来るかと言われたらすぐに変な想像をしてしまった自分が恥ずかしくなりながらも、今はとりあえず静かな場所で悠馬に連絡ができることに感謝した。
顔を見なかったらうまく自分の思っている事を伝えられるという自信もなかったけれど。
『……分かってたよ、最近沙耶がうわの空な感じなの。でも俺も忙しくてゆっくり話したくても余裕なくてさ。ゴメン。沙耶に寂しいなんて言わせないくらい俺もっと頑張るから、何ならそっちから会社通ってもいいんだよ。』
「悠馬はもう十分頑張ってるよ。悪いのは全部私なの。謝るのも全部私。」
『謝るって……沙耶、お前もしかして他に好きな奴でもできたの?』
「え?」
『なんかさ……そんな気がして。』
「……ゴメン。でもまだ好きとかそんなんじゃない。」
『俺と距離置きたいとか言ってるけど、それってもう実質別れたいって話じゃん?次の相手は?どんなヤツなの?』
「……まだ……よく知らない。」
『なんだよ……それ。もう間に合わないの?俺。』
悠馬は私の事をよく理解してくれていた。自分でも上手く説明できないからとその優しさに甘えて敢えて言わなかったことまで、きっと全部丸ごと分かってくれていた。
――はっきり今決めなきゃいけないんだとしたら……もう、私の中で気持ちは固まってる。
「うん。……もう、終わりにしてほしい。」
『……』
「ゴメン、悠馬。」
『泣きたいのはこっちの方だよ、馬鹿。』
「ゴメン。」
『泣くなよ。俺はまだ沙耶のこと好きだよ?愛してる。』
「……ゴメン」
『結婚まで考えてたよ、ホントに。』
「うん。なんとなく分かってた。だから、余計いろんな事グルグル考えちゃって……。」
『そっか……。分かった。沙耶がそこまで言うなら。』
泣きすぎてボロボロだった。悠馬の言う通り泣きたいのはきっと悠馬の方なのに。
悪いのは全部自分だとか口先だけで謝るのは簡単なことだ、本当に最悪な女――。
どれくらいの間そうして泣いていたか分からない。気が付いた時には正午を過ぎていた。
いつまでも浩史さんの部屋でこうして泣いている訳にはいかなかった。社会人にとっては貴重な休みを他人のくだらない用事でつぶされてしまうのは誰にとっても迷惑な話でしかない。
バッグの中からティッシュを取り出すととりあえず涙と鼻水を拭きながら浩史さんにメールを打った。
" 沙耶です。終わりました。 "
しばらく待ってみたものの、浩史さんからの返信はなかった。
買い物に行くと言っていた気がするから、もしかしたらどこか離れた所に出掛けているのかもしれなかった。
手持ちのポケットティッシュを全て使い果たしてしまった頃、いきなりインターホンが鳴りドアのロックが解除される電子音が聞こえた。
泣き腫れた顔を見られるのが嫌で咄嗟に俯くとレジ袋のガサガサという音が近付いて来るのが分かった。
「戻りまし……た。うわ、すごいティッシュの山。」
「ゴメンなさい、ちゃんと片付けますから。」
「……いいよ、そんな事。まだティッシュ必要な感じ?あるよ?」
「大丈夫です。」
浩史さんはキッチンの方に一旦荷物を置きに行くとすぐに戻ってきた。
「沢山泣いたら喉乾くでしょ?これ、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
ペットボトルの水を手渡しながら私の顔を覗き込んだ浩史さんは少しだけ眉をひそめた。
「一つ確認しておきたいんですが。」
「……はい、何でしょう?」
「そんなに泣いてるって事は彼との話合いは……?」
「別れることになりました。」
「えっ?もう結論でたの?」
「……ごめんなさい、落ち着いたらすぐに帰りますから。」
「いや、落ち着いたらって……その顔ではちょっと……。」
浩史さんは参ったなーと小さい声でつぶやきながら私の隣にしゃがみ込んだ。
「それよりも、そろそろお腹すきません?」
「……」
「何がいいのか分からないから適当に買ってきたんですけど、一緒にどうですか?」
「あ、ごめんなさい。私こんなに長くいるつもりじゃ──」
「ちょっとコーヒー淹れるんで、好きなの食べててください。」
話を遮るように立ち上がると、浩史さんはキッチンに行ってお湯を沸かし始めた。
「コーヒー、もしかして自分で淹れるんですか?」
「好き?俺は朝から夜まで水分の殆どはコーヒーから摂取してるくらい、カフェイン中毒。」
「そうだったんですか?私もそうなんですよ。夏場は濃い目に淹れて氷たっぷりでがぶ飲みしたりしてます。」
「ブラック?」
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「いいね……よかった。」
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