騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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パン屋再び

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「いいですか、絶対にジークには内緒にしてくださいね?2人で街に出かけたとか聞いたら俺の明日は無いと思ってください、ね?」
「…はい。でもちょっと大袈裟なんじゃ。」
 これだからセシリア嬢は分かっていない!ジークフリートのあの碧い目の恐ろしい事と言ったら…!

 学園の帰り道にちょっとだけ途中下車をして例のパン屋に寄ることになったのは候爵家の伝説のチョコレートクッキーが近頃もう手に入らなくなってしまったせいだ、候爵夫人とレイラ嬢がジークフリートに近寄れなくなったお陰で…。まぁセシリア嬢が候爵邸に戻ってくれれば…いや、それでもやはり俺の明日は無くなってしまう。あ、ビューロー候爵なら…いけるかも?
「いらっ…しゃい…ませ」
 近頃のレジナルドはもはや意識することなく自然にドアを開けてセシリアをエスコートできる。今日は街に来ているので貴公子の微笑みもしっかりと貼り付けておく。
 昼過ぎの店内は客足も少なく、全てに目が届くこの広さも1人での護衛には丁度いいだろう。
 カウンターにあるクッキーをセシリアに教えると予想通りとても喜んでいるようだ。
 ちなみに緑のクッキーはなにやら爽やかなハーブの香りがしたそうで、甘さは控えめであるものの王太子殿下のお口には合わなかったらしい。甘さ控えめである事を確認できたので今回はそれ以外で選ぶとしよう…。
  オススメのチョコレートクッキーといくつかの焼き菓子を手に取ったセシリアが何かを探すように店内を見回しはじめた。
「…パン屋さん、ですよね?」
「えぇ、もちろん甘くないものも置いてありますよ。ジークに何か買いたいんでしょう?」
 籠の中にまだ少し残っているパンを覗き込む。サンドイッチは軽食の定番だが流石にもう残っていないようだ。…もう、丸パンで良くないか?セシリアにそれを指差すと可愛らしく此方を睨んでくる。じゃあもうこれしかない、サラミかベーコンかなんかが隙間から見えるこの変な形のやつ。エピ?って言うのかこれは。──ベーコンエピ。
 支払いを終えて店を後にする時になってようやく気が付いた。
「あ!お土産とか買ったら二人で出かけてましたって自己申告する事になるんじゃ…」
「…あ!ホント…」
 遠い目をするレジナルドの袖をセシリアがチョンチョンと引っ張る。
「私がジーク様に渡しますから…ね?」
「──そうだね、くれぐれもよろしくお願いします。」
──俺の明日は…。
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