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箱の中身
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「レジナルド様!少しお時間をよろしいでしょうか?」
教室で荷物をまとめ席を立とうとした時、近づいてきた女生徒に呼び止められた。
──またか…。
心の声は表に出さずににっこりと微笑みかける、これも騎士の仕事のうちだ。
「私に御用ですか?それともジークフリート殿下に?」
女生徒は見たことのない顔だから他のクラスの者だろう、赤い顔をして俯いているのでよく見えないが茶色い髪に茶色い瞳をしているようだ。
「レジナルド様に…。ここでは人目も多いのでできれば場所を…。」
授業が終わったばかりの教室では既に帰り支度をする者が多くこちらのことまで気にしている様子もないが、まぁ気になるのならば仕方がないか…。
「では──私も殿下のお迎えに上がりますので手短にお願いできますか?」
「は、はい!それはもちろんです。」
席を立ったのはいいがどこに行こうか…。教室からつながる中庭は目立ちすぎるし廊下も人が多い、さすがにジークの執務室に連れて入る訳にも行かないから…。
「図書室の側の中庭でもよろしいですか?」
「はい…」
中庭の出入り口もいろいろあるが図書室側の出入り口には木が何本か立っていて陰になる部分がある。先に立って廊下を歩きだすと女生徒はますます顔を赤らめて恥ずかしそうについて来る。…まいったな…こんなにあからさまな態度を取られるとこっちもどうしていいか分からない。おまけに歩く先々で注目の的だ…。無意識に歩く速度が速まってしまうが仕方ない──早く終わらせてしまおう。
「どうぞ。」
ドアを開くと先に女生徒を通す。
「あ、ありがとうございます。」
伯爵か…男爵位あたりなのだろう、あまりエスコートには慣れていない様子だ。
「立ったままで申し訳ありません…それでお話とは?」
女生徒はやはり真っ赤な顔で俯いたまま、もじもじとしている。
「…あの…」
話出すまでまだ時間がありそうなので女生徒を見ているふりをしてその背後の木を眺める…がそう際立って目を引く所もない。この時期には青々と葉が茂るばかりで花もないからな…。
「…レジナルド様は…今、好きな方がいらっしゃるのですか?」
視線を女生徒に戻す。しかし、いきなり来たな。
「私ですか?…いますが、それが何か?」
「やはり…その方とはセシリア様なのでしょうか?」
いや、だからなんでそんなこと答えなきゃいけないんだ?
「…えぇ、それとジークフリート殿下のお二人ですね。」
「え?」
やっと女生徒が顔を上げてこちらを見た。赤い顔をしてその目が少し潤んでいる──。
「お話とはそれだけでしょうか?そろそろ時間ですので。」
思ったよりも冷たい声が出てしまった。まずい…ますます泣きそうな顔になっている。
「私、レジナルド様のことが好きです!これ私の気持ちなので…。どうかお納めください。」
女生徒はそう言って箱とその上に載せられた手紙を差し出してきた。
レジナルドは箱の上の手紙だけをすっと抜き取る。
「こちらだけ、もらっておきます。ありがとう。」
箱の中身が例え珍しいお菓子だったとしても、受け取るわけにはいかない。爽やかに微笑みを浮かべると手紙をポケットに入れ、そのまま中庭を後にする。背を向ける瞬間に女生徒の目から大粒の涙があふれるのが見えた気がした。
ドアから建物の中に入るとにやにやしたジークフリートとばっちり目があった。
「やっぱり…なんか二人ともそろそろ来るんじゃないかと思ってた。」
その隣でセシリアは女生徒が泣き崩れる様子をどうしたものかと見守っている。
「あの箱は受け取らなくてよかったのか?」
「よく見てるな…。まぁ、思いが込められすぎたものを押し付けられてもね。」
「…意外と冷たい男だな。」
「こういう事ははっきりさせないと相手にも申し訳ないだろ?」
「それはまぁその通りだが…。」
ちらっとセシリアを見るとまだ女生徒の方を見ているようだ。レジナルドとジークフリートも自然とまたそちらに目が行く。赤い顔、潤んだ瞳──。何故だろう、女生徒のあの表情を見た瞬間すっと怒りのような感情が湧いてきた。
「俺今気付いたかも。」
二人がレジナルドの方を向くのが分かったが視線はそのまま女生徒に向けて続ける。
「話の通じない相手は苦手だ…。」
「あのご令嬢は話が通じなかったのか?」
「ちょっとしか話してないけど。名前も聞いてないし、自分の感情を隠しもしないで押し付けてくるだけのように感じた。」
ジークフリートがそっとセシリアの背中に手をやって促すと、そのまま三人は執務室の前を通り過ぎて馬車まで歩き出した。
馬車に乗り込んで先ほど受け取った手紙に目を通す。中身はレジナルドの予想通り、自分がどれだけ熱い思いを抱いているかをただ並べたてた一方的なものだった。それは返事を期待するものでも、その先を求める手紙でもない。一体これを渡してその後どうするつもりだったのだろう?
「私はパウンドケーキだったと思うな、あの箱の大きさからして。」
レジナルドに読み終えた手紙を返しながらジークフリートが突然言い出した。
「──俺はクッキーだったと思う。」
「…私もクッキーのような気がします。きっとナッツ入りです。」
「妙に説得力があるな…。」
「ナッツクッキー…。」
レジナルドに後悔はない。
教室で荷物をまとめ席を立とうとした時、近づいてきた女生徒に呼び止められた。
──またか…。
心の声は表に出さずににっこりと微笑みかける、これも騎士の仕事のうちだ。
「私に御用ですか?それともジークフリート殿下に?」
女生徒は見たことのない顔だから他のクラスの者だろう、赤い顔をして俯いているのでよく見えないが茶色い髪に茶色い瞳をしているようだ。
「レジナルド様に…。ここでは人目も多いのでできれば場所を…。」
授業が終わったばかりの教室では既に帰り支度をする者が多くこちらのことまで気にしている様子もないが、まぁ気になるのならば仕方がないか…。
「では──私も殿下のお迎えに上がりますので手短にお願いできますか?」
「は、はい!それはもちろんです。」
席を立ったのはいいがどこに行こうか…。教室からつながる中庭は目立ちすぎるし廊下も人が多い、さすがにジークの執務室に連れて入る訳にも行かないから…。
「図書室の側の中庭でもよろしいですか?」
「はい…」
中庭の出入り口もいろいろあるが図書室側の出入り口には木が何本か立っていて陰になる部分がある。先に立って廊下を歩きだすと女生徒はますます顔を赤らめて恥ずかしそうについて来る。…まいったな…こんなにあからさまな態度を取られるとこっちもどうしていいか分からない。おまけに歩く先々で注目の的だ…。無意識に歩く速度が速まってしまうが仕方ない──早く終わらせてしまおう。
「どうぞ。」
ドアを開くと先に女生徒を通す。
「あ、ありがとうございます。」
伯爵か…男爵位あたりなのだろう、あまりエスコートには慣れていない様子だ。
「立ったままで申し訳ありません…それでお話とは?」
女生徒はやはり真っ赤な顔で俯いたまま、もじもじとしている。
「…あの…」
話出すまでまだ時間がありそうなので女生徒を見ているふりをしてその背後の木を眺める…がそう際立って目を引く所もない。この時期には青々と葉が茂るばかりで花もないからな…。
「…レジナルド様は…今、好きな方がいらっしゃるのですか?」
視線を女生徒に戻す。しかし、いきなり来たな。
「私ですか?…いますが、それが何か?」
「やはり…その方とはセシリア様なのでしょうか?」
いや、だからなんでそんなこと答えなきゃいけないんだ?
「…えぇ、それとジークフリート殿下のお二人ですね。」
「え?」
やっと女生徒が顔を上げてこちらを見た。赤い顔をしてその目が少し潤んでいる──。
「お話とはそれだけでしょうか?そろそろ時間ですので。」
思ったよりも冷たい声が出てしまった。まずい…ますます泣きそうな顔になっている。
「私、レジナルド様のことが好きです!これ私の気持ちなので…。どうかお納めください。」
女生徒はそう言って箱とその上に載せられた手紙を差し出してきた。
レジナルドは箱の上の手紙だけをすっと抜き取る。
「こちらだけ、もらっておきます。ありがとう。」
箱の中身が例え珍しいお菓子だったとしても、受け取るわけにはいかない。爽やかに微笑みを浮かべると手紙をポケットに入れ、そのまま中庭を後にする。背を向ける瞬間に女生徒の目から大粒の涙があふれるのが見えた気がした。
ドアから建物の中に入るとにやにやしたジークフリートとばっちり目があった。
「やっぱり…なんか二人ともそろそろ来るんじゃないかと思ってた。」
その隣でセシリアは女生徒が泣き崩れる様子をどうしたものかと見守っている。
「あの箱は受け取らなくてよかったのか?」
「よく見てるな…。まぁ、思いが込められすぎたものを押し付けられてもね。」
「…意外と冷たい男だな。」
「こういう事ははっきりさせないと相手にも申し訳ないだろ?」
「それはまぁその通りだが…。」
ちらっとセシリアを見るとまだ女生徒の方を見ているようだ。レジナルドとジークフリートも自然とまたそちらに目が行く。赤い顔、潤んだ瞳──。何故だろう、女生徒のあの表情を見た瞬間すっと怒りのような感情が湧いてきた。
「俺今気付いたかも。」
二人がレジナルドの方を向くのが分かったが視線はそのまま女生徒に向けて続ける。
「話の通じない相手は苦手だ…。」
「あのご令嬢は話が通じなかったのか?」
「ちょっとしか話してないけど。名前も聞いてないし、自分の感情を隠しもしないで押し付けてくるだけのように感じた。」
ジークフリートがそっとセシリアの背中に手をやって促すと、そのまま三人は執務室の前を通り過ぎて馬車まで歩き出した。
馬車に乗り込んで先ほど受け取った手紙に目を通す。中身はレジナルドの予想通り、自分がどれだけ熱い思いを抱いているかをただ並べたてた一方的なものだった。それは返事を期待するものでも、その先を求める手紙でもない。一体これを渡してその後どうするつもりだったのだろう?
「私はパウンドケーキだったと思うな、あの箱の大きさからして。」
レジナルドに読み終えた手紙を返しながらジークフリートが突然言い出した。
「──俺はクッキーだったと思う。」
「…私もクッキーのような気がします。きっとナッツ入りです。」
「妙に説得力があるな…。」
「ナッツクッキー…。」
レジナルドに後悔はない。
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