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王女様御用達
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「申し訳ありませんがあのキャラメルはあれが最後だったので…。」
「やっぱり?そんな気がしてたんだよね…。ま、しょうがないか。」
レジナルドは昨日王都であった出来事をジークフリートとセシリアに話しているところだった。
「姉上と一緒に行った教会の慰問にキャラメルを持って行ったのか?」
「はい。リーナ様が今までずっと取り寄せていらしたお店を紹介していただいたのです。慰問の際はその店のキャラメルを欠かさず持って行かれていたようですけれど。ジーク様はご存じなかったですか?」
「あぁ、…何も知らなかった。」
本来であれば王妃の仕事であったはずの教会に併設された孤児保護施設への慰問。リーナは王妃に代わり長い間一人でその仕事をこなしてきた。その他にも女性王族の公務はいくつかあったはずだがそれらも含めて全てだ。当然ジークフリートはそのことに関しては何一つ知らない…。
「王都にあるんでしょ?菓子屋なんだよね?」
「はい、小さなお店でしたがキャラメルを作っていらっしゃるのはお年を召したおばあさま一人だとか。」
「ふ~ん、そんな店あったかな?今度俺にも教えてよ!」
「はい。…ですが、いつも開いている訳ではないそうですから。」
「そうなの?」
リーナから聞いた話によると老婆は最近体調を崩した影響で注文を受けた分しか菓子を作っておらず、店も開けたり閉めたりが続いているそうだ。
「大丈夫なのか?その店は…。」
「心配だね。とにかく様子を確かめてみないと。」
「レジーとリアに任せる、二人で今度行って確かめて来るといい。」
セシリアの案内で後日その菓子屋を訪れると、そこは薄汚れた小さな看板を掲げた一見民家のような小さな店だった。
「…リーナ様はどうしてこんな店を知ってたんだろうな?」
「それは私も不思議に思ったのですが聞きそびれてしまいました。」
レジナルドが扉を叩くと中から元気な声が返ってくる。
「開いてるよ!悪いけど今手が離せないんだ、自分で入ってきておくれ。」
レジナルドとセシリアは老婆の元気な声に思わず目を見合わせた。体調を崩したと聞いていたのに随分と元気そうだ。
「失礼します。」
扉を開けるとキャラメルの甘い香りが一気に向かってくる──。狭いけれど清潔な店内には小さなテーブルセットが一つ置かれただけで他には何もないようだった。
扉を閉めると奥の方からまた元気な声が飛んでくる。
「ちょっとそこに座って待ってなさい、もう少し時間がかかるからね。」
レジナルドがテーブルセットの椅子をひくとセシリアは困惑した様子でそこに腰を下ろした。レジナルドは落ち着かない様子で立ったままキョロキョロと店内を見回す。
「リーナ様と来た時もこんなだったの?」
「いいえ、あの時はおばあさまは体調が悪くて寝ていらしたのであらかじめ用意してあったキャラメルをリーナ様が受け取っていらしただけでした…。」
あの元気な声からは想像もつかないが…寝込んでいたというのは本当にこの声の主なのだろうか?
しばらくすると奥から老婆が現れてセシリアの方にやってきた。
「この前慰問に行ったばかりなのにこんなに早く注文がくるとは思わなくて、待たせて悪かったね…。」
その手には紙袋いっぱいのキャラメル──丁寧にその一つ一つが紙で包まれている。
「おばあさんが一人でやってるんですか?この店は。」
「おや、あんたは初めて見る顔だね。そうだよ、この店は今は私ひとりでやってるよ。」
テーブルの上に紙袋を置くと、老婆はレジナルドを頭のてっぺんからつま先まで眺め何やら頷いている。
「体調はもうよろしいのですか?前に伺った時は寝ていらしたようでしたが…。」
老婆はとんとんと腰に手をやると、豪快に笑った。
「この仕事をしてるとどうしても立ったままだから腰にくるんだよ、それで時々休むのさ。でもまぁこの前みたいに孫が代わりにやってくれるからどうにかね。」
そろそろ孫に譲るべきなんだろうけどねぇ…。老婆はそう小さく言いながらセシリアの隣に腰かけた。
「リーナ様がまだ引退するのを許してくれないのさ。」
老婆は緑の瞳を輝かせると嬉しそうに笑った。
「リーナ様が?」
「失礼ですがリーナ様とは一体どういうご関係で?」
「ご関係も何も、そうだねぇ…年の離れた友達?とでも言うのかね。夏に王都である花祭りに王女様がお忍びでいらした時にお会いしたのが始まりさ。もう何年の付き合いになるか…。」
「花祭りで…?」
「女の子が一人で泣いていたからキャラメルをあげたんだよ。誰かとはぐれた迷子なのかと思ってね。…実際は王宮から降りてらした王女様だったわけだから不思議な出会いもあるもんだね。」
そういうと、老婆は目を細めたまま何か言いたげな様子でレジナルドをじっと見つめた。
──リーナ様から聞いて何か知ってるな、このおばあさん…。
とりあえずは腰が悪いだけで元気そうでよかった。孫が後を継ぐ予定もあるようだし、ジークフリートにはそう報告しておこう。
その時老婆はレジナルドの耳元にこっそりと囁いた。
「リーナ様には悪いが私はジークフリート殿下の方が好みだねぇ。」
今の絶対にリア様にも聞こえたよね?横目でチラリとセシリアを伺うとキャラメルの袋を大事そうに抱えて戸惑ったような目で老婆を見ていた。
「やっぱり?そんな気がしてたんだよね…。ま、しょうがないか。」
レジナルドは昨日王都であった出来事をジークフリートとセシリアに話しているところだった。
「姉上と一緒に行った教会の慰問にキャラメルを持って行ったのか?」
「はい。リーナ様が今までずっと取り寄せていらしたお店を紹介していただいたのです。慰問の際はその店のキャラメルを欠かさず持って行かれていたようですけれど。ジーク様はご存じなかったですか?」
「あぁ、…何も知らなかった。」
本来であれば王妃の仕事であったはずの教会に併設された孤児保護施設への慰問。リーナは王妃に代わり長い間一人でその仕事をこなしてきた。その他にも女性王族の公務はいくつかあったはずだがそれらも含めて全てだ。当然ジークフリートはそのことに関しては何一つ知らない…。
「王都にあるんでしょ?菓子屋なんだよね?」
「はい、小さなお店でしたがキャラメルを作っていらっしゃるのはお年を召したおばあさま一人だとか。」
「ふ~ん、そんな店あったかな?今度俺にも教えてよ!」
「はい。…ですが、いつも開いている訳ではないそうですから。」
「そうなの?」
リーナから聞いた話によると老婆は最近体調を崩した影響で注文を受けた分しか菓子を作っておらず、店も開けたり閉めたりが続いているそうだ。
「大丈夫なのか?その店は…。」
「心配だね。とにかく様子を確かめてみないと。」
「レジーとリアに任せる、二人で今度行って確かめて来るといい。」
セシリアの案内で後日その菓子屋を訪れると、そこは薄汚れた小さな看板を掲げた一見民家のような小さな店だった。
「…リーナ様はどうしてこんな店を知ってたんだろうな?」
「それは私も不思議に思ったのですが聞きそびれてしまいました。」
レジナルドが扉を叩くと中から元気な声が返ってくる。
「開いてるよ!悪いけど今手が離せないんだ、自分で入ってきておくれ。」
レジナルドとセシリアは老婆の元気な声に思わず目を見合わせた。体調を崩したと聞いていたのに随分と元気そうだ。
「失礼します。」
扉を開けるとキャラメルの甘い香りが一気に向かってくる──。狭いけれど清潔な店内には小さなテーブルセットが一つ置かれただけで他には何もないようだった。
扉を閉めると奥の方からまた元気な声が飛んでくる。
「ちょっとそこに座って待ってなさい、もう少し時間がかかるからね。」
レジナルドがテーブルセットの椅子をひくとセシリアは困惑した様子でそこに腰を下ろした。レジナルドは落ち着かない様子で立ったままキョロキョロと店内を見回す。
「リーナ様と来た時もこんなだったの?」
「いいえ、あの時はおばあさまは体調が悪くて寝ていらしたのであらかじめ用意してあったキャラメルをリーナ様が受け取っていらしただけでした…。」
あの元気な声からは想像もつかないが…寝込んでいたというのは本当にこの声の主なのだろうか?
しばらくすると奥から老婆が現れてセシリアの方にやってきた。
「この前慰問に行ったばかりなのにこんなに早く注文がくるとは思わなくて、待たせて悪かったね…。」
その手には紙袋いっぱいのキャラメル──丁寧にその一つ一つが紙で包まれている。
「おばあさんが一人でやってるんですか?この店は。」
「おや、あんたは初めて見る顔だね。そうだよ、この店は今は私ひとりでやってるよ。」
テーブルの上に紙袋を置くと、老婆はレジナルドを頭のてっぺんからつま先まで眺め何やら頷いている。
「体調はもうよろしいのですか?前に伺った時は寝ていらしたようでしたが…。」
老婆はとんとんと腰に手をやると、豪快に笑った。
「この仕事をしてるとどうしても立ったままだから腰にくるんだよ、それで時々休むのさ。でもまぁこの前みたいに孫が代わりにやってくれるからどうにかね。」
そろそろ孫に譲るべきなんだろうけどねぇ…。老婆はそう小さく言いながらセシリアの隣に腰かけた。
「リーナ様がまだ引退するのを許してくれないのさ。」
老婆は緑の瞳を輝かせると嬉しそうに笑った。
「リーナ様が?」
「失礼ですがリーナ様とは一体どういうご関係で?」
「ご関係も何も、そうだねぇ…年の離れた友達?とでも言うのかね。夏に王都である花祭りに王女様がお忍びでいらした時にお会いしたのが始まりさ。もう何年の付き合いになるか…。」
「花祭りで…?」
「女の子が一人で泣いていたからキャラメルをあげたんだよ。誰かとはぐれた迷子なのかと思ってね。…実際は王宮から降りてらした王女様だったわけだから不思議な出会いもあるもんだね。」
そういうと、老婆は目を細めたまま何か言いたげな様子でレジナルドをじっと見つめた。
──リーナ様から聞いて何か知ってるな、このおばあさん…。
とりあえずは腰が悪いだけで元気そうでよかった。孫が後を継ぐ予定もあるようだし、ジークフリートにはそう報告しておこう。
その時老婆はレジナルドの耳元にこっそりと囁いた。
「リーナ様には悪いが私はジークフリート殿下の方が好みだねぇ。」
今の絶対にリア様にも聞こえたよね?横目でチラリとセシリアを伺うとキャラメルの袋を大事そうに抱えて戸惑ったような目で老婆を見ていた。
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