騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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無敵の王子様

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 つい先日、9歳の誕生祝いにジークフリートは白馬を二頭陛下から賜った。それはジークフリート専用で、しかもこの北の離宮を訪れる時に乗る為だけにわざわざ用意された馬だ。夏の間王妃の居る北の離宮でバカンスを過ごせるのも学園に上がるまでのあと数年しかない。レジナルドはジークフリートが何故この白馬を離宮に置いたままなのか理由が分からなかった。せっかくの白馬なのだからせめて一頭は王都に持って帰れば何時でも好きな時に乗れるだろうに。

「レジー?どうして白馬を二頭引いてこなかった?」
 ジークフリートは出発の準備の整えられた二頭の馬を不思議そうに眺めた。そのうちの一頭はつややかな栗毛をしている。
「え?だって白馬はジークの馬だろ?俺は栗毛に乗るよ。」
 当然のように胸を張るレジナルドを見てジークフリートは不機嫌そうに眉根に皺を寄せた。
「駄目だ、レジーも白馬にしろ。待ってるから直ぐに準備して来い!」
「分かったけど、何でそんなに怒るんだよ。」
「白馬に乗っていると…母上が窓から見るかもしれないと侍女が言っていた。」
「王妃様が?」
 離宮の二階にある王妃の部屋の窓を眺めるが丁度この場所からは木の影になっていてよく見えなかった。
「侍女が言うには女性は栗毛より白馬に乗っている男性の方が好きらしい…。」
「それってその侍女の趣味じゃないの?」
「一般的によく言うだろう?白馬に乗った王子様がいつか迎えに来てくれるとか何とか。」
「…王妃様の話じゃなくなってる気が──。」
「いいからとにかく早くしないと出発が遅くなるぞ?」
「そうだった!ごめん、ちょっと待ってて!」
 慌てて栗毛の馬を引いて行くレジナルドをジークフリートは白馬に跨りながら見送った。
「私の身体は一つしかないのにどうしてあいつは気が付かないんだ?」
 もう一頭の白馬はレジナルドの物であるという事は誰の目にも明らかなのに…。

 国王から誕生日に何が欲しいかと問われた時、ジークフリートは少し考えた後で馬を二頭貰いたいと自ら申し出た。国王はそれを承諾すると、離宮と王都に一頭ずつ置くのかと聞いてきた。レジーと離宮で乗りたいから二頭なのだと理由を話すといつもの様に『なるほど、二人の白馬に乗った王子様か。それも良かろう。』と妙に納得された。何が良いのかは分からなかったがいつもの口癖だとたいして気にもしていなかったのだが…。
 離宮に届けられたのが本当に白馬だったと知った時、丁度馬の世話をしていた騎士になぜ白馬なのかと聞いてみた。ジークフリートは白馬の方が足が速いとも子供向けだとも聞いたことがなかったからだ。騎士はしばらく考えた後で、自分もよく分からないがきっと王妃様の好みなのだろうと言ってきた。翌日同じようなことを侍女にも言われたというわけだ。白馬に乗るのは『王様』ではなく『王子様』でないといけないということも…。

「行くぞ、レジー!」
「昨日のところまで?あ、ずるい!」
 先に駆けだしたジークフリートをレジナルドが追いかける。
「先についた方が勝ちだからな!」
「ジークが勝ったら俺のサンドイッチ分けてやるよ。」
 昼食のサンドイッチの半分はジャムサンドだったため、レジナルドは負けたものの分けることなく満喫することになった。
「同時に出発してたら俺が絶対勝ってたのにな。」
「そんなことない、私がまた勝っていた。」
 湖畔に立つ木につながれた白馬が草を食んでいる。この後で白馬に水をやるのが敗者の役目になった。でも、レジナルドは知っている。ジークフリートはその時になると何も言わずにもう一頭の手綱を持つことを──。
 優しい幼馴染は自分とレジナルドが常に同じであるように気を配ってくれている。母を亡くした後の王宮での生活でも全てそうだ。レジナルドは王太子である幼馴染を守る立派な騎士になろうとしているというのに、いつの間にか守られていることに少しイラつくこともあった。それに最近では何をしてもジークフリートの方がレジナルドの一歩先へ進んでしまう。もう二人は同じではいられなくなってきているのだろう。
「俺、そろそろ帰んないといけない…。」
 王宮から、公爵邸に戻るべき時は近いのだろう。思わず考えていることがポロッと口から出てしまった。
「もう少しいいだろう?それとも少し遠回りしてあっちの道から帰るか?」
 金髪の王太子はにっこり笑うと立ち上がり、大きく背伸びをした。
「じゃあ遠回りして、あ…でも今度こそ同時にスタートしよう!」
「分かった、次は負けた方が菓子を分けるんだぞ?」
「それはなしだよ?だってジーク菓子食べないじゃん!」
 そう言いながら二人はそれぞれの馬の手綱をとり、水を飲ませるために水辺へと並んで歩いて行った。
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