騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

文字の大きさ
58 / 59
5

あの日のトリュフチョコレート

しおりを挟む
「危うくお前とリアの二人を失う所だった……」
「あぁ、確かに。」
 チョコレートを目にするのも嫌だと、そんな風に思うようになる日が来るとは正直思ってもいなかった。
「母上に続いて今度はソフィア嬢か…。」
「エリックの奴も甘い物が好きだからな。俺の身代わりには適役だったけど……。」
「媚薬入りのチョコレートか……」
 ジークフリートは暗くなった窓の外をじっと見ている。
「すっかり夜になったな……。ジーク、お前なら媚薬入りの何かを口にしてリア様が目の前にいたとしたら、一晩手を出さずに我慢できるか?」
「無理だ。」
「即答かよ!」
「お前だって分かるだろう?」
 ジークフリートは窓の外を見たまま微動だにしない。
「媚薬には男の方が弱いというのは聞いたことがある。それに、相手に好意を持っていれば尚更だ。エリックは……」
「明日の朝になれば姿を見せるだろう。これ以上考えても無駄だ。」
 ジークフリートはレジナルドに視線を戻すと、小さくため息をついた。
「私は薄情な男なんだ。正直エリックで良かったと安堵している。」
「それを言うなら俺の方だ。エリックを身代わりに使ったのはこれが初めてじゃないんだからな……。」
「そうなのか?」
 今度はレジナルドの方が視線を逸らすと窓の外の暗闇を眺める振りをした。
「花祭りの夜。俺、リーナ様の護衛にエリックを付けるよう父上に頼んだんだ。」
「花祭りの護衛に?」
「あぁ、リーナ様はひょっとしたら貴族のスマートな男よりごつい騎士の方が好みなんじゃないかという話になって…。」
「私はレジーとそんな話をした覚えは無いが……」
「リア様とだよ。」
「……いつの間にそんな事を?」
「花祭りの時に街に降りないのかという話をした時だったかな?いや、もう少し前だったような気もするけど…。」
「貴族より騎士か、なるほど。」
「万が一にも花祭りの夜にリーナ様の目に留まったらなんて…。まぁ結局そんな風にはならなかったけど。」
「運命の相手ではなかったと言うわけか。……ソフィア嬢はとわかった時、どんな反応をするんだろうな。」
「…エリックが罪に問われるような事にはならないよな?」
「ソフィア嬢の意志を無視して無理矢理と言う事になったら……少しばかり不味いがな。」
 重苦しい雰囲気のまま時だけが過ぎていった。結局その夜エリックとソフィアを乗せて消えた馬車は見つからなかった。

 翌朝発見されたエリックはチョコレートを食べてソフィアと関係を持ったと事実を認め、ソフィアの同意は得たと打ち明けた。しかし一方のソフィアはエリックが身分を偽っていた事を知ると激怒し、そのままエリックとは会うこともしなかった。おまけに王妃暗殺の騒動に紛れて逃亡を企てるもすぐ様連れ戻され、今では牢獄の中にいる。

「エリックはどうしている?」
「元々が王宮内の配置だったからな、仕事には戻ってるよ。直接王族の護衛にはつかせてないけど。」
「仕事はな。ソフィア嬢の事はあれから何か話したのか?」
「いや……何も。」
 レジナルドは咄嗟に嘘をついた。本当はエリックとあの後話をする機会があった。
 エリックはソフィアと関係を持ったことを後悔はしていないようだった。しかし自分はレジナルドだと偽ったままだったのだから、その後ソフィアに冷たい態度をとられても仕方ないと…そう話していた。
 レジナルドはその言葉に嘘はないと感じた。しかし一方で、エリックのやり場の無い思いもよく分かった。結局はエリックの独り相撲で終わってしまった二人の関係。もしチョコレートを食べていなかったら、決して叶わなかったであろう一時の甘い夢。

「ひと時でも甘い夢を見れたんだから、エリックはそれで幸せなのかもしれないな。」
 レジナルドの言葉に、ジークフリートは眉をひそめた。
「ひと時の甘い夢はその時しか幸せをくれない。いつかそれ以上の幸せが欲しくなるものだ。」
「……ごめん、何だか難し過ぎて俺にはよく分からない。」
「腹の中に入ってしまえばもうそれまでだ。結局、次の菓子が欲しくなるだろう?」
 レジナルドはジークフリートを見つめた。どうだろうか?食べてしまったらまた同じものが欲しくなる事もあるだろう。忘れられない味も…。
「そうか。そう言えばエリックはいつも目新しい菓子ばかり持っていたな……」

──俺とエリックは似ているようで似ていない。俺はきっと一度でも甘い夢を見たらそれを忘れる事が出来ない。その思い出だけを引きずって一生生きて行くんだ。

「俺、やっぱり薄情な男だ。トリュフチョコレート食べたのが自分じゃなくて良かったって今更ながら心底思った。」
「?」
「エリックはきっと大丈夫だ。次の相手をすぐに見つけると思うよ。」
「そうか…。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

慈悲深い天使のテーゼ~侯爵令嬢は我が道を征くつもりだ

あとさん♪
恋愛
王太子の婚約者候補に名を連ねながら、政権争いに敗れ、正式任命されなかった侯爵令嬢パトリシア。 彼女には辺境伯家との縁組が命じられた。辺境伯は毛むくじゃらの天をつくような大男で、粗野で野蛮人だと王都では噂されている。さらに独立して敵国に寝返るかもしれないと噂される辺境伯家に嫁いだら、いったいどうなるの? いいえ、今まで被り慣れた巨大な猫を、この際、盛大に開放させましょう。 わたくしは過去の自分を捨て、本来のわたくしに戻り、思うまま生きてやります! 設定はゆるんゆるん。なんちゃって異世界。 令嬢視点と辺境伯視点の2話構成。 『小話』は、2人のその後。主に新婚さんの甘々な日常。 小説家になろうにも掲載しております。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

処理中です...