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あの日のトリュフチョコレート
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「危うくお前とリアの二人を失う所だった……」
「あぁ、確かに。」
チョコレートを目にするのも嫌だと、そんな風に思うようになる日が来るとは正直思ってもいなかった。
「母上に続いて今度はソフィア嬢か…。」
「エリックの奴も甘い物が好きだからな。俺の身代わりには適役だったけど……。」
「媚薬入りのチョコレートか……」
ジークフリートは暗くなった窓の外をじっと見ている。
「すっかり夜になったな……。ジーク、お前なら媚薬入りの何かを口にしてリア様が目の前にいたとしたら、一晩手を出さずに我慢できるか?」
「無理だ。」
「即答かよ!」
「お前だって分かるだろう?」
ジークフリートは窓の外を見たまま微動だにしない。
「媚薬には男の方が弱いというのは聞いたことがある。それに、相手に好意を持っていれば尚更だ。エリックは……」
「明日の朝になれば姿を見せるだろう。これ以上考えても無駄だ。」
ジークフリートはレジナルドに視線を戻すと、小さくため息をついた。
「私は薄情な男なんだ。正直エリックで良かったと安堵している。」
「それを言うなら俺の方だ。エリックを身代わりに使ったのはこれが初めてじゃないんだからな……。」
「そうなのか?」
今度はレジナルドの方が視線を逸らすと窓の外の暗闇を眺める振りをした。
「花祭りの夜。俺、リーナ様の護衛にエリックを付けるよう父上に頼んだんだ。」
「花祭りの護衛に?」
「あぁ、リーナ様はひょっとしたら貴族のスマートな男よりごつい騎士の方が好みなんじゃないかという話になって…。」
「私はレジーとそんな話をした覚えは無いが……」
「リア様とだよ。」
「……いつの間にそんな事を?」
「花祭りの時に街に降りないのかという話をした時だったかな?いや、もう少し前だったような気もするけど…。」
「貴族より騎士か、なるほど。」
「万が一にも花祭りの夜にリーナ様の目に留まったらなんて…。まぁ結局そんな風にはならなかったけど。」
「運命の相手ではなかったと言うわけか。……ソフィア嬢はエリックがエリックだとわかった時、どんな反応をするんだろうな。」
「…エリックが罪に問われるような事にはならないよな?」
「ソフィア嬢の意志を無視して無理矢理と言う事になったら……少しばかり不味いがな。」
重苦しい雰囲気のまま時だけが過ぎていった。結局その夜エリックとソフィアを乗せて消えた馬車は見つからなかった。
翌朝発見されたエリックはチョコレートを食べてソフィアと関係を持ったと事実を認め、ソフィアの同意は得たと打ち明けた。しかし一方のソフィアはエリックが身分を偽っていた事を知ると激怒し、そのままエリックとは会うこともしなかった。おまけに王妃暗殺の騒動に紛れて逃亡を企てるもすぐ様連れ戻され、今では牢獄の中にいる。
「エリックはどうしている?」
「元々が王宮内の配置だったからな、仕事には戻ってるよ。直接王族の護衛にはつかせてないけど。」
「仕事はな。ソフィア嬢の事はあれから何か話したのか?」
「いや……何も。」
レジナルドは咄嗟に嘘をついた。本当はエリックとあの後話をする機会があった。
エリックはソフィアと関係を持ったことを後悔はしていないようだった。しかし自分はレジナルドだと偽ったままだったのだから、その後ソフィアに冷たい態度をとられても仕方ないと…そう話していた。
レジナルドはその言葉に嘘はないと感じた。しかし一方で、エリックのやり場の無い思いもよく分かった。結局はエリックの独り相撲で終わってしまった二人の関係。もしチョコレートを食べていなかったら、決して叶わなかったであろう一時の甘い夢。
「ひと時でも甘い夢を見れたんだから、エリックはそれで幸せなのかもしれないな。」
レジナルドの言葉に、ジークフリートは眉をひそめた。
「ひと時の甘い夢はその時しか幸せをくれない。いつかそれ以上の幸せが欲しくなるものだ。」
「……ごめん、何だか難し過ぎて俺にはよく分からない。」
「腹の中に入ってしまえばもうそれまでだ。結局、次の菓子が欲しくなるだろう?」
レジナルドはジークフリートを見つめた。どうだろうか?食べてしまったらまた同じものが欲しくなる事もあるだろう。忘れられない味も…。
「そうか。そう言えばエリックはいつも目新しい菓子ばかり持っていたな……」
──俺とエリックは似ているようで似ていない。俺はきっと一度でも甘い夢を見たらそれを忘れる事が出来ない。その思い出だけを引きずって一生生きて行くんだ。
「俺、やっぱり薄情な男だ。トリュフチョコレート食べたのが自分じゃなくて良かったって今更ながら心底思った。」
「?」
「エリックはきっと大丈夫だ。次の相手をすぐに見つけると思うよ。」
「そうか…。」
「あぁ、確かに。」
チョコレートを目にするのも嫌だと、そんな風に思うようになる日が来るとは正直思ってもいなかった。
「母上に続いて今度はソフィア嬢か…。」
「エリックの奴も甘い物が好きだからな。俺の身代わりには適役だったけど……。」
「媚薬入りのチョコレートか……」
ジークフリートは暗くなった窓の外をじっと見ている。
「すっかり夜になったな……。ジーク、お前なら媚薬入りの何かを口にしてリア様が目の前にいたとしたら、一晩手を出さずに我慢できるか?」
「無理だ。」
「即答かよ!」
「お前だって分かるだろう?」
ジークフリートは窓の外を見たまま微動だにしない。
「媚薬には男の方が弱いというのは聞いたことがある。それに、相手に好意を持っていれば尚更だ。エリックは……」
「明日の朝になれば姿を見せるだろう。これ以上考えても無駄だ。」
ジークフリートはレジナルドに視線を戻すと、小さくため息をついた。
「私は薄情な男なんだ。正直エリックで良かったと安堵している。」
「それを言うなら俺の方だ。エリックを身代わりに使ったのはこれが初めてじゃないんだからな……。」
「そうなのか?」
今度はレジナルドの方が視線を逸らすと窓の外の暗闇を眺める振りをした。
「花祭りの夜。俺、リーナ様の護衛にエリックを付けるよう父上に頼んだんだ。」
「花祭りの護衛に?」
「あぁ、リーナ様はひょっとしたら貴族のスマートな男よりごつい騎士の方が好みなんじゃないかという話になって…。」
「私はレジーとそんな話をした覚えは無いが……」
「リア様とだよ。」
「……いつの間にそんな事を?」
「花祭りの時に街に降りないのかという話をした時だったかな?いや、もう少し前だったような気もするけど…。」
「貴族より騎士か、なるほど。」
「万が一にも花祭りの夜にリーナ様の目に留まったらなんて…。まぁ結局そんな風にはならなかったけど。」
「運命の相手ではなかったと言うわけか。……ソフィア嬢はエリックがエリックだとわかった時、どんな反応をするんだろうな。」
「…エリックが罪に問われるような事にはならないよな?」
「ソフィア嬢の意志を無視して無理矢理と言う事になったら……少しばかり不味いがな。」
重苦しい雰囲気のまま時だけが過ぎていった。結局その夜エリックとソフィアを乗せて消えた馬車は見つからなかった。
翌朝発見されたエリックはチョコレートを食べてソフィアと関係を持ったと事実を認め、ソフィアの同意は得たと打ち明けた。しかし一方のソフィアはエリックが身分を偽っていた事を知ると激怒し、そのままエリックとは会うこともしなかった。おまけに王妃暗殺の騒動に紛れて逃亡を企てるもすぐ様連れ戻され、今では牢獄の中にいる。
「エリックはどうしている?」
「元々が王宮内の配置だったからな、仕事には戻ってるよ。直接王族の護衛にはつかせてないけど。」
「仕事はな。ソフィア嬢の事はあれから何か話したのか?」
「いや……何も。」
レジナルドは咄嗟に嘘をついた。本当はエリックとあの後話をする機会があった。
エリックはソフィアと関係を持ったことを後悔はしていないようだった。しかし自分はレジナルドだと偽ったままだったのだから、その後ソフィアに冷たい態度をとられても仕方ないと…そう話していた。
レジナルドはその言葉に嘘はないと感じた。しかし一方で、エリックのやり場の無い思いもよく分かった。結局はエリックの独り相撲で終わってしまった二人の関係。もしチョコレートを食べていなかったら、決して叶わなかったであろう一時の甘い夢。
「ひと時でも甘い夢を見れたんだから、エリックはそれで幸せなのかもしれないな。」
レジナルドの言葉に、ジークフリートは眉をひそめた。
「ひと時の甘い夢はその時しか幸せをくれない。いつかそれ以上の幸せが欲しくなるものだ。」
「……ごめん、何だか難し過ぎて俺にはよく分からない。」
「腹の中に入ってしまえばもうそれまでだ。結局、次の菓子が欲しくなるだろう?」
レジナルドはジークフリートを見つめた。どうだろうか?食べてしまったらまた同じものが欲しくなる事もあるだろう。忘れられない味も…。
「そうか。そう言えばエリックはいつも目新しい菓子ばかり持っていたな……」
──俺とエリックは似ているようで似ていない。俺はきっと一度でも甘い夢を見たらそれを忘れる事が出来ない。その思い出だけを引きずって一生生きて行くんだ。
「俺、やっぱり薄情な男だ。トリュフチョコレート食べたのが自分じゃなくて良かったって今更ながら心底思った。」
「?」
「エリックはきっと大丈夫だ。次の相手をすぐに見つけると思うよ。」
「そうか…。」
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