騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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決意の船旅

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「一か月もお前と離れることなんて今までなかったかもしれないな。」
「そうだね。ずっと一緒にいたから。」
 ジークフリートはリーナが二年間の留学に旅立つというのに、さっきからレジナルドのことばかり心配しているような気がする…気のせいか?
「姉上はいつか嫁いで行くという気がしていたから覚悟はできていたのだが…。」
「俺がいないと寂しい?」
 レジナルドが意地悪く聞くとジークフリートも負けじとこちらを睨みつけてきた。
「寂しい訳がない。むしろお前が甘いもの甘いものと船の上で騒ぎ出すのではないかと心配している。最近のお前はちょっと行き過ぎていたからな。」
 勝ち誇ったように微笑むジークフリートを横目に、レジナルドは顎に手を当てたまま何かを考え始めた。
「う~ん、リア様と一緒にお茶飲むようになって菓子にますますはまってきている気はしてたけど……。」
「そうだろう?」
「よし、決めた!」
 手をポンと叩くとレジナルドはジークフリートに向って宣言をした。
「俺、リーナ様を送り届けて帰って来るまで一か月菓子抜きですごすよ!」
「菓子抜き?」
「王妃様の件の処分も何もなかったしさ、いい機会だと思うんだ。それに海路だと菓子屋を探してうろうろする事もできないだろうし…。」
「まぁ、普通旅に出るのにチョコレートは持って行かないだろうが…。」
「チョコレートだけじゃない、お菓子絶ちだ!」
 レジナルドは胸元でぐっと拳を握りしめ頷いた。
「……船旅とはいえ、姉上も一緒なんだ。茶を飲む機会もあるだろう?平気なのか?」
「今回俺はリーナ様の護衛で行くだけだし王宮とは違うからな。一緒の席に座るわけにはいかない。」
「そう、だったな……。」
 ジークフリートは感心してレジナルドを眺めた。一緒にいることで自分はついつい忘れがちだが、レジナルドの方は決して忘れることがない──自らの立場をわきまえ、公の場に出る時は常に一歩下がった位置で控えるようにしている。
「護衛として控えているだけ。それ以上の事をしたらリーナ様もきっと離れる時寂しいだろう?」
「俺達から距離を置く…そのための留学なんだろうからな。」
「あぁ。」
「じゃあ、出発する前に最後に何か食べたいものがあるか?」
「……いや。実はエリックの件があってからあまり甘いものを口にする気になれなくて。」
「特にトリュフチョコレート?」
 二人は苦笑いを浮かべた。
「我ながらおかしな気分だよ。今頃になってようやくジークがトリュフチョコを口にしない気持ちが理解できるようになるなんて。」
「そうとう堪えたんだな。」
「だろうな。自分でもよく分からないが……。」
 ジークフリートは立ち上がると、黙ってレジナルドに手を差し出した。
「?」
 よく分からないがとりあえず手を差し出すとぐっと強く握り返される。
「姉上の事、よろしく。……あと、無事に帰ってくるんだぞ?」
「あぁ、分かってる。ジークも、リア様の事頼んだぞ?」
  手を握りあったまましばし無言で見つめ合う。ふっと笑いながら先に視線を逸らしたのはジークフリートだった。
「何だ?今の沈黙は?」
「ジークこそ!」
 これえきれずにレジナルドもついに声を上げて笑い出す。
「──おはようございます……。」
「あ、リア!おはよう!」
 ジークフリートは部屋の入り口から聞こえたセシリアの声にすぐ様反応すると、笑ったままパッと近寄りその手を握った。
「随分楽しそうですね?お二人とも。」
「おはようございます、リア様。今ジークと睨めっこして勝ったところ。」
「あぁ、今のは負けた。認める。」
「睨めっこ、でしたか。」
 セシリアは不思議そうに呟くと手に持っていた包みを開け、その中から何かを取り出そうとした。
「あ、リア様。俺これから一か月菓子を食べないことにしたんだ。だから何か出すんだったら──」
「えっ?そうなのですか?」
 セシリアは余程驚いたのかレジナルドの方を見上げた拍子に手元から何かを取り落とした。
「……これは?」
 ジークフリートが足元に落ちた何かを拾い上げて鼻に近付ける。
「あ、それはレジー様にです。ジーク様ではありません。」
 セシリアは慌てたようにジークフリートからそれを受け取ると、改めてレジナルドの方に差し出した。
 セシリアが差し出したのは綺麗な押し花が真ん中に貼り付けてあるしおりだった。
「これ、鈴蘭の花?」
「はい。花祭りの時の花で作っていたんです。香りはほとんど飛んでしまいましたが、王宮の庭に咲いていた鈴蘭ですから、御守り代わりにと思って。レジー様にも差し上げます。」
「にも、ってことは?」
「リーナ様には先に渡しました。」
「そういうことなら、ありがとう。大事に持って行くよ。」
 レジナルドは栞の香りを確かめるように鼻を近付けた。微かに青い香りがする。
「レジー、鈴蘭の花言葉を知っているか?」
「花言葉?そんなの知る訳ないじゃん!まさか……ジークは知っているとでも?」
「もちろんだ。」
 ジークフリートはセシリアの肩を引き寄せながら、またもや勝ち誇ったように言った。
「純粋、純潔、それから『再び幸せが訪れる』。」
 レジナルドはセシリアを見ながら困惑した表情で問いかけた。
「そうなの?ジーク俺にはバレないと思って勝手に作ってない?」
「間違っていませんよ?純粋って──レジー様にはぴったりの花言葉ですね。」
「再び幸せが訪れる……。」
「ここで待ってるから一月後にまた一緒に菓子を食べようという意味だな、きっと。」
「では、こちらはお帰りになってから改めてお渡ししますね。」
 セシリアは先程栞を取り出した包みを元に戻すとそっと胸に抱えた。
「まだ何か渡すつもりだったのか?」
 ジークフリートの問いにセシリアはニッコリと微笑んだ。
「はい、いつか三人で行った王都のパン屋さんのクッキーを少し…。」
「パン屋のクッキー……」
 レジナルドはセシリアの持っている包みから目が離せなくなった。どうしよう…。
 その時、室内にク~っとお腹のなる音が響いた。
「レジー?しょうがないな、朝食にしよう。リアが持ってきてくれたこれは菓子ではなく朝食だろう?」
「はい!もちろんです。」
「……ジーク、リア様。うぅ~俺の固い決意が……。」
「いいのか?そういえば緑の甘くないクッキーもあるのではないか?」
「食べます!甘いのでもなんでも、緑じゃないのを!」
「分かったから静かにしろ。まったくお前ってやつは……。」
 顔を赤くして必死で主張するレジナルドを見ると、ジークフリートは優しく微笑みその頭をポンポンと撫でた。
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