王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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はじまり

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──ここにある本もだいたい読んでしまった…。

 学園も休日のある日、ヴィルヘルム王国王都にあるビューロー侯爵邸。セシリアがその一室で書棚を巡りながら背表紙を眺めていると、甲高い靴音がこちらに向かってくるのが分かった。
「セシリア、探したのよ!…あなたまたこんな所にいたのね!」
 少し大袈裟に眉を顰め、部屋に入ってきたのはビューロー侯爵夫人だ。
「お義母さま…。申し訳ありません。」
「あなた、急な事だけれど午後からあるお茶会に出てくれるわね?適当なドレスがあったかしら?もし無いようならばレイラのものを…」
「…お茶会、ですか。えぇ分かりました…」
 今日は確か前々から義妹レイラの楽しみにしていた王宮での茶会の日だ。義母がどこからか根回しをしあらゆる伝手を使い、やっとのことで約束を取り付けたという王太子殿下とのお茶会。
「そう、ならば一刻も早く準備して頂戴。手土産で持参するものはこちらで準備してあるから…」
「あの…レイラは?」
「…まったく、あなたは呑気なものね?レイラは今日も学園へ通っているというのに。大事なテストと言っていたかしら?」
 学園でテスト?おかしい、テストならば先月終わったばかりだ。それにそんな予定があるのならばそもそも最初からお茶会のセッティングを今日にはしなかっただろうに…。

 セシリアはビューロー侯爵家の長女として産まれた。産後、母カーラは突如体調を崩したのだと聞いている。それまで病気などした事のなかった母を心配した祖父母は、環境のいい領地で静養をするよう勧めた。しかし生まれて間もない子を連れて領地に籠る訳にもいかず、母は信頼のおける乳母を探し出すまでは王都の邸にとどまっていたという。そして乳母がみつかり、やっとの思いで領地の祖父母宅に向かう道中、運悪く馬車を盗賊に襲われそのまま帰らぬ人となった。
 父であるビューロー侯爵は王宮敷地内にある騎士団に務めている。セシリアが生まれた頃には第二騎士団副団長補佐の地位にあった。王宮まで毎日王都の邸から通っていたのだ。
 王都からビューロー侯爵家領地までは馬車で1日あれば着く距離だ。母が盗賊に襲われたその日も、父は騎士団で仕事をしていた。父は静養のため領地へ向かう最愛の人を何故自らが護衛して送らなかったのか──と自分を責めた。それはもう、周りが声をかけるのもはばかる程に──。騎士団での職務はまだなんとか務めていたのだろう。その一方、邸に戻ると直ぐに自室へ引きこもるようになり、侯爵としての役割はほぼ放棄してしまった。当然、侯爵領の領地経営は日に日に厳しくなっていった。もちろん隠居していた祖父母が存命中はなんとか回っていたのだが、それも長くは続かなかった。後に祖父が病に倒れることで、やっと父は侯爵領の実状に気付くこととなる。
 セシリアは領地でひっそりと行われた母の葬儀後、父とは別れそのまま乳母と共に祖父母宅に残った。正直領地での記憶はほとんどない。
 4歳の夏、祖父が病に倒れた頃、侯爵はようやくセシリアを迎えに来た。そして訳も分からぬまま連れ帰られた王都の邸で待っていたのは、見知らぬ女の人とその娘、つまりは義母と妹のレイラだった。
 義母は王都で手広く商いをする商家のだった。
 ヴィルヘルム王国はセシリアの生まれる2年ほど前まで東の隣国と戦争をしていた。その名残なのかセシリアの生まれた頃にはまだ治安も悪く、盗賊が王都周辺にまで出没していたのだという。身分の高いものの乗っている馬車や商家の馬車は格好の標的になったのだろう。母や義母の元夫のように命を奪われる者も少なくなかったという。
 父は侯爵領の厳しい財政状況を何としてでも建て直すべく帆走し、ついには商家の力を借りる事にした。義母の嫁ぎ先には幸いにも跡を継げる弟がいたようで、亡き嫡男の嫁とその娘は半ば押し付けられるかのように侯爵家にということになったのだという。生まれが半年ほどしか違わないレイラとセシリア。初めて会った妹は、フワフワの金髪に青い目のまるでお人形のような愛らしい少女だった。セシリアは同じ金髪でも少し茶色に近い暗い色の真っ直ぐな髪に濃い青の瞳。妹がとても眩しく見えたのだけははっきりと覚えている。

 
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