王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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その時王太子殿下は…

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「はぁ?ちょっと待ってよ、なんで俺がリーナ様に好意を寄せてるってことに?」
学園にあるジークフリートの執務室にレジナルドの声が木霊した。
「まぁ、そういう噂もあるらしいし、今更いいだろう?」
「そんな出処の分からない噂まで利用して更にそれを広めろってことでしょ?信じらんない…!しかも自分がセシリア嬢を落としたいからって!!」
「――落とすなど、そんな言い方はないだろう」
「薬飲まされたご令嬢襲うような輩にそんな事…」
「おいっ!!お、襲ったとか…」
 レジナルドは慌てて否定するジークフリートを冷ややかな目で睨んだ。
「俺があの時部屋に入って行かなかったらどうなっていた事やら…」

 王宮でジークフリートとセシリアが茶会をしていたあの日。レジナルドは学園でのテストを終えるといつものようにジークフリートの元へ戻った。しかし茶会をしているであろう庭園の側まで来た時何かがおかしいと感じ、慌てて駆けつけるとそこにいるはずのジークフリートとご令嬢の姿はなく、テーブルには茶会の痕跡が残るのみ…。
「レジナルド殿、殿下はお茶会の途中で倒れたセシリア嬢を客間にお連れになった所です!」
「セシリア嬢?レイラ嬢ではなく?倒れた?一体何が?」
 顔面蒼白な侍女に大まかな事情を聞き取ると、テーブルの上のものを決して誰にも触らせるなと命じて急いで近くの客間を探してまわった。
 幾つ目のドアだったろうか、ノックをするとやっとその向こうからジークフリートの返事が聞こえた。
「殿下?ドアを開けても?一体何が起きてい…」
 話しながらもドアを押し開けると、ジークフリートがベッドの上でセシリアに覆いかぶさったまま荒い息を吐いていた。
「おまっ!ジークフリート!何してんだよ!」 
「レジー?!」
 はっと顔をあげると、ジークフリートは袖を掴んでいるセシリアの手を外し、ベッドから飛び降りた。
 ベッドに横たわるセシリアを見てみると目をうっすら開けているものの頬は上気して赤く、額にはうっすら汗をかいている。息遣いも荒く、明らかに…。
「ジークフリート?!もしかして、媚薬か?」
 窓から入る陽の光を浴びて白っぽく光る金髪を悩ましげに掻きむしると、手を口元にあてジークフリートは目を泳がせた。
「多分、そうだ。テーブルに残っているチョコレートを調べろ。」
「チョコレート?――じゃあ お前は…」
「あぁ、私は口にしていない。セシリア嬢が3つほど食べただけだ。侯爵家からの手土産だと言っていた。」
 レジナルドは訝しげな目をしてジークフリートに吐き捨てるように言った。
「口にしてないお前の方がなんで襲ってんだよ…」
 ジークフリートは耳まで真っ赤になるとセシリアの寝ているベッドの方をちらりと盗み見た。
「侍医を…早くここへ…」
「おいおいおい…もう手を付けたとか言わ…」
「違う!!薬のせいで苦しんでいるんだ、早く医師に見せるべきだろう?」
「…あぁ、それは確かに。」
 レジナルドがセシリアの寝ているベッドの方に近付こうとすると、視界を遮るようにジークフリートが立ち塞がった。
「レジー、お前は見るな。」
 レジナルドが物言いたげにジークフリートを見据えると、ジークフリートはやはり目を泳がせたまま小さく囁いた。
「セシリア嬢は…リアはきっと何も知らない。それに…俺が守ると決めた」
「ほぅ」
 ニヤリと口を歪めるように笑うと、レジナルドは背を向けながら呟いた。
「王太子殿下にやっと春が訪れたか?」

 チョコレートを調べさせた結果、やはり中身に媚薬が練り込まれていることが分かった。セシリアの言っていた事が本当ならば侯爵家の料理人が作った物であろう。問題は誰が何のために、誰に向けてこれを仕掛けたかである。
「侯爵家からの手土産とセシリア嬢は言ったんだろう?」
「あぁ、恐らく中身が何かは知らなかったのだろう。蓋を開けた時一瞬驚いていた。それに、彼女は私が甘い物を食べないと知っていたようだった。私が何か言うより先に手を伸ばして、チョコレートを食べたんだ…」
「セシリア嬢が自ら?」
「そうだ。チョコレートが好きだと言って立て続けに口に入れていた。」
「…もしかして既成事実を作って王太子殿下の婚約者に収まろうとか…」
「それはっ!違う!第一それならば私が媚薬を口にしなければ意味が無いだろう?」
「…そうでもないだろう?俺が駆けつけた時 お前ときたら…」
「レジー!く、口を慎め!!」
 レジナルドはククッと笑うと表情を改めた。
「まぁ、冗談はこの辺にして、妥当なのは侯爵夫人か妹のご令嬢だろうな。」
「…まぁ、そうなるな。レイラ嬢が茶会に来れなくなって予定が狂ったというところか?」
「あぁ、レイラ嬢とお前はクラスが違うし面識はほぼ無いんだろう?お前が甘い物が苦手だと知らなかったんだろうな」
「となると…」

 コンコンコン

 執務室の扉をノックすると、セシリアを診ていた王家の侍医が顔を出した。
「殿下、少々お耳に入れたいことが…」
 白く長い下がった眉毛を益々下げて、大型犬のような侍医がジークフリートに短く何事かを告げるとジークフリートの顔色が変わった。
「レジー…」
 レジナルドも顎に手をやりジークフリートを見据える。
「侯爵家にセシリア嬢を返すのはしばらく止めた方がいいかもしれないな…」
「私もそう思う。侯爵は確か騎士団の副団長だったか…」
「あぁ、第2騎士団だ。邸には滅多に帰らない仕事熱心な方だと思っていたのだか、何処まで関わっているのか…。」
「レジー、頼めるか?出来る限り早く 侯爵家で何が起きているのか調べてほしい」
「あぁ、分かった。は王宮でお前が守るんだろう?」
 ジークフリートは眉を顰めると小さく頷いた。
「もちろんだ。」
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