11 / 76
1
幕引き
しおりを挟む
レジナルドはレイラから大まかな話を聞くとそのまま侯爵家に使いを出し、翌日には侯爵夫人とレイラの2人を騎士団へと呼び出した。
侯爵夫人とレイラ、2人のどちらかがセシリアを陥れようと動いたことは間違いなさそうで、この件に関しては真相がわかるまでそう時間はかからなかった。2人は近衛騎士を務める第1騎士団による事情聴取を受けると、あっさりと罪を認めたのだ。
当初はジークフリートに媚薬を飲ませ、レイラとの既成事実を作ることによって王太子の婚約者の座を得ようとしたこと。しかし前日になって予定が狂った2人はセシリアにその罪を被せ、そのまま侯爵家から追い出すことにしたこと。
なんとも薄っぺらい計画にジークフリートはただただ不快そうな顔をしていた。
「今回のことはジークが直々に処分を決めたようだよ。」
珍しく王宮のセシリアの部屋を訪れたレジナルドが茶を飲みながら侯爵家の今回の騒動について説明をしてくれた。
「結論から言うと、レイラ嬢は王太子殿下の婚約者候補から外された、永遠にね。」
セシリアは驚きのあまりカップを落としそうになった。
「婚約者候補から外された…」
――それだけ?
「そう、あと侯爵夫人には孤児施設の慰問を週1回1年間とドレスと宝石の寄付だったかな?」
――慈善事業?
「…ジークフリート殿下はそのような処分で本当に許してくださったのでしょうか?」
やはり納得がいかなかった。
レジナルドはセシリアをじっと見つめると、僅かに首を傾げた。
「そうみたいだよ。」
レジナルドは未だにジークフリートの考えが分からないでいた。
長年一番傍で王太子殿下の事を見てきた。その経験を持ってしても分からない。あれほどまで色恋に興味を示さなかった彼の興味を引いたのがなぜこのご令嬢だったのだろうか。
茶会の前日まではただのクラスメイトだったはずの、印象も薄い、目立たないセシリアだ。
確かによく見れば整った美しい顔をしている。控えめな態度をとっているが恐らくレジナルドよりはるかに勉学は得意なのだろう。しかし王太子にふさわしい高位貴族の令嬢は他にも多くいる――。
「まぁあいつは時々何考えてるのか分かんないことあるしね。取り敢えずセシリア嬢には何も処分はないって話だから、安心していいよ。」
いろいろと聞きたいことがあるのだがぐっと堪えて紅茶を一気に飲み干すと、レジナルドはその場を辞した。
茶会から6日目、呆気なく騒動は解決した。セシリアは何もしていないのだから呆気なくというのは失礼かもしれない。少なくともジークフリートとレジナルドは解決に向けて忙しく動いていたのだ。
「毒ではなく、媚薬…」
1人いつもの庭園を歩いて、セシリアは無意識のうちに噴水の所まで来ていた。
毒でなかったからこそ自分はこうして元気でいて、義母も義妹も大きな罪に問われることなく済んだのだろうか…。
「…媚薬」
茶会の時、顔が火照って熱くなった事を思い出す。そういえば、あの時は熱に浮かされたように全身が熱く、足に力が入らなかった。
セシリアは頬に手をあてて俯いた。
殿下は、チョコレートを召し上がらなかった。事件は終わって処分も下っている。
「私はもう…帰るのだわ」
王宮から、侯爵家へ――。
「あら、リア。何処へ帰るの?」
楽しそうに声を掛けてきたのは侍女を従えたリーナ王女だった。
「リーナ王女殿下!」
「探したのよ、リア。ねぇ…私、ステーリアの王太子殿下との婚約が整いそうなのよ。」
唐突にそう言うと、リーナ王女は少しだけ困ったように口元を扇子で隠した。
『わたくし話すのは得意なのだけれど、ステーリア語の読み書きがどうも苦手なの――』
リーナ王女はセシリアを試すかのように綺麗なステーリア語で話しかけてきたのだ。
『それは…ホントウなのですか?とても綺麗なステーリア語なので信じられませんわ』
セシリアは少し癖のあるステーリア語で返答をした。邸の本で読み書きを学んだセシリアにしてみれば、ステーリア語を耳で聞く機会などめったになかったのだ。学園に入ってやっと授業で耳にしただけ。リーナ王女とは反対に会話の方が苦手であった。
「あら、ジークの言っていたことは本当だったようね?」
リーナ王女は1人で大きく頷くとセシリアの両手を取って目を輝かせた。
「私に是非ステーリア語の読み書きを教えて頂戴。代わりに会話は私が貴方に教えられると思うの!」
「私が王女殿下に…?」
――恐れ多い、そう続けようとした言葉を王女は手を挙げる身振りひとつで遮った。
「では、一緒に学ぶというのではどう?王宮にもステーリア語の教師はきちんといるのよ?ただ私はもっと気楽に学びたいのよ。ほら、お友達と一緒に――」
リーナ王女は小さく『一人だと眠たくて仕方ないのよ』と囁いた。
「ジークには私から言っとくわ!部屋も私の私室の近くに移動しましょ?ね?お願い!」
セシリアはリーナ王女の必死の説得に、敢え無く折れてしまった。
侯爵夫人とレイラ、2人のどちらかがセシリアを陥れようと動いたことは間違いなさそうで、この件に関しては真相がわかるまでそう時間はかからなかった。2人は近衛騎士を務める第1騎士団による事情聴取を受けると、あっさりと罪を認めたのだ。
当初はジークフリートに媚薬を飲ませ、レイラとの既成事実を作ることによって王太子の婚約者の座を得ようとしたこと。しかし前日になって予定が狂った2人はセシリアにその罪を被せ、そのまま侯爵家から追い出すことにしたこと。
なんとも薄っぺらい計画にジークフリートはただただ不快そうな顔をしていた。
「今回のことはジークが直々に処分を決めたようだよ。」
珍しく王宮のセシリアの部屋を訪れたレジナルドが茶を飲みながら侯爵家の今回の騒動について説明をしてくれた。
「結論から言うと、レイラ嬢は王太子殿下の婚約者候補から外された、永遠にね。」
セシリアは驚きのあまりカップを落としそうになった。
「婚約者候補から外された…」
――それだけ?
「そう、あと侯爵夫人には孤児施設の慰問を週1回1年間とドレスと宝石の寄付だったかな?」
――慈善事業?
「…ジークフリート殿下はそのような処分で本当に許してくださったのでしょうか?」
やはり納得がいかなかった。
レジナルドはセシリアをじっと見つめると、僅かに首を傾げた。
「そうみたいだよ。」
レジナルドは未だにジークフリートの考えが分からないでいた。
長年一番傍で王太子殿下の事を見てきた。その経験を持ってしても分からない。あれほどまで色恋に興味を示さなかった彼の興味を引いたのがなぜこのご令嬢だったのだろうか。
茶会の前日まではただのクラスメイトだったはずの、印象も薄い、目立たないセシリアだ。
確かによく見れば整った美しい顔をしている。控えめな態度をとっているが恐らくレジナルドよりはるかに勉学は得意なのだろう。しかし王太子にふさわしい高位貴族の令嬢は他にも多くいる――。
「まぁあいつは時々何考えてるのか分かんないことあるしね。取り敢えずセシリア嬢には何も処分はないって話だから、安心していいよ。」
いろいろと聞きたいことがあるのだがぐっと堪えて紅茶を一気に飲み干すと、レジナルドはその場を辞した。
茶会から6日目、呆気なく騒動は解決した。セシリアは何もしていないのだから呆気なくというのは失礼かもしれない。少なくともジークフリートとレジナルドは解決に向けて忙しく動いていたのだ。
「毒ではなく、媚薬…」
1人いつもの庭園を歩いて、セシリアは無意識のうちに噴水の所まで来ていた。
毒でなかったからこそ自分はこうして元気でいて、義母も義妹も大きな罪に問われることなく済んだのだろうか…。
「…媚薬」
茶会の時、顔が火照って熱くなった事を思い出す。そういえば、あの時は熱に浮かされたように全身が熱く、足に力が入らなかった。
セシリアは頬に手をあてて俯いた。
殿下は、チョコレートを召し上がらなかった。事件は終わって処分も下っている。
「私はもう…帰るのだわ」
王宮から、侯爵家へ――。
「あら、リア。何処へ帰るの?」
楽しそうに声を掛けてきたのは侍女を従えたリーナ王女だった。
「リーナ王女殿下!」
「探したのよ、リア。ねぇ…私、ステーリアの王太子殿下との婚約が整いそうなのよ。」
唐突にそう言うと、リーナ王女は少しだけ困ったように口元を扇子で隠した。
『わたくし話すのは得意なのだけれど、ステーリア語の読み書きがどうも苦手なの――』
リーナ王女はセシリアを試すかのように綺麗なステーリア語で話しかけてきたのだ。
『それは…ホントウなのですか?とても綺麗なステーリア語なので信じられませんわ』
セシリアは少し癖のあるステーリア語で返答をした。邸の本で読み書きを学んだセシリアにしてみれば、ステーリア語を耳で聞く機会などめったになかったのだ。学園に入ってやっと授業で耳にしただけ。リーナ王女とは反対に会話の方が苦手であった。
「あら、ジークの言っていたことは本当だったようね?」
リーナ王女は1人で大きく頷くとセシリアの両手を取って目を輝かせた。
「私に是非ステーリア語の読み書きを教えて頂戴。代わりに会話は私が貴方に教えられると思うの!」
「私が王女殿下に…?」
――恐れ多い、そう続けようとした言葉を王女は手を挙げる身振りひとつで遮った。
「では、一緒に学ぶというのではどう?王宮にもステーリア語の教師はきちんといるのよ?ただ私はもっと気楽に学びたいのよ。ほら、お友達と一緒に――」
リーナ王女は小さく『一人だと眠たくて仕方ないのよ』と囁いた。
「ジークには私から言っとくわ!部屋も私の私室の近くに移動しましょ?ね?お願い!」
セシリアはリーナ王女の必死の説得に、敢え無く折れてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜
ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して──
大商会の娘サーシャ。
子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。
華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。
そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。
けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。
サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。
新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。
一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき──
夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。
※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。
※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる