王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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幕引き

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 レジナルドはレイラから大まかな話を聞くとそのまま侯爵家に使いを出し、翌日には侯爵夫人とレイラの2人を騎士団へと呼び出した。
 侯爵夫人とレイラ、2人のどちらかがセシリアを陥れようと動いたことは間違いなさそうで、この件に関しては真相がわかるまでそう時間はかからなかった。2人は近衛騎士を務める第1騎士団による事情聴取を受けると、あっさりと罪を認めたのだ。
 当初はジークフリートに媚薬を飲ませ、レイラとの既成事実を作ることによって王太子の婚約者の座を得ようとしたこと。しかし前日になって予定が狂った2人はセシリアにその罪を被せ、そのまま侯爵家から追い出すことにしたこと。
 なんとも薄っぺらい計画にジークフリートはただただ不快そうな顔をしていた。

「今回のことはジークが直々に処分を決めたようだよ。」
 珍しく王宮のセシリアの部屋を訪れたレジナルドが茶を飲みながら侯爵家の今回の騒動について説明をしてくれた。
「結論から言うと、レイラ嬢は王太子殿下の婚約者候補から外された、永遠にね。」
 セシリアは驚きのあまりカップを落としそうになった。
「婚約者候補から外された…」
――それだけ?
「そう、あと侯爵夫人には孤児施設の慰問を週1回1年間とドレスと宝石の寄付だったかな?」
――慈善事業?
「…ジークフリート殿下はそのような処分で本当に許してくださったのでしょうか?」
 
 やはり納得がいかなかった。

 レジナルドはセシリアをじっと見つめると、僅かに首を傾げた。
「そうみたいだよ。」

 レジナルドは未だにジークフリートの考えが分からないでいた。
 長年一番傍で王太子殿下の事を見てきた。その経験を持ってしても分からない。あれほどまで色恋に興味を示さなかった彼の興味を引いたのがなぜこのご令嬢だったのだろうか。
 茶会の前日まではただのクラスメイトだったはずの、印象も薄い、目立たないセシリアだ。
 確かによく見れば整った美しい顔をしている。控えめな態度をとっているが恐らくレジナルドよりはるかに勉学は得意なのだろう。しかし王太子にふさわしい高位貴族の令嬢は他にも多くいる――。
「まぁあいつは時々何考えてるのか分かんないことあるしね。取り敢えずセシリア嬢には何も処分はないって話だから、安心していいよ。」
 いろいろと聞きたいことがあるのだがぐっと堪えて紅茶を一気に飲み干すと、レジナルドはその場を辞した。

 茶会から6日目、呆気なく騒動は解決した。セシリアは何もしていないのだから呆気なくというのは失礼かもしれない。少なくともジークフリートとレジナルドは解決に向けて忙しく動いていたのだ。
「毒ではなく、媚薬…」
 1人いつもの庭園を歩いて、セシリアは無意識のうちに噴水の所まで来ていた。
 毒でなかったからこそ自分はこうして元気でいて、義母も義妹も大きな罪に問われることなく済んだのだろうか…。
「…媚薬」
 茶会の時、顔が火照って熱くなった事を思い出す。そういえば、あの時は熱に浮かされたように全身が熱く、足に力が入らなかった。
 セシリアは頬に手をあてて俯いた。

 殿下は、チョコレートを召し上がらなかった。事件は終わって処分も下っている。
「私はもう…帰るのだわ」
 王宮から、侯爵家へ――。

「あら、リア。何処へ帰るの?」
 楽しそうに声を掛けてきたのは侍女を従えたリーナ王女だった。
「リーナ王女殿下!」
「探したのよ、リア。ねぇ…私、ステーリアの王太子殿下との婚約が整いそうなのよ。」
 唐突にそう言うと、リーナ王女は少しだけ困ったように口元を扇子で隠した。
『わたくし話すのは得意なのだけれど、ステーリア語の読み書きがどうも苦手なの――』
 リーナ王女はセシリアを試すかのように綺麗なステーリア語で話しかけてきたのだ。
『それは…ホントウなのですか?とても綺麗なステーリア語なので信じられませんわ』
 セシリアは少し癖のあるステーリア語で返答をした。邸の本で読み書きを学んだセシリアにしてみれば、ステーリア語を耳で聞く機会などめったになかったのだ。学園に入ってやっと授業で耳にしただけ。リーナ王女とは反対に会話の方が苦手であった。
「あら、ジークの言っていたことは本当だったようね?」
 リーナ王女は1人で大きく頷くとセシリアの両手を取って目を輝かせた。
「私に是非ステーリア語の読み書きを教えて頂戴。代わりに会話は私が貴方に教えられると思うの!」
「私が王女殿下に…?」
――恐れ多い、そう続けようとした言葉を王女は手を挙げる身振りひとつで遮った。
「では、一緒に学ぶというのではどう?王宮にもステーリア語の教師はきちんといるのよ?ただ私はもっと気楽に学びたいのよ。ほら、お友達と一緒に――」
 リーナ王女は小さく『一人だと眠たくて仕方ないのよ』と囁いた。
「ジークには私から言っとくわ!部屋も私の私室の近くに移動しましょ?ね?お願い!」
 セシリアはリーナ王女の必死の説得に、敢え無く折れてしまった。
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