5 / 73
1
運命の出会い
しおりを挟む
マリエの葬儀はザールにある小さな教会でひっそりと行われた。マルセルは母親が亡くなって初めて、その身分が侍女ではなく国母─つまりは国王の妃になっていたことを知らされた。にも関わらず、王都ではなくザールで葬儀が執り行われたということは、母親の存在はやはり公にされていないのだろう。
葬儀にはザールの屋敷の使用人が幾人かとロベールの父親が参列をした。
ロベールの父親である公爵は今までマリエとマルセルの言わば監視役を務めていた。もちろん実際にザールで二人の監視をしていたのは騎士団から派遣された騎士達だったので、その取りまとめ役という事になる。
マルセルは幼い頃からずっと傍に仕えていた一人の騎士が、実は自分の本当の父親なのではないかと思っていた。
ポールと呼ばれたその騎士は頼り甲斐があり、マルセルに優しく、そして母親に対しては特別な感情を抱いているように見えた。母親も口には出さなかったが、きっと同じように思いを寄せていたに違いない。
何かと制約の多いザールで半ば幽閉のような扱いを受けながらも、マリエとマルセル親子がなんとかやって来れたのは、ポールがいつも傍にいてくれたお陰だった。
マリエが毒に倒れた時、ポールは運の悪いことに休暇中だった。
マルセルが後に聞いた話によると、ポールが長期の休暇を取るのはこの時が初めてだったという。そしてその理由を聞いてマルセルは愕然とした。──ポールはマルセルが知らない間に結婚をしていたのだ。そして夫人は二人目の子供を身篭っていたのだが流産したのだと言う。ポールは心身共に疲弊した妻を労り、上の子供の傍にいるために休暇を申し出たのだと言う。それを聞いたマルセルは父親を取られたような、ポールに裏切られたような、妙な気分になった。そして突然その存在を知ることとなったポールの子供の事が気になって、頭から離れなくなってしまった。
母親の葬儀の翌日──マルセルは使用人と護衛に無理を言って教会の裏にある母親の墓地に参ることにした。
身元がバレないように深く外套を被り、マルセルが護衛騎士と共に墓地へひっそりと訪れると、そこにはマリエの墓に白い薔薇を手向けるポールの姿があった。昨日の葬儀に参列することができなかったからだろう。
様々な思いが頭を過り話しかけようかどうしようか迷っていたマルセルは、その時になってようやくポールが一人ではないことに気が付いた。ポールの向こう側にはマルセルと同じくらいの年齢の、薄茶色の柔らかそうな髪を靡かせたひょろっと背の高い子供が立っていた。
マルセルは自分と同じ年頃の子供といえばロベールくらいしか見たことが無かった。ロベールに比べてポールの陰に隠れている子供はやせ形で背が高く、マルセルと同じように色が白かった。そしてその目がこちらを向いた時、マルセルは思わず息を呑んだ。ポールとよく似たその顔に、澄み渡った空の様な色の瞳を持つ美しい顔……。
ポールと一緒に墓参りに来ているくらいだから、やはりポールの子供だと考えるのが普通だろう。頭では分かっているというのに、何故だか他人の様には思えなかったのだ。
物陰から様子を窺うだけのつもりが、ついつい身を乗り出してしまっていたマルセルは、間もなくポールに見つかってしまった。
「マルセル様?」
「ポール…。」
ポールは墓から一歩後ろに下がると、マルセルに向かって騎士の礼をした。
「本当に申し訳ありません…私が休みを願い出た途端にこの様な事になってしまって…。」
「……母上の件はお前のせいじゃない。」
「ですが……。これからはお屋敷にマルセル様お一人になります。」
「分かっている。母親のいない子供をただ一人あの屋敷に置いておくわけにもいかない。どこかへ移動させられるかもしれないな。」
──最も、父上は私のことを生かしておくつもりもないだろうが。
マルセルはうなだれたままのポールを冷たい目で見るとその脇の子供にちらっと目を向けた。
「ポールの子か?」
「はい、マルセル様と同い年の息子で、ジャンと申します。」
「息子?」
マルセルはもう一度ジャンの方を見ると、今度はじっくりと観察をした。ゆるく一つに縛られた薄茶色の長い髪、瞳の蒼色は透き通るような肌と合わせて柔らかな雰囲気を醸し出しており、少年にも少女にも見えた。
「……随分と美しい…息子だな。」
マルセルは自分の口から出た思わぬ言葉にはっと息を呑んだ。ジャンはマルセルの方を何も言わずに鋭い目で睨みつけると、すぐに視線を逸らした。
葬儀にはザールの屋敷の使用人が幾人かとロベールの父親が参列をした。
ロベールの父親である公爵は今までマリエとマルセルの言わば監視役を務めていた。もちろん実際にザールで二人の監視をしていたのは騎士団から派遣された騎士達だったので、その取りまとめ役という事になる。
マルセルは幼い頃からずっと傍に仕えていた一人の騎士が、実は自分の本当の父親なのではないかと思っていた。
ポールと呼ばれたその騎士は頼り甲斐があり、マルセルに優しく、そして母親に対しては特別な感情を抱いているように見えた。母親も口には出さなかったが、きっと同じように思いを寄せていたに違いない。
何かと制約の多いザールで半ば幽閉のような扱いを受けながらも、マリエとマルセル親子がなんとかやって来れたのは、ポールがいつも傍にいてくれたお陰だった。
マリエが毒に倒れた時、ポールは運の悪いことに休暇中だった。
マルセルが後に聞いた話によると、ポールが長期の休暇を取るのはこの時が初めてだったという。そしてその理由を聞いてマルセルは愕然とした。──ポールはマルセルが知らない間に結婚をしていたのだ。そして夫人は二人目の子供を身篭っていたのだが流産したのだと言う。ポールは心身共に疲弊した妻を労り、上の子供の傍にいるために休暇を申し出たのだと言う。それを聞いたマルセルは父親を取られたような、ポールに裏切られたような、妙な気分になった。そして突然その存在を知ることとなったポールの子供の事が気になって、頭から離れなくなってしまった。
母親の葬儀の翌日──マルセルは使用人と護衛に無理を言って教会の裏にある母親の墓地に参ることにした。
身元がバレないように深く外套を被り、マルセルが護衛騎士と共に墓地へひっそりと訪れると、そこにはマリエの墓に白い薔薇を手向けるポールの姿があった。昨日の葬儀に参列することができなかったからだろう。
様々な思いが頭を過り話しかけようかどうしようか迷っていたマルセルは、その時になってようやくポールが一人ではないことに気が付いた。ポールの向こう側にはマルセルと同じくらいの年齢の、薄茶色の柔らかそうな髪を靡かせたひょろっと背の高い子供が立っていた。
マルセルは自分と同じ年頃の子供といえばロベールくらいしか見たことが無かった。ロベールに比べてポールの陰に隠れている子供はやせ形で背が高く、マルセルと同じように色が白かった。そしてその目がこちらを向いた時、マルセルは思わず息を呑んだ。ポールとよく似たその顔に、澄み渡った空の様な色の瞳を持つ美しい顔……。
ポールと一緒に墓参りに来ているくらいだから、やはりポールの子供だと考えるのが普通だろう。頭では分かっているというのに、何故だか他人の様には思えなかったのだ。
物陰から様子を窺うだけのつもりが、ついつい身を乗り出してしまっていたマルセルは、間もなくポールに見つかってしまった。
「マルセル様?」
「ポール…。」
ポールは墓から一歩後ろに下がると、マルセルに向かって騎士の礼をした。
「本当に申し訳ありません…私が休みを願い出た途端にこの様な事になってしまって…。」
「……母上の件はお前のせいじゃない。」
「ですが……。これからはお屋敷にマルセル様お一人になります。」
「分かっている。母親のいない子供をただ一人あの屋敷に置いておくわけにもいかない。どこかへ移動させられるかもしれないな。」
──最も、父上は私のことを生かしておくつもりもないだろうが。
マルセルはうなだれたままのポールを冷たい目で見るとその脇の子供にちらっと目を向けた。
「ポールの子か?」
「はい、マルセル様と同い年の息子で、ジャンと申します。」
「息子?」
マルセルはもう一度ジャンの方を見ると、今度はじっくりと観察をした。ゆるく一つに縛られた薄茶色の長い髪、瞳の蒼色は透き通るような肌と合わせて柔らかな雰囲気を醸し出しており、少年にも少女にも見えた。
「……随分と美しい…息子だな。」
マルセルは自分の口から出た思わぬ言葉にはっと息を呑んだ。ジャンはマルセルの方を何も言わずに鋭い目で睨みつけると、すぐに視線を逸らした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました
当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。
リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。
結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。
指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。
そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。
けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。
仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。
「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい
和泉鷹央
恋愛
王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。
そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。
「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」
「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」
「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」
「えっ……!?」
「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」
しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。
でも、コンスタンスは見てしまった。
朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……
他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる