ある日王子は国を出ることにした

ゆみ

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幼馴染

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「おい!マルセル、いるのか?」
「なんだ?ロベールお前また来たのか?」

 マルセルは読みかけの本からチラッと目をあげると、書斎の扉ではなく庭に続くテラスの方から声をかけてきた幼馴染の姿を確認した。
 昨日とはうって変わってからっと晴れた外には青空が広がっている。

「お前こそまた本かよ?そんな暇があったらトロメリン語の一つでも覚えればいいのに。」

 ロベールと呼ばれた少年はマルセルの隣まで来ると肘でマルセルの脇を小突きながらニカッと笑った。マルセルはロベールが外から連れて入った冬の匂いのする空気を感じると顔をしかめた。

「……面倒だ。」
「そんな事より、先月の俺の誕生日に馬を貰ったんだ。今から少しだけ乗りに行かないか?」
「そうか…。お前はもう14歳になったんだったな。」
「黒毛の馬でカッコイイんだからさ、来いよ!」

 ロベールはマルセルの腕を掴むと軽く引っ張る素振りをした。

「屋敷の外に出るには着替えないといけないから面倒なんだよ。」
「またお前の面倒くさい病が始まった! 着替えくらいしたらいいじゃないか?」

 マルセルはロベールの手を腕から引き剥がすと不機嫌そうに眉をひそめた。

「……違う。これからは外に行くなら完全に顔を隠すように言われたんだよ。」
「は?……何だそれ?」
「この前出かけた時に女に間違われて厄介な事になったんだ。顔だけでなく髪の色すら見られないように用心しろと。……だから外には行きたくない。」
「女って…いくらお前でもさすがにそれは…」
「……」

 ロベールはマルセルの姿を上から下までしげしげと眺めると首を傾げた。

「……でもないか。この前会った縁談の相手よりマルセルの方がずっとかわいいな。」
「帰れ!」
「何だよ! そんな風に屋敷の中で本ばかり読んでるから日に焼けないし筋肉もつかないんだぞ?お前だってもうすぐ14歳になるのに、いい加減女に間違われるの嫌だろ?」
「……外に出なければ何も言われない。」

 マルセルは本を読むのを諦めて机の上に置くと、ロベールの小麦色に焼けた顔を睨んだ。前に見た時よりもロベールは背が伸びた気がする。それに二の腕が少しだけ逞しくなっている。

 ザール地方の隣、ミレーヌ地方を収めているのはロベールの父親である公爵だ。ロベールは公爵家の二男で、同い年のマルセル王子の遊び相手として昔から傍に付けられている、マルセルにとっての唯一の友人だった。
 
「じゃあ馬をそこまで連れて来るよ。テラスにちょっと出るくらいならいいだろ?」
「お前はどうしても私に馬を自慢したいんだな?」
「あぁそうだよ?他に自慢する相手なんかいないしな。」
「……」

 ロベールは鼻で笑うと、再びテラスから出て行きそのまま厩舎のある方へ向かって駆けだした。

「お前はいいよな。何時だってそうやって自分の思った通りに動けるんだから…。」

 ロベールが先日屋敷を訪れた時、ミレーヌ公爵家の家紋入りの馬車がこの屋敷に入るのを付近の住民に目撃されていたらしい。その後、町では公爵家の息子が屋敷に住むに足繁く逢いに来ているというような噂が立ちはじめた。
 ロベールがマルセルを伴って外出した姿を何処からか見ていた者もいるという。義弟の誕生からずっとマルセルの身辺には厳重な警護が付けられているため余計に目立ってしまったという事もあるのだろう。
 これ以上注目を浴びるわけにはいかないマルセルは、噂になってからはますます屋敷の外へ出るには人目を忍ばなくてはならなくなってしまった。

 マルセルは重い腰をあげると、伸びをしながらゆるゆるとテラスの方に向かって歩き出した。
 昼前のこの時間、屋敷の白いテラスは日を受けて眩しく光っている。マルセルは薄紫色の瞳を細めると額にかかる一筋の髪をかきあげた。向こうから軽快な蹄の音が近付いてくるのが分かる。

「アイツ……。庭で乗ってるな?一体何考えてんだ……。」

 音のする方に今すぐにでも駆け寄りたい気持ちをグッと抑えると、マルセルは庭へと続く階段を静かに降りて行った。

 その頃、屋敷の奥にある母親の部屋では使用人と騎士達が騒然としていた。
 マリエが何者かによって盛られた毒に倒れ、間もなく息を引き取ったのだった。
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