18 / 73
2
絡まった糸
しおりを挟む
マルセルは静かに目を閉じるとこめかみに手を当て、そのままの姿勢でジャンに問いかけた。
「ジャンは母親が誰なのか知っていたのか?」
「まさか!今まで自分の本当の母親については何も知らなかった。ただ……マリエ様ではないかという気はなんとなくしていたが……。」
ポールは苦々しい顔をして窓の外に目を向けた。
「マリエ様が亡くなった後、ジャンが一人で墓を訪れていたと知った時には全てを気付かれたのだと……そう思いました。」
「例のジャンが教会で襲われた事件の時、あの時ももしかして母上の墓に?」
「あそこはボーッと考え事をするのに丁度いい場所だったからよく行っていたが、別に何か深い意味があった訳では……。」
「そう…だったのか。」
ポールはジャンの方を見遣るとどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「私以外にジャンの出生の秘密を知っている者は当時マリエ様にお仕えしていた侍女二人だけになりました。」
「ジャンはこれからどうなる?記録上は今でもポールの子供ということになっているんだろう?」
「……はい。ジャンは……間違いなく今でも私と妻の子です。」
マルセルとポールの視線がジャンに向くと、ジャンは慌てた様に両手を上げた。
「俺だって今更お前は王子だなんて言われても正直困る。」
「だろうな、お前のその気持ちはよく分かる。ただ、父上は私が男だということを既に知っていた。それなのに双子のもう一人の行方を探さないというのもおかしいと思わないか?」
「あ…。そう言えば確かに。」
二人の視線を受けてポールは困った様に微笑むと視線を部屋の扉の方に向け、静かに席を立った。
「先程から扉の外にどなたかおいでのようですね。ロベール様でしょうか。」
ポールが呼び掛けながら扉を開けるとそこには確かにロベールの姿があった。
ロベールは気まずそうに鼻の下をポリポリとかくとマルセルとジャンに視線を送った。
「すまん。話を立ち聞きするつもりは無かったんだが……。」
「気にするな。堂々と入って来れば良かったのに。」
ロベールがジャンとポールに視線を送ると二人は戸惑った様に目を逸らした。
「どうやらそう思っているのはマルセルだけのようだな。俺はまだまだ信用がないらしい。」
ロベールはマルセルの隣まで椅子を持って来るとどっかりと腰掛けた。
「話の続きだが、陛下はマリエ様の産んだ子はマルセル一人だと周りには言ってるよ。もちろん俺の父もな……。」
「あれは正妃様に王子がお生まれになった頃でしたか。陛下は正妃様から指摘されてはじめてマルセル様が男であったとお知りになったのです。陛下は……それまで王家の記録をご覧になったことはなかったと聞いております。」
「おそらく興味がなかったんだろう?それとも、私以外にも隠し子が山のようにいて記憶にもなかったとか?」
「それは違います!」
ポールはいきなり声を荒らげると三人を見渡した。
「申し訳ありません…大きな声を出してしまって。ですが、陛下にはマルセル様とジャン以外に御子はおられません。」
「それと王太子も、だろ?忘れるな?」
「いえ、王太子殿下は……。」
「は?」
「まさか王太子殿下は陛下の子ではないとでも?」
ジャンは信じられないというように呟くと真っ直ぐにポールを見つめた。
「……」
「おいおいおい!本気かよ?」
「ポール?お前まだ何か父上の秘密を知っているのか?」
「いえ…。これは陛下の秘密と言うよりどちらかと言うと正妃様の……。」
「まぁ確かに結婚して10年もたった頃になってやっと子を授かったと言うのもおかしな話ではあるが。」
「陛下と正妃様とは政略結婚でした。ですからマリエ様がトロメリンに来られるよりもっと前から、お二人は別々に暮らされていたと言う話でした。──それに正妃様にはご結婚される前からの愛人がおられましたので。」
「何故父上がそんな事を知っているのです?」
「ジャン。それは、私がこの国に来てすぐの頃に王宮で同僚の騎士から聞いたからだ。あの頃の王宮は酷い状態だった。陛下はマリエ様と、正妃様は騎士団の幹部と……。それを皆が見て見ぬふりをしなければならなかった。王に子がいなければこの国は……。」
気付けば窓の外は薄暗くなり始めていた。港町から馬でミレーヌの別荘まで帰って、もうどれだけの時間が経ったことだろう。
四人は黙ったままそれぞれ物思いにふけていた。
マルセルの胸の内にも様々な思いが渦巻いていた。
──考えれば考える程面倒だな……。
「父上は……ひょっとして王太子が自分の子ではないと知っていて、もうどうにでもなれとヤケになっているのではないか?」
「マルセル?」
「そうか、そうだったのか、それならば納得が行く。いや、ロベールの交渉力が高いことは認めるが、どうも話が上手く行きすぎていると思っていたんだ。」
「ザールの事か?」
マルセルの独り言に反応したロベールは目を丸くしてマルセルを見上げた。二人の会話をポールとジャンも何事かと聞き入っている。
「そうだ。ザールはトロメリンでも有数の貿易港を抱え大きな収入が期待できる土地だ。にもかかわらず期間限定とはいえ私に与えるとは……普通では考えられない。おまけにわたしの背後には公爵の影がちらついているのだしな。」
「ジャンは母親が誰なのか知っていたのか?」
「まさか!今まで自分の本当の母親については何も知らなかった。ただ……マリエ様ではないかという気はなんとなくしていたが……。」
ポールは苦々しい顔をして窓の外に目を向けた。
「マリエ様が亡くなった後、ジャンが一人で墓を訪れていたと知った時には全てを気付かれたのだと……そう思いました。」
「例のジャンが教会で襲われた事件の時、あの時ももしかして母上の墓に?」
「あそこはボーッと考え事をするのに丁度いい場所だったからよく行っていたが、別に何か深い意味があった訳では……。」
「そう…だったのか。」
ポールはジャンの方を見遣るとどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「私以外にジャンの出生の秘密を知っている者は当時マリエ様にお仕えしていた侍女二人だけになりました。」
「ジャンはこれからどうなる?記録上は今でもポールの子供ということになっているんだろう?」
「……はい。ジャンは……間違いなく今でも私と妻の子です。」
マルセルとポールの視線がジャンに向くと、ジャンは慌てた様に両手を上げた。
「俺だって今更お前は王子だなんて言われても正直困る。」
「だろうな、お前のその気持ちはよく分かる。ただ、父上は私が男だということを既に知っていた。それなのに双子のもう一人の行方を探さないというのもおかしいと思わないか?」
「あ…。そう言えば確かに。」
二人の視線を受けてポールは困った様に微笑むと視線を部屋の扉の方に向け、静かに席を立った。
「先程から扉の外にどなたかおいでのようですね。ロベール様でしょうか。」
ポールが呼び掛けながら扉を開けるとそこには確かにロベールの姿があった。
ロベールは気まずそうに鼻の下をポリポリとかくとマルセルとジャンに視線を送った。
「すまん。話を立ち聞きするつもりは無かったんだが……。」
「気にするな。堂々と入って来れば良かったのに。」
ロベールがジャンとポールに視線を送ると二人は戸惑った様に目を逸らした。
「どうやらそう思っているのはマルセルだけのようだな。俺はまだまだ信用がないらしい。」
ロベールはマルセルの隣まで椅子を持って来るとどっかりと腰掛けた。
「話の続きだが、陛下はマリエ様の産んだ子はマルセル一人だと周りには言ってるよ。もちろん俺の父もな……。」
「あれは正妃様に王子がお生まれになった頃でしたか。陛下は正妃様から指摘されてはじめてマルセル様が男であったとお知りになったのです。陛下は……それまで王家の記録をご覧になったことはなかったと聞いております。」
「おそらく興味がなかったんだろう?それとも、私以外にも隠し子が山のようにいて記憶にもなかったとか?」
「それは違います!」
ポールはいきなり声を荒らげると三人を見渡した。
「申し訳ありません…大きな声を出してしまって。ですが、陛下にはマルセル様とジャン以外に御子はおられません。」
「それと王太子も、だろ?忘れるな?」
「いえ、王太子殿下は……。」
「は?」
「まさか王太子殿下は陛下の子ではないとでも?」
ジャンは信じられないというように呟くと真っ直ぐにポールを見つめた。
「……」
「おいおいおい!本気かよ?」
「ポール?お前まだ何か父上の秘密を知っているのか?」
「いえ…。これは陛下の秘密と言うよりどちらかと言うと正妃様の……。」
「まぁ確かに結婚して10年もたった頃になってやっと子を授かったと言うのもおかしな話ではあるが。」
「陛下と正妃様とは政略結婚でした。ですからマリエ様がトロメリンに来られるよりもっと前から、お二人は別々に暮らされていたと言う話でした。──それに正妃様にはご結婚される前からの愛人がおられましたので。」
「何故父上がそんな事を知っているのです?」
「ジャン。それは、私がこの国に来てすぐの頃に王宮で同僚の騎士から聞いたからだ。あの頃の王宮は酷い状態だった。陛下はマリエ様と、正妃様は騎士団の幹部と……。それを皆が見て見ぬふりをしなければならなかった。王に子がいなければこの国は……。」
気付けば窓の外は薄暗くなり始めていた。港町から馬でミレーヌの別荘まで帰って、もうどれだけの時間が経ったことだろう。
四人は黙ったままそれぞれ物思いにふけていた。
マルセルの胸の内にも様々な思いが渦巻いていた。
──考えれば考える程面倒だな……。
「父上は……ひょっとして王太子が自分の子ではないと知っていて、もうどうにでもなれとヤケになっているのではないか?」
「マルセル?」
「そうか、そうだったのか、それならば納得が行く。いや、ロベールの交渉力が高いことは認めるが、どうも話が上手く行きすぎていると思っていたんだ。」
「ザールの事か?」
マルセルの独り言に反応したロベールは目を丸くしてマルセルを見上げた。二人の会話をポールとジャンも何事かと聞き入っている。
「そうだ。ザールはトロメリンでも有数の貿易港を抱え大きな収入が期待できる土地だ。にもかかわらず期間限定とはいえ私に与えるとは……普通では考えられない。おまけにわたしの背後には公爵の影がちらついているのだしな。」
0
あなたにおすすめの小説
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました
当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。
リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。
結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。
指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。
そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。
けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。
仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。
「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい
和泉鷹央
恋愛
王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。
そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。
「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」
「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」
「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」
「えっ……!?」
「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」
しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。
でも、コンスタンスは見てしまった。
朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……
他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる