ある日王子は国を出ることにした

ゆみ

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絡まった糸

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 マルセルは静かに目を閉じるとこめかみに手を当て、そのままの姿勢でジャンに問いかけた。

「ジャンは母親が誰なのか知っていたのか?」
「まさか!今まで自分の本当の母親については何も知らなかった。ただ……マリエ様ではないかという気はなんとなくしていたが……。」

 ポールは苦々しい顔をして窓の外に目を向けた。

「マリエ様が亡くなった後、ジャンが一人で墓を訪れていたと知った時には全てを気付かれたのだと……そう思いました。」
「例のジャンが教会で襲われた事件の時、あの時ももしかして母上の墓に?」
「あそこはボーッと考え事をするのに丁度いい場所だったからよく行っていたが、別に何か深い意味があった訳では……。」
「そう…だったのか。」

 ポールはジャンの方を見遣るとどこか寂しそうな笑みを浮かべた。

「私以外にジャンの出生の秘密を知っている者は当時マリエ様にお仕えしていた侍女二人だけになりました。」
「ジャンはこれからどうなる?記録上は今でもポールの子供ということになっているんだろう?」
「……はい。ジャンは……間違いなく今でも私と妻の子です。」

 マルセルとポールの視線がジャンに向くと、ジャンは慌てた様に両手を上げた。

「俺だって今更お前は王子だなんて言われても正直困る。」
「だろうな、お前のその気持ちはよく分かる。ただ、父上は私が男だということを既に知っていた。それなのに双子のもう一人の行方を探さないというのもおかしいと思わないか?」
「あ…。そう言えば確かに。」

 二人の視線を受けてポールは困った様に微笑むと視線を部屋の扉の方に向け、静かに席を立った。

「先程から扉の外にどなたかおいでのようですね。ロベール様でしょうか。」

 ポールが呼び掛けながら扉を開けるとそこには確かにロベールの姿があった。
 ロベールは気まずそうに鼻の下をポリポリとかくとマルセルとジャンに視線を送った。

「すまん。話を立ち聞きするつもりは無かったんだが……。」
「気にするな。堂々と入って来れば良かったのに。」

 ロベールがジャンとポールに視線を送ると二人は戸惑った様に目を逸らした。

「どうやらそう思っているのはマルセルだけのようだな。俺はまだまだ信用がないらしい。」
 
 ロベールはマルセルの隣まで椅子を持って来るとどっかりと腰掛けた。

「話の続きだが、陛下はマリエ様の産んだ子はマルセル一人だと周りには言ってるよ。もちろん俺の父もな……。」
「あれは正妃様に王子がお生まれになった頃でしたか。陛下は正妃様から指摘されてはじめてマルセル様が男であったとお知りになったのです。陛下は……それまで王家の記録をご覧になったことはなかったと聞いております。」
「おそらく興味がなかったんだろう?それとも、私以外にも隠し子が山のようにいて記憶にもなかったとか?」
「それは違います!」

 ポールはいきなり声を荒らげると三人を見渡した。

「申し訳ありません…大きな声を出してしまって。ですが、陛下にはマルセル様とジャン以外に御子はおられません。」
「それと王太子も、だろ?忘れるな?」
「いえ、王太子殿下は……。」
「は?」
「まさか王太子殿下は陛下の子ではないとでも?」

 ジャンは信じられないというように呟くと真っ直ぐにポールを見つめた。

「……」
「おいおいおい!本気かよ?」
「ポール?お前まだ何か父上の秘密を知っているのか?」
「いえ…。これは陛下の秘密と言うよりどちらかと言うと正妃様の……。」
「まぁ確かに結婚して10年もたった頃になってやっと子を授かったと言うのもおかしな話ではあるが。」
「陛下と正妃様とは政略結婚でした。ですからマリエ様がトロメリンに来られるよりもっと前から、お二人は別々に暮らされていたと言う話でした。──それに正妃様にはご結婚される前からの愛人がおられましたので。」
「何故父上がそんな事を知っているのです?」
「ジャン。それは、私がこの国に来てすぐの頃に王宮で同僚の騎士から聞いたからだ。あの頃の王宮は酷い状態だった。陛下はマリエ様と、正妃様は騎士団の幹部と……。それを皆が見て見ぬふりをしなければならなかった。王に子がいなければこの国は……。」



 気付けば窓の外は薄暗くなり始めていた。港町から馬でミレーヌの別荘まで帰って、もうどれだけの時間が経ったことだろう。
 四人は黙ったままそれぞれ物思いにふけていた。
 マルセルの胸の内にも様々な思いが渦巻いていた。

──考えれば考える程面倒だな……。

「父上は……ひょっとして王太子が自分の子ではないと知っていて、もうどうにでもなれとヤケになっているのではないか?」
「マルセル?」
「そうか、そうだったのか、それならば納得が行く。いや、ロベールの交渉力が高いことは認めるが、どうも話が上手く行きすぎていると思っていたんだ。」
「ザールの事か?」

 マルセルの独り言に反応したロベールは目を丸くしてマルセルを見上げた。二人の会話をポールとジャンも何事かと聞き入っている。

「そうだ。ザールはトロメリンでも有数の貿易港を抱え大きな収入が期待できる土地だ。にもかかわらず期間限定とはいえ私に与えるとは……普通では考えられない。おまけにわたしの背後には公爵の影がちらついているのだしな。」
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