ある日王子は国を出ることにした

ゆみ

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意外性

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 ロベールは数人の騎士を引き連れて明け方近くに屋敷に戻って来た。騎士団から捜査と警備の為に派遣された者達だと言う。

「それで、何か分かったか?」
「いや、まだ身元しか分かっていない、何も話そうとしないからな。短剣の出処も分かってない。」
「まだ時間がかかりそうだな……。」
「あの使用人はどうやらここではなく王都にあるうちの別の屋敷で勤めていた者のようだ。」
「王都には公爵家の屋敷はどのくらいの数あるんだ?」
「さぁ。大小合わせたとしても五箇所位じゃないか?」

 ジャンはソファーから立ち上がると落ち着かない様子で窓辺へ歩み寄った。

「捜査に派遣されてきた騎士というのは身分が確かなんだろうな?もしかしてマルセルと俺も話をしないといけないのか?」
「いや、それなんだが……。どうだろう?マルセルは取り敢えず何も見ていなかった訳だし、ジャンだけ協力してもらえないか?」

 マルセルは不快そうにロベールを見ると、ソファーで脚を組み直した。

「王都に来てもまだ私には隠れていろと言いたいのか?いつまでもそうしている訳にはいかないだろう?」

 ロベールは少し迷う様子を見せた後、片手を上げて分かったと言うようにマルセルを制した。

「そうじゃない。今回の件はどう考えたって父が関係してるだろ?使用人を引き上げさせて屋敷が手薄なことを知っている者は他にいなかったんだからな。王都の騎士団には父の息のかかった騎士も居るはずだ。捜査で来たからと言われてもどこまで信用していいのか判断できないだろう?」
「ロベールの言う通りだ。マルセルはあの騎士達が引き上げるまでロベールか俺の傍にいた方がいい。取り調べなら俺一人居れば十分だろう。」

 マルセルは小さくため息をつくと頷きながらソファーから立ち上がった。

「分かった、二人がそう言うなら大人しくしておく。だが……あの使用人に指示を出したのは本当に公爵だと思うか?」
「お前がここに居ることを知ってて、襲えと指示を出すような奴が他にいるか?何か思い当たる事でも?」
「……そうだな、父上や正妃、王太子。今頃になってザールを私に渡すのが惜しくなってきたのかもしれない。」
「王族……」
「私の命を狙うなら公爵には今までザールでもミレーヌでも散々機会があったはずだ。何故王都に出て来たこのタイミングである必要があった?」

 ロベールはジャンと顔を見合わせると苦笑した。

「それは……。まだ分からないけど。確かに相手が王族ということも考えられるのか……参ったな。」
「マルセルとロベールは学園の寮に入った方が良かったのかもしれないな。寮の警備は万全なんだろ?」
「例え警備が万全だったとしても王族や公爵相手なら関係ないさ。むしろザールの信頼出来る者たちを最初から王都に連れて来るべきだったんだ。」

 マルセルは言い合っている二人から視線を逸らすと時計を取り出した。

「そんな事より、腹が減った。昨日ジャンが何か買ってきたんだろう?」
「あぁ、確かに。」

 マルセルは昨日ジャンが商店街から持って帰った紙袋を覗き込むと、目に付いた林檎を一つ取り出した。

「こっちにパンがある、あとは適当に日持ちのしそうなものが幾つか買ってきた……。」

 ジャンは袋からもう一つの林檎を取り出すとロベールに向かって放り投げた。ロベールは両手でそれを受け取るとマルセルに目配せをした。

「俺は林檎の皮ですらむいたことないからな?」
「……私だってした事がない。」

 二人が林檎を手に戸惑っているのに気が付くと、ジャンはマルセルの手からそれを奪い取り、服の袖で擦ると皮ごと音をたてて齧ってみせた。

「ジャン?」

 信じられないと言うようにそれを見たマルセルに、ジャンは齧りかけの林檎を突き付けると呆れたような顔を向けた。

「これくらいの事で迷うな。親の手から離れて、箱入り息子は卒業するって決めたんだろ?」

 ロベールはマルセルの隣でこっそりと笑いを堪えながら、紙袋の中から取り出したパンをちぎって口に放り込んだ。

「お、このパンいける!」
「……」
「俺が厨房を見てくる、何かあるかもしれないから。二人は部屋にいてくれ。」
「すまんが頼んだ。」

 部屋から出ていくジャンの背中を無言で見送ると、マルセルは独り言のようにボソボソと呟いた。

「……ジャンはもしかして料理が出来るのか?」
「さぁ?ステーリアで一人暮らしをしてたなら多少は出来るのかもしれないな。」

 マルセルは握りしめた林檎に目を向けると意を決して齧り付いた。

「……皮は食べるもんじゃないな。口に残るし酸っぱい。」
「それジャンにも言ってみろよ?あの綺麗な顔で睨まれたら怖いぞ?」
「睨まれるくらい別に何ともないさ。」

 ロベールはなおも紙袋の中からジャンが買ってきた物を取り出しながら楽しそうに笑った。

「しかしあれだな。ジャンがいなかったら今頃俺たちはこうして笑って林檎を齧ったりしてなかったかもしれないな。」

 マルセルは机の上に林檎を直接置くと顔を顰めて手を拭った。

「包帯でぐるぐる巻きでその辺に転がっていたか、あるいは冷たくなっていたとでも?」
「またお前も極端な考えだな。まぁそれも考えられるが、学園の寮で女の子に囲まれて紅茶を飲んでクッキーを齧ってたかもしれないぞ?」
「それは絶対にないな。誓ってもいい。」
「そうなのか?」

 ロベールがそう言いながら紙袋の中身をすっかり出し終わった頃に部屋の扉を乱暴に叩く音がした。

「おい、手がふさがってるんだ、開けてくれ。」
「ジャン、お前か?」

 ロベールが扉を小さく開き廊下を確認すると、紅茶ポットとカップを抱えたジャンが部屋に入ってきた。

「紅茶……。」
「あぁ、ジャムもあったぞ?」

 ジャンは机の上に紅茶ポットとカップを並べると、手際よく紅茶を注ぎながらポケットからジャムの瓶を取り出した。

「おっと、そのポケットからクッキーが出てきたらどうしようかと思ったぜ。」

 ロベールはにっこりと笑うと傍らにあったナイフでパンを切り始めた。
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