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嫉妬
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捜査に寄越された騎士たちは既にロベールから概要は聞いていた様子で、屋敷に残っていた数人の使用人とジャンに事件当時の話を聞くとあっけないほどすぐに引き上げて行った。
マルセルは1時間もしないうちに騎士たちが門から出て行くのを確認すると、暇そうに傍に控えていたジャンに声を掛けた。
「もう帰ったようだな?思ったより早くないか?」
「あぁ、ここに長々と居座られても迷惑だから、ロベールが上手く言いくるめたんだろう?」
「ロベールが?」
「いつか言っていた通り、ロベールは人の扱いに長けているようだな。交渉も上手いみたいだ。」
「そうだったのか。」
「あの騎士達にしてみても公爵家の者に目をつけられたくはないだろうし、黙って言う事を聞くしかないさ。しかもロベールの父親は騎士団のトップなんだろ?」
「まぁな。こんな揉め事に好き好んで巻き込まれたりはしない…か。」
ジャンは眠たそうに一つ欠伸をすると、ソファーにもたれかかった。
「マルセル、悪いがここで少し休ませてくれないか?もうすぐロベールが戻って来るはずだ。」
「気にせず休むといい。昨日はあの後眠らなかったんだろう?」
「あぁ、済まない。」
マルセルはソファーにもたれかかり早速目を閉じたジャンを密かに観察する事にした。
昨日の夜自分を助けてくれた時にはあれだけ頼もしく見えたというのに、陽の光の下で見ると同い年というよりはむしろ年下に見える。こうして座っているとマルセルよりも背が高いということも分からないので余計にそう思えるのかもしれない。
しばらくの間目を閉じていたので眠ったと思っていたジャンがゆっくりと目を開けると、マルセルを真っ直ぐに見返してきた。
「どうした?何をそんなに見てる?」
「いや何でもない。ただ観察をしていただけだ。」
「観察?」
「気にするな、こういう風に見られる事には慣れてるんだろう?」
「……」
ジャンは再びゆっくりと目を閉じるとその顔に笑みを湛えた。
「こんな風に男に見つめられると普段は嫌な気分になるんだが、マルセルならまぁいいかと思えてしまうのは一体何だろうな……。」
「血が繋がっていると分かったから…だろうな。ジャンは私たちが本当に双子だと思うか?」
「余り似てないから何とも。それに今更確かめようがない……。」
今度こそジャンは眠ってしまったようで、マルセルもまた笑みを湛えながらそれを見ていた。
──よくこんなソファーで眠れるな。そう言えばステーリアから帰国したばかりの時にもこうやって寝ていたな。
マルセルはついこの前の出来事を既に懐かしく思い出していた。ジャンがソファーで眠りこけてしまったあの日、こうして見ていたらロベールから妙な対抗心を見せられた……。
──ジャンが誰が他の人にこういう無防備な姿を見せたとしたら、その時には私はあの日のロベールの様に嫉妬するんだろうか……。
マルセルは王都に来た日に商店街でジャンが見かけたという娘の存在が、まだ頭の片隅に引っかかって離れないでいた。
──食堂の娘とジャンが親しくなったとしたら……。
マルセルは自分がジャンに抱くこの思いは特別である事を知っていた。両親にもロベールにも埋めることの出来なかった自分の心の隙間をピッタリと埋めてくれるこの安心感。
──私は人間に嫌気がさしていた。そんな中で出会ったジャンに心惹かれてしまったから実は自分も男色だったのかと呆然としたものだが……。違ったんだな。ジャンは私の片割れだ──知らない間に離れ離れになってしまっていた私の分身。
自分には血の繋がった兄弟がいるとは思ってもいなかったのに、ジャンとは自然と引かれ合ったのだからやはり双子というのはなにか神秘的な繋がりがあるのかもしれない。
──魂が惹かれる……か。まるで恋愛のようだな。
「マルセル、ジャン?あ……。」
いきなりノックもせずに部屋に入って来たロベールは、ソファーで寝ているジャンを見つけると不味いと思ったのか両手で口を塞いだ。
「大丈夫だ。大声を出さなければしばらくは起きないだろう。」
ロベールはコクコクと頷きながらマルセルの近くに椅子を引き寄せて座った。
「騎士達は帰した。何か分かったら報告してくれる事になった。」
「そうか、まぁ余り期待はしないでおくか。」
ロベールは眠っているジャンの方に目を向けると、小さくため息をついた。
「昨日の夜、寝ずに屋敷の番をしていたんだろう?全くジャンってやつは…。一言ぐらい俺に相談してくれれば良かったのに…。」
「屋敷の番を1人でしていたのか?」
「……あぁ。まぁマルセルの部屋を重点的に見ていたのは間違いないだろうが。」
「そうだったのか。あの後も眠れなくて話に付き合ってもらったんだ。悪い事をしたな…。」
ロベールは優しい目をしてマルセルを見つめると、その大きな手でマルセルの頭をクシャッと撫でた。
「済まない、俺がもう少ししっかりしていればお前をあんな目に遭わせる事もなかったのに。」
「問題ない、ジャンがいてくれたからな。」
「……あぁ。そうだな。」
ロベールはマルセルの頭から手を離すと再びジャンに目を向けた。
「ジャンには当分勝てそうにないな。」
「勝ったとか負けたとかそんなくだらない事を気にするな。第一そんな弱気お前らしくない。」
ロベールは口元に手をあてるとマルセルに向かって小さく頷き、わざとらしくマルセルから目を逸らした。
「マルセルも寝不足なんだろう?俺の事は気にせず休め。」
マルセルは1時間もしないうちに騎士たちが門から出て行くのを確認すると、暇そうに傍に控えていたジャンに声を掛けた。
「もう帰ったようだな?思ったより早くないか?」
「あぁ、ここに長々と居座られても迷惑だから、ロベールが上手く言いくるめたんだろう?」
「ロベールが?」
「いつか言っていた通り、ロベールは人の扱いに長けているようだな。交渉も上手いみたいだ。」
「そうだったのか。」
「あの騎士達にしてみても公爵家の者に目をつけられたくはないだろうし、黙って言う事を聞くしかないさ。しかもロベールの父親は騎士団のトップなんだろ?」
「まぁな。こんな揉め事に好き好んで巻き込まれたりはしない…か。」
ジャンは眠たそうに一つ欠伸をすると、ソファーにもたれかかった。
「マルセル、悪いがここで少し休ませてくれないか?もうすぐロベールが戻って来るはずだ。」
「気にせず休むといい。昨日はあの後眠らなかったんだろう?」
「あぁ、済まない。」
マルセルはソファーにもたれかかり早速目を閉じたジャンを密かに観察する事にした。
昨日の夜自分を助けてくれた時にはあれだけ頼もしく見えたというのに、陽の光の下で見ると同い年というよりはむしろ年下に見える。こうして座っているとマルセルよりも背が高いということも分からないので余計にそう思えるのかもしれない。
しばらくの間目を閉じていたので眠ったと思っていたジャンがゆっくりと目を開けると、マルセルを真っ直ぐに見返してきた。
「どうした?何をそんなに見てる?」
「いや何でもない。ただ観察をしていただけだ。」
「観察?」
「気にするな、こういう風に見られる事には慣れてるんだろう?」
「……」
ジャンは再びゆっくりと目を閉じるとその顔に笑みを湛えた。
「こんな風に男に見つめられると普段は嫌な気分になるんだが、マルセルならまぁいいかと思えてしまうのは一体何だろうな……。」
「血が繋がっていると分かったから…だろうな。ジャンは私たちが本当に双子だと思うか?」
「余り似てないから何とも。それに今更確かめようがない……。」
今度こそジャンは眠ってしまったようで、マルセルもまた笑みを湛えながらそれを見ていた。
──よくこんなソファーで眠れるな。そう言えばステーリアから帰国したばかりの時にもこうやって寝ていたな。
マルセルはついこの前の出来事を既に懐かしく思い出していた。ジャンがソファーで眠りこけてしまったあの日、こうして見ていたらロベールから妙な対抗心を見せられた……。
──ジャンが誰が他の人にこういう無防備な姿を見せたとしたら、その時には私はあの日のロベールの様に嫉妬するんだろうか……。
マルセルは王都に来た日に商店街でジャンが見かけたという娘の存在が、まだ頭の片隅に引っかかって離れないでいた。
──食堂の娘とジャンが親しくなったとしたら……。
マルセルは自分がジャンに抱くこの思いは特別である事を知っていた。両親にもロベールにも埋めることの出来なかった自分の心の隙間をピッタリと埋めてくれるこの安心感。
──私は人間に嫌気がさしていた。そんな中で出会ったジャンに心惹かれてしまったから実は自分も男色だったのかと呆然としたものだが……。違ったんだな。ジャンは私の片割れだ──知らない間に離れ離れになってしまっていた私の分身。
自分には血の繋がった兄弟がいるとは思ってもいなかったのに、ジャンとは自然と引かれ合ったのだからやはり双子というのはなにか神秘的な繋がりがあるのかもしれない。
──魂が惹かれる……か。まるで恋愛のようだな。
「マルセル、ジャン?あ……。」
いきなりノックもせずに部屋に入って来たロベールは、ソファーで寝ているジャンを見つけると不味いと思ったのか両手で口を塞いだ。
「大丈夫だ。大声を出さなければしばらくは起きないだろう。」
ロベールはコクコクと頷きながらマルセルの近くに椅子を引き寄せて座った。
「騎士達は帰した。何か分かったら報告してくれる事になった。」
「そうか、まぁ余り期待はしないでおくか。」
ロベールは眠っているジャンの方に目を向けると、小さくため息をついた。
「昨日の夜、寝ずに屋敷の番をしていたんだろう?全くジャンってやつは…。一言ぐらい俺に相談してくれれば良かったのに…。」
「屋敷の番を1人でしていたのか?」
「……あぁ。まぁマルセルの部屋を重点的に見ていたのは間違いないだろうが。」
「そうだったのか。あの後も眠れなくて話に付き合ってもらったんだ。悪い事をしたな…。」
ロベールは優しい目をしてマルセルを見つめると、その大きな手でマルセルの頭をクシャッと撫でた。
「済まない、俺がもう少ししっかりしていればお前をあんな目に遭わせる事もなかったのに。」
「問題ない、ジャンがいてくれたからな。」
「……あぁ。そうだな。」
ロベールはマルセルの頭から手を離すと再びジャンに目を向けた。
「ジャンには当分勝てそうにないな。」
「勝ったとか負けたとかそんなくだらない事を気にするな。第一そんな弱気お前らしくない。」
ロベールは口元に手をあてるとマルセルに向かって小さく頷き、わざとらしくマルセルから目を逸らした。
「マルセルも寝不足なんだろう?俺の事は気にせず休め。」
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