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新入生代表
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「お前たちだけ卑怯だぞ!」
それは学園の新学期を数日後に控えたある日──。ロベールは最近では日常になってきていると思いながらもマルセルに抗議するために部屋へと向かった。勢いよく扉を開くと、そこには涼しい顔をして語り合う美しい双子の姿があった。これもまた王都に来てからの日常になりつつある。
「今度は何だと言うんだ?」
面倒くさそうにこちらを見上げてくるマルセルの気だるい様子にロベールは一瞬息を呑んだ。
「……何って。学園長に何か余計な事を吹き込んだだろう?俺に新入生代表の挨拶をしろと言ってきた。」
「なんだ、そんな事か。」
「ロベール、新入生の中で一番身分が高いのは公爵家二男のお前だろ?マルセルはその遠縁なんだから当然の話さ。」
「ジャン、さてはお前も一枚かんでるな?お前たち二人は学園に通う準備が間に合わないからしばらく欠席すると既に連絡を入れたそうじゃないか?」
ジャンはマルセルの方に目で合図をするとロベールの対応を丸投げした。
「実際大勢が集まる場所に私たちが揃って顔を出す必要はないだろう?私は今、流行りの風邪を拗らせて屋敷で寝込んでいるんだ。しばらくは授業にも出られないから代わりに論文を二本か三本提出する事で話はついた。」
「論文を二本か三本?」
ロベールは目を見開いて絶句した。
「なかなか話の分かる学園長だったな。目の前で私が青い顔をして咳込んで見せたら直ぐに了承してくれた。」
「教科担当もな。心配するな、公爵家の名を存分に使わせてもらったから。」
「お前ら!だったら俺にも先に少しは話を──!」
マルセルはうるさそうに顔を顰めると片手を上げてロベールを黙らせた。
「一人くらいは学園にまともに通って様子を探る必要があるだろう?もしかしたらザールにとって必要となる人材が転がっているかもしれない。それにお前には人を見る目がある。」
「人脈を広げるのは公爵家にとってもお前にとっても必要な事だ。」
「貴族の学園など人脈を広げることが一番の目的と言ってもいい程だ。だからそちらの対応はロベールに任せた。」
ロベールは口をぱくぱくとさせながらなおも抗議の言葉を口にしようとしたが、言い返す言葉も無いことに気が付いたのかガックリと椅子に座り込んだ。
俯いたロベールの目の前に、マルセルは一通の封書を差し出しひらひらと揺らしてみせた。
「……何だよ、コレ?」
「新入生代表の挨拶文だ。考えておいた。一応目を通しておけ。」
「マルセル……お前……。」
ロベールはマルセルの手からひったくるように封筒を奪うと、慌てて懐にしまった。
「それで?学園に行かずに双子の王子様は一体何をしようと企んでる?」
ロベールは手近にあったカップに紅茶を注ぐと一息で飲み干しながら二人に尋ねた。
「例のアレだ。元騎士団のあの人物に接触してみる。」
「あぁ、あのタヌキ親父か。俺が一度行った時は散々だったからな。えらい目に遭った。」
ジャンは目を見張るとロベールに先を促した。
「なんだ、ジャンにはまだ言ってないのか?セバスチャンと言ったか?あの親父が騎士団の訓練所勤務をしていた頃に結構な額の横領事件があったんだよ。当時騎士団の財務を担当していたのがその男で、うちの父と派手な喧嘩をして、最終的には辞表を叩きつけるようにして辞めていったらしいんだ。」
「財務管理の能力と騎士養成では非の打ち所のない男だったらしいが、少々頭に血がのぼりやすいんだろうな。今は大人しく王都にある金物屋の店主をしているそうだが──。」
「そんな訳で喧嘩相手の息子がいくら頭を下げてもまともに話すら聞いてくれない。」
マルセルは神妙な顔をして話を聞いているジャンを横目に密かに微笑んだ。
「近いうちにジャンにその男と接触してもらおうと思う。」
「俺が?」
「ロベールより適任だと思う。私は是非その男をザールに連れて行きたい。騎士の育成には時間がかかりそうだからな。早ければ早いほどいいだろう。」
ジャンは戸惑いながらも了承の意を示した。
「金物屋の店主か……。」
「夫人が店を取り仕切っているそうだ。最近娘が男爵に見初められたとかで嫁いで出て行って、孫も近いうちに生まれるらしいから、話を持って行くにはいいタイミングなんだが。」
「流石だな、ロベール。それだけの情報、一体何処から入ってくるんだ?」
驚きの眼差しで見上げるジャンに向けて、ロベールは片目をつぶって見せた。
「それはまぁ、いろいろとね。」
「おいロベール、お前まさか人に言えないような所から情報を得ているんじゃないだろうな?」
ロベールはマルセルに向けて白い歯を見せてさわやかに笑いかけたものの肯定も否定もしなかった。
「何か学園で面白い動きがありそうなら報告する。じゃあ、ちょっとこの後人に会う約束があるから俺はこれで……。あ、これ ありがとな!」
ロベールは懐を叩きながらニッコリと笑うと二人に背を向け出て行った。
「相変わらず忙しないやつだな。」
「人に会ってくるって……。その金物屋の店主以外にも既に何人か接触しているのか?」
「ひょっとしたらそうなのかもしれないが分からない。私はそっち方面の人脈も知識もないから、ロベールに一任している。」
ジャンが戸惑ったようにロベールが出て行った扉を見つめていると、マルセルはその横で大きく欠伸をしながら首を捻った。
それは学園の新学期を数日後に控えたある日──。ロベールは最近では日常になってきていると思いながらもマルセルに抗議するために部屋へと向かった。勢いよく扉を開くと、そこには涼しい顔をして語り合う美しい双子の姿があった。これもまた王都に来てからの日常になりつつある。
「今度は何だと言うんだ?」
面倒くさそうにこちらを見上げてくるマルセルの気だるい様子にロベールは一瞬息を呑んだ。
「……何って。学園長に何か余計な事を吹き込んだだろう?俺に新入生代表の挨拶をしろと言ってきた。」
「なんだ、そんな事か。」
「ロベール、新入生の中で一番身分が高いのは公爵家二男のお前だろ?マルセルはその遠縁なんだから当然の話さ。」
「ジャン、さてはお前も一枚かんでるな?お前たち二人は学園に通う準備が間に合わないからしばらく欠席すると既に連絡を入れたそうじゃないか?」
ジャンはマルセルの方に目で合図をするとロベールの対応を丸投げした。
「実際大勢が集まる場所に私たちが揃って顔を出す必要はないだろう?私は今、流行りの風邪を拗らせて屋敷で寝込んでいるんだ。しばらくは授業にも出られないから代わりに論文を二本か三本提出する事で話はついた。」
「論文を二本か三本?」
ロベールは目を見開いて絶句した。
「なかなか話の分かる学園長だったな。目の前で私が青い顔をして咳込んで見せたら直ぐに了承してくれた。」
「教科担当もな。心配するな、公爵家の名を存分に使わせてもらったから。」
「お前ら!だったら俺にも先に少しは話を──!」
マルセルはうるさそうに顔を顰めると片手を上げてロベールを黙らせた。
「一人くらいは学園にまともに通って様子を探る必要があるだろう?もしかしたらザールにとって必要となる人材が転がっているかもしれない。それにお前には人を見る目がある。」
「人脈を広げるのは公爵家にとってもお前にとっても必要な事だ。」
「貴族の学園など人脈を広げることが一番の目的と言ってもいい程だ。だからそちらの対応はロベールに任せた。」
ロベールは口をぱくぱくとさせながらなおも抗議の言葉を口にしようとしたが、言い返す言葉も無いことに気が付いたのかガックリと椅子に座り込んだ。
俯いたロベールの目の前に、マルセルは一通の封書を差し出しひらひらと揺らしてみせた。
「……何だよ、コレ?」
「新入生代表の挨拶文だ。考えておいた。一応目を通しておけ。」
「マルセル……お前……。」
ロベールはマルセルの手からひったくるように封筒を奪うと、慌てて懐にしまった。
「それで?学園に行かずに双子の王子様は一体何をしようと企んでる?」
ロベールは手近にあったカップに紅茶を注ぐと一息で飲み干しながら二人に尋ねた。
「例のアレだ。元騎士団のあの人物に接触してみる。」
「あぁ、あのタヌキ親父か。俺が一度行った時は散々だったからな。えらい目に遭った。」
ジャンは目を見張るとロベールに先を促した。
「なんだ、ジャンにはまだ言ってないのか?セバスチャンと言ったか?あの親父が騎士団の訓練所勤務をしていた頃に結構な額の横領事件があったんだよ。当時騎士団の財務を担当していたのがその男で、うちの父と派手な喧嘩をして、最終的には辞表を叩きつけるようにして辞めていったらしいんだ。」
「財務管理の能力と騎士養成では非の打ち所のない男だったらしいが、少々頭に血がのぼりやすいんだろうな。今は大人しく王都にある金物屋の店主をしているそうだが──。」
「そんな訳で喧嘩相手の息子がいくら頭を下げてもまともに話すら聞いてくれない。」
マルセルは神妙な顔をして話を聞いているジャンを横目に密かに微笑んだ。
「近いうちにジャンにその男と接触してもらおうと思う。」
「俺が?」
「ロベールより適任だと思う。私は是非その男をザールに連れて行きたい。騎士の育成には時間がかかりそうだからな。早ければ早いほどいいだろう。」
ジャンは戸惑いながらも了承の意を示した。
「金物屋の店主か……。」
「夫人が店を取り仕切っているそうだ。最近娘が男爵に見初められたとかで嫁いで出て行って、孫も近いうちに生まれるらしいから、話を持って行くにはいいタイミングなんだが。」
「流石だな、ロベール。それだけの情報、一体何処から入ってくるんだ?」
驚きの眼差しで見上げるジャンに向けて、ロベールは片目をつぶって見せた。
「それはまぁ、いろいろとね。」
「おいロベール、お前まさか人に言えないような所から情報を得ているんじゃないだろうな?」
ロベールはマルセルに向けて白い歯を見せてさわやかに笑いかけたものの肯定も否定もしなかった。
「何か学園で面白い動きがありそうなら報告する。じゃあ、ちょっとこの後人に会う約束があるから俺はこれで……。あ、これ ありがとな!」
ロベールは懐を叩きながらニッコリと笑うと二人に背を向け出て行った。
「相変わらず忙しないやつだな。」
「人に会ってくるって……。その金物屋の店主以外にも既に何人か接触しているのか?」
「ひょっとしたらそうなのかもしれないが分からない。私はそっち方面の人脈も知識もないから、ロベールに一任している。」
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