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噂の婚約者
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──さて、どこから手をつけるかな。
マルセルは背後に控えたポールの気配を感じながら、机に向かっていた。
ザールを国として動かし始めるのは学園を卒業した後の予定だったが、ここに来てマルセルの考えは少しばかり揺らいでいた。
王都に来てから何かと慌ただしく過ごしてはいたが、当初の目的であった人材確保の方は難航しているからだ。
トロメリン王国には例え未練がなくとも、今現在存在すらしていない国のために生活全てを投げ出してまでついて行こうと言う者はそうそういるものではない。
──旗振り役が公爵家二男というあたりがひっかかる者もいるのかもしれないな。だとしても今更私の立場を利用する事は出来ない……。
マルセルは人差し指でトントンと机を叩きながら、何かいい方法はないかと考えを巡らせた。
「双子……。そうか、第一王子は既に死んだんだ。ザールに嫁ぐのはその双子の王女という設定だったか。だとしたら婚姻を早めるか……そうすればザールの独立も早まる。だが当然5年の期限はその分前倒しになるな。」
机を規則正しくトントンと叩いていた手を止めると、マルセルは傍に積んであるトロメリン語の辞書に目を向けた。
わざわざ引越しまでして王都に出てきたものの、結局のところマルセルは以前ザールにいた頃と変わりのない生活を送っていた。
王都に出てきた初日に使用人から命を狙われて以来、屋敷にこもりっぱなしで外出すらままならない。
「王都に居なければ出来ないことはロベールに全て任せて、私はザールで先に動き始めた方がいい……か?いや、ザールに戻ったとしても一人で簡単に動き回れる訳でもない、か。やはりもっと動かせる人が欲しいな。」
「マルセル様、少しよろしいでしょうか?」
それまで黙ったまま控えていたポールがマルセルに小さく呼びかけた。
「どうした?」
机に頬杖をついたまま目線だけポールのいる方にチラッと向けると、ポールは畏まって答えた。
「はい、ロベール様とのご結婚についてですが……。実際にご結婚されるのはまだ先の話ですが、人の口には戸をたてられないものです。学園や街中で広まる噂話をうまく利用するというのはどうでしょうか?」
「噂話を利用する?」
「はい。ロベール様は二男とはいえ公爵家の方です。その元へ王女様が降嫁されるのですから、婚約の話も普通ならばもっと広まっていてもおかしくなはいのではないでしょうか?」
「普通ならばそうだろうな。……だが王女の存在は一般には知られていない。今更女の格好をしてロベールと街を練り歩く気はないぞ?」
「女の格好……?いえ、何もそこまでなさらなくとも。」
ポールは目を丸くしてマルセルを見つめると言葉に詰まった。
「姿を見せることなく噂だけ広める……か?まぁ、ロベールには学園でせいぜい惚気てもらうとするか。」
「私も微力ながら噂話を広めるように努めましょう。」
「そうだな……。まぁそれは構わないが。顔を見せたこともない王女の存在を今更人々は認めると思うか?」
「一度も顔を見せたことがないとなると簡単ではないでしょう。ですが実際にザールではマルセル様とロベール様のお姿を目にした者もおります。ロベール様に至ってはミレーヌから屋敷まで何年も通っていらっしゃったのですから噂話の信憑性は高いと考えるのが普通ではないでしょうか。」
「……ザールでの噂をそのまま王都でも利用するのか。」
「はい、そのほとんどが事実ですし。」
「ロベールが通っていたザールの屋敷にいたのは病弱な第一王子。二人は道ならぬ恋に落ち、国の行く先を憂いた国王により王子は王位継承権をはく奪され、国から追放された…というのはどうだ?」
「ジャン、帰っていたのか。」
部屋の入り口に現れたかと思うといきなり話に入ってきたジャンを、マルセルは振り向いて出迎えた。
「国から追放された王子ではザールを領地としてもらい受ける訳にはいかないな。ましてや独立などあり得ない。」
「だがマルセルは顔を出して堂々と歩くことができる。」
「……それは魅力的だな。いや、ちょっと待て?そうなるとロベールとは本当に結婚しなければならないんじゃないか?」
「まぁ、そこはしばらくの辛抱だろうな、お互いに。」
「堂々と出歩くには国外追放の上しばらくの辛抱か。王女のフリをするとするとなると5年間…学園の2年間を含めると今から7年……25歳までの辛抱になるのか。先は長いな。」
「その7年間を女として隠れて過ごすか、ロベールの相手として堂々と歩くのか…どっちを採る?」
マルセルはジャンとポールの顔を交互に見ると、机に向き直ってしばらく考えにふけった。
「両方だ。いずれにせよ、この前の暗殺未遂事件の首謀者が分かっていないから私は表立って動くことができない。となると今すぐにできるのは王女のフリか……。私が男として堂々と表を歩くのは暗殺未遂の黒幕が分かってからでもいいだろう。それまでは学園に籍を置いて王都に留まる。」
「仰せのままに、王女様。失礼ですがお名前をお聞きしても?」
「名前?」
マルセルが頬杖をついたまま面白くなさそうに目線を動かすと、ジャンが笑いながら近寄ってきた。
「王族の公式な記録には載ってない王女だとしても、ロベールの婚約者にだって一応名前くらい必要なんじゃないか?」
「あぁ……まぁな。」
「マルセル様はマルセル様でよろしいのでは?女性の名前でも綴りは違いますがある名前です。」
ポールは机の上にあるペンを手に取ると紙にサラサラと2つの名前を並べて書いて見せた。
「双子で同じ名前というのはないだろう?王女がマルセルだと言うなら、死んだとうい第一王子の名は…。」
「ジャンだ──死んだ第一王子。それでいい。」
マルセルは顔を上げるとジャンの蒼い目をまじまじと見つめた。
「病弱な第一王子のジャンは死んだのか?それで王女のマルセルの周りには騎士ジャンがいる?なかなか複雑だな……。」
「お前がトロメリンから独立して国を造るとか面倒なことを言い出すからだろ?」
「確かに。想像していたよりもかなり……面倒なことになってきたな。」
マルセルは背後に控えたポールの気配を感じながら、机に向かっていた。
ザールを国として動かし始めるのは学園を卒業した後の予定だったが、ここに来てマルセルの考えは少しばかり揺らいでいた。
王都に来てから何かと慌ただしく過ごしてはいたが、当初の目的であった人材確保の方は難航しているからだ。
トロメリン王国には例え未練がなくとも、今現在存在すらしていない国のために生活全てを投げ出してまでついて行こうと言う者はそうそういるものではない。
──旗振り役が公爵家二男というあたりがひっかかる者もいるのかもしれないな。だとしても今更私の立場を利用する事は出来ない……。
マルセルは人差し指でトントンと机を叩きながら、何かいい方法はないかと考えを巡らせた。
「双子……。そうか、第一王子は既に死んだんだ。ザールに嫁ぐのはその双子の王女という設定だったか。だとしたら婚姻を早めるか……そうすればザールの独立も早まる。だが当然5年の期限はその分前倒しになるな。」
机を規則正しくトントンと叩いていた手を止めると、マルセルは傍に積んであるトロメリン語の辞書に目を向けた。
わざわざ引越しまでして王都に出てきたものの、結局のところマルセルは以前ザールにいた頃と変わりのない生活を送っていた。
王都に出てきた初日に使用人から命を狙われて以来、屋敷にこもりっぱなしで外出すらままならない。
「王都に居なければ出来ないことはロベールに全て任せて、私はザールで先に動き始めた方がいい……か?いや、ザールに戻ったとしても一人で簡単に動き回れる訳でもない、か。やはりもっと動かせる人が欲しいな。」
「マルセル様、少しよろしいでしょうか?」
それまで黙ったまま控えていたポールがマルセルに小さく呼びかけた。
「どうした?」
机に頬杖をついたまま目線だけポールのいる方にチラッと向けると、ポールは畏まって答えた。
「はい、ロベール様とのご結婚についてですが……。実際にご結婚されるのはまだ先の話ですが、人の口には戸をたてられないものです。学園や街中で広まる噂話をうまく利用するというのはどうでしょうか?」
「噂話を利用する?」
「はい。ロベール様は二男とはいえ公爵家の方です。その元へ王女様が降嫁されるのですから、婚約の話も普通ならばもっと広まっていてもおかしくなはいのではないでしょうか?」
「普通ならばそうだろうな。……だが王女の存在は一般には知られていない。今更女の格好をしてロベールと街を練り歩く気はないぞ?」
「女の格好……?いえ、何もそこまでなさらなくとも。」
ポールは目を丸くしてマルセルを見つめると言葉に詰まった。
「姿を見せることなく噂だけ広める……か?まぁ、ロベールには学園でせいぜい惚気てもらうとするか。」
「私も微力ながら噂話を広めるように努めましょう。」
「そうだな……。まぁそれは構わないが。顔を見せたこともない王女の存在を今更人々は認めると思うか?」
「一度も顔を見せたことがないとなると簡単ではないでしょう。ですが実際にザールではマルセル様とロベール様のお姿を目にした者もおります。ロベール様に至ってはミレーヌから屋敷まで何年も通っていらっしゃったのですから噂話の信憑性は高いと考えるのが普通ではないでしょうか。」
「……ザールでの噂をそのまま王都でも利用するのか。」
「はい、そのほとんどが事実ですし。」
「ロベールが通っていたザールの屋敷にいたのは病弱な第一王子。二人は道ならぬ恋に落ち、国の行く先を憂いた国王により王子は王位継承権をはく奪され、国から追放された…というのはどうだ?」
「ジャン、帰っていたのか。」
部屋の入り口に現れたかと思うといきなり話に入ってきたジャンを、マルセルは振り向いて出迎えた。
「国から追放された王子ではザールを領地としてもらい受ける訳にはいかないな。ましてや独立などあり得ない。」
「だがマルセルは顔を出して堂々と歩くことができる。」
「……それは魅力的だな。いや、ちょっと待て?そうなるとロベールとは本当に結婚しなければならないんじゃないか?」
「まぁ、そこはしばらくの辛抱だろうな、お互いに。」
「堂々と出歩くには国外追放の上しばらくの辛抱か。王女のフリをするとするとなると5年間…学園の2年間を含めると今から7年……25歳までの辛抱になるのか。先は長いな。」
「その7年間を女として隠れて過ごすか、ロベールの相手として堂々と歩くのか…どっちを採る?」
マルセルはジャンとポールの顔を交互に見ると、机に向き直ってしばらく考えにふけった。
「両方だ。いずれにせよ、この前の暗殺未遂事件の首謀者が分かっていないから私は表立って動くことができない。となると今すぐにできるのは王女のフリか……。私が男として堂々と表を歩くのは暗殺未遂の黒幕が分かってからでもいいだろう。それまでは学園に籍を置いて王都に留まる。」
「仰せのままに、王女様。失礼ですがお名前をお聞きしても?」
「名前?」
マルセルが頬杖をついたまま面白くなさそうに目線を動かすと、ジャンが笑いながら近寄ってきた。
「王族の公式な記録には載ってない王女だとしても、ロベールの婚約者にだって一応名前くらい必要なんじゃないか?」
「あぁ……まぁな。」
「マルセル様はマルセル様でよろしいのでは?女性の名前でも綴りは違いますがある名前です。」
ポールは机の上にあるペンを手に取ると紙にサラサラと2つの名前を並べて書いて見せた。
「双子で同じ名前というのはないだろう?王女がマルセルだと言うなら、死んだとうい第一王子の名は…。」
「ジャンだ──死んだ第一王子。それでいい。」
マルセルは顔を上げるとジャンの蒼い目をまじまじと見つめた。
「病弱な第一王子のジャンは死んだのか?それで王女のマルセルの周りには騎士ジャンがいる?なかなか複雑だな……。」
「お前がトロメリンから独立して国を造るとか面倒なことを言い出すからだろ?」
「確かに。想像していたよりもかなり……面倒なことになってきたな。」
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