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ロベールの贈り物
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「悪い、意外に手間取ってな。帰りが遅くなった。」
「ロベール、お前それは一体……。」
ロベールが手にして帰った箱を開けると、そこから取り出したのは明らかに女性用のドレスだった。淡いブルーの薄い布が照明の元で妖しく煌めきを放つのを目にすると、マルセルとジャンは同時に息を呑んだ。
「俺の婚約者に贈り物だと言って、特別に仕立ててもらったんだ。あの店のマダムは話が長くてな。」
「マダム……?」
ロベールはドレスをソファーの背にそっとかけると、ニヤッと笑みを浮かべた。
「ポールに言われたんだよ。次は王都でも屈指の貴族御用達の宝飾店に指輪を買いに行くことにしたんだ。もし良かったらこれ着てお前も一緒に来るか?」
「は?」
ロベールはぷっと吹き出すとジャンの方を見ながらウインクをした。
「マルセルは駄目か。ジャンはどうだ?」
「え?」
「このドレスはサイズが調整出来るようになってるからお前でも多分着れる。まぁジャンが着たらスカートの丈が短くはなりそうだが……。」
マルセルとジャンが顔を見合わせて戸惑っていると、後から入って来たポールがドレスに目を向けながらやんわりと笑った。
「ロベール様、いくらお二人でも流石にドレスに身を包んで街中を出歩かれては男だとバレてしまいますよ。」
「そうか?やってみないことには分からないだろう?マルセル、お前確かマリエ様の髪を持っていなかったか?アレを見本に密かにカツラを作らせようと思うんだが、貸してくれないか?」
マルセルは眉間に皺を寄せると冷やかにロベールを睨みつけた。
「お前、銀髪のカツラを作って一体何をしようとしてるんだ?」
ロベールはマルセルに睨まれようが怯むことも無く、ソファーに腰掛けると惚けたように答えた。
「どうするって、決まってるだろ?愛しの婚約者を連れてあちこち出歩くんだよ。それが手っ取り早く俺の婚約の噂を広めることにつながる。」
「……私はそんなドレスを着るつもりはないからな?」
「分かってるよ、からかっただけだろ?第一お前が本当についてくるなら銀髪のカツラなんか必要ないし。」
ロベールはマルセルの短く切った髪を残念そうに見つめながら小さく舌打ちをした。
「しまった、お前髪をばっさり切ったんだったな。それが残してあればカツラに使えたんじゃないか?」
「いつの話をしているんだ?髪を切ったのはもう随分前の話だ。」
「そうだったか?」
ロベールが確認するようにポールに視線を向けると、ポールはマルセルの方にふいっと視線を逸らした。
「マルセル様、ロベール様にマリエ様の髪をお持ちしますか?」
「あぁ、本当に必要だと言うのならば見せてやるといい。」
「もちろん必要だ、よろしく頼む。」
ポールがロベールに向かって目で合図を送ると、ロベールは鼻歌でも歌いだしそうな様子で部屋の外へ出て行った。
部屋に残されたマルセルとジャンはソファーに置かれたままのドレスに目を向けながら苦笑いを浮かべた。
「ロベールの好みはこんな感じだったのか?いいじゃないか、この淡い色ならマルセルにはピッタリだ。」
「淡いブルーなんだからどちらかと言えばジャン向けだろう?」
「俺は着ないからな?」
「私だって嫌だ。」
マルセルは真顔になるとジャンに向けて小声で囁いた。
「ロベールの奴、何処までが演技だと思う?」
「演技?」
「学園でも婚約者の惚気話ばかりして回っているらしい。妙に嬉々としているそうなんだが…。」
「演技じゃないんだろ?」
「……。」
ジャンは不安そうにドレスに目を向けたマルセルの肩を優しく叩くと、大丈夫と小さく声をかけた。
「それくらい許してやれよ。ロベールだって普段は絶対に出来ないような事ができて、今のこの状況を楽しんでるだけだろう。」
「婚約者の自慢話が……か?」
「自分の好きな相手がどんなに素晴らしいか。今までロベールは誰にも言えなかったんだろ?」
マルセルは物言いたげな眼差しでジャンを見つめるとおもむろに語り出した。
「ジャン、お前は母上にどのくらい会った事がある?」
「え?何だ、いきなり?」
マルセルはロベールが置いて行ったドレスの方に視線を送るとジャンにそれを示して見せた。
「あれは母上が好きだった色だ。よくあんな色のドレスを着ていた。」
「マリエ様が?」
「そうだ。ロベールもよく知っているはずだ。アイツは私に会いに来る度に母上とも会っていたんだから。」
マルセルはそう言うなりジャンに背を向けると窓の外の暗くなり始めた庭園に目を向けた。もう見飽きたこの窓辺の景色も、ロベールのくだらない話も何もかもがどうでも良く思えてくる。
そっと窓に手の平をつけるとひんやりとした感触がそこから全身を伝って来るように感じた。
「ロベールは私に母上の面影を見ているのではないかと時々思うことがある……。」
ジャンは黙ったままじっとマルセルの横顔を見つめていた。
「ポールもその事に薄々気付いているんじゃないかな。長い付き合いのはずなのにあの二人の間にはまだ妙な距離があるように思えるんだ。」
「それは……まぁ確かに。」
「ロベールが私に誰の面影を重ねて見ていようが、私は構わないんだ。ただ、学園から卒業してから5年間もロベールは偽装結婚を続けなくてはいけない。その頃には私達は25歳だ。」
「子供が数人いてもおかしくはない年齢だな。」
「そうだ。私の為にロベールは無為な時間を過ごそうとしている……。」
「おい、婚約話を外で広めるよう言ったのはマルセルだったよな?」
背後から聞こえた不機嫌そうな声にマルセルがハッと顔を上げると、ポールに伴われていつの間に部屋に戻って来たのか、ロベールが苛立った様子で腕組みをしたままマルセルを睨みつけていた。
「ロベール、お前それは一体……。」
ロベールが手にして帰った箱を開けると、そこから取り出したのは明らかに女性用のドレスだった。淡いブルーの薄い布が照明の元で妖しく煌めきを放つのを目にすると、マルセルとジャンは同時に息を呑んだ。
「俺の婚約者に贈り物だと言って、特別に仕立ててもらったんだ。あの店のマダムは話が長くてな。」
「マダム……?」
ロベールはドレスをソファーの背にそっとかけると、ニヤッと笑みを浮かべた。
「ポールに言われたんだよ。次は王都でも屈指の貴族御用達の宝飾店に指輪を買いに行くことにしたんだ。もし良かったらこれ着てお前も一緒に来るか?」
「は?」
ロベールはぷっと吹き出すとジャンの方を見ながらウインクをした。
「マルセルは駄目か。ジャンはどうだ?」
「え?」
「このドレスはサイズが調整出来るようになってるからお前でも多分着れる。まぁジャンが着たらスカートの丈が短くはなりそうだが……。」
マルセルとジャンが顔を見合わせて戸惑っていると、後から入って来たポールがドレスに目を向けながらやんわりと笑った。
「ロベール様、いくらお二人でも流石にドレスに身を包んで街中を出歩かれては男だとバレてしまいますよ。」
「そうか?やってみないことには分からないだろう?マルセル、お前確かマリエ様の髪を持っていなかったか?アレを見本に密かにカツラを作らせようと思うんだが、貸してくれないか?」
マルセルは眉間に皺を寄せると冷やかにロベールを睨みつけた。
「お前、銀髪のカツラを作って一体何をしようとしてるんだ?」
ロベールはマルセルに睨まれようが怯むことも無く、ソファーに腰掛けると惚けたように答えた。
「どうするって、決まってるだろ?愛しの婚約者を連れてあちこち出歩くんだよ。それが手っ取り早く俺の婚約の噂を広めることにつながる。」
「……私はそんなドレスを着るつもりはないからな?」
「分かってるよ、からかっただけだろ?第一お前が本当についてくるなら銀髪のカツラなんか必要ないし。」
ロベールはマルセルの短く切った髪を残念そうに見つめながら小さく舌打ちをした。
「しまった、お前髪をばっさり切ったんだったな。それが残してあればカツラに使えたんじゃないか?」
「いつの話をしているんだ?髪を切ったのはもう随分前の話だ。」
「そうだったか?」
ロベールが確認するようにポールに視線を向けると、ポールはマルセルの方にふいっと視線を逸らした。
「マルセル様、ロベール様にマリエ様の髪をお持ちしますか?」
「あぁ、本当に必要だと言うのならば見せてやるといい。」
「もちろん必要だ、よろしく頼む。」
ポールがロベールに向かって目で合図を送ると、ロベールは鼻歌でも歌いだしそうな様子で部屋の外へ出て行った。
部屋に残されたマルセルとジャンはソファーに置かれたままのドレスに目を向けながら苦笑いを浮かべた。
「ロベールの好みはこんな感じだったのか?いいじゃないか、この淡い色ならマルセルにはピッタリだ。」
「淡いブルーなんだからどちらかと言えばジャン向けだろう?」
「俺は着ないからな?」
「私だって嫌だ。」
マルセルは真顔になるとジャンに向けて小声で囁いた。
「ロベールの奴、何処までが演技だと思う?」
「演技?」
「学園でも婚約者の惚気話ばかりして回っているらしい。妙に嬉々としているそうなんだが…。」
「演技じゃないんだろ?」
「……。」
ジャンは不安そうにドレスに目を向けたマルセルの肩を優しく叩くと、大丈夫と小さく声をかけた。
「それくらい許してやれよ。ロベールだって普段は絶対に出来ないような事ができて、今のこの状況を楽しんでるだけだろう。」
「婚約者の自慢話が……か?」
「自分の好きな相手がどんなに素晴らしいか。今までロベールは誰にも言えなかったんだろ?」
マルセルは物言いたげな眼差しでジャンを見つめるとおもむろに語り出した。
「ジャン、お前は母上にどのくらい会った事がある?」
「え?何だ、いきなり?」
マルセルはロベールが置いて行ったドレスの方に視線を送るとジャンにそれを示して見せた。
「あれは母上が好きだった色だ。よくあんな色のドレスを着ていた。」
「マリエ様が?」
「そうだ。ロベールもよく知っているはずだ。アイツは私に会いに来る度に母上とも会っていたんだから。」
マルセルはそう言うなりジャンに背を向けると窓の外の暗くなり始めた庭園に目を向けた。もう見飽きたこの窓辺の景色も、ロベールのくだらない話も何もかもがどうでも良く思えてくる。
そっと窓に手の平をつけるとひんやりとした感触がそこから全身を伝って来るように感じた。
「ロベールは私に母上の面影を見ているのではないかと時々思うことがある……。」
ジャンは黙ったままじっとマルセルの横顔を見つめていた。
「ポールもその事に薄々気付いているんじゃないかな。長い付き合いのはずなのにあの二人の間にはまだ妙な距離があるように思えるんだ。」
「それは……まぁ確かに。」
「ロベールが私に誰の面影を重ねて見ていようが、私は構わないんだ。ただ、学園から卒業してから5年間もロベールは偽装結婚を続けなくてはいけない。その頃には私達は25歳だ。」
「子供が数人いてもおかしくはない年齢だな。」
「そうだ。私の為にロベールは無為な時間を過ごそうとしている……。」
「おい、婚約話を外で広めるよう言ったのはマルセルだったよな?」
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