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第六感
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「王妃様の最終的な狙いとは一体何なんだろうな…。自らの子を国王に据え、愛人をその支配下に置くことか?」
「……だとしたらマルセルこそ真っ先に命を狙われてもおかしくないんじゃないか?その後で陛下か?」
ロベールはジャンの意見に頷いた。
「そうだな。だがまだ王太子は幼いからな……。」
マルセルは公爵がさりげなく時計を確かめたのが目に入ると、ソファーから立ち上がり服を整え始めた。
「ロベール、無駄話はそのくらいでもういいだろう。帰るとしようか。」
「帰る?」
マルセルの言葉に公爵はハッと顔を上げると慌てて立ち上がった。
「お待ち下さい、殿下!この後私は陛下と話し合うことになっております。是非──」
「知っている。だから帰るんだ。」
マルセルはポールとジャンに目配せをすると引き止める公爵の言葉を気にすることも無く部屋のドアに手を掛けた。
「公爵、私は父上に会いに行くつもりは無い。それから……王太子の代わりにトロメリンの国王になる気もない。民の為を思うのならば早まった真似はしないように。」
「っ!」
公爵は唇を噛みしめながらマルセルを見つめると、握りこぶしにギュッと力を込めた。
「殿下、何故そんな事を?」
ロベールは不安そうにマルセルに目を向けると自らも立ち上がり隣りへ歩み寄った。
「言っておくが私は公爵の話の全てを鵜呑みにするほど愚かではない。」
「なっ!私は事実を述べた迄です。」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。まぁそれは今ここで判断をする必要もないが。」
マルセルはゆっくりとドアを開けると廊下側に立っている警備の騎士に向けてニッコリと微笑んだ。
「そういえば、ロベールの兄上の姿が見えないな?一言挨拶をしたかったんだが──またにするか。」
「……」
三人を従える様に優雅に歩き出したマルセルの背中を見送ると、公爵はソファーの背をきつく掴みながら窓の外に目を向けた。
「どうして……。ザールの独立に奔走されるくらいならばトロメリンの建て直しをなさればいいものを……。」
重苦しい雰囲気を振り払うように声を上げたのはやはりロベールだった。
「なぁ、マルセル?本当に陛下に会わなくて良かったのか?お前もうどのくらい会ってない?」
マルセルは馬車の揺れに身を任せてどっかりと座り込んだまま答えた。
「さぁな、記憶にないが。」
「王太子の儀にも行かなかったし、婚約やザール移譲の話の時も俺が交渉役だったもんな。」
「そうだったのか?そんな事でよく交渉が成立したな?」
「だろ?交渉に立ち会った俺だって信じられないくらいだったんだから。」
ジャンは知らんぷりを決め込んでいるマルセルを肘で軽く突くと苦笑した。
「そうしているとまるで拗ねた子供のようだな。もしかして陛下の事を怒っているのか?」
「当然だろ?父親としてというよりは一人の人間として、尊敬できる部分が欠片もない男だ。」
「随分な言い方だな。」
マルセルは閉じていた眼を薄く開けると眩しそうにジャンを見上げた。
「そういえばジャンは?会った事があったか?」
「陛下に?俺は……多分ない、かな。」
ジャンは確認するようにポールに目を向けた。
「公爵様は……ジャンの事をご存じないようでしたね。」
「やはりポールもそう感じたか?私もそうではないかと思っていた。双子であることを知らないんだな。」
「となると王妃様も知らない可能性が高いか…。陛下は流石に知ってるんだろ?」
「どうだろう、分からない。確認する機会もないしな。」
「そうだな。それにしても意外だったな。俺はてっきりマルセルは陛下と公爵様との話し合いに立ち会うのだとばかり思っていた。」
「俺もそう思ってた。」
マルセルはまだ状況を掴めていない様子のジャンとロベールに諦め顔で説明をした。
「王宮へ行けば面倒なことになるのは明らかだ。父上はいい機会だとばかりに王妃を断罪して私に王太子の座を勧めるに違いない。だから逃げたんだ。」
「おいおいおい、何でそこで逃げるっていう選択肢を選ぶんだ?」
「確かに。ザールの独立を画策するくらいならいっその事国全部をもらえばいいのに。」
マルセルは顔を顰めると嫌そうに手を振った。
「面倒な人間関係を全て排除してくれるというのならばいいだろう。だがそれではこの国は機能不全に陥る。新しく一から作るのとは比にならない程の労力がかかるのは目に見えているからな。」
ロベールとジャンは目を丸くしながら顔を見合わせると苦笑した。
「駄目だ、マルセルの面倒くさがりと人間不信もここまで来るとかなりの重症だな。」
「そういう事だ。それに私に子を期待されても困るしな。」
「……まさかそれでザールでは世襲を廃止すると決めたのか?」
「なんだ、今頃気が付いたのか?当然の事だ。私には当分まともな結婚も子どもも期待できないからな。そうだ、ジャンが代わりにトロメリンを継ぐというのはどうだ?ついでに子どもも。」
「そんな風に簡単に譲れるものじゃないだろう?国を治めるというのは大変な事なんだから……やった事ないから分からないけど、多分。それに俺だって結婚相手がまだ……。」
マルセルはジャンの声がだんだん小さくなっていくのを笑いをこらえながら見つめていたが、馬車の速度が落ちたのを確認するとすぐに表情を引き締めた。
「ジャン、私だって今からやろうとしている事全てが未知の事だ。だからお前たちが傍にいてくれることを心強く思っている。」
「改まってそう言われるとなんだか照れくさいな…。」
マルセルは神妙な面持ちの3人を見渡すと時計に目を向けながら静かに微笑んだ。
「そういえば、もういい時間だな。どうだ?このまま商店街へ向かって昼食をとらないか?」
「……お前、マルセル!ちょっと感動しそうになってたのに何だよいきなり。」
「駄目だ、寄り道せずにこのまま戻るぞ?」
それまで黙って会話を聞いていたポールはじゃれあう3人から窓の外へ視線を移すと、口の端に微かに笑みを浮かべた。
「……だとしたらマルセルこそ真っ先に命を狙われてもおかしくないんじゃないか?その後で陛下か?」
ロベールはジャンの意見に頷いた。
「そうだな。だがまだ王太子は幼いからな……。」
マルセルは公爵がさりげなく時計を確かめたのが目に入ると、ソファーから立ち上がり服を整え始めた。
「ロベール、無駄話はそのくらいでもういいだろう。帰るとしようか。」
「帰る?」
マルセルの言葉に公爵はハッと顔を上げると慌てて立ち上がった。
「お待ち下さい、殿下!この後私は陛下と話し合うことになっております。是非──」
「知っている。だから帰るんだ。」
マルセルはポールとジャンに目配せをすると引き止める公爵の言葉を気にすることも無く部屋のドアに手を掛けた。
「公爵、私は父上に会いに行くつもりは無い。それから……王太子の代わりにトロメリンの国王になる気もない。民の為を思うのならば早まった真似はしないように。」
「っ!」
公爵は唇を噛みしめながらマルセルを見つめると、握りこぶしにギュッと力を込めた。
「殿下、何故そんな事を?」
ロベールは不安そうにマルセルに目を向けると自らも立ち上がり隣りへ歩み寄った。
「言っておくが私は公爵の話の全てを鵜呑みにするほど愚かではない。」
「なっ!私は事実を述べた迄です。」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。まぁそれは今ここで判断をする必要もないが。」
マルセルはゆっくりとドアを開けると廊下側に立っている警備の騎士に向けてニッコリと微笑んだ。
「そういえば、ロベールの兄上の姿が見えないな?一言挨拶をしたかったんだが──またにするか。」
「……」
三人を従える様に優雅に歩き出したマルセルの背中を見送ると、公爵はソファーの背をきつく掴みながら窓の外に目を向けた。
「どうして……。ザールの独立に奔走されるくらいならばトロメリンの建て直しをなさればいいものを……。」
重苦しい雰囲気を振り払うように声を上げたのはやはりロベールだった。
「なぁ、マルセル?本当に陛下に会わなくて良かったのか?お前もうどのくらい会ってない?」
マルセルは馬車の揺れに身を任せてどっかりと座り込んだまま答えた。
「さぁな、記憶にないが。」
「王太子の儀にも行かなかったし、婚約やザール移譲の話の時も俺が交渉役だったもんな。」
「そうだったのか?そんな事でよく交渉が成立したな?」
「だろ?交渉に立ち会った俺だって信じられないくらいだったんだから。」
ジャンは知らんぷりを決め込んでいるマルセルを肘で軽く突くと苦笑した。
「そうしているとまるで拗ねた子供のようだな。もしかして陛下の事を怒っているのか?」
「当然だろ?父親としてというよりは一人の人間として、尊敬できる部分が欠片もない男だ。」
「随分な言い方だな。」
マルセルは閉じていた眼を薄く開けると眩しそうにジャンを見上げた。
「そういえばジャンは?会った事があったか?」
「陛下に?俺は……多分ない、かな。」
ジャンは確認するようにポールに目を向けた。
「公爵様は……ジャンの事をご存じないようでしたね。」
「やはりポールもそう感じたか?私もそうではないかと思っていた。双子であることを知らないんだな。」
「となると王妃様も知らない可能性が高いか…。陛下は流石に知ってるんだろ?」
「どうだろう、分からない。確認する機会もないしな。」
「そうだな。それにしても意外だったな。俺はてっきりマルセルは陛下と公爵様との話し合いに立ち会うのだとばかり思っていた。」
「俺もそう思ってた。」
マルセルはまだ状況を掴めていない様子のジャンとロベールに諦め顔で説明をした。
「王宮へ行けば面倒なことになるのは明らかだ。父上はいい機会だとばかりに王妃を断罪して私に王太子の座を勧めるに違いない。だから逃げたんだ。」
「おいおいおい、何でそこで逃げるっていう選択肢を選ぶんだ?」
「確かに。ザールの独立を画策するくらいならいっその事国全部をもらえばいいのに。」
マルセルは顔を顰めると嫌そうに手を振った。
「面倒な人間関係を全て排除してくれるというのならばいいだろう。だがそれではこの国は機能不全に陥る。新しく一から作るのとは比にならない程の労力がかかるのは目に見えているからな。」
ロベールとジャンは目を丸くしながら顔を見合わせると苦笑した。
「駄目だ、マルセルの面倒くさがりと人間不信もここまで来るとかなりの重症だな。」
「そういう事だ。それに私に子を期待されても困るしな。」
「……まさかそれでザールでは世襲を廃止すると決めたのか?」
「なんだ、今頃気が付いたのか?当然の事だ。私には当分まともな結婚も子どもも期待できないからな。そうだ、ジャンが代わりにトロメリンを継ぐというのはどうだ?ついでに子どもも。」
「そんな風に簡単に譲れるものじゃないだろう?国を治めるというのは大変な事なんだから……やった事ないから分からないけど、多分。それに俺だって結婚相手がまだ……。」
マルセルはジャンの声がだんだん小さくなっていくのを笑いをこらえながら見つめていたが、馬車の速度が落ちたのを確認するとすぐに表情を引き締めた。
「ジャン、私だって今からやろうとしている事全てが未知の事だ。だからお前たちが傍にいてくれることを心強く思っている。」
「改まってそう言われるとなんだか照れくさいな…。」
マルセルは神妙な面持ちの3人を見渡すと時計に目を向けながら静かに微笑んだ。
「そういえば、もういい時間だな。どうだ?このまま商店街へ向かって昼食をとらないか?」
「……お前、マルセル!ちょっと感動しそうになってたのに何だよいきなり。」
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