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朝陽
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マルセルは湖面を見つめながら小さく欠伸をした。隣では馬から降りたジャンとロベールがこちらもまだ眠そうな顔をして伸びをしながら首を捻っている。湖は先ほど昇ったばかりの朝陽を受けて黄金色に輝いているが、ジャンとロベールはそんな事には一切興味がないようだった。
マルセルは自分も馬からヒラリと飛び降りると二人に近寄った。
「どうして今日はこんなに早い時間から湖なんだ?」
「マルセルが昨日とは違うところを見たいと言ったからじゃないか?湖に映る朝陽というのも神秘的でいいだろ?」
ジャンが不満でもあるのかと言いたげな顔をしながら答えると、ロベールも欠伸を噛み殺しながら同意した。
「神秘的だが男4人で来るにはどうかな?まぁ見通しがいいから王都の人込みよりは身の危険はなさそうだけど……。」
「確かに人目を気にせずゆっくりとはできそうだ。」
マルセルは足元に転がっていた小さな石を蹴りながら呟いた。
「昨日はいろいろと考えすぎて眠れなかった。」
「へぇ、マルセルでもそんな日があるんだな?俺はいつも通りぐっすり寝た。」
「……」
マルセルはジャンの答えがない事は気にしないことにして、ロベールに向かって話を続けた。
「それで、考えたんだが。王都には1年もいればそれで十分な気がする。私は1年で学園を辞めてザールに戻ろうと思う。」
「……1年か。なるほどね。まぁ確かにマルセルなら論文を2,3本仕上げて学園長に願い出れば1年もかからずに卒業できるかもしれないな。」
「私は卒業できなくても構わない。だがロベール、お前はどうする?」
ロベールは眩しそうに眼を細めて湖面を見つめたまま、静かに答えた。
「俺に聞くなよ。教えてくれ。俺はどうすればいい?」
マルセルは少し迷った後で近くにある大きな石に座ることにした。ひんやりとした温度と固い感触に腰掛けたことを一瞬後悔したが、その時にはもう手遅れだった。石に急激に体温を奪われながら気もそぞろでマルセルはロベールに答えた。
「……私と結婚して欲しい。学園の卒業まで2年も待てそうにない。」
唐突にマルセルが口にした言葉を受け、ロベールとジャンがぎょっとした顔で振り向いた。
「お前なぁ……言い方!それはまずいだろ?」
「……ロベール、無駄に照れるな。」
「ザールは遅くとも1年後には独立させたい。今後父上や公爵が何を言い出すか分からないから本当はもっと急がないといけない所だが。なんとか先手を打ちたいと思っている。」
ジャンは微妙な顔をすると首を傾げた。
「向こうが1年待ってくれるといいが……俺の予想ではそれよりも早く事態は動き出すな。多分王妃はこのまま廃されるだろう。そうなるときっと王太子も…。」
「いや、でも考えてみろよ?マルセル王子は死んだことになってるんだから、もう後はアイツしか残ってないんだぜ?母親が罪を犯したからといって王太子まで廃したら次の王はどうなる?」
「王位継承権は次の者に移る。父には年の離れた弟がいるだろう?」
「ソンテーヌ公爵か。ないな、有り得ない。いい噂は聞かないぞ?」
「いずれにせよ私には関係ない。」
ロベールは頭をごしごしとかくとあ~と大きく唸った。
「1年後にゲームが始まるのか。いいだろう。じゃあ俺もその時には学園を辞めてザールへついて行く。それまでに王都で人材を確保すればいいんだな?」
「あぁ、急ごう。学園の方はどうなんだ?使えそうな者は一人くらいいないのか?」
「今のところはゼロだ。どいつもこいつもまさに貴族様の香りがプンプンして鼻持ちならない。」
「ロベール、お前好みのご令嬢はどうだ?いないのか?」
「お前らに勝てる者はいなさそうかな。それより、今 思い出した。生徒じゃなくて、あれなんだけど。例のマルセルに頼まれた論文を探すときに行った資料室?あそこで手伝ってもらった担当者が気になってるんだよな。」
「ほう……」
「気になると言ってもそういう意味じゃないからな?あれはできるヤツだと思うんだ。」
マルセルはジャンと顔を見合わせると大きく頷いた。
「論文を返しに行くついでに会ってみよう。一度ぐらい学園へ顔を出すのもいいだろう。」
「あぁ、それがいい。」
いつどこから現れたのか、湖面には鳥の群れが賑やかな声を上げながら今まさに飛び立とうとしていた。
朝陽を受けて羽ばたく鳥を見上げているうちに、ポールが馬の手綱を引きながら戻って来た。
「そろそろ戻る時間だったか?」
「いえ、今朝はまだ早いですからもう少し大丈夫です。」
「今日はこの後マルセルも一緒に学園に行くか?」
「そうだなぁ……。」
マルセルはジャンに何か確認するような視線を向けると、首を横に振った。
「明日にしよう。今日はジャンと一緒に街へ出てみようと思う。」
「おい、お前たち二人で揃って行くのか?それだけは辞めておけ!」
「大丈夫だ、ポールも連れて行く。」
「大丈夫って……。じゃあせめて馬車で行けよ?」
「馬車で通り過ぎるだけか?それでは面白くないな。」
ロベールはむっとした表情を浮かべると石の上に座り込んでいるマルセルの目の前で屈み込んだ。
「婚約者そっちのけで二人だけで街歩きを楽しもうってのはズルくないか?」
「じゃあロベールも今日は休んで一緒に行くか?」
「……いいのか?」
「私は構わない。例の金物屋の主人に会いに行くんだが、それでもいいのなら。」
「か、金物屋……?」
ロベールは頭を抱えると情けない顔になってジャンを見上げた。
「俺が行くとまたややこしい事になりそうだな?……分かったよ、今日は辞めとく。お前たちでせいぜい楽しんで来いよ。」
「お前一体あの店主との間に何があったんだ?」
「言うか!」
ロベールはジャンの怪しむような視線から逃れるように馬に向き直ると、黙ったままその首筋を優しく撫でた。
マルセルは自分も馬からヒラリと飛び降りると二人に近寄った。
「どうして今日はこんなに早い時間から湖なんだ?」
「マルセルが昨日とは違うところを見たいと言ったからじゃないか?湖に映る朝陽というのも神秘的でいいだろ?」
ジャンが不満でもあるのかと言いたげな顔をしながら答えると、ロベールも欠伸を噛み殺しながら同意した。
「神秘的だが男4人で来るにはどうかな?まぁ見通しがいいから王都の人込みよりは身の危険はなさそうだけど……。」
「確かに人目を気にせずゆっくりとはできそうだ。」
マルセルは足元に転がっていた小さな石を蹴りながら呟いた。
「昨日はいろいろと考えすぎて眠れなかった。」
「へぇ、マルセルでもそんな日があるんだな?俺はいつも通りぐっすり寝た。」
「……」
マルセルはジャンの答えがない事は気にしないことにして、ロベールに向かって話を続けた。
「それで、考えたんだが。王都には1年もいればそれで十分な気がする。私は1年で学園を辞めてザールに戻ろうと思う。」
「……1年か。なるほどね。まぁ確かにマルセルなら論文を2,3本仕上げて学園長に願い出れば1年もかからずに卒業できるかもしれないな。」
「私は卒業できなくても構わない。だがロベール、お前はどうする?」
ロベールは眩しそうに眼を細めて湖面を見つめたまま、静かに答えた。
「俺に聞くなよ。教えてくれ。俺はどうすればいい?」
マルセルは少し迷った後で近くにある大きな石に座ることにした。ひんやりとした温度と固い感触に腰掛けたことを一瞬後悔したが、その時にはもう手遅れだった。石に急激に体温を奪われながら気もそぞろでマルセルはロベールに答えた。
「……私と結婚して欲しい。学園の卒業まで2年も待てそうにない。」
唐突にマルセルが口にした言葉を受け、ロベールとジャンがぎょっとした顔で振り向いた。
「お前なぁ……言い方!それはまずいだろ?」
「……ロベール、無駄に照れるな。」
「ザールは遅くとも1年後には独立させたい。今後父上や公爵が何を言い出すか分からないから本当はもっと急がないといけない所だが。なんとか先手を打ちたいと思っている。」
ジャンは微妙な顔をすると首を傾げた。
「向こうが1年待ってくれるといいが……俺の予想ではそれよりも早く事態は動き出すな。多分王妃はこのまま廃されるだろう。そうなるときっと王太子も…。」
「いや、でも考えてみろよ?マルセル王子は死んだことになってるんだから、もう後はアイツしか残ってないんだぜ?母親が罪を犯したからといって王太子まで廃したら次の王はどうなる?」
「王位継承権は次の者に移る。父には年の離れた弟がいるだろう?」
「ソンテーヌ公爵か。ないな、有り得ない。いい噂は聞かないぞ?」
「いずれにせよ私には関係ない。」
ロベールは頭をごしごしとかくとあ~と大きく唸った。
「1年後にゲームが始まるのか。いいだろう。じゃあ俺もその時には学園を辞めてザールへついて行く。それまでに王都で人材を確保すればいいんだな?」
「あぁ、急ごう。学園の方はどうなんだ?使えそうな者は一人くらいいないのか?」
「今のところはゼロだ。どいつもこいつもまさに貴族様の香りがプンプンして鼻持ちならない。」
「ロベール、お前好みのご令嬢はどうだ?いないのか?」
「お前らに勝てる者はいなさそうかな。それより、今 思い出した。生徒じゃなくて、あれなんだけど。例のマルセルに頼まれた論文を探すときに行った資料室?あそこで手伝ってもらった担当者が気になってるんだよな。」
「ほう……」
「気になると言ってもそういう意味じゃないからな?あれはできるヤツだと思うんだ。」
マルセルはジャンと顔を見合わせると大きく頷いた。
「論文を返しに行くついでに会ってみよう。一度ぐらい学園へ顔を出すのもいいだろう。」
「あぁ、それがいい。」
いつどこから現れたのか、湖面には鳥の群れが賑やかな声を上げながら今まさに飛び立とうとしていた。
朝陽を受けて羽ばたく鳥を見上げているうちに、ポールが馬の手綱を引きながら戻って来た。
「そろそろ戻る時間だったか?」
「いえ、今朝はまだ早いですからもう少し大丈夫です。」
「今日はこの後マルセルも一緒に学園に行くか?」
「そうだなぁ……。」
マルセルはジャンに何か確認するような視線を向けると、首を横に振った。
「明日にしよう。今日はジャンと一緒に街へ出てみようと思う。」
「おい、お前たち二人で揃って行くのか?それだけは辞めておけ!」
「大丈夫だ、ポールも連れて行く。」
「大丈夫って……。じゃあせめて馬車で行けよ?」
「馬車で通り過ぎるだけか?それでは面白くないな。」
ロベールはむっとした表情を浮かべると石の上に座り込んでいるマルセルの目の前で屈み込んだ。
「婚約者そっちのけで二人だけで街歩きを楽しもうってのはズルくないか?」
「じゃあロベールも今日は休んで一緒に行くか?」
「……いいのか?」
「私は構わない。例の金物屋の主人に会いに行くんだが、それでもいいのなら。」
「か、金物屋……?」
ロベールは頭を抱えると情けない顔になってジャンを見上げた。
「俺が行くとまたややこしい事になりそうだな?……分かったよ、今日は辞めとく。お前たちでせいぜい楽しんで来いよ。」
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