ある日王子は国を出ることにした

ゆみ

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家庭教師

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 ロベールは目の前に積み上げられていく資料の山に目を白黒させながらジャンの顔色を伺った。

「おい、これ本当に俺たちも聞かなきゃ不味いのかな?」
「……この手の話はマルセルだけでいいと思うんだが。」
「リュカが私と一対一は緊張すると言うんだからしょうがない。お前たちはそこに座っていればそれで構わない。」
「そうは言われても……なぁ?」
「あぁ。」

 頭数を揃えるためだけに呼び出された事をようやく理解した二人は、嬉々として何やら準備をしている本日の講師を不安な面持ちで眺めた。

「なぁ、ジャン?リュカの専門分野は何って言ってたか覚えてるか?」
「さぁ?大陸系統学だったか?」
「あ、それも有りますが。私は他にも神聖学を修めております。」
「大陸系統学?神聖学?なんだそりゃ?」
「まぁそうですね、簡単に説明しますと──。」
「リュカ気にしなくていい、時間の無駄だ。ロベール、いいから黙って座っていてくれないか。」

 マルセルは隣に座るロベールを肘で軽く小突くと、リュカに向かって首を横に振った。

「どうせ簡単に説明しようがロベールの頭には理解できない……と思う。」

 マルセルはロベールに肘で脇腹を突き返されると苦笑いを浮かべた。

「そうですか?まぁマルセル様がそうおっしゃるのならば。」

 リュカは手に持った資料をトントンと揃えるとマルセルの正面から椅子をずらし、斜め前の場所に腰を下ろした。

「リュカ、今どうして俺の目の前に移動した?」
「あ、いえ。すみません。何となくまだマルセル様に正面から見つめられるのに慣れなくてですね…。特に深い意味はなかったのですが……。」
「ほ~。それでジャンの前でなく俺の前に?」
「いえ、その…すみません。ロベール様がそんなに気になるようでしたら──」
「馬鹿、ちょっとからかっただけだよ。もういいからとっとと始めようぜ?」
「……からかっただけ?本当に?」

 リュカはソワソワと落ち着かなさそうに椅子に座り直すと、改めて三人に向かって深くお辞儀をした。

「すみません、では始めさせて頂きます。」
「あぁ、頼む。」


* * * * *


「ロベール?おい、起きろ!」
「へ?何?」
「もうリュカは帰ったぞ?何時までそうして寝ているつもりだ?」
「あ!終わったの?良かった~!」
「良かったって、半分以上そうして寝ていただろう?しかもリュカの真正面で。」
「そんなに寝てたか?」

 マルセルはジャンと二人がかりでロベールを叩き起すと、リュカが去った後の応接室でロベールと向き合うように座った。

「なぁ、ロベール?お前どの辺まで聞いていた?」
「……どの辺と言われても。王族や聖女の話とか国ごとの民族の特徴の所はちゃんと聞いてたさ。でもその後の神殿の昔話位から記憶が曖昧だな……。」
「……そうか。」
「まぁしょうがない。そこからはある程度知識のある俺でも雲を掴むような話だったからな。」
「そうなのか?じゃ、まぁいいか。それよりもマルセル、俺たちにわざわざリュカの話を聞かせたのには何か訳があったんだろう?そろそろハッキリさせようぜ?」

 目が覚めてきたロベールは正面に座るマルセルを軽く睨むと、部屋の出入り口付近に目を向け、他に誰もいないことを確認をした。
 マルセルは少しだけ驚いたような素振りを見せると、顎に手を当てて頷いた。

「流石ロベール。私が話したい事があるとよく気が付いたな?」
「リュカの話が始まって直ぐにわかったさ。」

 ジャンは首を傾げるとマルセルが次に何を切り出すのか興味津々といった様子で聞きに入った。
 マルセルは横目でジャンをチラッと見ると、珍しく言い辛そうに言葉を濁し、宙を睨んだ。

「しばらく……国を出ようと思う。」
「は?」
「え?国を?」

 ロベールとジャンは顔を見合わせると再びマルセルに視線を戻した。

「……ザールに戻ると言うことか?」
「いや、違う。」
「じゃあ、何処に?国を出るって何だよ?俺たちはまだ王都に出てきたばかりじゃないか?」

 マルセルはロベールに視線を定めると、小さな声で俯きがちに呟いた。

「今ならばお前はまだ公爵家一族だ。だからこそ頼みたい事がある。公爵にも父上にもバレないようにステーリア行きの船を手配して欲しいんだ。」
「ステーリア?お前馬鹿か?んな事俺に出来るかよ!」
「……ロベールなら出来るだろう?ザールの港町には既に仲間が何人もいるはずだ。それに……ザールの独立まで一年を切った。もう二度とこんな機会はないかもしれない。」
「一年を切ったって、だいたい学園の卒業まで待てないからと結婚を早めたのもお前だろ?」
「ロベールが文句を言いたい気持ちもよく分かる。だが考えてもみろ、王都に出て来てから私たちは一体何をしている?」

 ふいに話を振られたジャンは、ロベールに少しだけ視線を向けると確かにと頷いた。

「学園でリュカと知り合えたことは大きかったかもしれないが、他には何も。むしろ厄介ごとに自ら巻き込まれに来たようなもんだな。」
「そうだ。それにここに来て公爵の動きがよめなくなってきた。私はこういう面倒な事に振り回されるのが嫌だから今まで王宮とは距離を置いてきたというのに……。」
「それで公爵の息子である俺に尻拭いをさせるつもりか?」

 マルセルはロベールがわざと拗ねた様な言い方をしていることに気が付くと意地の悪い笑みを浮かべた。

「そういうことだ。使える権力があるなら使えるうちに最大限利用してやろうじゃないか。」
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