56 / 73
6
旅の目的
しおりを挟む
「いきなりそう来ましたか……」
マルセルはアルノーをじっと見つめたまま、たいして面白くもなさそうに鼻で笑った。
「はい。私はせっかちな性質なので、無駄な会話をこれ以上続けるつもりはございません。」
アルノーもまたニヤリと笑みを浮かべるとマルセルと正面から向き合った。
「リュカは貴方に何と言っていましたか?トロメリンの友人が観光にでも来ると?」
「……マルセル様、リュカと私の間には貴方が思っておられるよりも遥かに強い絆がございます。自分の大事な知人を預けるというのに、兄弟間で嘘をついたりは致しません。」
マルセルは目を細めてアルノーを見つめると、そのまま先を促した。
「マリエ様の双子の王子がステーリアへ来られると……弟は私にそう言ってきました。」
「「双子の王子?」」
ロベールとジャンが驚いて同時に大声を出すと、しまったと言うように慌てて口を塞ぎお互い顔を見合せた。一方のマルセルは顔色も変えずにアルノーと対峙していた。
「私でさえ、貴方のその紫の瞳を見てすぐにそうなのだと確信した程です。そして恐らくはジャン様がもう一人の王子、違いますか?」
アルノーはそう言いながら視線だけをジャンに向けた。
ジャンはチラッとマルセルの表情を伺うと、何も答えずに黙っていた。
「私の双子の妹は死んだと、リュカはそう言っていませんでしたか?」
マルセルが探るようにアルノーにそう尋ねると、アルノーはしばらくジャンの様子を見た後でマルセルへと視線を戻した。
「貴方から死んだ王女の身代わりを頼まれたのですから、初めはそう思ったのだと言っていました。ですがマルセル様、聖女の研究に於いてはリュカよりも私の方が専門なので詳しい。歴代の聖女様方からは、歴史上、同性の双子しか生まれたことがありません。異性の双子は存在しない、有り得ないのです。」
マルセルは険しい顔になるとソファーにもたれたまま脚を組んだ。
「すると、アルノー様も聖女の研究をなさっておいでなのか?」
「そうです。リュカと同様の研究をしております。」
「そうでしたか。」
マルセルは諦めたような面持ちになるとしばらくジャンを見つめ、小さくため息をついた。
「──確かに、私とジャンは元聖女とトロメリン国王との間に生まれた双子です。訳があってこれまで離れて育てられてきました。単刀直入に申し上げますと、今回私がステーリアに来たのは聖母様に会うためです。」
「……」
アルノーはここに来て初めて返す言葉に詰まると、信じられないといった表情のままでマルセルをじっと見つめた。
「どうされました?」
「……いえ、すみません。ですがマルセル様、いくら貴方がマリエ様のお子様だとしても、聖母様に直接お会いすることは難しいでしょう。」
「そうなのですか?」
「はい。」
アルノーは何処か遠くを眺めるような目付きになると、頭をぽりぽりとかきながら小さくため息をついた。二人のやりとりが落ち着いたのを確認すると、ジャンがアルノーにそっと声をかけた。
「アルノー様、神殿にお出ましになるのは聖女様と神官だけなのですよね?聖母様は普段一体何をされて居るのですか?」
「それは……。神殿の奥で加護の祈りを捧げられていると言われておりますが。本当の所は私たち下々の者には窺い知ることは出来ません。」
「専門家の貴方でもまだ分からない事があるのですか?」
アルノーは当然だといった面持ちで頷いた。
「神殿では、参拝に訪れる者を迎える拝殿以外の部分は例え王族と言えど立ち入ることができません。聖女様や神官の普段の生活などはすべて神殿で完結しておりますから、外部にその情報が漏れることなどあり得ないのですよ。」
ロベールは流石に専門的な話が長く続いた事で会話に参加することも出来ず、ただ分かる範囲で聞き流しているようだった。
「それじゃあ、神官に直接会って話を聞くことも難しいのですね?」
「その通りです。いや、しかし私にも一人だけ心当たりがございます。よろしければそちらをご紹介しましょう。」
「心当たり、とは?」
「大神官様──前の神官長でいらっしゃった方です。聖女様の代替わりと共に神殿でのお役目を終えられて今は王都に住まわれています。」
マルセルはアルノーの言葉にジャンと一瞬顔を見合わせた。
「ジャンは私と共に大神官と会っても問題はないのか?」
「……大丈夫だと思います。きっと父から全てを聞いておられることでしょうから。」
「あ……。もしかして貴方は騎士学校に留学をなさる時に大神官様とお会いになったのですか?」
「はい。ほんの少しの間でしたがお世話になりました。」
アルノーは目を細めてジャンをじっと眺めていたが、やがて身を乗り出すようにするとマルセルとジャンに向けて小声で囁いた。
「もう一度確認したいのですが、貴方方の父親は本当にトロメリン国王なのですよね?神殿騎士ではありませんよね?」
マルセルは自嘲気味に笑うとアルノーに向けて首を横に振った。
「私もそれを疑った時期がありました。でもポールがトロメリンに来た時には既に母のお腹は大きかった。私たちが生まれた時期的に見てもそれは間違いないようです。」
「ほう…。ポールと言うのは確か聖女様についていた騎士の一人ですね?ではポールはマリエ様の後を追いかけて行った訳ですか……。」
ジャンは困惑した表情を浮かべるとアルノーに尋ねた。
「アルノー様、ステーリアではマリエ様が居なくなられたことを一体どういう風に伝えられているのですか?」
アルノーは首を傾げると、不思議そうな顔をしてジャンを眺めた。
「神殿騎士と駆け落ちをしたと……国民に公式に伝えられているのはただそれだけですが?」
マルセルはアルノーをじっと見つめたまま、たいして面白くもなさそうに鼻で笑った。
「はい。私はせっかちな性質なので、無駄な会話をこれ以上続けるつもりはございません。」
アルノーもまたニヤリと笑みを浮かべるとマルセルと正面から向き合った。
「リュカは貴方に何と言っていましたか?トロメリンの友人が観光にでも来ると?」
「……マルセル様、リュカと私の間には貴方が思っておられるよりも遥かに強い絆がございます。自分の大事な知人を預けるというのに、兄弟間で嘘をついたりは致しません。」
マルセルは目を細めてアルノーを見つめると、そのまま先を促した。
「マリエ様の双子の王子がステーリアへ来られると……弟は私にそう言ってきました。」
「「双子の王子?」」
ロベールとジャンが驚いて同時に大声を出すと、しまったと言うように慌てて口を塞ぎお互い顔を見合せた。一方のマルセルは顔色も変えずにアルノーと対峙していた。
「私でさえ、貴方のその紫の瞳を見てすぐにそうなのだと確信した程です。そして恐らくはジャン様がもう一人の王子、違いますか?」
アルノーはそう言いながら視線だけをジャンに向けた。
ジャンはチラッとマルセルの表情を伺うと、何も答えずに黙っていた。
「私の双子の妹は死んだと、リュカはそう言っていませんでしたか?」
マルセルが探るようにアルノーにそう尋ねると、アルノーはしばらくジャンの様子を見た後でマルセルへと視線を戻した。
「貴方から死んだ王女の身代わりを頼まれたのですから、初めはそう思ったのだと言っていました。ですがマルセル様、聖女の研究に於いてはリュカよりも私の方が専門なので詳しい。歴代の聖女様方からは、歴史上、同性の双子しか生まれたことがありません。異性の双子は存在しない、有り得ないのです。」
マルセルは険しい顔になるとソファーにもたれたまま脚を組んだ。
「すると、アルノー様も聖女の研究をなさっておいでなのか?」
「そうです。リュカと同様の研究をしております。」
「そうでしたか。」
マルセルは諦めたような面持ちになるとしばらくジャンを見つめ、小さくため息をついた。
「──確かに、私とジャンは元聖女とトロメリン国王との間に生まれた双子です。訳があってこれまで離れて育てられてきました。単刀直入に申し上げますと、今回私がステーリアに来たのは聖母様に会うためです。」
「……」
アルノーはここに来て初めて返す言葉に詰まると、信じられないといった表情のままでマルセルをじっと見つめた。
「どうされました?」
「……いえ、すみません。ですがマルセル様、いくら貴方がマリエ様のお子様だとしても、聖母様に直接お会いすることは難しいでしょう。」
「そうなのですか?」
「はい。」
アルノーは何処か遠くを眺めるような目付きになると、頭をぽりぽりとかきながら小さくため息をついた。二人のやりとりが落ち着いたのを確認すると、ジャンがアルノーにそっと声をかけた。
「アルノー様、神殿にお出ましになるのは聖女様と神官だけなのですよね?聖母様は普段一体何をされて居るのですか?」
「それは……。神殿の奥で加護の祈りを捧げられていると言われておりますが。本当の所は私たち下々の者には窺い知ることは出来ません。」
「専門家の貴方でもまだ分からない事があるのですか?」
アルノーは当然だといった面持ちで頷いた。
「神殿では、参拝に訪れる者を迎える拝殿以外の部分は例え王族と言えど立ち入ることができません。聖女様や神官の普段の生活などはすべて神殿で完結しておりますから、外部にその情報が漏れることなどあり得ないのですよ。」
ロベールは流石に専門的な話が長く続いた事で会話に参加することも出来ず、ただ分かる範囲で聞き流しているようだった。
「それじゃあ、神官に直接会って話を聞くことも難しいのですね?」
「その通りです。いや、しかし私にも一人だけ心当たりがございます。よろしければそちらをご紹介しましょう。」
「心当たり、とは?」
「大神官様──前の神官長でいらっしゃった方です。聖女様の代替わりと共に神殿でのお役目を終えられて今は王都に住まわれています。」
マルセルはアルノーの言葉にジャンと一瞬顔を見合わせた。
「ジャンは私と共に大神官と会っても問題はないのか?」
「……大丈夫だと思います。きっと父から全てを聞いておられることでしょうから。」
「あ……。もしかして貴方は騎士学校に留学をなさる時に大神官様とお会いになったのですか?」
「はい。ほんの少しの間でしたがお世話になりました。」
アルノーは目を細めてジャンをじっと眺めていたが、やがて身を乗り出すようにするとマルセルとジャンに向けて小声で囁いた。
「もう一度確認したいのですが、貴方方の父親は本当にトロメリン国王なのですよね?神殿騎士ではありませんよね?」
マルセルは自嘲気味に笑うとアルノーに向けて首を横に振った。
「私もそれを疑った時期がありました。でもポールがトロメリンに来た時には既に母のお腹は大きかった。私たちが生まれた時期的に見てもそれは間違いないようです。」
「ほう…。ポールと言うのは確か聖女様についていた騎士の一人ですね?ではポールはマリエ様の後を追いかけて行った訳ですか……。」
ジャンは困惑した表情を浮かべるとアルノーに尋ねた。
「アルノー様、ステーリアではマリエ様が居なくなられたことを一体どういう風に伝えられているのですか?」
アルノーは首を傾げると、不思議そうな顔をしてジャンを眺めた。
「神殿騎士と駆け落ちをしたと……国民に公式に伝えられているのはただそれだけですが?」
0
あなたにおすすめの小説
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました
当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。
リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。
結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。
指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。
そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。
けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。
仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。
「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる