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双子の婚約者
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「リュカ!……あ……。」
「…エメ、ちょっと、やめなさいよ!」
屋敷に馬車が付いた途端、正面玄関から勢いよく飛び出して来たのはよく似た顔をした二人の少女だった。
そのうちの一人は馬車から降り立った一行の顔を確認するように見ると、目に見えて意気消沈した。もう一人はその少女を引き留めようとしていたようだったが、そちらもまた客人に興味津々な様子がありありと見て取れる。
「……リュカじゃない。」
「ほら、だからそう言ったじゃない?お父様はお客様だって言ってらしただけなのにエメが信じないから…。」
「おやおや、エメにリーズ?お客様にご挨拶は?」
「あ!」
「いらっしゃいませ。」
「ようこそ……。」
アルノーは少女達の肩に優しく手を乗せると、マルセルに向かって軽く目礼をした。
「申し訳ない。ここまで押しかけて来ているとは知りませんでした……私の娘です。エメとリーズ、見ての通り双子なんですよ。」
「はじめまして。エメにリーズ、お出迎えありがとう。もしかしてリュカを待っていたのかい?」
ロベールはぎこちないながらもステーリア語で双子の姉妹に話し掛けた。
「えぇ、そうです。」
「エメはね、リュカの婚約者なのよ?それなのにリュカったらちっとも帰ってこないんだもの。ひどいと思わない?」
「婚約者?貴方が?」
驚いたのはジャンだけではなかった。エメは見たところまだ幼ささえ残っており、おそらくは10歳にもなっていないだろう。
「えぇ、そうよ?侯爵家の長女なんだからそんなのよくある話でしょ?」
「それじゃあ、リュカが留学に行く前から婚約していたんだね?エメは今幾つなの?」
「9歳。リュカとは3歳の時に婚約したのよ?でも年に一回会うくらいじゃなかなか仲良くなれないの。私だってもうリュカの瞳の色くらいしか覚えてないわ。」
一行はなるほどと顔を見合わせながらアルノーを見た。アルノーは苦笑を浮かべながら先に立って屋敷の中を案内して歩いた。
「留学が決まった時に保険をかけておいたんですよ、リュカがいつでもこっちに戻って来られるように。トロメリンで何かあったとしても、『 婚約者が待っているから帰ってこい 』と言えるじゃないですか?」
マルセルはジャンと二人で双子の少女に挟まれながらアルノーの後をついて歩いた。遅れまいと横で必死に歩いている少女たちの姿に、思わずマルセルの顔にも笑みが浮かんだ。
「お父様はあぁ言ってるけど、エメはリュカの事が好きなのよ?」
「リーズ、やめてよ!リーズだって王子様のこと好きなくせに!」
「あら、私はまだ決めた訳じゃないわよ?」
抑えた声で何やら喧嘩をはじめた双子を横目に、マルセルはアルノーが示した一室に入った。どうやらこの屋敷の応接室のようだ。
「エメにリーズ?お父様が言った通りリュカはいなかっただろう?今からお客様と少しだけ話がしたいんだが?」
姉妹は慌てた様子で応接室の前で一行に礼をすると、廊下を奥の方へと走って帰って行った。その最中も何やら言い争いをしているのが分かると、ロベールが後ろで声を殺して笑った。
「9歳か。まだまだ子供だな。」
「リュカの中ではあの子たちはまだ3,4歳の頃のままなのでしょう。婚約者ではなく完全に可愛い姪っ子扱いですよ。」
「それは仕方ありませんね。でも安心してください。学園でリュカに誰か相手がいるような感じはなかったですよ?」
「やはり、そうでしたか。あまり期待してはいけないのかもしれませんが、リュカは奥手でして……。」
マルセルは応接室が完全に4人だけになったことを確認すると、ほっと息を吐いた。
「私はどうも人を見る目がないようです。リュカとはじめて会った時、なんだか妙におびえているようだったのでてっきりステーリアでは無理をしていたのではないかと。それが嫌で国外へ逃げたのだと、そんな風に思っていたのですが。どうやら違ったようですね。」
アルノーはマルセルの言葉にあぁと同意すると、気まずそうに顎に手をやりながら答えた。
「いえ、あながち間違っているとは言えませんよ。リュカはこちらでは随分窮屈そうに暮らしておりましたから。何というか……うちの家系は女が非常に強いんですよ。分かっていただけますか?」
マルセルとロベールはよく分からない様子でジャンに助けを求めた。
「この国では王族も貴族も男女平等に家を継ぐ権利を持っていますがそれができるのはたった一人だけでしょう?となると女性もうかうかしていられないのですよ。嫁ぐにしても婿を迎えるにしても、強かでなくては出遅れてしまいます。」
「へ~、そういうものなのか。で、リュカは家を継がないから爵位目当ての女性は寄って来ないんだな?」
「しかし公爵がバックについているのは大きいですからね。実際、リュカには婿としての引き合いはかなりありました。」
「そこで女に懲りたって訳か……リュカならありそうだな。」
「まぁそれもあって娘を早々に仮の婚約者としてあてがったということです。」
「……どこの国でも金と婚姻がからむと面倒なことばかりだな。」
「おっしゃる通りです。ですが金も子もなければ時機に家はなくなり、ひいては国が滅びます。」
アルノーは表情を一変させると、ロベールからマルセルに視線を移した。
「それで、マルセル様。そろそろお話いただけませんか?どうして貴方はステーリアに来られたのですか?」
「…エメ、ちょっと、やめなさいよ!」
屋敷に馬車が付いた途端、正面玄関から勢いよく飛び出して来たのはよく似た顔をした二人の少女だった。
そのうちの一人は馬車から降り立った一行の顔を確認するように見ると、目に見えて意気消沈した。もう一人はその少女を引き留めようとしていたようだったが、そちらもまた客人に興味津々な様子がありありと見て取れる。
「……リュカじゃない。」
「ほら、だからそう言ったじゃない?お父様はお客様だって言ってらしただけなのにエメが信じないから…。」
「おやおや、エメにリーズ?お客様にご挨拶は?」
「あ!」
「いらっしゃいませ。」
「ようこそ……。」
アルノーは少女達の肩に優しく手を乗せると、マルセルに向かって軽く目礼をした。
「申し訳ない。ここまで押しかけて来ているとは知りませんでした……私の娘です。エメとリーズ、見ての通り双子なんですよ。」
「はじめまして。エメにリーズ、お出迎えありがとう。もしかしてリュカを待っていたのかい?」
ロベールはぎこちないながらもステーリア語で双子の姉妹に話し掛けた。
「えぇ、そうです。」
「エメはね、リュカの婚約者なのよ?それなのにリュカったらちっとも帰ってこないんだもの。ひどいと思わない?」
「婚約者?貴方が?」
驚いたのはジャンだけではなかった。エメは見たところまだ幼ささえ残っており、おそらくは10歳にもなっていないだろう。
「えぇ、そうよ?侯爵家の長女なんだからそんなのよくある話でしょ?」
「それじゃあ、リュカが留学に行く前から婚約していたんだね?エメは今幾つなの?」
「9歳。リュカとは3歳の時に婚約したのよ?でも年に一回会うくらいじゃなかなか仲良くなれないの。私だってもうリュカの瞳の色くらいしか覚えてないわ。」
一行はなるほどと顔を見合わせながらアルノーを見た。アルノーは苦笑を浮かべながら先に立って屋敷の中を案内して歩いた。
「留学が決まった時に保険をかけておいたんですよ、リュカがいつでもこっちに戻って来られるように。トロメリンで何かあったとしても、『 婚約者が待っているから帰ってこい 』と言えるじゃないですか?」
マルセルはジャンと二人で双子の少女に挟まれながらアルノーの後をついて歩いた。遅れまいと横で必死に歩いている少女たちの姿に、思わずマルセルの顔にも笑みが浮かんだ。
「お父様はあぁ言ってるけど、エメはリュカの事が好きなのよ?」
「リーズ、やめてよ!リーズだって王子様のこと好きなくせに!」
「あら、私はまだ決めた訳じゃないわよ?」
抑えた声で何やら喧嘩をはじめた双子を横目に、マルセルはアルノーが示した一室に入った。どうやらこの屋敷の応接室のようだ。
「エメにリーズ?お父様が言った通りリュカはいなかっただろう?今からお客様と少しだけ話がしたいんだが?」
姉妹は慌てた様子で応接室の前で一行に礼をすると、廊下を奥の方へと走って帰って行った。その最中も何やら言い争いをしているのが分かると、ロベールが後ろで声を殺して笑った。
「9歳か。まだまだ子供だな。」
「リュカの中ではあの子たちはまだ3,4歳の頃のままなのでしょう。婚約者ではなく完全に可愛い姪っ子扱いですよ。」
「それは仕方ありませんね。でも安心してください。学園でリュカに誰か相手がいるような感じはなかったですよ?」
「やはり、そうでしたか。あまり期待してはいけないのかもしれませんが、リュカは奥手でして……。」
マルセルは応接室が完全に4人だけになったことを確認すると、ほっと息を吐いた。
「私はどうも人を見る目がないようです。リュカとはじめて会った時、なんだか妙におびえているようだったのでてっきりステーリアでは無理をしていたのではないかと。それが嫌で国外へ逃げたのだと、そんな風に思っていたのですが。どうやら違ったようですね。」
アルノーはマルセルの言葉にあぁと同意すると、気まずそうに顎に手をやりながら答えた。
「いえ、あながち間違っているとは言えませんよ。リュカはこちらでは随分窮屈そうに暮らしておりましたから。何というか……うちの家系は女が非常に強いんですよ。分かっていただけますか?」
マルセルとロベールはよく分からない様子でジャンに助けを求めた。
「この国では王族も貴族も男女平等に家を継ぐ権利を持っていますがそれができるのはたった一人だけでしょう?となると女性もうかうかしていられないのですよ。嫁ぐにしても婿を迎えるにしても、強かでなくては出遅れてしまいます。」
「へ~、そういうものなのか。で、リュカは家を継がないから爵位目当ての女性は寄って来ないんだな?」
「しかし公爵がバックについているのは大きいですからね。実際、リュカには婿としての引き合いはかなりありました。」
「そこで女に懲りたって訳か……リュカならありそうだな。」
「まぁそれもあって娘を早々に仮の婚約者としてあてがったということです。」
「……どこの国でも金と婚姻がからむと面倒なことばかりだな。」
「おっしゃる通りです。ですが金も子もなければ時機に家はなくなり、ひいては国が滅びます。」
アルノーは表情を一変させると、ロベールからマルセルに視線を移した。
「それで、マルセル様。そろそろお話いただけませんか?どうして貴方はステーリアに来られたのですか?」
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