元気の良さだけが取り柄な私に、今日も貴方は優しい

ゆみ

文字の大きさ
16 / 23

本当の事を教えてほしい

しおりを挟む
 それ以降は時間の進むのが妙に遅く感じた。扉が開く度にドキッとして振り返り、客の顔を確かめるとニッコリと営業用の笑顔を浮かべることの繰り返し。

──大丈夫、ジャンはきっと約束を守ってくれる……。


「ありがとうございました。暗いから足元に気をつけて帰ってね!」
「あぁクラリス、大丈夫だよ。婆さんが灯りを持ってそこまで来てるだろうからね。」

 店を出る最後の客を扉の前で見送ると、クラリスは夜空を見上げた。今夜は曇っているせいで月も出ていない。千鳥足の鍛冶屋のお爺さんが一人で帰るには少し危ないような気もした。通りの向こう側、鍛冶屋がある方向を見やると小さな灯りが揺れているのが見えた。どうやらお爺さんの言った通りに迎えが来たようだ。
 ようやく一安心して店に入ろうと振り返ったクラリスの目に、いきなりジャンの姿が飛び込んで来た。
どうやら店の外の壁にもたれかかって最後の客が出て行くのを待っていたようだ。

「ひっ!」
「……ごめん、驚いた?」
「当たり前!ビックリしたぁ!そんな所で…もしかして待っててくれたの?」
「少しだけ。店が終わった後にゆっくりと話がしたくて。」

 クラリスは慌ててジャンを店の中に招き入れると入り口の灯りを落とした。

「どうぞ座って?紅茶をいれる?」
「店は終わったんだろう?」
「そうよ?さっきのお爺さんが最後のお客さんだったから。ジャンは……私のお客さんだから。あ、ちょっと待っててね?」

 クラリスは慌てて2階まで駆け上がると、少し迷った後でマグカップ2つを取り出しジャンにもらった例の紅茶を2人分いれた。今夜は茶葉を普段より少しだけ多めの分量にして。

 マグカップ手に戻ると、ジャンは誰もいない静かな店内で一人ぽつんと座って待っていた。

「これ、ジャンがくれた紅茶。まだ飲み終わってないのよ?」
「そう…。思っていたよりも早く戻る事になってしまって。」

 クラリスは机にマグカップを置くと、ジャンの向かい側に腰掛けた。ジャンはマグカップを手に取り一口紅茶を飲んだ。

「あ、砂糖とミルクはこっちに!」
「いいよ。もう飲んでるし…。」

 二人はカウンターに並ぶ砂糖とミルクに目を向けるとそのまま笑いあった。

「ごめんなさい。好みが分からなくて。」
「砂糖とミルクは入れない。前もそうだったはずだけど?」
「前?あぁ、あの時は気が動転しててそんな事まで頭が回らなかったわ。」

 ジャンはマグカップを両手で抱えるように持ち直すと、机に肘をつき視線をカップの中に漂わせた。

「さっきはすまなかった。いきなり店に駆け込んであの2人を連れ出したりして、驚いただろう?店の中で騒ぎを起こすつもりはなかったんだが…。」
「あれくらい良くあることよ、全然気にしないで。」
「……まず先に君に一言言っとくべきだったんだろうが。俺も相当頭にきてたんだ。マルセルの奴が勝手な事ばかりするから…。」

 クラリスはジャンと同じ様にマグカップを両手で抱えながら話を聞いていた。カップの紅茶に映るクラリスの顔には苦笑いか愛想笑いか分からないような曖昧な笑みが浮かんでいる。

「あの二人とは……知り合いなの?」
「そうだ。アイツらからは何も…聞いてない?」
「二人がザールにある大きな会社の仕事仲間だってことは聞いたわ。人を探しにトロメリンに来てるって…。」
「そんな風に……君に?」

 ジャンは小さくため息をつくとマグカップを机に置き、困ったように頭をかくとそのまま額に手を当てながら何かを考え込んでしまった。

「ジャンも同じ会社の人なの?」
「……いや、違う。会社じゃないんだ……俺たちが仕事をしている所は。」
「そうなの?でも、マルセルさんは大きな会社を……何て言ってたかな…そう、会社を立ち上げているところだって、確かそう言ってたわ。」
「……立ち上げているのは会社じゃない。……国だよ。」
「──は?」

 見上げたクラリスをジャンの青い目が真っ直ぐに見つめ返してきた。どういう事かと考えを巡らせながらじっと見つめ合っているとジャンの方が先に口を開いた。

「トロメリンの第一王子の話を知ってる?」
「第一王子?病弱で…何年か前に亡くなったとか…?あ、まだ療養中だったかしら?」
「じゃあ双子だという王女を見た事は?」
「王女様を見た事なんかないわよ?もちろん王子様も見たことはないんだけど。」
「……本当に?君は今日会ったはずだよ?」
「……今日私が?え~っと……?」

 話がよく分からずに混乱しているクラリスを真面目な顔で見つめると、ジャンは優しく説明を続けた。

「トロメリンの亡くなった第一王子というのはマルセルの事だ。そして双子の王女というのも彼の事なんだよ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...