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勘違いしたらダメ
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慌てて2階にある自分の部屋に駆けこむと、スマホを確認する。画面の着信履歴──先輩の番号で間違いない。
「夢じゃなかった。どうしよう……。」
とりあえず番号を登録して──そう考えているとメッセージの通知画面が一瞬現れて消えた。
” もう帰った?今から少し話せる? ”
「やばい、先輩だ……まだ心の準備が。」
” 無理です。 ”
即座に返信をするとその場に崩れるように座り込んだ。昨日まで遠くで眺めているだけだった存在と一体どうやったらまともに話すことが出来ると言うのか?無理に決まってる──。
先輩は帰り際にバス通学の私をバス停まで送ると言ってくれたけれど、反射的に拒否してしまった。
『 そういうの、しないんだ…… 』
断れたのが意外だったのかあの時先輩の表情が少し曇ったような気がした。喜んで一緒に帰るべきだった……変に恥ずかしがったりせずに。
クッションをぎゅっと抱き締めながら後悔する私の手の中でスマホが振動し始めた。画面には着信の表示……先輩からだ。
──なんで?今無理って送ったのに!
着信拒否をする訳にもいかず、とりあえず通話ボタンを押す。どうしよう……。何か急ぎの用でもあっただろうか?
「……メッセージ送ったんですけど。」
『 うん、読んだ。ていうか何、無理って。 』
「……」
『 邪魔だった?あ、まさかトイレ? 』
「ち、違います!」
『 じゃあいいじゃん。 』
学校で聞くのとは違い、スマホから聞こえる先輩の声は柔らかく優しく響いた。
「……どうしたんですか?」
『 どうしたって……。番号、間違ってないか確認。 』
「ごめんなさい、今帰って来たばかりだったんで。でもちゃんと連絡先には登録しましたから。」
『 何て? 』
「──はい?」
『 何て登録したの?俺の事。まさか”センパイ”とかじゃないよね? 』
「あ……はい、” 先輩 ”じゃないです。」
『 へぇ、意外。 』
思わず画面の表示に目を向ける。着信相手の表示には『309』の数字が踊っている。309──3月9日。今日からちょうど1週間後の日付。私が彼女でいることを許された期間。
「先輩は?なんて登録したんですか?」
『 ……俺、名字知らないんだよね。 』
「あ、そうでした。ごめんなさい、後で送っときます。」
『 なんで今教えてくれないの?そんなに難しい漢字? 』
「別にそういう訳じゃ……」
『 俺と話、したくない感じ? 』
「そうじゃなくて……ただでさえ緊張してるのに、好きな人の声で自分の名前を呼ばれるとか。そんなの本当にありえないですから!」
『……』
「あ……」
やばい、いきなり何を口走ってしまったんんだろう。先輩からは何の反応もなく、二人の間には気まずい沈黙が落ちる。何かを話さなくてはいけないと焦るこの時間はどう考えても自分に対する罰だった。
「す、椙山です。きへんに日の字2つの椙。椙山美優。」
『 あ──そうなんだ。みゆって……美しく優しい? 』
「……です。」
『 で、明日は部活あるの? 』
「部活?」
完全に先輩のペースに巻き込まれた感のある会話に私の頭はパンク寸前だった。今電話の向こうで話をしているのは私の知らない誰かに違いない。私の知っている先輩はこんな風に話したり……そっか、そうだった。私は電話で話す先輩がどんな風なのか知らない。制服で、陸上部の練習着で楽しそうに笑う先輩しか知らない。学校以外では一度も会った事がないんだから知らなくて当たり前なんだ。
これが、普段の先輩……。
『 明日土曜でしょ?学校休みなんだから普通に会うんじゃないの?違った? 』
「部活は土日休みなんで大丈夫ですけど――。」
『 けど? 』
「先輩、忙しいんじゃないですか?ほら、引っ越し前で準備とか。」
『 めっちゃ忙しい。 』
「ですよね……。」
『 あー、ごめん。今のはウソ、冗談です。 』
今、この瞬間電話の向こう側で照れくさそうに笑った先輩の顔が目に浮かんだ。口にしようとしていた言葉がグッとつかえて出てこない。
『 会う時間くらい作れる。 』
一瞬スマホを離すと液晶画面をじっと見つめた。勘違いしてはいけない、先輩は1週間限定の暇つぶしだからこそこうして私に付き合ってくれているだけ。
私はその1週間を使ってどうにかして先輩の高校生活の中でのたった一つの思い出になりたかった。できればいい方の思い出。ただそれだけのために高校3年間分の勇気を今日使い切ったんだっけ。
「じゃ、作ってください……時間。」
『 いいよ。 』
「……」
『 ノープラン 』
「え?」
『 何も考えてなかったでしょ?明日土曜だから学校休みだとか、デートしたいとか。 』
「デート!?」
『 どっか行きたい場所考えといて。付き合ってやるから。 』
付き合ってやるから──違う、それじゃ意味がなかった。私の思い出作りなんかのために二人で過ごせる大切な時間を無駄使いしたい訳じゃなかった。
「先輩は?行きたい所ないんですか?」
『 ない 』
「……ですよね。」
『 待って、一個だけあったかも。 』
「え?何処ですか?」
『 彼女の家 』
「……」
『 あ──ごめん、なんか俺呼ばれてるっぽい。取りあえず切るね。また連絡するわ。 』
「え?」
一方的にかかってきた電話は、終わりもやっぱり一方的だった。あっさりと途切れた通話に呆然としてしばらくスマホの画面を凝視する。
「何……だったの?」
彼女の家に行きたいって、あの最後の発言は?彼女って、元カノの事じゃないよね?
クッションを抱き締めながら自分の部屋を思わず見渡した。この部屋に先輩を呼ぶことなんて絶対にできない、無理だ。
スマホの画面がメッセージの受信を知らせる。
” 彼女の家行きたいとか本気にしてないよね? ”
「……からかわれた?」
「夢じゃなかった。どうしよう……。」
とりあえず番号を登録して──そう考えているとメッセージの通知画面が一瞬現れて消えた。
” もう帰った?今から少し話せる? ”
「やばい、先輩だ……まだ心の準備が。」
” 無理です。 ”
即座に返信をするとその場に崩れるように座り込んだ。昨日まで遠くで眺めているだけだった存在と一体どうやったらまともに話すことが出来ると言うのか?無理に決まってる──。
先輩は帰り際にバス通学の私をバス停まで送ると言ってくれたけれど、反射的に拒否してしまった。
『 そういうの、しないんだ…… 』
断れたのが意外だったのかあの時先輩の表情が少し曇ったような気がした。喜んで一緒に帰るべきだった……変に恥ずかしがったりせずに。
クッションをぎゅっと抱き締めながら後悔する私の手の中でスマホが振動し始めた。画面には着信の表示……先輩からだ。
──なんで?今無理って送ったのに!
着信拒否をする訳にもいかず、とりあえず通話ボタンを押す。どうしよう……。何か急ぎの用でもあっただろうか?
「……メッセージ送ったんですけど。」
『 うん、読んだ。ていうか何、無理って。 』
「……」
『 邪魔だった?あ、まさかトイレ? 』
「ち、違います!」
『 じゃあいいじゃん。 』
学校で聞くのとは違い、スマホから聞こえる先輩の声は柔らかく優しく響いた。
「……どうしたんですか?」
『 どうしたって……。番号、間違ってないか確認。 』
「ごめんなさい、今帰って来たばかりだったんで。でもちゃんと連絡先には登録しましたから。」
『 何て? 』
「──はい?」
『 何て登録したの?俺の事。まさか”センパイ”とかじゃないよね? 』
「あ……はい、” 先輩 ”じゃないです。」
『 へぇ、意外。 』
思わず画面の表示に目を向ける。着信相手の表示には『309』の数字が踊っている。309──3月9日。今日からちょうど1週間後の日付。私が彼女でいることを許された期間。
「先輩は?なんて登録したんですか?」
『 ……俺、名字知らないんだよね。 』
「あ、そうでした。ごめんなさい、後で送っときます。」
『 なんで今教えてくれないの?そんなに難しい漢字? 』
「別にそういう訳じゃ……」
『 俺と話、したくない感じ? 』
「そうじゃなくて……ただでさえ緊張してるのに、好きな人の声で自分の名前を呼ばれるとか。そんなの本当にありえないですから!」
『……』
「あ……」
やばい、いきなり何を口走ってしまったんんだろう。先輩からは何の反応もなく、二人の間には気まずい沈黙が落ちる。何かを話さなくてはいけないと焦るこの時間はどう考えても自分に対する罰だった。
「す、椙山です。きへんに日の字2つの椙。椙山美優。」
『 あ──そうなんだ。みゆって……美しく優しい? 』
「……です。」
『 で、明日は部活あるの? 』
「部活?」
完全に先輩のペースに巻き込まれた感のある会話に私の頭はパンク寸前だった。今電話の向こうで話をしているのは私の知らない誰かに違いない。私の知っている先輩はこんな風に話したり……そっか、そうだった。私は電話で話す先輩がどんな風なのか知らない。制服で、陸上部の練習着で楽しそうに笑う先輩しか知らない。学校以外では一度も会った事がないんだから知らなくて当たり前なんだ。
これが、普段の先輩……。
『 明日土曜でしょ?学校休みなんだから普通に会うんじゃないの?違った? 』
「部活は土日休みなんで大丈夫ですけど――。」
『 けど? 』
「先輩、忙しいんじゃないですか?ほら、引っ越し前で準備とか。」
『 めっちゃ忙しい。 』
「ですよね……。」
『 あー、ごめん。今のはウソ、冗談です。 』
今、この瞬間電話の向こう側で照れくさそうに笑った先輩の顔が目に浮かんだ。口にしようとしていた言葉がグッとつかえて出てこない。
『 会う時間くらい作れる。 』
一瞬スマホを離すと液晶画面をじっと見つめた。勘違いしてはいけない、先輩は1週間限定の暇つぶしだからこそこうして私に付き合ってくれているだけ。
私はその1週間を使ってどうにかして先輩の高校生活の中でのたった一つの思い出になりたかった。できればいい方の思い出。ただそれだけのために高校3年間分の勇気を今日使い切ったんだっけ。
「じゃ、作ってください……時間。」
『 いいよ。 』
「……」
『 ノープラン 』
「え?」
『 何も考えてなかったでしょ?明日土曜だから学校休みだとか、デートしたいとか。 』
「デート!?」
『 どっか行きたい場所考えといて。付き合ってやるから。 』
付き合ってやるから──違う、それじゃ意味がなかった。私の思い出作りなんかのために二人で過ごせる大切な時間を無駄使いしたい訳じゃなかった。
「先輩は?行きたい所ないんですか?」
『 ない 』
「……ですよね。」
『 待って、一個だけあったかも。 』
「え?何処ですか?」
『 彼女の家 』
「……」
『 あ──ごめん、なんか俺呼ばれてるっぽい。取りあえず切るね。また連絡するわ。 』
「え?」
一方的にかかってきた電話は、終わりもやっぱり一方的だった。あっさりと途切れた通話に呆然としてしばらくスマホの画面を凝視する。
「何……だったの?」
彼女の家に行きたいって、あの最後の発言は?彼女って、元カノの事じゃないよね?
クッションを抱き締めながら自分の部屋を思わず見渡した。この部屋に先輩を呼ぶことなんて絶対にできない、無理だ。
スマホの画面がメッセージの受信を知らせる。
” 彼女の家行きたいとか本気にしてないよね? ”
「……からかわれた?」
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