沈んでは弾ける魂

高梨悠介

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夢遊世界-原稿

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時々奇妙な夢を見ることがある。その夢の中で私は、海の上で大の字になっているような浮遊感を体に感じながら、何も見えない、何も感じない、しかし暖かな空間を漂い続けている。真っ暗な視界、自分の背中を圧迫し続ける浮遊感、それでいて私の全身を包み込む暖かさ。それらに対して不安を感じることも、恐怖で涙を流すことも、暖かさに心地よさを感じることもない。しかし、私を包むこの暗闇は窮屈でならない。必死の思いで右も左も、上も下もわからないこの空間で身を捩ってみる。うまくいったのか、視界が反転した時、遠くに一つ、眩い光の玉のようなものが見えた。それは暗闇に押されて飲まれてしまうのに対抗するように煌々と光を発している。その様子にしばし私は見惚れてしまう。ここはどこでこの物体はなんなのか、なぜ光を発しているのか。わからないことばかりで、私は暗闇の中で一人気を乱しかける。そんな時、視界の端に先ほど見た光と似たものを捉える。それは一つ捉えたと思えばまた一つと視界の中に増えていき、私は無数の光る物体に囲まれていることに気づく。闇に溶け込もうとぼやけた光を発するもの、存在を主張するように煌々と照り続けているもの。特徴がそれぞれに違ったそれらは確かに光を発しているのだが、この空間はどこまでも暗く、そしてどこまでも広い。私は遠い遠い一点を、何を見るでもなく見つめていた。すると、果てしない空間に一筋の光が差し込んだ。かと思うと、無数の光の玉のうちの一つが、そこへ楕円形に形を変えながら吸い込まれていった。呆気に取られた私は眼球だけを動かし周囲を見回す。すると今度は私の数十メートル先で光が差し込み、また一つ、光の玉が吸い込まれていった。その後、差し込んだ光は徐々にノイズが走るように消えていく。そこでやっとこの空間の全容を理解した。ここに存在する無数の玉は、光の差し込む反対側-遠い遠い底の方から湧き上がり、それぞれ異なった位置で止まり、漂い続ける。そこからは、先ほどの光に吸い込まれない限りそのまま。仕組みが分かってもやはり、この空間は謎だらけだ。漠然と私はその光の筋に見つかりたくないと感じていた。なるべく無数の玉の中に紛れるよう、動かせない体の中でひたすら、見つけないでくれと願った。それ以外の思考を放棄しているわけではない。その気持ちに私が縛り付けられている感覚。逃れられない束縛のなかで必死にもがき続ける。その間にも、周りには天気雨のようにポツポツと光の筋が差し込み、そのたびに一つ一つと光の玉は吸い込まれていく。吸い込まれていく玉はどれも眩しいほどの光を発している。残されたものはどれもぼやけたものばかり。おそらく自分も周りから見れば同様な光の玉なのだろう。そして、私自身もぼやけた、しぼんだ光を発しているに違いない。ああ、そうか。なら大丈夫だ。そもそも願った者しか光の先にはいけないのだ。安心し切った私は疲れと共に目を閉じた。その瞬間、凄まじい光が私の瞼を焼いた。
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