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大暴走

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 古龍の息吹ドラゴンブレスとおったところには、一つたりとも生命が存在して無かった。その威力は、それが向かった先にある…いや、あった山が大穴を開けて完全に崩壊しているのを見ると、どれだけのものかがわかる。そして、シンはと言うと、ブレスが発射させる瞬間にコピー、終了後に空に跳んだ。この間、約0.1秒の早技だった。龍は、自分のブレスが視界を占領した為、空にいるシンを見失っていた。…と言うか、もう倒し終えたと思い、戦闘体制を解いていた。これは、万を超える時間を生きてきた古龍のそれを防ぐか、逃げたものが居なかったことによる油断だった。そして、そんな大きな隙をシンが見逃すはずがない。シンは、これまでに無い強敵との戦闘に意気込んでいたが、古龍のその様子に肩透かしを食らった気分だったが、自分の仕事を思い出して、己の本来の武器 ヴォルデザードを出す。

《マスターの戦意を確認。【断の理】【真なる剣】を起動…完了。目標補足ロック・オン

 ここで古龍も己に向けられる、頭上の静かな殺気に気づく…が、もう遅い。シンは刀を振り下げ始めた頃だった。

「はぁああああああああああっ!」

 【紫の太刀・紫電烈火しでんれっか

 紫の太刀。シンの固有の型で、青の俊敏と赤の力強さを程よく混ぜ合わせて作られた。そして、その威力は「俊敏」で「力」を伸ばした形で、数ある万色一刀流の型の中でも俊敏と力の両立できた型の中で随一とも言える。ちなみに、青と赤の型は、基本どんな体勢でも使うことができるので、万能度では高い能力を誇る。どんな体制とは言え、流石に威力などの減衰は間違いなく出てくるが。

 シンの剣をまともに食らった古龍の首が、落ちる。同時に、大量の血が出る……とは行かずに、そのまま崩れ落ちる。なぜ血が出ないかは、ヴォルデザードの【断の理】の効果として、ここでの「首を断ち切る」と言う動作は、独立したモノになっていて、その後にある血が流れる事はないのだ。…つまり、断ち切ると言うのは概念に似たモノで今首が落ちたのも「首は繋がっている」と言う概念を「首を断ち切られている」と言う情報に書き換えたのだ。そのような世界の法則に干渉するのは「理」の名を冠するスキルの権限の一つだ。

「フゥー。」

 剣術を使用するのに変えていた、特殊な呼吸を元に戻す。実は、シンはもう呼吸なしでも剣術を使えるので、これは一種の癖になっているのだが。それをシンは知っているが、変えようとは思わない。これには、過去前世にあった事件が関係してくるのだが、ここでそのまま思い返す事はしない。目の前に、目的のものがあるからだ。

「ダンジョンコア…。これを壊せば、大暴走は止まるのか。はあっ。」

 ダンジョンコアが両断させる。古龍の時はある程度心躍ったが…最後はあっけないものだな。どうやらまださっきの【真なる剣】の効果がまだ残っているようで、手応えはほとんどなかった。

「…帰るか。」

 それは、本当に自然に行った事だった。前世の経験からくる勘とも言えるものが、なんとなくそうさせて…そして、驚くべき事をシンは知る。森の中に、あるはずの無いたぐいの気配を見つけたのだ。それは、今回の目的であり、今回の事件を起こした張本人であり…そして、先程シンが斬ったものに、それは酷似していた。

「ダンジョンコアが…三つ⁉︎」

 シンは、自分が判断で、このダンジョンコアを破壊することにした。そして、そこから溢れ出ている魔物達の脅威に街を案じ、自分の出せる最速のスピードで街に向かう。途中で倒せる魔物を来た時とは違い、先ほどの古龍の息吹ドラゴンブレスも織り交ぜたもので周囲の魔物を殲滅する。なぜか、距離がきた時より遠く思えた。ダンジョンコアは龍の息吹の遠隔発動で、既に破壊されている。

 …街は、まだ遠い。

______sideガイアス______

 戦い始めて、どれくらい経ったかわからない。とにかく周囲にいる魔物を手当たり次第、斃していく俺が倒れたら、後ろで戦う奴らの士気に大きく影響するだろう。…斃しても斃しても、魔物は減らない。…むしろ増えていってるんじゃ無いか?

 …このガイアスの考えは合っている。今になって、シンが斃したコア以外から来た魔物が合流し始めたのだ。


 もう、どれくらい経ったかわからない。俺の体にもかなりの負荷と疲労を抱え始めた。仲間達もかなり動きが鈍くなった。怪我人や死人は数えきれない。そろそろ、この前線も崩れるだろうな…。もうほぼ限界だが後陣の奴らだけでは、こいつらに対処するのは不可能だろう。つまり、俺達が崩れたらその時は、この街の陥落が決定づけられる。

 

 そして、前線が本格的に崩れ始めたところだった。魔物の後ろから、光線が飛来し、魔物達に直撃した。前線の戦士達の手が止まる。最初のを引き金に、たくさんの光が押し寄せる。それは、落ちたところの周辺の魔物を余波だけで消しとばし、その命を消す。だが、ガイアスはこれを本気のものだとは思わなかった。先ほど、似たような光が遠くに見えていた山に直撃したのを見たのだから。あれは、おそらく古龍の息吹だったのだろう。おそらく、これもである。…そして、こんな無茶な事をできるのは、少なくともガイアスの中には一人しかいない。

「シン‼︎」
「おわ、ガイアスか。ひでぇ怪我だな。とりま、これ使え。」

 そう言って、シンが投げたのは高品質のポーション。俺は今の自分の状況をしっかりと理解していたので、ありがたく使う。…まぁ、後で金でしっかり返すけどな。


「ガイアス。奴らを退かせ。」
「…わかった。オメェら!全員撤退!もし残っていたら、消し飛ばされるぞ!!」

 先に高威力の光の雨を見ていたので、防衛軍は速やかに撤退する。同時に、魔物のいる場所の上空が煌めく。そして、ガイアスが見た、山を消し飛ばすほどの魔法が魔物共に向かって発射される。

 光の奔流が、猛威を震い始める。
 
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