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聖霊メイドと勇者襲来

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 元家精霊エメレと邂逅した次の日、俺が目を覚ますと、部屋の中が完全に整えられていた。…つまり、カーテンが開かれ、窓もちょうど良いくらいに開いていて、そこから光が差し込み、涼しい風が入ってきている。…ちなみに、今は日本で言う秋の初めで、気温が下がり始めている。

 結論は、俺の部屋が以上の整えられている。クローゼットには勝った覚えのない服がかけてあり、本棚には寝る時になかった赤い花が花瓶の中に入れられて置いてある。ベットも今起きた時にできたもの以外の乱れが見られない。埃も全く見当たらず、俺の部屋が一晩で一新されていた。

「どう言うことだ?…いやまぁ、この家には俺かエメレしかいない上に、俺が知らない時点で誰がしてくれたのかはわかるけど…」
「!おはようございます。ご主人様!…どうなされました?」
「エメレか。おはよう。…俺の部屋を片付けてくれたのか?」
「ええ。もちろん!…もしかして、何か問題がありましたでしょうか?」
「いや。驚いただけだ。特に問題はない。むしろありがとう。」
「ならよかったです~。あ、他にも色々変えましたけど、見てみますか?」
「あ~じゃあ、頼む。」
「はい!」

 そして、俺は家の中を案内してもらった。…そういえば、あのクローゼットにあった服は、エメレが魔力で編んだそうだ。花に関しても、エメレが置いたらしい。万能だな。今回のリフォームで一番驚いたのは、屋敷の一部が壊され、その建材で縁側ができていたと言うことだ。…しかも、そこの横開きのドア(木造りの襖)を開けた先は和室だった。おそらく、八畳はあるだろう。縁側の先には、流水が流されている小さな川が出現していた。それは俺の魔力を吸い取って動くポンプのような魔道具を利用して水を流しているらしい。魔道具は、魔石や人の魔力を使って動く機械のようなものである…と言っても、それは水を出したり火を出したりと、その辺の機械ではできないこともできる、と言う違いがあるがな。

 それにしてもエメル、万能過ぎないか?家事が万能、容姿端麗、頭脳明晰、攻撃は知らんが防御力は世界を敵にしても良いくらい。………チートだな。まぁ、それをエメルに言ったら何故か不機嫌になったが。…あの様子じゃ十中八九、俺に言われたくないんだろうな。…まぁ、やろうと思えば俺もできるから、反論はできないのだが。

「あ、そうだ。エメル、魔法陣と家具のメモは書いた?」
「ん、そうでした。はい、これです。」
「!もうできていたのか…。もらうよ、ありがとう。」
「いえいえ…そういえば、今日の朝、妙に歓声が上がっていたのですが、何か知ってますか?」
「…いや、わからない。ちょっとギルドに行ってくるか。ギルマスなら何か知ってるだろ。」
「行ってらっしゃいませ。」

 ギルドの前まで来ると、中からザワザワと声が漏れていた。…やっぱり、何かあったのだろうか?いや、でもそれなら俺のところに誰か人が来るだろうし…。まだSSランクじゃないとはいえ、あの人ギルマスなら重大なことは俺に通知するだろうが…。

「まぁ、入るか。」
「………だから!まだシンさんはきていません!少々お待ちください!」
「もうかなり待ったじゃないか!家くらい教えてくれても良いだろう!」

 ギルドで受付の前で大声を出して騒いでいたのは、最近おれが知り合った人物だった。

「……リン?」
「!…シン…だよね?」
「ああ、そうだが。なぜお前がここに?」
「いや、君を探しにだよ。急だけど、ボク、君のパーティーに入っても良いかな?」
「……は?」

 リルが言った衝撃発言の後、俺たちはギルドの受付嬢に追い出された。…まぁ、あそこだと並んでいる冒険者の邪魔だったしな。そりゃ追い出されるか。

 取り敢えずギルドに併設されている酒屋に入って、席に座った。

「で、何があったんだ?なんで急に俺のパーティーに入ろうと思ったんだ?…と言うか、そもそも俺はパーティーに入っているわけでもないんだが。」

 パーティーは、冒険者同士のチームのことで、メリットは仲間という形の戦力上昇。デメリットはその中でのトラブル。このトラブルは、男女間の問題だったり金の分け合いだったり種類を挙げれば大量なものがある。

「いや、特に理由はないよ?強いて言うならボクが楽しめそうだからかな。それに、キミ強いだろう?……あ、そんな顔しないで良いよ。ボクは自慢じゃないけど、かなり強いから。寄生しようと思っているわけではないよ?」
「…。じゃあ、魔の森の魔物に多少なりとも押されていたのは?」
「えー、気づいているでしょ?あれが全力なわけないじゃん。…ここにちょっとした結界を張るね~。よっ……と。よし。じゃあちょっと力を出すね。」

 寄生とは、まぁ、名前の通り強い冒険者のパーティーに入って、そのおこぼれを得ようとする行為だ。一時期それが流行ったこともあったらしい。

 それはそうと、リンは俺たちの周りに結界を張って、。その瞬間、魔力が何倍にもっ膨れ上がり、相手からの武威もさっきとは比べ物にならないものになっていた。これはまるで、龍と人……いや、ゴブリン最底辺の魔物くらいの差があるな。

「っ…なるほど。で、お前は誰だ?本体ホンモノじゃないな?」
「…いや?本体なのは間違い無いよ?ただ、中の魂が伝説の勇者の魂かもしれないだけで。」
「へぇ……で、俺に何を望んでいるんだ?その伝説の勇者とやら、さんは?」
「特に何も~。……いや、強いて言うなら、キミに惚れたってところかな?」
「は?」

 言うに事欠いてこの娘は何言っているんだ?……それはそうと、伝説の勇者か…。なんか、かなり前に魔王と戦ったって言うあの…。ん~確か、この時代の勇者の関係者は…唯一のSSSランクの魔導師だな。その人はこの目の前の存在について、気がついているのだろうか…?

「で、惚れたと言うのは?」
「いや、もう言葉通りに……って恥ずかしいからね、これを真顔で言うの。いや~たとえ自分の倒せる魔物だったとしても、あんなに美しい倒し方したら惚れるじゃ無いか。それに、今のボクはこの体に精神が引っ張られて、好みも変わっているんだ。あ、ちなみに、前世…勇者時代も女だったから、性別面の問題は無いよ?」

 整理しよう。俺の前にいるリンという少女は、元伝説の勇者で(聞いた感じでは、前世)今の俺でも倒すのには十分ほどかかるだろう強さを持っている。そして、その人物は俺に惚れている⇦今ココ

 うん、意味がわからんが……まあ、仲間になってくれるのはありがたい。勇者の魔法を【カスタム】したらどうなるだろうか。取り敢えず、さっきの結界は覚えさせてもらおうかな。あ、そういえば、今さっきのメモも持っているんだっけ。今のうちにやっとくか。えっと、ここをこうして…

「…まぁ、わかった。取り敢えずこれからよろしく。」
「!良いの!?」
「良いも何も、リンがかなり強い上に、性格的にも問題なし。自分から希望なら、文句なしだな。…強いていうなら、理由のところがちょっと……。」
「い、いやぁ~。ま、ありがと!実は、自分でもこのアピールは怪しいなと思っていたし。というか、入れてくれたら万々歳くらいの気持ちだし。……まぁ、その場合は付き纏って…(ボソボソ)…。」

 リンが呟いている時、俺の背中が逆立った。…なんか悪寒がする。しかも俺の目の前の少女から…。うん、この際何を言っているのかは聞かないでおこう。それが幸せへの近道だな。

 それにしても、さすが勇者の魔法に聖霊の魔法。かなり出来上がっているな…とはいえ、余分な線や形が魔法陣に入っているのはやはりあるんだが。ん~これだったら、外界との遮断をすることでの防御も可能そうだな…それに、この魔法陣の部分を応用させてドラゴンブレス改と混ぜ合わせたら…あ、これとこれも合わせれるな。

「さて、じゃあ本来の目的を達成しようかなっと。」
「シン様~~!」

 俺がギルドに来た本来の目的、騒ぎの元凶を聞きに受付かギルマスのとこに行こうかなと考えている時、ちょうどギルマスがこっちに駆けてきていた。
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