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聖霊メイドと勇者襲来

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「で、どうしたんですか?フォルテームさん。」
「いえ、相談したいことがあって…って、リンさん?あなたがなぜここに?」
「?知っているんですか?」

 リンって、ギルドマスターにまで名前を知られているって…何かあるのかな?

「逆に知らないんですか?今日の朝、仮とはいえ、パレードが行われていたはずですけど…。リンさんは最近勇者になった一人なのですよ。」

 …指名された、ということは、おそらく勇者とは古代の勇者を指さない。この国から南に行ったところにある【学園都市・クロータル】の校長が超優秀な生徒につける称号のようなものだ。指名されるには、かなり高水準(他国では最強に近いくらいの強さを持たないとなのと、心の持ち方も関係する)で、確かここら十何年くらいは指名されていなかったはずだが…。あ、でもリンが勇者の生まれ変わりっていうのをその人に言えば、意外となんとかなりそう?

 というか、話している感じじゃあ何人か勇者に指名されたみたいだな。ちなみに、勇者に指名されると、学業は全免除。しかも、冒険者活動などをするときはその学校から支援されるし、人の国なら全ての街や施設入れるほどの通行証が与えられる。…そして、どこの国からも引っ張りだこになる。

 そのかわり、それが与えられるものはものすごく慎重に過去の調査や力量の測定がされる上に、その権利を悪用したら、一生の奴隷落ちになる。一応、奴隷落ちに関してはまだ執行された人はいないみたいだな。…というか、国を上回る武力の塊が調査したらどんなに巧妙に過去を隠してもその意味を成さないだろうなぁ…。


 そういえば、校長ってどれくらいの年齢なんだろう?あそこはあの人がいるから、あらゆる国が干渉できないし、戦争に参加しない代わりに、国の干渉があったらそれに対する報復活動をすると言っている。…そして、おそらくその人が本気を出したら、国は一晩にして塵になると言われている。というか、実際になる。…一度、本当に行われたことがあって、その時代の強豪国だった王国が学園都市にちょっかいを出した日のうちに、消え去ったらしい。無実の人は全員転移魔法か何かで別の国に移されたみたいだけどな。

「で、何の話だっけか?」
「…どこかに脱線しましたね?リンさんが最近勇者に指名された人……って、そうでしたわ。伝いたいことがあったんでした。え~っと、王様への謁見の日時が決まりました。一週間と二日後に、正装でギルドに来てください。ここから、馬車で送る手筈になっていますし。」
「ん!?…もしかして、シンって最近SSランク冒険者になった人?」
「そうだが…知らなかったのか?」
「いや、そういう日がいるっていうのは知っていたけど…まさかキミだったとは。で、魔の森の魔物を吹き飛ばしたっていうのはほんと?」
「…嘘では無い。」

 あ、そういえば、俺の魔力が今回の戦いで41兆になった。おそらく、この増えた経験値の中で一番多い割合を占めるのは古龍だろうな。…そういえば、古龍と言っている生物の戦闘能力はものすごく高いらしい。…過去に一匹で一国を潰したという、逸話があるくらいには。俺の刀で簡単に切れたのは…気にしないでおこう。刀がすごいだけで、俺は別に妙な戦闘力は持っていない……と思いたい。…はぁ、別段ここまで目立つつもりはなかったんだがなぁ…。

「あ、後ですね。その…お金を渡すのはもう少し待っていただけると…。」
「ん?金なら前、三十枚くらい光金貨を貰ったが?」
「…いや、あれは違いますよ?」
「え?」

 フォルテームさんによると、どうやらあのお金は国などから渡された、「魔物撃退」に対する報酬だったようだ。で、今回のフォルテームさんの言っている報酬は、「討伐した魔物の売却分」の金額らしい。一応、俺が本当に倒し切れたのは、何百くらいあるが、それを売ると経済が混乱する上に、解体をしていないのでそもそも売れない。…剥製にするなら別として。

 まぁ、それについてはギルドの方で保存して、定期的に魔物を解体して売りに出す、という話になっているらしい。…俺に、一生ものの収入源ができてしまった。ちなみに、このお金はギルドの「口座」といういわば銀行のようなシステムのところに貯められるらしい。その引き落としは、ギルドカードで可能だ。

 …そういえば、元父親たちはどうしているのだろうか?俺の名前は知っていると思うし、そろそろちょっかいが入ると思っているんだが…。

「まぁ、そういうことですわ。では、私は行かせていただきますわね。まだ仕事が溜まっているので…」
「ああ。ありがとう。……で、リン。お前はなぜそこでこっちを期待の目で見る?」
「いや、そんなに強いなら、ボクと模擬戦してほしいなと…。」
「…まぁ、良いか。どうせ、今日仕事受けるつもりはないし。家はどうする?うち来るか?」
「良いの!?行きます!」

 で、リンを家に連れてくると、エメレが「ご主人様の独り占めという甘露が…」とか言った気もするが、気にしないでおこう。部屋決めの時に騒動が起こったが、うちの屋敷の二階の、右端から二つ目の部屋に決まった。ちなみに、俺の部屋は同じ階の右端だ。

「じゃあ、よろしくお願いします。」
「ああ」
「では、両者構え……。始め!」

 部屋決めが終わると、三人で中庭に移って、エメルに審判をしてもらって模擬戦をすることになった。…一応、本物ではない剣で、しかもエメレが最大強化の光る防壁を体に張ってくれたから、事故は起こり得ない。

 リンの太刀筋は、剣の基本の型に沿っていた。振り下ろし、横薙ぎ、斜め振り下ろし、突きなど。…だが、同時に前世で経験しただろう膨大な戦闘経験が影響しているのか、基本であって基本ではなかった。虚実をいくつも混ぜ、偽りの隙を作り、相手の防壁を崩しに行く。いわば、完全に戦闘に特化した剣だった。…まあ、殺気とかは特にないが。

「だが、まだ甘い。【緑の太刀・春爛漫はるらんまん】。」
「っ!ひゃあ!」
「ご主人様の勝ち!」

 リンがあえて作ったらしい隙に、俺が打ち込むと耐え切れずに倒れた。…ふむ、まあ、俺の前世で知っている人の型とよく似ていると言うのもあって、攻め方がよくわかるな。

 
 りょくの太刀・春爛漫はるらんまん。これは、相手の剣に合わせた、変則的な動きの剣を打ち込むもので、だ。相手を崩し、戦闘を自分の流れに持っていくための剣だが、うまく使わないと、変則的に動く分自分にも影響してしまう。感じとしては、蛇のように剣を操作して打ち込む、突き技のようなものだが…これを前世で説明したときは、全員に「剣はまっすぐで蛇のようには動かない」と言われてしまった。以後、これを真似できた人はいなかった。


「隙をわざと作るのは良いが…その隙で打ち込まれることも予想した上で、その対処までできないとだぞ?」
「うん。もう一回いいかな?」
「ああ。陽が落ちるまではいつまでも。」

 結局、いつのまにか晩御飯を作りに行っていたエメルが俺たちを呼びにくるまで、模擬戦は続いた。

「なにこれ!?美味しい⁉︎」
「いただきます。…本当だな。美味い…。」

 今晩のメニューは、俺が渡した魔物の肉のどれかで作られた、カツだった。…魔物の肉というだけあって、肉厚で、
噛みごたえのある肉の周りに、サクサクしたジューシーなころもがある。うん、本当にうまいな。しかも、さすが聖霊と言ったところか。本来脂でお腹に溜まる料理なのに、ある程度さっぱりとしていてお腹にたまらないが、同時にある程度の脂もあり、この絶妙な感覚が、料理の楽しさを生み出してくれる。そんな肉が、ほかほかに炊かれたお米としっかりマッチしている。エメルは一瞬にして、俺たちの胃袋を掴んだな。

「ごちそうさまでした。…今更だけど、聖霊もご飯食べるんだな。」
「本当は食べなくてもいいんですが、美味しいですし、せっかくのご飯の時間ですから、しっかりいただいておこうと思いまして。あ、そのゴチソウサマというのは何ですか?
「…そうか。まぁ、これからも一緒に食べるといい。ご馳走様は…まぁ、ご飯を食べた後に言う、この一杯のご飯に感謝を、って言う意味で言うんだ。俺の故郷の伝統みたいなものだな。食べるときは、いただきます、と言う。同じように、ここにあるご飯を作ってくれたあらゆる人に感謝を、っていう意味で言う。」
「なるほど!良い話だね!ボクも…ごちそうさまでした。」
「私もですね。ごちそうさまでした。」

 うちの家の子はみんなええ呼やなぁ…と、まぁ前世でも今世でもそんなこと言う歳じゃないな。ご飯を食べたら、風呂に入って寝ることになった。…リンの国には、前世にも風呂に入る習慣がなかったらしく、最初は抵抗していたが、最終的に、エメルと一緒に入ることになって、出てきた時には、「風呂最高!」とまぁ、上機嫌になっていた。…毎日入ると意気込んでいるところを見ると、よっぽど気に入ったみたいだ。

 で、俺も風呂に入ったらリンはもう寝ていた。…元勇者といえども、襲いくる眠気には勝てなかったらしい。ちなみに、俺の魔法は風呂に入っている間に完成した。

 古龍の息吹エンシェントドラゴンブレス、聖霊の魔法、古代プラス現勇者の結界魔法を始め、模擬戦の時に見せてくれた約十個の古代魔法をいらないところの削ぎ落とし、魔法融合、今度は積層合成と、ありとあらゆる手を使って完成させた、魔法ができた。

 …できてしまった。ちなみにこれ、完全に力を発揮したらおそらくだが国一個は数秒で滅ぼせるもので、しかも1秒の魔力の消費が、多くて千、少なかったら八百という常時展開型魔法だ。一応、出力を落としたら、Bランクあたりの冒険者なら耐えられるくらいにまで下げられて、現在はそうしている。攻撃と防御の両方をかなりのスペックで同時使用できる。しかも永続で。

 …ちなみに、普通の魔法使いは伝説というくらい魔力が多くても一万がせいぜいで、魔力の回復は、1秒でその総力の一万分の一だから、この魔法を展開できるのは、単純計算で十秒持ったら良い方だ…だが、そのかわり、一秒でもこれをやると、急激な魔力の使用で魔力回路をこじ開けてしまうので、おそらく数秒で死んでしまうだろう。

 まぁ、展開時に十万ほどの魔力が必要なので、どっちにしろ不可能だろうけど。それと、俺の魔力は四十兆越えなので、1秒の回復量が四十万。…やばいな、俺。やろうと思ったら、この世界の国を余裕で潰せるやん?と言うか、魔力の量の分、身体能力も上がるから、多分剣だけでも国を潰すくらい朝飯前だけどな。

「じゃあエメル。俺も寝るわ。おやすみ。」
「わかりました。おやすみなさい。」

 この日は、この世界にもおやすみっていう言葉はあるんだな~、と意識の薄くなった頭で思いながら眠りに尽いたのだった、
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