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三章「遭遇」
#20 三章エピローグ
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ダンジョン。
二千年前、古の魔術師が魔術師戦争を起こした。
戦争の原因はわからない。ただ戦うことそのものが目的だったのかもしれない。
当時、魔術師とはすなわち貴族だった。
魔石などなくとも世界中に魔素は溢れかえっていて、一部の才能を持った貴族が、魔術師として魔素を利用し、その力を行使した。
貴族たちは、戦いのために巨大な魔法陣を作った。
複雑で、立体的な、他の魔法陣を食いつぶしてより強固となる生きた魔法陣。
それがダンジョンの始まりだったとされている。
作られた目的は今では明らかではない。
一説によると「空間魔術」の最上位魔法である「時空魔法」を作ることが目的だった、とも言われる。
戦いは熾烈を極めた。
魔術師たちはダンジョンを拡張し、より強力な空間魔法を操り、他のダンジョンを取り込むこんでいった。
もちろん、魔術師同士の戦いは、魔術師以外にも多大なる被害を及ぼした。
そのため、魔術を使えない人間も対抗しようとしたが、モンスターを召喚することで対抗された。
世界中のダンジョンが潰し合う中、「最強」と謳われた魔術師が、自動的に階層が拡張される画期的なダンジョンを生み出した。
魔法陣を生み出す機能を持つ魔法陣。より複雑な構造を持つ魔法陣を拡張し続け、さらには魔素を増幅させる「魔術炉」まで兼ね揃えた永久機関。
そのダンジョンは、他の魔術師たちに「時空魔法に一番近いダンジョン」、すなわち「大迷宮」と言われ、恐れられた。
大迷宮は、世界中の魔素をあらかた食い尽くし、すでに「最強の魔術師」本人にも止めることができなかった。
こうなると、もはや戦争のための兵器ではなく、ただの破滅装置だ。
すでに取り込まれたダンジョンから逃げ出した魔術師や、人間が全員で対抗した。
どういった戦いがあったのかは、詳しくはわかっていない。
ただ、わかっている結果として、最強の魔術師は討伐され、自動的に拡張されるダンジョンだけが残った。
* * *
「とまぁ、言い伝えではそういうことになっている」
「じゃ、じゃあ今いるこの迷宮もその「大迷宮」とやらなんですか」
コータの震え声を聞いて、カインは笑う。
「いや、多分ただの昔話じゃないかな」
「そうなんですか?」
「うん。だってその説でいくと、世界にダンジョンは一つしかないことになってしまうけれど、実際には世界中に無数のダンジョンがあるし、また新しいダンジョンが現れることもまれにある。この「最果てのダンジョン」は規模的には世界有数だから、「大迷宮」だったのではないか、という説もなくはないけれど、少なくとも今のところ他のダンジョンと規模以外の違いはない」
カインの言葉にほっとするコータ。
「でも、困ったね」
「はい……」
そうなのだ。原因が何にせよ、大迷宮が何にせよ、目下の問題は、目の前の壁にあるのだ。
「帰れない……」
いつでも帰れると思っていたダンジョンから、帰れなくなってしまった。
皆、涙目だ。
カインも困ったように頭を掻く。
「まさかここに置いていくわけにもいかないしなぁ……」
「お、置いて行かないで下さい! お願いします!」
「お願いします!」
皆、ここにおいていかれることだけは避けようと必死だ。
それはそうだろう、1日分の食事と水しかない状況で、一歩この階層から出れば、到底勝てるわけもないモンスターが闊歩しているという。
置いていかれること、すなわち死であると言っていい。
「心配しなくとも、キミたちを置いていくような真似をするわけがないだろう」
カインは皆をなだめるように言う。
「王国騎士は、王国民のためにある。キミたちがどこ出身なのかは分からないが、少なくとも「Translation(翻訳)」で意思疎通もできる」
まぁ、俺達は王国民ではないけどな。
「だから安心してほしい。決してキミたちを死なせるような真似はしないよ。約束する」
カインは皆の不安を取り除こうとして必死である。
こういうところも変わらないなぁと、俺は感慨深くカインを観察する。
「でも、あたしたちこれからどうしたらいいんでしょう」
「これからどこへ行けばいいのかもわからないし」
「お金もない」
「それ以前に住むところも……」
うっ……と皆の声に嗚咽がまじり始めると、カインは慌てて、
「だ、大丈夫! 王国は子供の味方だ! その従僕である私もキミたちの味方だよ!」
どうやら、子供に泣かれるのが苦手なのも変わっていないらしく、カインは必死にまくし立てる。
「そうだ! 行くところがないなら、落ち着くまでは私の家に来ればいい! なに、狭い家だが、皆が寝泊まりするくらいはできるし、食事くらいは用意するさ! 身元がわからないのでしばらくは外出禁止にはなるが……自立できるようになるまで、私が面倒を見よう!」
おいおいおい。気がいいにも程があるだろ……いいのかそんな安請け合いをして。
それにお前、嫁さんがいたんじゃ……。
「い、いいんですか……?!」
「ああ! 歓迎するよ! もちろん行儀よくしてもらう必要はあるが……なに、キミたちならすぐに、冒険者チームとして自立できる! それまで辛抱してくれ!」
こうしてカインの必死の説得により、秘密基地メンバーはカインの家の世話になることになった。
――いやいやいや。
皆わかってるのか?
カインの家があるってことは、つまり、今から向かうの先は、お前たちの言うところの「異世界」だぞ……?
二千年前、古の魔術師が魔術師戦争を起こした。
戦争の原因はわからない。ただ戦うことそのものが目的だったのかもしれない。
当時、魔術師とはすなわち貴族だった。
魔石などなくとも世界中に魔素は溢れかえっていて、一部の才能を持った貴族が、魔術師として魔素を利用し、その力を行使した。
貴族たちは、戦いのために巨大な魔法陣を作った。
複雑で、立体的な、他の魔法陣を食いつぶしてより強固となる生きた魔法陣。
それがダンジョンの始まりだったとされている。
作られた目的は今では明らかではない。
一説によると「空間魔術」の最上位魔法である「時空魔法」を作ることが目的だった、とも言われる。
戦いは熾烈を極めた。
魔術師たちはダンジョンを拡張し、より強力な空間魔法を操り、他のダンジョンを取り込むこんでいった。
もちろん、魔術師同士の戦いは、魔術師以外にも多大なる被害を及ぼした。
そのため、魔術を使えない人間も対抗しようとしたが、モンスターを召喚することで対抗された。
世界中のダンジョンが潰し合う中、「最強」と謳われた魔術師が、自動的に階層が拡張される画期的なダンジョンを生み出した。
魔法陣を生み出す機能を持つ魔法陣。より複雑な構造を持つ魔法陣を拡張し続け、さらには魔素を増幅させる「魔術炉」まで兼ね揃えた永久機関。
そのダンジョンは、他の魔術師たちに「時空魔法に一番近いダンジョン」、すなわち「大迷宮」と言われ、恐れられた。
大迷宮は、世界中の魔素をあらかた食い尽くし、すでに「最強の魔術師」本人にも止めることができなかった。
こうなると、もはや戦争のための兵器ではなく、ただの破滅装置だ。
すでに取り込まれたダンジョンから逃げ出した魔術師や、人間が全員で対抗した。
どういった戦いがあったのかは、詳しくはわかっていない。
ただ、わかっている結果として、最強の魔術師は討伐され、自動的に拡張されるダンジョンだけが残った。
* * *
「とまぁ、言い伝えではそういうことになっている」
「じゃ、じゃあ今いるこの迷宮もその「大迷宮」とやらなんですか」
コータの震え声を聞いて、カインは笑う。
「いや、多分ただの昔話じゃないかな」
「そうなんですか?」
「うん。だってその説でいくと、世界にダンジョンは一つしかないことになってしまうけれど、実際には世界中に無数のダンジョンがあるし、また新しいダンジョンが現れることもまれにある。この「最果てのダンジョン」は規模的には世界有数だから、「大迷宮」だったのではないか、という説もなくはないけれど、少なくとも今のところ他のダンジョンと規模以外の違いはない」
カインの言葉にほっとするコータ。
「でも、困ったね」
「はい……」
そうなのだ。原因が何にせよ、大迷宮が何にせよ、目下の問題は、目の前の壁にあるのだ。
「帰れない……」
いつでも帰れると思っていたダンジョンから、帰れなくなってしまった。
皆、涙目だ。
カインも困ったように頭を掻く。
「まさかここに置いていくわけにもいかないしなぁ……」
「お、置いて行かないで下さい! お願いします!」
「お願いします!」
皆、ここにおいていかれることだけは避けようと必死だ。
それはそうだろう、1日分の食事と水しかない状況で、一歩この階層から出れば、到底勝てるわけもないモンスターが闊歩しているという。
置いていかれること、すなわち死であると言っていい。
「心配しなくとも、キミたちを置いていくような真似をするわけがないだろう」
カインは皆をなだめるように言う。
「王国騎士は、王国民のためにある。キミたちがどこ出身なのかは分からないが、少なくとも「Translation(翻訳)」で意思疎通もできる」
まぁ、俺達は王国民ではないけどな。
「だから安心してほしい。決してキミたちを死なせるような真似はしないよ。約束する」
カインは皆の不安を取り除こうとして必死である。
こういうところも変わらないなぁと、俺は感慨深くカインを観察する。
「でも、あたしたちこれからどうしたらいいんでしょう」
「これからどこへ行けばいいのかもわからないし」
「お金もない」
「それ以前に住むところも……」
うっ……と皆の声に嗚咽がまじり始めると、カインは慌てて、
「だ、大丈夫! 王国は子供の味方だ! その従僕である私もキミたちの味方だよ!」
どうやら、子供に泣かれるのが苦手なのも変わっていないらしく、カインは必死にまくし立てる。
「そうだ! 行くところがないなら、落ち着くまでは私の家に来ればいい! なに、狭い家だが、皆が寝泊まりするくらいはできるし、食事くらいは用意するさ! 身元がわからないのでしばらくは外出禁止にはなるが……自立できるようになるまで、私が面倒を見よう!」
おいおいおい。気がいいにも程があるだろ……いいのかそんな安請け合いをして。
それにお前、嫁さんがいたんじゃ……。
「い、いいんですか……?!」
「ああ! 歓迎するよ! もちろん行儀よくしてもらう必要はあるが……なに、キミたちならすぐに、冒険者チームとして自立できる! それまで辛抱してくれ!」
こうしてカインの必死の説得により、秘密基地メンバーはカインの家の世話になることになった。
――いやいやいや。
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