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四章「帰還」
#1
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「「「「おおおおおおお~~~~~」」」」
ダンジョンの外に出て広がる風景を見て、全員がぽかんと口を開けている。
「すげぇ! なぁ、異世界だぞ、異世界!」
「異世界? 本当にここが異世界なの?」
「間違いないよ! だってどう見たって日本じゃないもん!」
「ヤバいね……!」
みんな興奮を抑えられないようだ。
「こらこら、走り出さないでくれよ」
カインが苦笑しながら皆に釘を差している。
ぼくはといえば、
(懐かしい……見覚えはないはずなのに、ぼくはこの町並みを知っている)
明るく穏やかな風景。
荷車や馬車が往来していて、活気がある。
石畳の広い大通りと、両脇に立ち並ぶ木造と石造りが組み合わさったような建物。
建物と建物のあいだに張られたロープには、風にふかれて揺れる洗濯物。
建物の前は歩道となっていて、野菜や果物、色とりどりの花なんかが山積みになった露天が並んでいる。 平和そうに笑う人々。
そんな風景を見て、ぼくは胸が締め付けられる。
――――ああ、ぼくは帰ってきたんだ。
▽
たった一時間前、ダンジョンてみんな震えていた。
「それじゃ、一旦先に行って、キミたちのことを伝えてくる。決してここを動くんじゃないよ?」
カインの言葉に、皆が動揺した。
「お、置いていかないでください!」
「大丈夫、王国騎士は決して嘘をつかない! ほんの数分で戻ってくる。約束しよう」
カインがそう言って笑うが、すぐに安心できるものでもない。
「で、でも、もし帰ってこなかったら……」
「ぼくたち死んじゃう……」
ぐす……と泣き声が響く。
カインはわたわたと慌てて、
「うーん、でもポータルは、未登録の人間は同時に二人までしか通れないんだよね……みんなを一度に連れて行くわけにはいかないんだ」
「それじゃ、カインさん」
オレは手を上げて提案した。
「誰か一人を連れて行ってもらえませんか?」
「うん? それは別に構わないけれど、そんなことで安心できるのかい?」
「ええ、一人で行ってしまわれるよりは、一人ずつ送り迎えしてもらえるほうが、皆は安心できると思います」
ぼくが言うと、カインは少し考える素振りを見せて、「じゃあ、誰から行く?」と言った。
「……オレが行く」
ケンゴが意を決したように言った。
「オレはリーダーだ。お前たちを見捨てたりしない。……オレを信じてくれるか?」
「う、うん」
「まぁ、ケンゴなら大丈夫かな……」
「待ってるね」
皆、文句はないようだ。
「決まったようだね」
カインは俺たちを見て、なぜか嬉しそうに笑った。 どうやら子どもたちの信頼関係を見て懐かしくなったらしい。
「じゃあちょっと言ってくるよ。そうだな……ゆっくりと三百数えるくらいの時間で帰ってこれると思う」
「分かりました」
「ケンゴ君と言ったね。じゃあ行こうか」
「は、はいっ!」
カインがケンゴの肩に手を置くと、二人がパッと光り、あっという間に消えてしまった。
「消えたっ?!」
「ケンゴ!?」
「慌てるなくていい」
いきなり消えたことでコータとアリサが慌て始めたので、落ち着かせる。
「ポータルとはああいうものだ。数分で帰ってくると言っていたから、お前たちもすぐに体験することになるさ」
「……ダイチ君は体験したことがあるの?」
カナがオレをちらりと見て言った。
「ああ、ダンジョン探索にはなくてはならないものだからな。俺たちのように、歩いてダンジョンに入ることなど、普通はないぞ」
「そうなんだ……」
「うん? どうした、カナ」
「ううん、なんでもない」
カナがニッコリとオレに笑いかける。
なにか含むところの有りそうな表情だが、まぁいい。
「それと、ケンゴはわかってない様子だったが、お前たち。今から俺たちが行くのが、俺たちからすれば『異世界』だということは理解してるか?」
オレがそう言うと、コータとアリサはキョトンとした顔をした。
「異世界?」
「……そう言えば」
「あたしはわかってたけど」
カナだけはちょっと呆れたように肩をすくめているが、コータとアリサはブルブルと震え始める。
「すげぇ……そうか、ぼくたち、今から異世界に行くんだ……!」
「……異世界……冒険……」
何やらブツブツ言っているが、大丈夫か?
「……カナ。お前は落ち着いてるんだな」
「うん。だってダイチ君は向こうの人なんでしょ?」
「ん? ああいや、どうなんだろうな……」
そんなことを言っていると、ケンゴたちが消えたあたりに、人の形の光が現れる。
「おまたせ! 仮入国の許可を取ってきたよ」
「カインさん!」
カインの顔を見て、コータとアリサがホッとする。 信頼していなかったわけではないが、それでも不安だったのだろう。
「じゃあ、次は誰が行く?」
「あたし! あたしが行く!」
アリサがバッと手を挙げる。
「わかった、それじゃあ行こうか」
そう言ってカインがアリサの方に手を置くと、先ほどと同じように二人がぱっと光ってあっけなく消える。
「……アリサさん、ケンゴのことが心配だったんだろうな」
コータがポツリとつぶやくと、カナが吹き出した。
ダンジョンの外に出て広がる風景を見て、全員がぽかんと口を開けている。
「すげぇ! なぁ、異世界だぞ、異世界!」
「異世界? 本当にここが異世界なの?」
「間違いないよ! だってどう見たって日本じゃないもん!」
「ヤバいね……!」
みんな興奮を抑えられないようだ。
「こらこら、走り出さないでくれよ」
カインが苦笑しながら皆に釘を差している。
ぼくはといえば、
(懐かしい……見覚えはないはずなのに、ぼくはこの町並みを知っている)
明るく穏やかな風景。
荷車や馬車が往来していて、活気がある。
石畳の広い大通りと、両脇に立ち並ぶ木造と石造りが組み合わさったような建物。
建物と建物のあいだに張られたロープには、風にふかれて揺れる洗濯物。
建物の前は歩道となっていて、野菜や果物、色とりどりの花なんかが山積みになった露天が並んでいる。 平和そうに笑う人々。
そんな風景を見て、ぼくは胸が締め付けられる。
――――ああ、ぼくは帰ってきたんだ。
▽
たった一時間前、ダンジョンてみんな震えていた。
「それじゃ、一旦先に行って、キミたちのことを伝えてくる。決してここを動くんじゃないよ?」
カインの言葉に、皆が動揺した。
「お、置いていかないでください!」
「大丈夫、王国騎士は決して嘘をつかない! ほんの数分で戻ってくる。約束しよう」
カインがそう言って笑うが、すぐに安心できるものでもない。
「で、でも、もし帰ってこなかったら……」
「ぼくたち死んじゃう……」
ぐす……と泣き声が響く。
カインはわたわたと慌てて、
「うーん、でもポータルは、未登録の人間は同時に二人までしか通れないんだよね……みんなを一度に連れて行くわけにはいかないんだ」
「それじゃ、カインさん」
オレは手を上げて提案した。
「誰か一人を連れて行ってもらえませんか?」
「うん? それは別に構わないけれど、そんなことで安心できるのかい?」
「ええ、一人で行ってしまわれるよりは、一人ずつ送り迎えしてもらえるほうが、皆は安心できると思います」
ぼくが言うと、カインは少し考える素振りを見せて、「じゃあ、誰から行く?」と言った。
「……オレが行く」
ケンゴが意を決したように言った。
「オレはリーダーだ。お前たちを見捨てたりしない。……オレを信じてくれるか?」
「う、うん」
「まぁ、ケンゴなら大丈夫かな……」
「待ってるね」
皆、文句はないようだ。
「決まったようだね」
カインは俺たちを見て、なぜか嬉しそうに笑った。 どうやら子どもたちの信頼関係を見て懐かしくなったらしい。
「じゃあちょっと言ってくるよ。そうだな……ゆっくりと三百数えるくらいの時間で帰ってこれると思う」
「分かりました」
「ケンゴ君と言ったね。じゃあ行こうか」
「は、はいっ!」
カインがケンゴの肩に手を置くと、二人がパッと光り、あっという間に消えてしまった。
「消えたっ?!」
「ケンゴ!?」
「慌てるなくていい」
いきなり消えたことでコータとアリサが慌て始めたので、落ち着かせる。
「ポータルとはああいうものだ。数分で帰ってくると言っていたから、お前たちもすぐに体験することになるさ」
「……ダイチ君は体験したことがあるの?」
カナがオレをちらりと見て言った。
「ああ、ダンジョン探索にはなくてはならないものだからな。俺たちのように、歩いてダンジョンに入ることなど、普通はないぞ」
「そうなんだ……」
「うん? どうした、カナ」
「ううん、なんでもない」
カナがニッコリとオレに笑いかける。
なにか含むところの有りそうな表情だが、まぁいい。
「それと、ケンゴはわかってない様子だったが、お前たち。今から俺たちが行くのが、俺たちからすれば『異世界』だということは理解してるか?」
オレがそう言うと、コータとアリサはキョトンとした顔をした。
「異世界?」
「……そう言えば」
「あたしはわかってたけど」
カナだけはちょっと呆れたように肩をすくめているが、コータとアリサはブルブルと震え始める。
「すげぇ……そうか、ぼくたち、今から異世界に行くんだ……!」
「……異世界……冒険……」
何やらブツブツ言っているが、大丈夫か?
「……カナ。お前は落ち着いてるんだな」
「うん。だってダイチ君は向こうの人なんでしょ?」
「ん? ああいや、どうなんだろうな……」
そんなことを言っていると、ケンゴたちが消えたあたりに、人の形の光が現れる。
「おまたせ! 仮入国の許可を取ってきたよ」
「カインさん!」
カインの顔を見て、コータとアリサがホッとする。 信頼していなかったわけではないが、それでも不安だったのだろう。
「じゃあ、次は誰が行く?」
「あたし! あたしが行く!」
アリサがバッと手を挙げる。
「わかった、それじゃあ行こうか」
そう言ってカインがアリサの方に手を置くと、先ほどと同じように二人がぱっと光ってあっけなく消える。
「……アリサさん、ケンゴのことが心配だったんだろうな」
コータがポツリとつぶやくと、カナが吹き出した。
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