思い出に花を、君に唄を

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待っていられない

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 「なにやってんだい!?あんた達!」
 後輩の体を持ち上げた俺達にそんな言葉が飛んできた。
 「何って、こいつを病院に連れていくんだよ」
 「あんた正気か?さっきあの人が連れていかれてしまったところだっていうのに、それでも外に出るって言うのかい?おとなしく、救助を待った方がいいんじゃないか?」
 彼の言っていることにも一理ある。
 外に出たとして、あの男に出くわしてしまえば、みすみす殺されに行くようなもんだ。
 「それでも、俺はコイツを病院に連れて行くよ」
 「だから、殺されに行くようなもんだって行ってるだろ!」
 男は特に言葉を交わしてもいないのに、怒っていた。どちらかというと、パニックを起こしている。
 回りを見渡せば、みんなが疲れた顔をしている。
 それはそうだ。
 こんな、理解を越えるような出来事は人生で一度経験するかどうかのものだ。無理もない。
 状況も分からず、目の前で衝撃的なことが起きた。それを受け止めて、理解し、冷静に行動しろという方が無理だろう。
 「頼む、行かせてくれ。こいつを見捨てるなんて、俺には出来ない」
 俺は、正々堂々と頼んだ。
 きっと、彼は俺よりも役職も、年齢も下だろう。でも、こうなってしまった今、そんなことも言っていられない。
 だから、精一杯の誠意を示した。
 「行かせてやりなよ。別にあたしらが行く訳じゃないんだ。もしかしたら、この人がついでに助けを呼んでくれるかもしれない。そうですよね?」
 野次馬の中の一人が歩み寄ってきて、場を納めようとしてきた。もしかしたら、本当に助けてほしいだけなのかもしれない。
 どっちでもいいが、これはチャンスだ。
 「外に出て、無事だったら助けを呼んでくる。だから、行かせてくれ!このままでは埒が明かないことぐらいは分かるだろ?」
 野次馬達の目を見て訴える。
 もちろん全員が納得するわけでは無いだろう。
 でも、この中の1/3でも納得してくれれば、後は身を任せるだけでなんとかなる。
 少なくとも、俺はそう踏んでいる。
 「……」
 「……」
 「……」
 沈黙は続いた。
 それはそうだろう。
 彼らはどこまで行ったって野次馬なのだ。
 自分から発言するということは無いだろう。
 回りを見渡せば、何かを言いたそうな奴。目をそらす奴。興味の無さそうな奴。三者三様だ。
 「行けよ……」
 そんな中、さっきまで異を唱えていた男が口を開いた。
 その言葉は全体にも響いたようで、場の空気が行かせてくれるような気さえした。
 「ありがとう!」
 俺は礼を言うと、目配せをして後輩を持ち上げた。
 後輩は、もう自分で立つことすらままならない。
 「がんばれ……もう少しで病院に連れていってやるからな。そこまでは死ぬなよ」
 俺は、力無き後輩に言葉を投げ続ける。
 正直、聞こえているかどうかは分からない。
 状態を見るに、聞こえてはいないだろうが。
 それでも、声をかけ、運ぶ。
 「……約束は守れよ」
 俺達がエレベーターに向かっていると、後ろからそんな声がした。
 やはり彼らも不安のようだ。
 全員が俺達を見ている。
 まるで、よく見る映画のワンシーンだ。
 「必ず……」
 その一言だけ残して、俺達はエレベーターに乗った。
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