15 / 20
迷い込んだ蜃気楼
しおりを挟む
エレベーターの中は静かだった。
自分の心臓の音、周りの息づかいが聞こえるほどに。
チンという音と共に静寂は破られ、エレベーターの扉がゆっくりと開かれる。
この時点でナイフを持ったあの男がいれば、一貫の終わりだ。
だが、開かれた扉の先には、誰も居なかった。
ナイフを持ったあの男も、襲われていた救急隊員でさえも、居なかった。
「と、とりあえず助かったのか?」
付いてきてくれた一人が安堵の声を上げる。
確かにこの状況を見れば、襲われることがないのだけは分かる。
「ううぅ……」
そうこう考えを巡らせているうちに、後輩が苦しそうな声を上げた。
「悩んだって仕方がない。先に進もう」
回りに一声掛けて、俺達は苦しそうな後輩を抱えて歩き出した。
それにしても妙だ。
パトカーや救急車から、サイレンの音は鳴っているというのに、警官や救急隊員が居ない。まるで、人がみんな消えてしまったように思えた。
車が通っている気配もない。
「一体何がどうなっているんだ?」
言ったところで仕方がないが、そう言わずにはいられない。
「ここから病院まではそれなりに距離がありますが、どうやって行きますか?」
一人が当然の疑問を口にする。
ここから病院まではそれなりに距離があるため、いくら一人ではないとは言え、そこまで後輩を担いでいくのは無理がある。
「俺の車を使う。駐車場に停めてあるから、とりあえずそこまで行こう。」
皆、異論は無いようだ。
確認を済ませて歩き出した時、足に何かが当たった。
「何だ?」
視線を向けると、俺はあまりの光景に歩くはずの足が止まった。
「うわあぁぁぁぁ!」
周りも同じものを見て、声をあげたり、腰を抜かしたりと様々な反応を見せる。
無理もないだろう。
だって、人が床に綺麗に並べられているのだから。
後輩を抱えることに必死で気が付かなかった。
「な、何なんですかこれは!?」
そう聞かれるが、俺が聞きたい。
並べられているのは、総勢で二十人程。
警察官に救急隊員、連れさらわれた上司までもが法則に沿って並べられている。
ナイフの男だけでも現実味が無いというのに、こんな光景まで見てしまったら、本当に現実なのか疑いたくなる。
俺はもしかしたら、夢を見ているのかもしれない。
そう考えれば全てに納得がいく。
襲われた後輩。ナイフを持った男。綺麗に並べられた人たち。こんな異常事態が同時に起きるなんてことが現実にあるだろうか?それこそフィクションの中でしか起きないだろう。だとするのならば、これは紛れもないフィクションだ。
俺は確信に至った。
「いたなたたないたな。さんんかああんひいいぃ」
気付いた時には、目の前にナイフを持った男が立っていた。
相も変わらず、何を話しているのかは分からない。
「お前も、現実じゃないんだろう?」
言葉が通じるのかすら分からないが、俺は問いかけた。
「んんんん」
ナイフを持った男は、満面の笑みを浮かべた。
これで決まりだ。
後は、どうやって現実に戻るのか?という問題を片付けなければならない。
1つずつ問題を片付けようと思考を巡らせていた俺は、痛みによって思考を止められた。
「ひひひひひい」
痛みのする方を見ると、男が握っていたナイフが、俺の腹に突き刺さっていた。
自分の心臓の音、周りの息づかいが聞こえるほどに。
チンという音と共に静寂は破られ、エレベーターの扉がゆっくりと開かれる。
この時点でナイフを持ったあの男がいれば、一貫の終わりだ。
だが、開かれた扉の先には、誰も居なかった。
ナイフを持ったあの男も、襲われていた救急隊員でさえも、居なかった。
「と、とりあえず助かったのか?」
付いてきてくれた一人が安堵の声を上げる。
確かにこの状況を見れば、襲われることがないのだけは分かる。
「ううぅ……」
そうこう考えを巡らせているうちに、後輩が苦しそうな声を上げた。
「悩んだって仕方がない。先に進もう」
回りに一声掛けて、俺達は苦しそうな後輩を抱えて歩き出した。
それにしても妙だ。
パトカーや救急車から、サイレンの音は鳴っているというのに、警官や救急隊員が居ない。まるで、人がみんな消えてしまったように思えた。
車が通っている気配もない。
「一体何がどうなっているんだ?」
言ったところで仕方がないが、そう言わずにはいられない。
「ここから病院まではそれなりに距離がありますが、どうやって行きますか?」
一人が当然の疑問を口にする。
ここから病院まではそれなりに距離があるため、いくら一人ではないとは言え、そこまで後輩を担いでいくのは無理がある。
「俺の車を使う。駐車場に停めてあるから、とりあえずそこまで行こう。」
皆、異論は無いようだ。
確認を済ませて歩き出した時、足に何かが当たった。
「何だ?」
視線を向けると、俺はあまりの光景に歩くはずの足が止まった。
「うわあぁぁぁぁ!」
周りも同じものを見て、声をあげたり、腰を抜かしたりと様々な反応を見せる。
無理もないだろう。
だって、人が床に綺麗に並べられているのだから。
後輩を抱えることに必死で気が付かなかった。
「な、何なんですかこれは!?」
そう聞かれるが、俺が聞きたい。
並べられているのは、総勢で二十人程。
警察官に救急隊員、連れさらわれた上司までもが法則に沿って並べられている。
ナイフの男だけでも現実味が無いというのに、こんな光景まで見てしまったら、本当に現実なのか疑いたくなる。
俺はもしかしたら、夢を見ているのかもしれない。
そう考えれば全てに納得がいく。
襲われた後輩。ナイフを持った男。綺麗に並べられた人たち。こんな異常事態が同時に起きるなんてことが現実にあるだろうか?それこそフィクションの中でしか起きないだろう。だとするのならば、これは紛れもないフィクションだ。
俺は確信に至った。
「いたなたたないたな。さんんかああんひいいぃ」
気付いた時には、目の前にナイフを持った男が立っていた。
相も変わらず、何を話しているのかは分からない。
「お前も、現実じゃないんだろう?」
言葉が通じるのかすら分からないが、俺は問いかけた。
「んんんん」
ナイフを持った男は、満面の笑みを浮かべた。
これで決まりだ。
後は、どうやって現実に戻るのか?という問題を片付けなければならない。
1つずつ問題を片付けようと思考を巡らせていた俺は、痛みによって思考を止められた。
「ひひひひひい」
痛みのする方を見ると、男が握っていたナイフが、俺の腹に突き刺さっていた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる