思い出に花を、君に唄を

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夢現の中に

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 これは本当に現実なのだろうか?
 そんな考えがずっと頭から離れない。
 腹に刺さっているナイフを見ても、その考えがこびりついている。
 「おまえはだれだ?」
 頭の中を知っているような口ぶりで、目の前の男は俺に疑問を投げ掛けた。
 今まで、この世界のものとは思えないような言葉を発していたと言うのに、男はいきなり俺の知っている言語で話し始めた。
 「なぜいきている?」
 男はなおも、続けて問いかけてくる。
 「なぜしりたくない?」
 男の投げ掛ける疑問に俺は何1つ答えられない。
 その答えを俺は持っていない。
 「お前は誰だ?」と聞かれたところで、自分が一体誰なのかも分からない。
 「なぜ生きている?」と聞かれても、ただ時間だけを無駄に過ごしているようにしか思えない。
 「なぜ知りたくない?」と聞かれても、俺は一体全体何を知ればいいというのだ?
 自分の名前も、後輩の名前も分からない。
 男の疑問に、俺は何1つ答えられるような答えを持ち合わせていない。
 刺された箇所から血が流れ出ているのを感じる。
 きっと、重傷なのだろう。ナイフは持ったよりも深く刺さっさっており、このままでは俺の命は間もなく尽きる。
 誰かに聞いたわけでもないが、何故だか分かる。
 だが、どうにも逃げる気になれない。
 怖い。痛い。死にたくない。そんな感情が今は微塵も無い。ただ、疲れた。
 この目まぐるしい非日常に。
 ただ、同じことを繰り返しているだけの日常に。
 俺は疲れてしまった。
 「もう、いいんじゃないか?」
 目の前の男は俺に再び問いかけた。
 確かに、もういいかもしれない。
 目が覚めたっていつもと同じだ。ただ、淡々と毎日が進んでいくだけ。
 「確かに。もう、いいかもしれないな」
 「そうだろう?」
 俺は男の意見に同意した。
 この男が正しかった。
 生きていたって、いいことなんて無い。
 生きていたって我慢をするばかりだ。
 こんなことなら、いっそ。
 終わらせた方がいいに決まっている。
 男が腹に刺さったなナイフを押し込もうとしているのが分かる。
 これから、俺は死ぬのだ。
 だがこれは、別に悪いことではない。
 何も考えなくてよくなる魔法のようなものだ。
 皆がときめいて止まない、夢の国に行くのだ。
 もう、苦しまなくていい。
 もう、悩まなくていい。
 もう、何も考えなくていい。
 「先輩!」
 全てを投げ捨て、全てを終わらせようとしていた俺を誰かが呼び止める。
 聞き覚えのある声に俺はとっさに振り向いた。
 やはり、さっきまで意識を失っていたはずの俺の後輩だった。
 あいも変わらず顔色は悪いが、意識はハッキリしているようだ。
 「娘さんのために、授業参観に行くんでしょ!」
 後輩は必死に叫んでいた。
 「そうだ。真理のために、授業参観に行かなければ」
 頭がすっきりした。
 やるべきことが分かった俺は、ナイフを突き立てている男を殴った。
 「こんな事をしている場合じゃないんだ。そこをどいてくれ!」
 「ささっかいいわぎぎあいいな」
 男の口からはもう、日本語が聞こえることは無かった。
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