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第三章:潮目
騎士団育成計画(2)
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まずは騎士団の実態を把握するため、鍛錬の風景を隠れた場所から見させてもらうことにした。
「なるほど。これは……ひどいわね」
バスティエ伯爵の言いたかったことはすぐに理解できた。
剣戟の音は激しいものの、腕の力に頼っていて足元が安定していない。無理な体勢で打ち合うからすぐに疲れて休んでしまう。その休みの頻度も非常に多く、休む暇などない戦場に立てばすぐに息切れするはずだ。
「下半身の使い方というのはとても重要よ。うまく使えば腕の力だけで剣を振るよりはるかに強い威力を出すことができる。逆に言えば、下半身が安定していないと相手の威力に押し負けて体勢を崩してしまう。だけど、腰を落としたまま撃ち合い続けるのはとても疲労しやすい。だからこそ日頃の鍛錬で意識して使い込むようにしないといけないんだけど……それができていないようね」
見ると、一部にはきちんと下半身を使った剣で相手を圧倒している者もいる。しかし、負かされた相手はそれを気にしていないように打ち合いを続けているようで。
「戦争が起きないと高をくくって、手を抜いている者がいることは明らかね。このまま私がなにを言っても、彼らは聞き入れてはくれないでしょう。せいぜい私がいる間だけ頑張って、私がいなくなったらすぐに緩むでしょうね」
「では、どうすれば……」
バスティエ伯爵が不安げに問うてきた。私はにやりと笑みを浮かべる。
「戦争が起きないと思っているなら……起こしてあげましょう、戦争を」
執務室に戻り、私は思いついた計画をバスティエ伯爵に伝える。
「いけませんお嬢様、危険すぎます!」
真っ先に反応したのは、伯爵ではなくクラリスだった。
「私が危険かどうかはこの際重要ではないわ。だって、私は負けないもの」
クラリスの懸念を、私は真っ向からはじき返す。私がバスティエ騎士団の騎士たちに負けないことは大前提であり、それを疑問に挟むことはしたくない。
「最初から全力を出した私が、彼らに負けると思う?」
「思いません! ですが、万が一ということもあります」
「そのときは、あなたが守ってちょうだい。クラリスも私陣営に入ればいいわ」
「……わかりました。では、そのように」
しぶしぶといった様子でクラリスが引き下がる。
「私も反対だ。あなた様に危険がおよぶやり方までは望まない」
「いいえ、他に手段はありません。口先だけでは、彼らが変わらなければならないことを心の底から理解することはできないですから」
伯爵の反対も意に介さない。私はこれ以上計画を緩めるつもりはなかった。
その後もいくらか問答はあったものの、折れない私の姿勢に追及を断念して。
「御身に危険が及ばないよう、万全を尽くす」
という伯爵の妥協案を飲む形で決着がついた。
「ありがとうございます。では……行きましょうか。戦争に」
レイジから預かった剣を腰に提げて、私は力強く言い放った。
……これは余談だが、鍛錬場に向かう道中でクラリスがぼそっと耳打ちしてきた、
「お嬢様、ちょっとずつ殿下に似てきましたね」
という発言については心外だと言っておきたい。
「なるほど。これは……ひどいわね」
バスティエ伯爵の言いたかったことはすぐに理解できた。
剣戟の音は激しいものの、腕の力に頼っていて足元が安定していない。無理な体勢で打ち合うからすぐに疲れて休んでしまう。その休みの頻度も非常に多く、休む暇などない戦場に立てばすぐに息切れするはずだ。
「下半身の使い方というのはとても重要よ。うまく使えば腕の力だけで剣を振るよりはるかに強い威力を出すことができる。逆に言えば、下半身が安定していないと相手の威力に押し負けて体勢を崩してしまう。だけど、腰を落としたまま撃ち合い続けるのはとても疲労しやすい。だからこそ日頃の鍛錬で意識して使い込むようにしないといけないんだけど……それができていないようね」
見ると、一部にはきちんと下半身を使った剣で相手を圧倒している者もいる。しかし、負かされた相手はそれを気にしていないように打ち合いを続けているようで。
「戦争が起きないと高をくくって、手を抜いている者がいることは明らかね。このまま私がなにを言っても、彼らは聞き入れてはくれないでしょう。せいぜい私がいる間だけ頑張って、私がいなくなったらすぐに緩むでしょうね」
「では、どうすれば……」
バスティエ伯爵が不安げに問うてきた。私はにやりと笑みを浮かべる。
「戦争が起きないと思っているなら……起こしてあげましょう、戦争を」
執務室に戻り、私は思いついた計画をバスティエ伯爵に伝える。
「いけませんお嬢様、危険すぎます!」
真っ先に反応したのは、伯爵ではなくクラリスだった。
「私が危険かどうかはこの際重要ではないわ。だって、私は負けないもの」
クラリスの懸念を、私は真っ向からはじき返す。私がバスティエ騎士団の騎士たちに負けないことは大前提であり、それを疑問に挟むことはしたくない。
「最初から全力を出した私が、彼らに負けると思う?」
「思いません! ですが、万が一ということもあります」
「そのときは、あなたが守ってちょうだい。クラリスも私陣営に入ればいいわ」
「……わかりました。では、そのように」
しぶしぶといった様子でクラリスが引き下がる。
「私も反対だ。あなた様に危険がおよぶやり方までは望まない」
「いいえ、他に手段はありません。口先だけでは、彼らが変わらなければならないことを心の底から理解することはできないですから」
伯爵の反対も意に介さない。私はこれ以上計画を緩めるつもりはなかった。
その後もいくらか問答はあったものの、折れない私の姿勢に追及を断念して。
「御身に危険が及ばないよう、万全を尽くす」
という伯爵の妥協案を飲む形で決着がついた。
「ありがとうございます。では……行きましょうか。戦争に」
レイジから預かった剣を腰に提げて、私は力強く言い放った。
……これは余談だが、鍛錬場に向かう道中でクラリスがぼそっと耳打ちしてきた、
「お嬢様、ちょっとずつ殿下に似てきましたね」
という発言については心外だと言っておきたい。
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