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第四章:開花
私の望んだ幸せ(2)
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「今のうちに、殿下のお耳に入れたいことがございます」
「聞こう」
私の変化に気づいた殿下は、すぐに表情を引き締めて先を促す。
「ステラリアと殿下が婚約したことはイクリプス王室にもお伝えいただいたと思いますが……その後から王宮の様子がきな臭いようなのです」
「きな臭い、とは?」
「イクリプス王国の王太子……オースティン第一王子の荒れた姿を見るようになったと息子から連絡があったのです。実は、オースティン殿下は十年ほど前からステラリアを婚約者にしたいと打診してきておりました」
レイジ殿下は言葉を失ったようだった。私は目を伏せて言葉を続ける。
「王室との婚姻となれば家門としては国内に強い影響力を持つことができます。ですが、我が領は帝国との衝突が相次いでおり、貴重な戦力であるステラリアを戦場から離すことはできませんでした。オースティン殿下はステラリアが戦場に出ても構わないと言いましたが、戦場で命を落とすことも起きうる中で婚姻するのは適切でないとして、婚約は戦争が終結するまでお待ちいただいていたのです」
「そういう、ことだったのか……」
殿下がつぶやく。ステラリアから事前に聞き出していたのだろう。
「しかし、戦争終結後、帝国がステラリアの身柄を要求しました。私だけでなく王室がステラリアを引き渡すことを強硬に拒否していたのは、ステラリアとの婚姻をオースティン殿下が諦めていなかったからでしょう。結果的にステラリアの引き渡しは確定となり、オースティン殿下も諦めたと思っていたのですが……」
「俺が、ステラリアと婚約したことを知ってしまった」
「そのとおりです。それ以降、オースティン殿下の様子がおかしいようだと、具体的には感情的になり、過激な発言が増えたと息子から連絡がありました」
「確か、ステラの弟……アランは王都の学園に通っているんだったか。どうやってその情報を手に入れたのだ?」
「アランは学生の身ですが、たびたび王宮に出入りして行政官の指導を受けているのです。公爵家の跡取りとして優れた人物になれるようにという国王からのお達しだったのですが、ディゼルド家に恩を売る意図があったのかもしれません」
「ふむ……気に留めておこう」
レイジ殿下は小さくうなずき、何事か考えているようだった。
---
久しぶりに訪れた自室を懐かしみながら、化粧を直した私は再び談話室を訪れた。
「大変お見苦しいところをお見せしました」
「いやなに、久しぶりの実家なんだ、そういうこともあるだろう」
父上はにこやかに笑い、レイジも神妙な面持ちでうなずいた。神妙な……?
「どうしたの、レイジ?」
「いやなに、これからあの騎士団の奴らをどう蹴散らすか考えていたところだ」
レイジはすぐにいたずらな笑みを浮かべる。不安そうに見えたのは私の気のせいだっただろうか……?
「帝国との国境を守る必要がなくなっても、ルナリア王国や他の脅威から国を守るために騎士団が必要であることには変わりないんだから、あまり無茶なことはしないでちょうだい」
「もちろんだ。そんなことをしたらステラが悲しむからな」
私の髪をひと房手に取ると、さらっとなでるように滑らせる。その表情には年齢以上の色香が満ちていて、私は思わず顔を逸らしてしまう。
「はっはっは。いいものを見た。さて、俺たちはそろそろ次に向かうとしようか」
「わかったわ。父上、また会場で」
私はレイジと連れだってディゼルド公爵邸を後にする。
ひとくちにディゼルド領といっても、公爵領は広い。パーティー会場まではここから半日かかるため、現地近くで宿泊することになっているのだ。
道中で私がいない間にどんな話をしていたか聞いたけど、はぐらかされて答えてくれなかった。
「聞こう」
私の変化に気づいた殿下は、すぐに表情を引き締めて先を促す。
「ステラリアと殿下が婚約したことはイクリプス王室にもお伝えいただいたと思いますが……その後から王宮の様子がきな臭いようなのです」
「きな臭い、とは?」
「イクリプス王国の王太子……オースティン第一王子の荒れた姿を見るようになったと息子から連絡があったのです。実は、オースティン殿下は十年ほど前からステラリアを婚約者にしたいと打診してきておりました」
レイジ殿下は言葉を失ったようだった。私は目を伏せて言葉を続ける。
「王室との婚姻となれば家門としては国内に強い影響力を持つことができます。ですが、我が領は帝国との衝突が相次いでおり、貴重な戦力であるステラリアを戦場から離すことはできませんでした。オースティン殿下はステラリアが戦場に出ても構わないと言いましたが、戦場で命を落とすことも起きうる中で婚姻するのは適切でないとして、婚約は戦争が終結するまでお待ちいただいていたのです」
「そういう、ことだったのか……」
殿下がつぶやく。ステラリアから事前に聞き出していたのだろう。
「しかし、戦争終結後、帝国がステラリアの身柄を要求しました。私だけでなく王室がステラリアを引き渡すことを強硬に拒否していたのは、ステラリアとの婚姻をオースティン殿下が諦めていなかったからでしょう。結果的にステラリアの引き渡しは確定となり、オースティン殿下も諦めたと思っていたのですが……」
「俺が、ステラリアと婚約したことを知ってしまった」
「そのとおりです。それ以降、オースティン殿下の様子がおかしいようだと、具体的には感情的になり、過激な発言が増えたと息子から連絡がありました」
「確か、ステラの弟……アランは王都の学園に通っているんだったか。どうやってその情報を手に入れたのだ?」
「アランは学生の身ですが、たびたび王宮に出入りして行政官の指導を受けているのです。公爵家の跡取りとして優れた人物になれるようにという国王からのお達しだったのですが、ディゼルド家に恩を売る意図があったのかもしれません」
「ふむ……気に留めておこう」
レイジ殿下は小さくうなずき、何事か考えているようだった。
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久しぶりに訪れた自室を懐かしみながら、化粧を直した私は再び談話室を訪れた。
「大変お見苦しいところをお見せしました」
「いやなに、久しぶりの実家なんだ、そういうこともあるだろう」
父上はにこやかに笑い、レイジも神妙な面持ちでうなずいた。神妙な……?
「どうしたの、レイジ?」
「いやなに、これからあの騎士団の奴らをどう蹴散らすか考えていたところだ」
レイジはすぐにいたずらな笑みを浮かべる。不安そうに見えたのは私の気のせいだっただろうか……?
「帝国との国境を守る必要がなくなっても、ルナリア王国や他の脅威から国を守るために騎士団が必要であることには変わりないんだから、あまり無茶なことはしないでちょうだい」
「もちろんだ。そんなことをしたらステラが悲しむからな」
私の髪をひと房手に取ると、さらっとなでるように滑らせる。その表情には年齢以上の色香が満ちていて、私は思わず顔を逸らしてしまう。
「はっはっは。いいものを見た。さて、俺たちはそろそろ次に向かうとしようか」
「わかったわ。父上、また会場で」
私はレイジと連れだってディゼルド公爵邸を後にする。
ひとくちにディゼルド領といっても、公爵領は広い。パーティー会場まではここから半日かかるため、現地近くで宿泊することになっているのだ。
道中で私がいない間にどんな話をしていたか聞いたけど、はぐらかされて答えてくれなかった。
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