勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた

はらくろ

文字の大きさ
31 / 52

第31話 大変なことになっていたんだ。

しおりを挟む
「この先に、ロザリアさんの生家。族長の屋敷があるんだね?」
「あぁ。そうだよ」

 なだらかな坂を登り切ると、上ってきた道寄りも踏み固められた、平らで広い場所が出てくる。そこには、俺の屋敷よりやや狭めな古い、堅そうな木材で組まれた家が見えてくる。

 エルフというと、太く大きな木の上に家があるイメージだった。けれどここは、土がしっかりと転圧されいる地面に、加工された建築材料を使って家が建てられてるんだ。耳がやや長いからといって、見た目で判断したら駄目だってよくわかった。反省。

 ここに来るまで、畑が見えただけで家がなかった。ロザリアさんに聞くと、集落の入り口に族長の屋敷が建てられている。そのかなり後方に、集落の皆が住む家が増えていく。外敵から守るために、このような配置になってるらしい。

 特に魔獣と呼ばれる、悪素の影響で通常ではあり得ないほどに成長した獣。肉食の獣だけでなく、畑を荒らす草食獣までもが、人を襲うようになる。そんな魔獣から集落の人々を守る責務があるのが、族長でもあったらしい。

 だから、集落の一番外側に屋敷があるのは当たり前なんだってさ。魔獣に襲われたら、族長の屋敷裏に逃げ込む。これが普通なんだそうだ。だから族長は、集落の人々を守るために強くなければならない。なるほどね、ロザリアさんが体術に、刃物の扱いに長けていたのはそういうことだったんだ。

 数人すれ違っただけ、族長のロザリアさんの隣に座ってる俺を、お客さんだと思って会釈をしてくれたんだと思う。日も落ちかかってるから、作業などを終えて家に帰ってるんだろうね。だからこれまで人があまりいなかったのかな?

 屋敷と呼んだ家の軒に馬車を止める。やや大きくて目立つ馬車。納屋があって、そこに馬たちをつなぐ。飼い葉をあげて、水もあげる。簡単なことだよ、インベントリから出すだけだから。

「お疲れさんな。『リカバー回復呪文』。おまえも、お疲れさん『リカバー』」

 するとわかってんだろうな。この子らをねぎらっていることをね。俺の顔に馬たちは、頬の部分をすり寄せてくる。

「入ってくれ。何もないけどな」
「ありがとう。お邪魔します」

 木製の扉。鍵なんてかかっていない。引き戸になってるのを、きしんでいたからか、やや乱暴に開けるロザリアさん。中に入ると、俺が知る洋間と同じ。ただ、床はなく土間のまま。そこにテーブルやベッドがあるだけだ。そもそも、居間と寝室は別なんだろうけどな。

「すまんな。何年も経ってるから、お茶も用意できやしない。持ち回りで誰かが来て、掃除だけはしていてくれるみたいだが」
「いいよ。ここは俺が」

 インベントリからカップを出す。飲み物も出して注ぐ。カップからは湯気が立ち上がる。部屋の中も肌寒いからだろう。族長の屋敷とはいえ、装飾品が立派ということはない。族長だからこそ、質素にしているのかもしれない

「ロザリアさん」
「あぁ、ありがたい」
「そろそろ夕食にする? それとも」
「あぁ。だが」
「俺は腹ごしらえをしておいた方がいいと思ってる。何せ、ここに来るまで、すれ違った人と指は、ロザリアさんほどじゃなかったけど……」
「あぁ、言わんとしてることは理解できる。食事が終わったら、ここへ順次連れてこさせる」
「いや、症状の酷い人から連れてきて欲しい。早く痛みを和らげてあげたいんだ」
「その、ありがとう……」
「慌てても仕方がない。しっかり食べて、治療を始めようか。三十人くらいだったら、夜になる前に、終わるだろうから」
「わかった」
「いつも代わり映えしない飯でごめん」
「いや、大丈夫だ。戻ったら、あたいが作る」
「え?」
「あたいはこれでも女だぞ?」
「いや、十分理解してますけど?」
「母から生前、料理は教わってた。これでも結構得意なんだ」
「そ、そうなんだ?」
「あ、信じていないな? あとで見ていろ。驚かせてやるからな?」

 あのとき号泣していたロザリアさん、今は少しだけ笑顔を見せてくれるようになったんだ。きっと、この集落の子? たちを、俺が治すって約束したからなんだろう。

 軽い夕食を取り終えると、俺は治療の準備を始める。テーブルの位置を変えて、数人屋敷の中に待機して列を作れるようにする。ロザリアさんは、集落の人たちを見に行ってくれてる。そろそろいいだろうと思ったときだった。

「タツマっ!」

 ドアが乱暴に開け放たれた。相変わらず、豪快だなと思ったんだけど、彼女の声の調子がおかしいと思えるんだ。何かあったのか?

「どうしたの?」
「うちの子たちが、大変なことになっていたんだ――」

 とにかくロザリアさんを落ち着かせる。彼女の話によると、悪素毒おそどくの被害は思った以上に深刻だった。彼女たち黒森人くろもりびとの身体だけではなく、作物にまで影響が出ていたようだ。

 昨年は今年よりはまだマシだったこともあり、蓄えがあったためそれを細々と食いつないでいたとのこと。集落の子(俺にとっては人なんだけど、俺より年上だし……)たちは痩せ細り、体力も低下して寝込む人も出ていたとのこと。

「マジか。とにかく、俺が持ってる食い物、飲み物を渡すから、食べてもらって。とにかく満腹になってもらおう。その後だよ、治療をするのは」
「ありがとう、タツマ」
「いいって。串焼き、パン、干し肉、水、お茶、根菜、葉野菜、30人ほどなら、7日は食いつなげるはずだ。たいしたものはないんだけど、大丈夫かな?」
「じゅ、十分だと思うけど……、ほんと?」
「あぁ、空間魔法はマジ便利だから」

 俺は屋敷の外へ集落のひとたちに並んでもらった。まるで炊き出しのような状況。小さな子を抱えて並んでいる人もいるようだ。けれどやはり、年配の人の姿は見えない。栄養失調や悪素毒により身動きが取れないのか、それとも、ロザリアさんが言うように、若い人しか残っていないんだろうか? 若いと言っても俺より年上なんだろうけどね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...