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第31話 大変なことになっていたんだ。
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「この先に、ロザリアさんの生家。族長の屋敷があるんだね?」
「あぁ。そうだよ」
なだらかな坂を登り切ると、上ってきた道寄りも踏み固められた、平らで広い場所が出てくる。そこには、俺の屋敷よりやや狭めな古い、堅そうな木材で組まれた家が見えてくる。
エルフというと、太く大きな木の上に家があるイメージだった。けれどここは、土がしっかりと転圧されいる地面に、加工された建築材料を使って家が建てられてるんだ。耳がやや長いからといって、見た目で判断したら駄目だってよくわかった。反省。
ここに来るまで、畑が見えただけで家がなかった。ロザリアさんに聞くと、集落の入り口に族長の屋敷が建てられている。そのかなり後方に、集落の皆が住む家が増えていく。外敵から守るために、このような配置になってるらしい。
特に魔獣と呼ばれる、悪素の影響で通常ではあり得ないほどに成長した獣。肉食の獣だけでなく、畑を荒らす草食獣までもが、人を襲うようになる。そんな魔獣から集落の人々を守る責務があるのが、族長でもあったらしい。
だから、集落の一番外側に屋敷があるのは当たり前なんだってさ。魔獣に襲われたら、族長の屋敷裏に逃げ込む。これが普通なんだそうだ。だから族長は、集落の人々を守るために強くなければならない。なるほどね、ロザリアさんが体術に、刃物の扱いに長けていたのはそういうことだったんだ。
数人すれ違っただけ、族長のロザリアさんの隣に座ってる俺を、お客さんだと思って会釈をしてくれたんだと思う。日も落ちかかってるから、作業などを終えて家に帰ってるんだろうね。だからこれまで人があまりいなかったのかな?
屋敷と呼んだ家の軒に馬車を止める。やや大きくて目立つ馬車。納屋があって、そこに馬たちをつなぐ。飼い葉をあげて、水もあげる。簡単なことだよ、インベントリから出すだけだから。
「お疲れさんな。『リカバー』。おまえも、お疲れさん『リカバー』」
するとわかってんだろうな。この子らをねぎらっていることをね。俺の顔に馬たちは、頬の部分をすり寄せてくる。
「入ってくれ。何もないけどな」
「ありがとう。お邪魔します」
木製の扉。鍵なんてかかっていない。引き戸になってるのを、軋んでいたからか、やや乱暴に開けるロザリアさん。中に入ると、俺が知る洋間と同じ。ただ、床はなく土間のまま。そこにテーブルやベッドがあるだけだ。そもそも、居間と寝室は別なんだろうけどな。
「すまんな。何年も経ってるから、お茶も用意できやしない。持ち回りで誰かが来て、掃除だけはしていてくれるみたいだが」
「いいよ。ここは俺が」
インベントリからカップを出す。飲み物も出して注ぐ。カップからは湯気が立ち上がる。部屋の中も肌寒いからだろう。族長の屋敷とはいえ、装飾品が立派ということはない。族長だからこそ、質素にしているのかもしれない
「ロザリアさん」
「あぁ、ありがたい」
「そろそろ夕食にする? それとも」
「あぁ。だが」
「俺は腹ごしらえをしておいた方がいいと思ってる。何せ、ここに来るまで、すれ違った人と指は、ロザリアさんほどじゃなかったけど……」
「あぁ、言わんとしてることは理解できる。食事が終わったら、ここへ順次連れてこさせる」
「いや、症状の酷い人から連れてきて欲しい。早く痛みを和らげてあげたいんだ」
「その、ありがとう……」
「慌てても仕方がない。しっかり食べて、治療を始めようか。三十人くらいだったら、夜になる前に、終わるだろうから」
「わかった」
「いつも代わり映えしない飯でごめん」
「いや、大丈夫だ。戻ったら、あたいが作る」
「え?」
「あたいはこれでも女だぞ?」
「いや、十分理解してますけど?」
「母から生前、料理は教わってた。これでも結構得意なんだ」
「そ、そうなんだ?」
「あ、信じていないな? あとで見ていろ。驚かせてやるからな?」
あのとき号泣していたロザリアさん、今は少しだけ笑顔を見せてくれるようになったんだ。きっと、この集落の子? たちを、俺が治すって約束したからなんだろう。
軽い夕食を取り終えると、俺は治療の準備を始める。テーブルの位置を変えて、数人屋敷の中に待機して列を作れるようにする。ロザリアさんは、集落の人たちを見に行ってくれてる。そろそろいいだろうと思ったときだった。
「タツマっ!」
ドアが乱暴に開け放たれた。相変わらず、豪快だなと思ったんだけど、彼女の声の調子がおかしいと思えるんだ。何かあったのか?
「どうしたの?」
「うちの子たちが、大変なことになっていたんだ――」
とにかくロザリアさんを落ち着かせる。彼女の話によると、悪素毒の被害は思った以上に深刻だった。彼女たち黒森人の身体だけではなく、作物にまで影響が出ていたようだ。
昨年は今年よりはまだマシだったこともあり、蓄えがあったためそれを細々と食いつないでいたとのこと。集落の子(俺にとっては人なんだけど、俺より年上だし……)たちは痩せ細り、体力も低下して寝込む人も出ていたとのこと。
「マジか。とにかく、俺が持ってる食い物、飲み物を渡すから、食べてもらって。とにかく満腹になってもらおう。その後だよ、治療をするのは」
「ありがとう、タツマ」
「いいって。串焼き、パン、干し肉、水、お茶、根菜、葉野菜、30人ほどなら、7日は食いつなげるはずだ。たいしたものはないんだけど、大丈夫かな?」
「じゅ、十分だと思うけど……、ほんと?」
「あぁ、空間魔法はマジ便利だから」
俺は屋敷の外へ集落の子たちに並んでもらった。まるで炊き出しのような状況。小さな子を抱えて並んでいる人もいるようだ。けれどやはり、年配の人の姿は見えない。栄養失調や悪素毒により身動きが取れないのか、それとも、ロザリアさんが言うように、若い人しか残っていないんだろうか? 若いと言っても俺より年上なんだろうけどね。
「あぁ。そうだよ」
なだらかな坂を登り切ると、上ってきた道寄りも踏み固められた、平らで広い場所が出てくる。そこには、俺の屋敷よりやや狭めな古い、堅そうな木材で組まれた家が見えてくる。
エルフというと、太く大きな木の上に家があるイメージだった。けれどここは、土がしっかりと転圧されいる地面に、加工された建築材料を使って家が建てられてるんだ。耳がやや長いからといって、見た目で判断したら駄目だってよくわかった。反省。
ここに来るまで、畑が見えただけで家がなかった。ロザリアさんに聞くと、集落の入り口に族長の屋敷が建てられている。そのかなり後方に、集落の皆が住む家が増えていく。外敵から守るために、このような配置になってるらしい。
特に魔獣と呼ばれる、悪素の影響で通常ではあり得ないほどに成長した獣。肉食の獣だけでなく、畑を荒らす草食獣までもが、人を襲うようになる。そんな魔獣から集落の人々を守る責務があるのが、族長でもあったらしい。
だから、集落の一番外側に屋敷があるのは当たり前なんだってさ。魔獣に襲われたら、族長の屋敷裏に逃げ込む。これが普通なんだそうだ。だから族長は、集落の人々を守るために強くなければならない。なるほどね、ロザリアさんが体術に、刃物の扱いに長けていたのはそういうことだったんだ。
数人すれ違っただけ、族長のロザリアさんの隣に座ってる俺を、お客さんだと思って会釈をしてくれたんだと思う。日も落ちかかってるから、作業などを終えて家に帰ってるんだろうね。だからこれまで人があまりいなかったのかな?
屋敷と呼んだ家の軒に馬車を止める。やや大きくて目立つ馬車。納屋があって、そこに馬たちをつなぐ。飼い葉をあげて、水もあげる。簡単なことだよ、インベントリから出すだけだから。
「お疲れさんな。『リカバー』。おまえも、お疲れさん『リカバー』」
するとわかってんだろうな。この子らをねぎらっていることをね。俺の顔に馬たちは、頬の部分をすり寄せてくる。
「入ってくれ。何もないけどな」
「ありがとう。お邪魔します」
木製の扉。鍵なんてかかっていない。引き戸になってるのを、軋んでいたからか、やや乱暴に開けるロザリアさん。中に入ると、俺が知る洋間と同じ。ただ、床はなく土間のまま。そこにテーブルやベッドがあるだけだ。そもそも、居間と寝室は別なんだろうけどな。
「すまんな。何年も経ってるから、お茶も用意できやしない。持ち回りで誰かが来て、掃除だけはしていてくれるみたいだが」
「いいよ。ここは俺が」
インベントリからカップを出す。飲み物も出して注ぐ。カップからは湯気が立ち上がる。部屋の中も肌寒いからだろう。族長の屋敷とはいえ、装飾品が立派ということはない。族長だからこそ、質素にしているのかもしれない
「ロザリアさん」
「あぁ、ありがたい」
「そろそろ夕食にする? それとも」
「あぁ。だが」
「俺は腹ごしらえをしておいた方がいいと思ってる。何せ、ここに来るまで、すれ違った人と指は、ロザリアさんほどじゃなかったけど……」
「あぁ、言わんとしてることは理解できる。食事が終わったら、ここへ順次連れてこさせる」
「いや、症状の酷い人から連れてきて欲しい。早く痛みを和らげてあげたいんだ」
「その、ありがとう……」
「慌てても仕方がない。しっかり食べて、治療を始めようか。三十人くらいだったら、夜になる前に、終わるだろうから」
「わかった」
「いつも代わり映えしない飯でごめん」
「いや、大丈夫だ。戻ったら、あたいが作る」
「え?」
「あたいはこれでも女だぞ?」
「いや、十分理解してますけど?」
「母から生前、料理は教わってた。これでも結構得意なんだ」
「そ、そうなんだ?」
「あ、信じていないな? あとで見ていろ。驚かせてやるからな?」
あのとき号泣していたロザリアさん、今は少しだけ笑顔を見せてくれるようになったんだ。きっと、この集落の子? たちを、俺が治すって約束したからなんだろう。
軽い夕食を取り終えると、俺は治療の準備を始める。テーブルの位置を変えて、数人屋敷の中に待機して列を作れるようにする。ロザリアさんは、集落の人たちを見に行ってくれてる。そろそろいいだろうと思ったときだった。
「タツマっ!」
ドアが乱暴に開け放たれた。相変わらず、豪快だなと思ったんだけど、彼女の声の調子がおかしいと思えるんだ。何かあったのか?
「どうしたの?」
「うちの子たちが、大変なことになっていたんだ――」
とにかくロザリアさんを落ち着かせる。彼女の話によると、悪素毒の被害は思った以上に深刻だった。彼女たち黒森人の身体だけではなく、作物にまで影響が出ていたようだ。
昨年は今年よりはまだマシだったこともあり、蓄えがあったためそれを細々と食いつないでいたとのこと。集落の子(俺にとっては人なんだけど、俺より年上だし……)たちは痩せ細り、体力も低下して寝込む人も出ていたとのこと。
「マジか。とにかく、俺が持ってる食い物、飲み物を渡すから、食べてもらって。とにかく満腹になってもらおう。その後だよ、治療をするのは」
「ありがとう、タツマ」
「いいって。串焼き、パン、干し肉、水、お茶、根菜、葉野菜、30人ほどなら、7日は食いつなげるはずだ。たいしたものはないんだけど、大丈夫かな?」
「じゅ、十分だと思うけど……、ほんと?」
「あぁ、空間魔法はマジ便利だから」
俺は屋敷の外へ集落の子たちに並んでもらった。まるで炊き出しのような状況。小さな子を抱えて並んでいる人もいるようだ。けれどやはり、年配の人の姿は見えない。栄養失調や悪素毒により身動きが取れないのか、それとも、ロザリアさんが言うように、若い人しか残っていないんだろうか? 若いと言っても俺より年上なんだろうけどね。
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