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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第13話:記憶の断片を抱きしめて
しおりを挟む「スライム?」
僕は目の前で小刻みにぷるぷると震えている謎の物体を前に、何を馬鹿なと鼻を鳴らした。
「……まてまてシェルちゃん。冗談もほどほどにしなよ? これのどこがスライムだって言うんだい。どこからどうみても黄金のおっぱいじゃないか。ちょっと自律機能がついてるみたいだけど」
自律機能付きとかおいおいそれでいったい何を挟んで何をするつもりだって言うんだい? 鼻血が出そうです。
「そ、それはさすがに無理があるのじゃぁあ……其方、本当に乳房が独りでに動き出すと思うのかえ? あり得ない。あり得ないであろ? な? な? じゃ?」
シェルは変な説得の仕方を始めた。まるで子供に言い聞かせるような言い方だ。
子供扱いとは癪に障る、が。
……まぁ、流石に無理があったかもしれない。
冷静に考えれば彼女の言う通りだ。
金銀財宝を前にして頭が狂っていたのかもしれない。
だから決して僕の本性がおっぱいを求めている訳ではないのだ。ほんとだよ。
「……いや、まじかぁ。黄金のスライムかぁ。ええー? 未だに信じられないけど、そんなのいるんだね。で、どのくらいで売れるのかな?」
「其方はまだ諦めてなかったのかえ!?」
目をゴシゴシと擦ってみても、やはり目の前に佇んでいるのはその楕円を描く流動体のボディはスライムそのものだ。いや、僕の紫紺の眼に実体はないんだけど。
でもその可愛らしい矮躯が黄金に輝いているのだ、違和感しかない。
違和感の塊だ。何なんだいったい。
ちなみに背丈は僕の胸元くらい。
僕自身が小さいのもあって、巨大なスライムに見えるね。
よくよく目をこらせば、その金の液体が途切れない流れで渦を巻いているような気もする。目のつもりなのか二つ付いてる蒼宝石のような結晶でさえ、ふにゃふにゃと不規則に漂い位置が固定されていないし。目が離れたり近づいたり、斜めになったりと随分間抜けだ。
あれ、以外と可愛い。
キュンキュンくるぞ。
そうか、これが……親心ってやつか。
「どれどれ……」
そう言って、僕がもう一度感触を確かめようと手を伸ばしたところで――、
「――――――――――――ッッ!!」
「はぇ――ッ!?」
声を噛み殺したような無音。
視界を遮る黄金色。
尾を引く青。
すぐさま全身に強烈な衝撃。
砲弾もかくやのその威力は、僕の鎧の身体を易々と後方の壁まで吹き飛ばした。
理解が追いつかないまま高速で宙を切り、壁にクレーターを作って静止した僕はそのままグシャリと崩れ落ちる。
自分の姿は見えないので確かではないが、このダメージと違和感はきっと鎧の正面が盛大に歪んでいる。鎧の一部がカランと軽快な音を立て剥がれ落ち、きしきしと軋む身体はちょっと動いただけで分解してしまいそうな程、継ぎ接ぎが怪しい。
――まずい、まずいまずいまずいっ!?
「――――――ぁぐぅッ!?」
そして尋常でない痛みが後から後から這い上がってくる。
僕の身体に血が流れていたのなら、華やかなまでに鮮血を吹き出していたに違いない。
これは……あかんやつやぁ……
「な、い……なに、が……起、きて……」
いったい何が起きたのか?
息も絶え絶えの率直な疑問には、すぐに返答が来た――どこまでも物理的なヤツが。一片の情けの欠片もなく。それはまるで無慈悲な隕石。
「――――――――――ッ!!」
先よりは距離があったからか、痛みで気が引き締まったからか、冷静に目をこらしたからか。
それは、今度こそしっかりと僕の紫紺に映った。
再び、音はないが、体中の力を余すことなく全力で込めたような唸るような声。そして眼前に躍り出る――黄金のスライム。それすなわち、渾身の体当たり。
全身全霊、会心の一撃――青の軌跡が奔った。
「――金剛化ァッ!?」
今の体勢、鎧の状態でその超高速の体当たりを回避できる訳もなく。
けれど瞬時に発動していたスキル――『金剛化』によって、多大な魔力と精神力を代償に鎧が黄金と化す。今の僕の限界は三秒。三秒間のみ防御力を極限まで引き上げるスキルだ。
――衝突。火花が散る。
硬い金属がぶつかり合う、腹の底を振動させるよう高音が鳴りはためいた。
バラバラになりかけていた僕の身体に再度激しい衝撃が走り、此度は壁に深くめり込んだ。軋む全身鎧の三割りが剥がれて宙を舞うも――砕けてはいない。
偶然か必然か、どうにか『核』は守り抜いた。
それで無事でいられる保証などなかったが、今はそれどころじゃない。
待ってましたとばかりに訪れる脱力感。
その身に余る力の行使による代償は、魔力枯渇という衰弱の状態異常だ。光り輝く金色と化していた鎧は元の白の鎧に戻り、すぐに魔力枯渇で芯から凍えるような錯覚。視界が揺れる。
僕の意識は朦朧とし始めた。
揺れる。揺れる。
ぐらぐらと揺れる頭で、きっと次の一撃は耐えられないと悟った。
視界の端に力を蓄えるスライムが見える。
青い瞳をギラギラさせている。
ああ、と死地を認識した。
覚悟を決めるまでもなく、僕は意識を手放し始める。
それは走馬灯に近いもの。
途端に僕の潜在意識の奥底に眠る、鮮やかな記憶の欠片が想起された。
なによりも目に付く、夥しい血の暗赤色。
曇天の鈍色、崩壊する白亜の城と町並み。
降りしきる雨に、なおも燃え上がる橙。
斃れる人間、蠢く幾万の黒。
セピアを脱し色づいた情景の最後に映るのは――泣き腫らしたのか赤くなった淡紅色の瞳、透き通ったストロベリーブロンドの髪をたなびかせる、絶世の美少女。
そして。
――その胸からは『腕』が生えていた。
薄桜の唇の端から滴る鮮やかな朱。
常軌を逸した光景をすぐ前に、蹲り目を瞠る黒髪の少年は――僕、なのか?
笑った。初めて見るのに、初めて見た気がしない少女の美しい顔が、笑った。
それはどこまでも痛ましい笑みで。つう、と頬伝い流れ落ちるものがあった。
しかし次の瞬間。
空の上から俯瞰するような眺めは、次には異次元に吸い込まれるように灰燼と化して消え去った。色を抜かれ灰と化す情景は渦を巻き、暗闇に消えていく。
最後の最後に映った黒髪の男の、血色の悪い唇が――確かにこう言った。
『どう、して――くろあ』
克く訪れる暗闇。
それは『死』を連想させる、どこまでも悲しい色で。
「――それ以上はよせ、こやつは我の――大事なオトモダチなのじゃ」
そんな満足げな声を最後に、僕の意識は完全に消失したのだった。
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