『人外×少女』:人ならざる魔物に転生した僕は、可愛い少女とあれこれする運命にあると思う。

栗乃拓実

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第一章『人外×幻想の魔物使い』

第20話:リオラは理解できない

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 ぺたぺたと小さな鎧の身体を撫で回すエルウェ。

 少しくすぐったいのを我慢しつつ、その柔らかい指先の一本に至るまでの感触を堪能していた僕だが、一頻り触れてみて満足したのか一歩距離を置いた彼女が言う。

「……火、消えたわ。それに熱くもない。ねぇ小さな騎士さん……本当に何ともないの?」

「へっへーん。大丈夫大丈夫。僕は常識じゃ測れない存在なのさ!」

 胸を張って威張り散らす僕に、「そ、そう……」汗を流して返答するエルウェ。腹の中で『我の加護の力なのに……』なんて言ってる駄龍は無視だ。

 経緯いきさつはどうであれ、今僕が美少女の前でドヤる事が出来ている。例え借り物の力であっても、良い格好が出来るというその事実が大事なのである。君のものは僕のもの。反論は認めません。

 ちなみに僕を燃やし尽くさんと纏わり付いていた火のスキル――『炎塊』は、跡形もなく消えていた。それもそのはず、自己紹介を終えた僕はシェルちゃんの言葉に従って『吸収』したからだ。

 やはりというべきか、兜の正面、面甲ベンテールが大きな音を立てて開くと、ズズズと炎が螺旋を描くように纏まって吸い込まれていった。そしてその結果、僕は新たなスキルを得ることが出来た。

(――個体情報提示エクセ・ステータス

――――――――――――――――――――――――――
 個体名:なし
  種族:流浪るろう白鎧はくがい(変異種)
  Levelレベル:1
種族等級:E
  階級:D⁻
  技能:『硬化』『金剛化』
     『武具生成』『鎧の中は異次元ストレージ・アーマー
     『真龍ノ覇気』『六道』
     『吸収変換(火)』『吸収反射(火)』
  耐性:『全属性耐性(小)』『炎属性無効』
  加護:《金龍の加護》
  称号:《金龍のともがら
状態異常:■■■■■の呪縛
――――――――――――――――――――――――――

 それこそが『吸収変換(火)』と『吸収反射(火)』だ。
 その効能は元々《金龍の加護》によるものだが、それが先程初めて実証されたためスキルとして獲得できたのだと思う。『炎属性無効』が耐性欄に現れたのもそのためだ。

 前者の力は炎属性の魔法攻撃を吸収、そして自身の魔力に変換できること。
 後者の力は炎属性の魔法攻撃を吸収、そして数倍程度に反射できること。

 どちらも炎属性無効と使い道は限られてはくるものの、あって損はない良いスキルだ。
 そしてスキル表記が明確になったからか、階級レートが一段階上昇してる。嬉しいなり。

(あっはは、炎無効だからそうだな、この国のドラゴンさんにでも喧嘩売っちゃうかな!!)

『絶対瞬殺なのじゃぁあ……』

 シェルちゃんがやはり何か呟いているが、エルウェの前でどや顔していられるし、新たなスキルも得られたしで僕の機嫌は中々良い。両腕を腰に当てて高笑いしている僕を見ながら、三白眼のおじさんとエルウェが何か話している。

「それで? エルウェはいつあの一風変わった魔物を眷属かぞくにする気だ? ……正直、やめておいた方がいい気がするがなぁ」

「もう、ヨキさんまでそんなこと言わないで下さい。ギルドの皆には私の眷属にするっていって解散してもらったんですから。そうですね……まずは仮契約から始めようかなって」

 エルウェの言うとおり、野次馬はもういない。どうやらギルドマスターらしいこのおじさん――ヨキさんに案内され、面会室に案内されたのだ。僕のことが好きになったのか、最後まで付いてきてた冒険者もいたけどリオラさんという黒縁眼鏡の女性に追い払われていた。

 ちなみにリオラさんはぺったんこだった。
 そんな装備で僕のナニをどうやって癒やしてくれるつもりだったのか、甚だ疑問である。

「ああ、俺もその方が良いと思うぞ。まずはこの無駄に知性の高い新種のスキルを把握するところからだな……それにエルウェ、この場には俺とお前しかいないんだ、そう固くならなくても、」

「ううん、私はもう子供じゃないの。……コホン、ないんです。とにかく今日は疲れたので、契約は明日行おうと思います。本当に迷惑をおかけしました」

 最初は親しげだった二人だけれど、冷静さを取り戻し始めたエルウェは徐々に他人行儀な感じが増している気がする。最初は親と子みたいな雰囲気だったが、今は仕事場の上司と部下的な。

 深く頭を下げるエルウェに、騒動の旋風を巻き起こした張本人である僕は若干悪い気がしなくもない。手持ち無沙汰になったからとりあえずフラム先輩に跨がっておこう。

 うーん、それにしても濃い一日だった。
 エルウェという美少女との出会いから始まったこの物語は、何か波乱の幕開けのような、そんな予感がして成らない。

「……夜、楽しみだな」

 とにかく今日は、エルウェの双丘に挟まれてぐっすり眠るとしよう。
 散々な目に遭って荒んだ僕の心も、きっと癒えることだろう。

 ぱふぱふ。



 ****** ******


 
 エルウェ・スノードロップとその眷属たるカーバンクルが、小さな白金鎧の魔物を引き連れて部屋に籠もり、ヨキと詳しい話をしている最中。

 リオラ・エレガントは面会室の前に塞ぐように立ち、ずっと見張りをしていた。
 亜麻色のお下げを手持ち無沙汰にいじり、黒の眼鏡の位置を頻りに気にしていることから、彼女が扉の前に集まった冒険者の中で最も中の様子が気になっていることは誰が見ても明らかだけれど。

「だめです。ギルドマスターの言づてです、今日はもう帰りなさい!」

「「「えぇ~」」」

 だからこそ、あくなき好奇心の塊のような冒険者達は諦めきれず、もしかしたらがあるのではないかと扉の前にまで押し寄せていた。
 無論ヨキ直々の言葉が全体へとかけられたため、解散した者が殆どだが、それでもと興味津々にやってくる冒険者は多い。

「放浪の鎧の新種――あんな個体は滅多にお目にかかれない! しかも珍しいことに、善性の魔物らしいじゃないか! いやはは、気になるよなぁ」

「そうだそうだッ! 俺のスキルを喰らって無傷で済むなんて絶対おかしい! 何か卑怯な手を使ってやがるに決まってらぁ!! 俺を中に入れてくれ!」

 と、その中には仲違いを起こしていたブレイクルとホームラの姿もあるが、強い好奇心の前には敵愾心もなりを潜めているようで。

「だ、だめったらだめですよ。私も気になるけれど……ところで……貴方たちはどうして喧嘩を始めたのかしら?」

 言っても聞かない冒険者達の勢いを少しでも鎮めようと、話題を振るリオラ。
 どうせ下らないことだろうとはわかっているが、時間稼ぎにはなるだろうと。

「い、いやだって……女はケツだろう……?」

「いやいや、脇だから! これだからじじいはッ!」

「ああ……そうですね、そうでした。男の人って下らない生き物ですものね」

 はぁ……と頬に手を当てて嘆息するリオラ。
 とどのつまり、女性のどの部位に興奮を覚えるのかを議論した末、意見が食い違い喧嘩に勃発したのだと予想できた。わかってはいたが、まさかそんなくだらないことが原因なのかと、頭が痛い思いだった。

「はん? ケツの匂いが一番大事に決まってるだろうが!」

「脇に挟まれた時の魅惑的な香りを知らないからそんなことが言えるんだッ!」

「貴方たちは何の話をしているのっ!?」

 前言撤回。
 やっぱりリオラには、男という生き物が理解できそうにないのだった。
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