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好奇心は猫をも殺す 慎太郎side

天国に近い地獄

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その後テンションの高い鎹さんから杖のケア用品なんかもあらかた貰って、店を出る時も満面の笑みで手を振られた。杖を握ったままどうすることもできない俺を碓氷峠くんが手を引いてくれる。ほっぺたの次は手だ、白くて柔らかい手だなってめちゃくちゃベタ褒めしてくる。そんなに俺ってどこもかしこも柔らかいんかな……そんなこと言われたことないから信じがたいってのが本音だ。

…………

………………

……………………

「なるほど、それは良かったですね」

「で、でも俺が杖に選ばれたところで……」

「良かったなジジイ。俺の慎太郎は才能がありそうだ」

理事長室と書かれた札が飾ってあるドアの先に、学園長はいた。どうやら学園長と理事長と兼任しているみたいで、ネコなのに思ったよりも多忙みたいだ。それをいうなら碓氷峠くんも黒い耳と尻尾が生えてるし、動物みたいな人間とか人間みたいな動物って魔法の世界だとよくあるのかな……

それにしても俺はいつから碓氷峠くんのものになったんだろう。今度は頭を撫で撫でしてくる、ひゃっして頭も柔らかいのか……?

「この調子だと問題なく卒業できそうですね」

「明日から同じ学校の生徒か、楽しみだな」

……?? いや元の世界に返してくれる約束はどうなったの? 第一許可もないし、杖しか持ってないのに学校なんて通えるわけないじゃん、ないよね?

「私はこの魔ヶ峰学園の学園長にして理事長です。生徒の入学許可証なんてすぐに作れますよ、それに君が買ってきてくれた教科書や箒があれば問題なく学習することができます」

その時、鎹さんが言っていた一年生セットという言葉を思い出した。

「じゃあ俺に買い物行かせたのってもしかしてそれが理由、ってか最初からそのつもりで?」

「今更かよ。お前案外詐欺とかに引っかかりやすいタイプなんだな」

「すみませんね。貴方のことをまだまだ調べなくてはいけません、その白い宝石が埋め込まれていたという本についても……なぜあんなものが科学界に……」

学園長は1人ぶつぶつ喋り始めた、何故か今日は碓氷峠くんと一緒に学園長の部屋で寝泊まりすることになった。いやいや、納得できないだろう。

魔法オタクとしては魔法学校なんて夢のようだ、しかもそこに自分通うなんて信じがたいしその分嬉しい。でも俺はその、不登校児だぞ。学校なんて2年ぐらいずっと行っていないし図書館で永遠と本を読んでいただけだ、だいたい卒業まで通うのか? 何年間? いやそもそも家族になんて説明すれば……

「この学校は6年制です。貴方の世界の言葉で話しますと、中学生から高校生までの6年間で、魔法を学び立派な大魔法使いを目指すというわけですな」

「6年間も!? その、学校って家に帰えらないと登校できないんじゃ……」

「我が魔ヶ峰は全寮制、つまりすべての生徒は寮で生活するのを義務付けております。のでわざわざ通学するという手間はありませんよ」

どうしようどんどん外堀を埋められていく。いくら魔法が学べるとはいえ6年間も学校に通う、いやそれどころか学校に居続けなければいけないのか? この俺が? 

毎日10時起きで朝ごはんも食べずにふらっと図書館まで行って、何も食べることなく閉館時間の夜9時まで入り浸り、帰ってきても親にただいまの一言も言わずに再び自室に帰って借りた魔法に関する本を読む、真夜2時頃に息抜きとして人知れず1日分のご飯を詰め込み、そして深夜4時頃に寝る。そしてまた10時に起きる。図書館に行かない日は一歩たりとも外に出ない、そんな我ながら不摂生にも限度がある生活を送ってきた俺に今更学校に行けと?

「まあまあ人生色々経験しておくものですよ、若い頃の苦労は買ってでもしろと言いますし」

「同じクラスになれるといいな……ウチの学校四大魔法学校のくせに生徒数少なくってしかも少人数制だから、一緒のクラスになれないかも……おいジジイ」

「碓氷峠くん、流石にそこまで手は回しませんよ」

小さく舌打ちが聞こえた。いいや小さくても学園長に聞こえるようにしたんだろうな、二足歩行のネコと、ちょっと変わってでかいネコみたいな碓氷峠くん、そして特にネコ成分はない(強いて言うなら脱走癖があるぐらい)俺。今更拒否権はなく、そもそも元の世界に帰ることすらもできず、魔法が学べる天国のような地獄のスクールライフが始まる。
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