異世界悪党伝 〜 裏稼業の元勇者が力と女で成り上がる!〜

桜空大佐

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第二章:勇者ベルと三姉妹

第三話:竜牙会

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 セイヤは事務所に帰りながらあたりを見ていたが、自警団は街に出ていなかった。
 自警団は人数も少なく、帝都から派遣された治安官の接待で忙しい。
 その上、団長のルッカスも何者かによって殺されている。
 今は、ルッカス団長を殺した犯人捜しに躍起になっているため、とても今朝の襲撃に対応し切れていない。
 そのため、少々のことは自警団ではなくセイヤのところに相談されることが多い。





 カールトン国のほぼ中央に位置するニブルの街。
 東西南北に地区が分かれており、東地区スラッツは娼婦や低貧民が住み、その北に農村地帯ビズリーがある。
 そして、この西地区バースには地下三層、地上五層の大きなダンジョンがあり全国から冒険者が集まっているため、活気があった。

 この西地区バースで酒場、花屋などの店や、冒険者のための宿舎、街人が住むための借家などは、セイヤ・サルバトーレが所有している。
 その賃料の集金や、セイヤの投資先の監視や管理は、竜牙会ドラゴンファングが行なっていた。

 竜牙会は、借家や店舗の家賃を集金する業務が主で、その他に街の争いごとを解決する。
 ならず者が集まる「組」とは違い金は自ら稼いでいた。そのため、街人にたかることも、揉めることもなかった。
だから、街人からも頼りにされている。

 そもそも、セイヤにとっては街人を守って、安心して暮らしてくれる方が長い目でみると儲かると考えていた。
 一時的に街人から金を巻き上げるような非効率なことはしたくはなかった。
 第一、セイヤは十八歳の時に氷竜のいるダンジョンを攻略していたため莫大な資産があった。
 だからこそ、街人のために使おうと決めていた。
 竜牙会ドラゴンファングがただのならず者の集団ではないのは、セイヤを慕って自然に集まって来た若者で構成されていた。そのため、徹底して街の人に迷惑をかけないように躾けてきたからだ。





 俺は、竜牙会ドラゴンファングの事務所の大きな木製のドアを開けた。
 中には、七人の男たちがいて、セイヤが入ってきたのを確認すると慌てて直立した。

「親分、おつかれさまです」

 俺は軽く手を振ると、座るように合図した。皆、それぞれ木製の椅子に座ってこちらを向いた。

「お前たち、朝からボケっと事務所で何している」

 いきなり強い口調で俺が言ったことで、場の空気がピリッとして静まり返る。

「今朝、何があったのか知らないわけではないんだろう。お前たちはここで何をしているんだ」
「親分の指示があるのを待っていました」

 一人の男が悪びれもせずに平然と言い放った。
 その瞬間、俺はこぶしで男の腹を殴りつける。ウッと呻いた男は地面に突っ伏した。

「ふざけるな! いいかお前ら。街の人たちが何者かに火を付けられて五人も亡くなっているんだ。俺たちの街でだ。守ろうとは思わないのか」

 男たちは、一斉に直立し背筋を伸ばした。
 床に突っ伏した男もゆっくりと起き上がり直立不動となった。

「俺たちは、この街の店主や街の人たちに家や店を借りてもらっている立場だ。それを間違えるな。西地区バースを守ることが俺たちの仕事でもあるんだ。それがわかっていたら、ここで俺が来るのを待っている場合ではないと気づくだろう」

 七人がまっすぐに俺の方に向く。わかったようだ。

「街に火をつけたのは東地区スラッツ悪魔爪組デビルクロウのやつらの可能性がある。それは今ナミが調べている。お前たちは、火を完全に消してこい。そして住人の人が住む家がないようなら、空いてる家を紹介してやれ。それと、亡くなった方へお見舞いとして五人の家族に50ガメルを渡してやれ」
「はい、わかりました。さっそく行ってまいります」

 俺の元に集まってきたこの男たちは、以前東地区で俺を襲って来たときの男たちだ。
 あの後、俺を慕って子分にして懇願するから、俺の仕事を手伝わせている。
 腕っぷしはからっきしダメだが、真面目に取り組む姿勢を評価している。

 七人の男たちの中にはジョーがいる。元俺が惚れた女の弟で、俺に姉を殺されたと勘違いしたコイツは俺の情婦のミオンを殺し、俺にも牙を向いた。
 だが、たっぷりと魔族の女マーリンにお仕置きされ、反省したことから呼び戻して俺の元に置いてやっている。

 ジョーは、マーリンに姉が置かれていた状況、そして殺された経緯を見せられた。マーリンは過去の出来事を目の前に再生して人に見せる術を持っていたので、誤解は解けた。
 俺が姉のために悪華組デモゴルゴンを潰したことを、今では感謝してくれていた。


「ジョーは、ここに残れ」
「で、でも……ここにいて何をするんです?」

 呼び止められたジョーは血気盛んな男だった。バカではないが、頭に血がのぼると見境がなくなる弱さがあった。
 俺は、惚れた女の弟だから俺の元に置いているのかどうか自分でもわからなかったが、目にかけているのは間違いない。

「すまないが、デイモンのところに行ってくれないか」
「デイモンのおやっさんのところですか?」
「そうだ。これを渡してくれ」

 俺はそういうと、羊皮紙を筒状にした手紙をジョーに手渡した。ジョーは、それを受け取ると中身のことは触れず、黙って腰袋に収めた。

「デイモンに渡したら、お前はデイモンと一緒に行動しろ」
「わかりました。あ、でもデイモンのおやっさんって俺のこと嫌っていません?この前会った時に目も合わせてくれなかったので、嫌われているみたいなのですが……」
「大丈夫だ。むしろ、お前はデイモンに気に入られるだろう」

 デイモンは、獅子族で冒険者だ。真っ赤な髪を持ち、筋骨隆々で長身で筋骨隆々とした男だ。
 ダンジョンでは真っ先に突撃して敵を惹きつける前衛を担当することが多かった。
 だが、今は右足の膝から下を失っていて、今は引退していた。
 気性が荒いが、根が生真面目で金にうるさい男だ。そして、男の子が好きだという変わった性癖をしている。
 ジョーが気に入られると思ったのは、デイモンの好みだと思ったからだ。デイモンは好みの男の前に出ると途端におとなしくなる。目を合わせてもらえなかったとジョーが言うからには、おそらくデイモンはジョーが好みだろう。
 あのイカツイ大男がモジモジしている姿は第三者として見ていると面白い。自分に矛先がきたらおぞましいんだが。

 もちろん、そんなことはジョーには内緒にしておこう……いずれわかるだろう。


 事務所から勢いよく飛び出すジョーを確認してから、俺は女の家に行くために、風呂に入り着替えを済ませた。
 煙管を取り出すと火をつけて、胸いっぱいに煙を入れた。
 情婦たちの顔を一人一人思い出す。みんな美しく、そして弱い女だ。
 放火の件は気になるが、こんな時だからこそ、心細くしている女たちを守らなければならない。
 安心して働いてくれることで女は金を生むことができる。

 カトリーナやアン、キャサリンにマーガレットと俺の女たちはそれぞれが太い金脈だ。
 ただ金を受け取るだけではなく、俺は女たちを幸せにする義務がある。
 魔族のマーリンに拾われた時、俺は骨の髄まで女を守ること、女を使うこと、女を悦ばせることを叩き込まれた。
 ……女がいるから男は生きていける、そう教えられた。

 放火事件の初期対応は、竜牙会(ドラゴンファング)の若い衆に任せておけばいい。
 ナミからの情報が届くのは明日になるだろう。

 俺は、マーガレットのいるダンジョンへと向かった。

 
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